きかんしぜんそく
気管支喘息
アレルギーなどで空気の通り道(気道)に炎症が起こることで、気道が狭くなってしまう病気
25人の医師がチェック 267回の改訂 最終更新: 2024.02.16

気管支喘息の人はどんな生活をしたら良いのか

喘息は日本の子どもの9%から14%ほど、成人(15歳以上)の6%から10%ほどがかかる、とても身近な疾患です。ありふれた病気だからこそ、患者さん本人・家族のセルフケアが重要な病気でもあります。ここではセルフケアのポイントを解説します。 

喘息患者さんは数時間から数日単位程度で症状が急激に悪化する「喘息発作」を起こすことがあります。ほとんど自覚しない僅かな胸苦しさや咳から、会話や歩行ができなくなるほどの高度発作まであり、喘息発作の重症度は様々です。発作が起きてしまったらどのようにすれば良いかは患者さんによって異なるので、喘息治療の主治医に確認しておくのがベストではあります。

発作が起きてしまった時の一般的な対応としては、なるべく安静にしておくのが無難でしょう。既に処方を受けている方は短時間作用型β2刺激薬(SABA)の吸入を行います。効果が不十分であれば1時間までは20分おきに吸入を繰り返し、以降は1時間に1回を目安に吸入します。もともとシムビコート®を処方されている患者さんの場合には、発作出現時に1吸入、数分間経過しても発作が持続する場合にはさらに追加で1吸入する使い方もあります。ただし、患者さんによって実際の使用方法の指示は異なることがありますので、主治医の指示を優先してください。

これらの対応で様子をみて症状が消える場合、ピークフローメーターを持っている患者さんでは良い時の値の80%以上が出る場合、このような時には自宅でそのまま様子をみていておおむね問題ないでしょう。

参考文献

  • 日本アレルギー学会喘息ガイドライン専門部会/編, 喘息予防・管理ガイドライン2015. 協和企画, 2015
  • Respir Med. 2007 ; 101 : 2437-46.

喘息発作が起きたときに、どのような状況になったら救急外来を受診すべきかというのは患者さんによって異なるので、日頃から主治医に聞いておくのがベストでしょうが、喘息治療のガイドラインでは以下のような状況のとき受診することを目安としています。

・手持ちの短時間作用型β2刺激薬(SABA)の吸入を1時間から2時間おきに必要とするとき

・手持ちの気管支拡張薬で3時間以内に症状が改善しないとき

・症状が次第に悪化していくとき

・中等度以上の喘息症状のとき

ここでいう中等度の喘息発作とは、苦しくて横になれないとか、かろうじて歩ける程度の息苦しさ、を目安としています。またパルスオキシメーターという酸素濃度測定器を持っている患者さんの場合にはSpO2が95%以下の場合、ピークフローメーターを持っている患者さんの場合には普段の80%以下の値しか出ない場合、というのが目安になります。

参考文献:喘息予防・管理ガイドライン2015

つらい喘息発作が起きないように、処方されている方ではしっかりと治療薬を使っていくことが大事なことです。しかし、喘息発作を防ぐためのポイントは日常生活の中にも多くあり、これらに気をつけることはどんな治療薬を使っていくかということよりも重要な点であると言えるでしょう。以下に発作を起こさないようにするために、注意すべき点を列挙していきます。

風邪肺炎などは喘息発作の原因として非常に多いものです。基本的なことにはなりますが、風邪が流行っている時には手洗いうがいをしっかりすること、人混みではマスクをすることなどを意識しましょう。インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンなどの予防接種も受けておいた方が良いでしょう。

ダニやハウスダスト、動物の毛など室内アレルギー物質や、花粉などの屋外アレルギー物質を避けることで喘息発作の頻度が減らせると考えられます。家や特定の場所で症状が出やすい方は家をよく掃除すること、マスクを適宜着用することなどを意識しましょう。屋内ではカーペットは微生物にとって理想的な生育環境になりやすいので注意が必要です。

冷たく乾燥した空気を過剰に吸入することで気管支の刺激となり、喘息発作の誘因となることがあります。どの程度運動をしてもよいのか決まりは無いのですが、水泳などでは発作は起こりにくく、短距離や中距離走などで発作が起きやすいと考えられています。自分にとって無理のない範囲を把握しておいてください。

プロの選手などでは喘息の担当医とよく相談し、発作に十分対策したうえで競技の継続を考えてください。

気象の変化が激しいと発作の頻度が増えることが分かっています。避けがたい部分がある問題ですが、衣類の調整などで寒暖の差を減らすことは役に立つかもしれません。

アスピリン喘息など一部の喘息患者さんは、鎮痛薬・解熱薬の内服により発作を起こすことがあります。市販の鎮痛薬や解熱薬でも発作は起きますので、アスピリン喘息の疑いを指摘されている患者さんは特に注意が必要です。

食品や食品添加物によって発作を起こす患者さんもいます。例として食品保存料、サリチル酸塩、グルタミン酸ナトリウムなどの添加物、防腐剤などが関わる可能性があります。何か特定のものを食べるといつも調子が悪くなる場合には、なるべく避けるなど工夫をしましょう。

喘息患者さん全員が飲酒によって発作を起こすわけではありませんが、日本人は特に飲酒によって発作を起こしやすいとされています。飲酒で発作を起こした経験のある方は、節酒に努めたほうがいいでしょう。

最も代表的な刺激物質はタバコです。ご自身が吸う場合はもちろん、副流煙も発作の原因となりうると考えられるため、可能な限り避けましょう。他にも線香、焚き火、花火、調理時の煙、化粧品、ヘアスプレー、殺虫剤などでも発作を誘発することがあります。前に発作を起こしたことがあるものには注意が必要です。

大気汚染としての黄砂やPM2.5、二酸化硫黄などは喘息発作の原因となります。やはり、空気が汚い環境ではマスクを着用するのが安全でしょう。マスクの種類によってはPM2.5などの微粒子を防げないこともあるので、マスク購入の際には説明をよく読むようにしましょう。マスクを着けるべきタイミングに関して決まりはありませんが、光化学スモッグ注意報などの大気汚染注意報が出ている場合、黄砂が多いという情報が出ている場合、大気汚染の強い地域に旅行に行く場合、工事現場のような粉塵を吸入する可能性がある場所に行く場合などはマスクを着用するのが無難かと思います。

現代社会においてそう簡単に避けられるものではないかもしれませんが、疲労感、多忙感、ストレスなどは喘息症状の悪化と関係があると言われています。喘息症状が出そうな場合には、出来る限りの休養をお勧めします。

多くの女性が月経前や月経時に喘息が悪化することを自覚しています。月経も容易に避けられるものではありませんが、月経時には他に挙げた注意点を改めて確認するなど、発作を起こさないように注意したいものです。発作がどうしても起きてしまう方の場合には、発作時のみ使用する吸入薬を処方してもらうなどして、月経を乗り切っていきたいですね。

なお、妊娠時にも喘息は悪化しやすいという報告もあり、計画的に妊娠する場合にはなるべく喘息の症状を落ち着けてからが望ましいと思われます。

肥満は喘息症状の程度や頻度と関連していることが分かっています。極端なダイエットをする必要はありませんが、喘息患者さんでは太り過ぎないようにすることで喘息にも良い影響があると考えられます。

参考文献:日本アレルギー学会喘息ガイドライン専門部会/編, 喘息予防・管理ガイドライン2015. 協和企画, 2015

全ての喘息患者さんで運動時に発作が起こる訳ではありませんが、多くの喘息患者さんは運動時に喘息が悪化すると自覚しています。これは空気の通り道である気管支が冷やされることや乾燥することなどにより気管支が狭くなることが原因のひとつと考えられています。これを運動誘発気管支収縮と呼ぶこともあります。

残念ながらマラソンなどの走る競技では運動誘発気管支収縮は起こりやすいことが分かっています。喘息持ちのトップアスリートも多くいるので、決して喘息患者さんはランニングができないというわけではありません。しかし一般的には、マラソンは喘息に良い運動とは言いがたい、といえると思います。喘息があって走る競技をしたい方は、どうやって悪化に備えるかを主治医とよく相談したほうがいいでしょう。

参考文献:Middletons Allergy : Principles and practice. 6th ed. Philadelphia ; Mosby : 2003, p1323-32.

気管支の乾燥が運動誘発気管支収縮の誘因になるとすれば、水泳ならば良いのではないかと思われるかもしれません。実際に、水泳はランニングよりも運動誘発気管支収縮を起こしにくいと言われています。

しかし、やはりオリンピック選手を調べた研究では、水泳選手は一般の人よりも喘息の人が多いことが分かっています。水泳自体が喘息に良い運動であると積極的にお勧めすることはできないでしょう。水泳を続けたい方は主治医に希望を伝えたうえで、喘息の悪化に備える方法も相談しておくことをお勧めします。

参考文献

アスリートには喘息患者さんが多いことが分かっています。アスリートの喘息も基本的には一般的な喘息と同じような方針で治療をするのですが、喘息の治療ではステロイド薬などを使用することもあり、ドーピングにならないように特に注意が必要です。

ロイコトリエン受容体拮抗薬、テオフィリン薬、抗コリン薬、抗アレルギー薬、抗IgE抗体製剤などは問題なく使用可能です。β2刺激薬は吸入薬に関しては使用可能ですが、種類によっては事前に除外措置申請が必要になります。内服や貼付剤のβ2刺激薬は使用が禁止されています。ステロイド薬は吸入薬に関しては検査時に申告すれば使用可能ですが、内服薬や注射薬は使用できません。

このように世界ドーピング防止規定で喘息治療薬に関しては定められていますが、かなり煩雑ではあるので、ドーピング検査を受けるようなアスリートの方は主治医と十分に相談しておくことが必要になると思います。

喘息と診断されている患者さんのうち、アスピリンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDsとも呼ばれます)で喘息発作が起こる方がいます。このような喘息をアスピリン喘息(あるいはNSAIDs過敏喘息)といいます。

子どもではアスピリン喘息はまれですが、成人の喘息患者のうち5%から10%ほどはアスピリン喘息であると言われており、20歳代から40歳代くらいの若い患者さんが初めて発症することが多いという特徴があります。また、アスピリン喘息患者さんは、しばしば鼻水や鼻づまりなどの鼻関連の症状もお持ちです。

アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息)という名前のとおり、アスピリン喘息の患者さんではNSAIDsの使用は避けなくてはなりません。NSAIDsは市販の薬剤でも痛み止めや解熱薬としてしばしば含まれているため、十分に注意が必要です。湿布や塗り薬、目薬にNSAIDsが含まれているものもあり、これらも決して使ってはいけません。また、NSAIDsを使用しなければ大丈夫かというとそうではありません。アスピリン喘息患者さんの多くは重症の喘息であり、薬剤の使用がなくても喘息発作を起こしてしまうことがしばしばあります。さらに、ある程度以上の喘息発作の場合には、病院を受診するとステロイド剤の点滴を受けることがありますが、種類によってはこの点滴ステロイド剤でもアスピリン喘息が激しく悪化することもあるので、アスピリン喘息の患者さんは診察に際して医療関係者に必ずその旨を伝える必要があります。

参考文献

ピークフローとは思いっきり息を吸い込んでから吐き出したときの、息の速さの最大値を指します。吐く息の「瞬間最大風速」と表現すると分かりやすいかもしれません。このピークフローを測定できるのがピークフローメーターであり、多くは数千円ほどで市販されています。

喘息では調子が悪いときには、空気の通り道である気管支が狭くなってしまうため、ピークフローの値が落ちます。1日のうちで20%以上もピークフローの値が変化してしまうような場合には、喘息の状態が良くないと考えることが出来ます。

小学生くらいにならないと上手く扱えない機器ではありますが、手軽に喘息の状態を測定することが出来る機器なので、喘息患者さんはぜひ1台持っておくとよいと思います。また、毎日数回測定して日誌にすると喘息の状態をよりよく把握できます。専用の喘息日誌を渡してくれる医療機関もあるので尋ねてみるとよいでしょう。また、喘息日誌をつけたら担当医に見せることで、より患者さんに適した治療ができるようになると思います。

妊娠と喘息の関係は人によって大きく違います。

妊娠中に喘息が悪化する場合、変わらない場合、むしろ改善する場合、いずれも同じくらいの割合で見られると言われています。ただし、悪化してしまう方の中には、妊娠中の薬物使用に対する不安から喘息薬の使用を中止したり制限したりしてしまっているケースが少なくないと考えられます。

主な喘息治療薬は、妊娠中に継続して使用しても胎児の先天異常にはほとんど関係ないと考えられています。ただし喘息治療薬の中でも、今までも多くの妊婦・授乳婦に使用されてきた経験がある安全性が非常に高い薬と、おそらく大丈夫ではあるがそれほど多く使用された経験は無い薬などがあります。妊娠した場合に担当医にその旨を伝えることはもちろんですが、妊娠を計画している場合にも前もって担当医に伝えておいたほうが安心でしょう。また、喘息発作を起こして初めて受診する病院などではまず妊婦である旨をしっかり伝える必要があります。

総じて、喘息患者さんが妊娠・授乳することは問題ありませんが、むやみに薬を避けることで喘息を悪化させることによりかえって胎児に悪影響を与えることは避けたいものです。担当医と二人三脚で、妊娠・出産・授乳と喘息治療の両立を目指してください。

参考文献

  • Am Rev Respir Dis. 1984 ; 130 : 56-8.
  • 日本アレルギー学会喘息ガイドライン専門部会/編, 喘息予防・管理ガイドライン2015. 協和企画, 2015

ペットを飼育することが喘息そのものに与える影響を考えたとき、残念ながら少なくとも良い影響を与えることは無いと言えそうです。

ペット飼育により家の中でダニが多くなりがちですが、ダニをできる限り除去することで喘息患者さんの発作頻度は減少することが分かっています。できるだけ毎日掃除機をかける、こまめに枕カバーやシーツを交換する、寝具類はシーツを外して直接掃除機をかける、年に1回は大掃除をして家の隅々までキレイにする、防ダニ剤を使用する、などの対策が有効と考えられます。

ダニ以外にもペットの毛そのものなども可能な限り接触しないことは重要と考えられますが、例えば室内飼いのネコやイヌを屋外での飼育に変えてもただちに喘息症状が改善するようなものではないでしょう。

総じて、喘息持ちの患者さんがいる家庭で動物を飼育することは、医学的な見地から言えば推奨は出来ないと思います。喘息を発症していない場合でも親兄弟が喘息をはじめとしたアレルギー性の病気を持っているならば、喘息発症の危険が高まると考えられるため、ペットの飼育はあまり推奨できません。

ただし、飼育中に喘息を発症してしまったケースなど、不可避なときもあるでしょうから、そのような場合にはできる限りダニ対策などをしっかりおこなって喘息への影響を抑えたいものです。

参考文献

日本は地震、大雨洪水、台風、火山噴火など自然災害の多い国です。このような災害時には、十分な治療薬が行き渡らなくなること、生活環境が悪化すること、精神的ストレスなどによって喘息は悪化しがちです。

2011年の東日本大震災の際には、政府が医師による処方箋なしでも喘息の治療薬を処方することを許可したため、治療薬が行き渡らなくなってしまった患者さんはさほど多くなかったのですが、普段から予備の薬も多少は準備しておくなど災害対策は個々人でもしっかりしておきたいものです。また、政府としては非常時における喘息治療薬の供給体制を維持していくことや、災害時に被災者の身体的精神的ストレスにどう対応していくかが課題となりそうです。

参考文献

  • Allergol Int. 2011 ; 60 : 115-45.
  • NHLBI/WHO workshop report. Natinal Institute Heart, Lung, and Blood Institute 2010.