きかんしぜんそく
気管支喘息
アレルギーなどで空気の通り道(気道)に炎症が起こることで、気道が狭くなってしまう病気
25人の医師がチェック 267回の改訂 最終更新: 2024.02.16

気管支喘息の吸入薬はどんな薬?ステロイド、ほかの吸入薬の効果と副作用

気管支喘息の治療において主役となる吸入薬に関して、吸入ステロイドを中心にそれぞれの薬剤を詳しく解説していきます。 

喘息の治療薬には非常に多くの種類があります。まずは日頃の喘息症状をコントロールし、喘息発作を起こさないようにするための薬剤の種類を列挙します。

・吸入ステロイド薬ICS:inhaled corticosteroid)

・長時間作用型β2刺激薬(LABA:long-acting beta2 agonist)

・ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA:leukotriene receptor antagonist)

・テオフィリン徐放製剤(SRT:sustained released theophylline)

・長時間作用性抗コリン薬(LAMA:long-acting muscarinic antagonist)

・クロモグリク酸ナトリウム(DSCG:disodium cromoglycate)

・内服ステロイド薬(OCS:oral corticosteroid)

・抗アレルギー薬(LTRAを除く)

・抗IgE抗体

・抗IL-5抗体

次に、発作の際に使用する治療薬の種類を列挙します。多くの薬剤は病院で使用するものになります。

・短時間作用型β2刺激薬(SABA: short-acting beta2 agonist)(自宅でも使用可能)

・ブデソニド/ホルモテロール吸入薬(シムビコート®)の追加吸入(自宅でも使用可能)

・SABAネブライザー吸入の反復

・テオフィリン製剤の点滴静注

・ステロイド薬の点滴投与

・抗コリン薬の吸入

アドレナリンの皮下注射

・イソフルラン、セボフルラン等による全身麻酔

ここでは以上のうち吸入薬について解説します。

吸入薬は薬剤を吸い込むことで肺に薬剤を直接届けるため、少ない薬剤量で有効な喘息治療が出来やすく、副作用との兼ね合いからも、喘息治療の中心となるタイプの薬剤と言えるでしょう。以下では種類別に吸入ステロイドについて解説していきます。

なお、吸入薬に関しては薬剤の名前とは別に、吸入器(デバイス)にも商品名がついています。1つの薬剤でも複数の種類から吸入器を選べるものもあり混乱してしまうかもしれませんが、まずは実際に使う薬剤と吸入器の特徴から把握することとしましょう。薬局で薬を受け取る際に初回は薬剤師からの説明があります。また、動画サイトで検索すればこれらの吸入器の使い方を示したビデオがあります。家に帰って吸い方が分からなくなったときには参考になるものがあるかもしれません。

 吸入器としてディスカス®、エアゾール、ロタディスク®があります。毎日2回定期的に吸入を行います。吸入器の種類が多く、患者さんに合ったものを選びやすい特徴があります。また、ステロイドの粒子径が大きめなので、肺の中枢側(口に近い側)の炎症に効きやすいとされています。

 吸入器としてエリプタ®があり、2017年から日本で使用できるようになった新しい薬です。微細な粉末を吸い込むタイプです。効果の持続時間が長いので毎日1回の吸入でよいことや、操作が比較的単純であることが特徴的です。

 吸入器としてタービュヘイラー®や液体の製剤があります。多くのケースで毎日2回定期的に吸入を行います。吸入ステロイドは妊婦さんが使用しても、基本的にはいずれも安全性が高いと考えられていますが、ブデソニドは最も多く安全性を報告されている吸入ステロイドであることから、妊婦さんに優先的に処方されることがあります。

 エアゾールを1日2回吸入するタイプの薬剤です。タイミングよく薬剤を噴霧して吸い込みます。ステロイドの平均粒子径が小さめなので、肺の隅々まで届きやすいと考えられています。

 吸入器としてインヘラーがあります。タイミングよく薬剤を噴霧して吸い込みます。1日1回の吸入でよい点で、2007年の発売以来重宝されてきました。ベクロメタゾンと同様にステロイドの平均粒子径が小さめなので、肺の隅々まで届きやすいと考えられています。

吸入器としてツイストヘラー®があります。毎日2回定期的に吸入を行います。他の吸入薬ではもう中身の薬剤が残っていないのに間違って吸い続けてしまうトラブルが起こることもありますが、ツイストヘラー®は残薬が無くなるとロックがかかって吸入できなくなるという特徴があります。操作も比較的単純です。

参考文献

  • Chest 1991; 100:1106-9.
  • NAEPP expert panel report. Working Group Report on managing asthma during pregnancy : recommendation for pharmacologic treatment-2007 update.

ステロイド、と効くと皆さんはどんなイメージを持たれるでしょうか?副作用が怖い、とか、ドーピングで使う、とかネガティブなイメージが強いのではないかと思います。実際に飲み薬や点滴で、多量のステロイドを何年間も使っていけば重大な副作用はしばしば起こります。しかし、マスメディアなどからの情報が独り歩きして、ステロイドの有用性より副作用ばかりが強調されすぎていると多くの医師が考えています。ステロイドは多くの病気において重要な治療薬であり、100年前には治療手段の無かった難病に対する治療薬として多くの分野で活躍しています。ステロイドのメリットとデメリットをしっかりと把握して、必要な時に必要なだけキッチリと使う、という姿勢が重要だと思います。

ここでは喘息で使用するステロイドのうち、吸入ステロイドについて解説します。

吸入ステロイド薬は喘息治療において中心的な役割を果たします。気管支の炎症を抑えて、治りにくい喘息へと気管支が形を変えていってしまう「リモデリング」を防ぐ作用があります。

副作用について、吸入ステロイドは薬剤を吸い込むことで直接肺にステロイドを届けるので、全身に与える影響は非常に少なく、効果の面で優れている安心な薬と言えるでしょう。吸入ステロイドの副作用を敢えて挙げると、声がれしやすいこと、口の中にカンジダというカビの一種が生えやすい(多くの場合、容易に治療できます)ことなどがあります。よほど多い用量で長い期間にわたって使用するなどなければ、全身的な副作用はさほど気にしなくてよいでしょう。ここが内服・点滴ステロイドとの最も大きな違いです。

ただし小児での吸入ステロイドは、使用量が増えてくると、成人で起こる副作用に加えて、僅かに身長が伸びにくくなると言われています。対策のため、小児では吸入ステロイドの量が多くなるならば他の薬を組み合わせることで少なめのステロイド量で済むように特に工夫したり、軽症喘息であれば吸入ステロイドの使用を避けることもよくあります。

注意点もあるとはいえ、吸入ステロイドは副作用の少ない薬です。副作用を恐れて使用をためらっているうちにも気管支のリモデリングは進みます。リモデリングが進んでからでは喘息が治りにくくなってしまいます。心配な点は医師とよく相談して、吸入しているステロイドに関してはしっかりと続けていきたいものです。

長時間作用型β2刺激薬(LABA: long-acting beta2 agonist)は強力な気管支拡張薬であり、ある程度以上症状が出る喘息患者さんではしばしば用いられます。ただし、喘息に対して長期間使用する場合は吸入ステロイド薬と併用することが鉄則です。LABA単独では気管支のリモデリングは防げませんし、吸入ステロイドとLABAを併用することで相互に作用を強め合うことが分かっているからです。

LABAに分類される薬剤の例を挙げます。

  • サルメテロール(商品名セレベント®)

  • インダカテロール(商品名オンブレス®)

  • ホルモテロール(商品名オーキシス®)

  • ツロブテロール(商品名ホクナリン®)

ただしオンブレス®やオーキシス®は2017年7月現在はCOPDという病気の治療薬として承認されており、喘息には使用できません。ホクナリン®は貼付薬または内服薬です。喘息の吸入薬としてのLABAはセレベント®のみです。セレベント®の吸入器にはディスカス®、ロタディスク®があります。毎日2回定期的に吸入を行います。

LABAの副作用としては動悸や手の震えなどがありますが、基本的には安全性の高い薬と考えられています。ただし、虚血性心疾患甲状腺機能亢進症糖尿病などがある方は注意が必要です。また、副作用は内服薬>貼付薬>吸入薬の順に出現しやすいとされています。

参考文献

吸入ステロイド(ICS)と長時間作用型β2刺激薬 配合剤(LABA)は喘息治療のカギとなる吸入ステロイド薬に加えて、長時間作用型β2刺激薬を配合して一緒に吸えるようにしたものです。

ICSとLABAを併用することで高い治療効果があることが分かっており、ある程度以上重症の喘息ではしばしば併用されます。2種類の吸入薬を別々に吸うのは大変ということで、配合剤がよく処方されます。ここではこの2剤の配合剤に関して説明していきます。

なお、吸入薬に関しては薬剤の名前とは別に、吸入器(デバイス)にも商品名がついています。1つの薬剤でも複数の種類から吸入器を選べるものもあり混乱してしまうかもしれませんが、まずは実際に使う薬剤と吸入器の特徴から把握することとしましょう。薬局で薬を受け取る際に初回は薬剤師からの説明があります。また、動画サイトで検索すればこれらの吸入器の使い方を示したビデオがあります。家に帰って吸い方が分からなくなったときには参考になるものがあるかもしれません。

 吸入器としてエリプタ®があり、2013年から日本で使用できるようになった比較的新しい薬です。微細な粉末を吸い込むタイプです。効果の持続時間が長いので毎日1回の吸入でよいことや、操作が比較的単純であることが特徴的です。

 吸入器としてタービュヘイラー®があります。通常は毎日2回定期的に吸入を行います。微細な粉末を吸い込むタイプです。吸入ステロイドは妊婦さんが使用しても、基本的にはいずれも安全性が高いと考えられていますが、ブデソニドは最も多く安全性を報告されている吸入ステロイドであることから、妊婦さんに優先的に処方されることがあります。また、ホルモテロールはLABAでありながら即効性が高いため、シムビコート®は基本的にはコントローラーなのですが発作時にはレリーバーとして追加で吸入することが出来ます。これをSMART療法(single inhaler maintenance and reliever therapy)といい、他の吸入薬には無い特徴的な使用方法となっています。1剤で日常の治療も発作治療も行えるので大変便利なのですが、患者さん自身での判断が必要になってくるので、薬の過剰使用や、受診のタイミングを逃してしまう可能性があることには要注意です。

 吸入器としてディスカス®、エアゾールがあります。毎日2回定期的に吸入を行います。ディスカス®は微細な粉末を吸い込むタイプ、エアゾールはタイミングよく薬剤を噴霧して吸い込むタイプとなっています。ICS/LABAとしては唯一小児にも使える承認が通っている薬剤です。他のエアゾール製剤にみられるアルコール臭が無いことなどもメリットかもしれません。

 吸入器としてエアゾールがあり、毎日2回定期的に吸入を行います。タイミングよく薬剤を噴霧して吸い込むタイプとなっています。比較的即効性があること、ゆっくり噴霧されるのでしっかり吸いやすいこと、肺の隅々まで届きやすい薬の粒子径であること、などがこの薬のメリットとして考えられています。

短時間作用型β2刺激薬(SABA:short-acting beta2 agonist)はレリーバーとして主に発作時に用いられ、気管支を広げて呼吸をラクにする作用があります。即効性があり、効いている感じが得られやすいのでついつい患者さんはSABAに頼りがちですが、月に1回以上SABAを使用する必要があるような患者さんでは、気管支のリモデリング防止、喘息症状のコントロールのためにも吸入ステロイドを中心としたコントローラーを使用しておくことが原則となります。

なお、SABAは発作治療以外にも、運動前などに発作予防として用いることもあります。

SABAに分類される薬剤の例を挙げます。

  • サルブタモール(商品名ベネトリン®、アイロミール®、サルタノール®)

  • フェノテロール(商品名ベロテック®)

  • イソプレナリン(商品名アスプール®)

  • プロカテロール(商品名メプチン®)

長時間作用性抗コリン薬(LAMA:long-acting muscarinic antagonist)はもともとCOPDという肺の病気で使われている気管支拡張薬です。吸入ステロイドや長時間作用型β2刺激薬で十分に症状が抑えられない場合に、コントローラーとしてLAMAを併用することがあります。LAMAにもいろいろな種類がありますが、2020年8月現在はスピリーバ®のみが喘息で使えるLAMA単剤製剤となっています。

なお吸入薬に関しては薬剤の名前とは別に、吸入器(デバイス)にも商品名がついています。スピリーバ®の場合にはレスピマット®が吸入器の名称です。1つの薬剤でも複数の種類から吸入器を選べるものもあり混乱してしまうかもしれませんが、まずは実際に使う薬剤と吸入器の特徴から把握することとしましょう。薬局で薬を受け取る際に初回は薬剤師からの説明があります。また、動画サイトで検索すればこれらの吸入器の使い方を示したビデオがあります。家に帰って吸い方が分からなくなったときには参考になるものがあるかもしれません。

近年は喘息に対してLAMAを使用する頻度も増えてきました。そこで、COPDに対する薬もあるのですが、ICS/LABA/LAMAの3剤を同時に吸入できるトリプル吸入薬も使われ始めています。具体的な吸入薬としてはテリルジー®、ビレーズトリ®、エナジア®などがあります。

副作用としては口が渇く症状が見られることがあります。また前立腺肥大症がある患者さんでは尿の出にくさが悪化することがあり注意が必要です。閉塞隅角緑内障の患者さんでは決して使用してはいけない薬なので、緑内障かもしれないと言われたことがある場合には、LAMAの使用開始前に眼科を受診する必要があるでしょう。

クロモグリク酸ナトリウム(DSCG:disodium cromoglycate)はインタール®という商品名で、小児に使われることの多い吸入薬です。アレルギー性の炎症や、喘息発作の誘因となるウイルス感染の抑制効果などがあると言われています。DSCGは呼吸機能の改善率は吸入ステロイドには劣るものの、小児では吸入ステロイドによって僅かに身長が伸びにくくなる副作用などもあるので、DSCGは軽症の小児でしばしば用いられています。

参考文献

DSCGの副作用は少ないと言われていますが、時に喉の刺激になったり、咳が出やすくなったり、皮疹が出ることがあります。

喘息治療では何度も通院して薬をもらうことになります。通院は行き帰りの時間や待ち時間も含めて生活の負担になるので、楽にしたいと思うのは無理もないことです。

しかし、市販薬で喘息の十分な治療をすることは出来ません。喘息治療で中心的な役割を果たす吸入ステロイドや、ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)、テオフィリン製剤、β2刺激薬などは市販されていないからです。つまり、これらの薬を薬局などで処方箋なしで買うことはできません。

咳喘息にしても、市販の風邪薬の咳止めでは効果が不十分となる可能性が高いと考えられます。

市販の抗アレルギー薬と同様のものを病院でも処方されるかもしれませんが、LTRA以外の抗アレルギー薬は喘息治療においては補助的な役割であり、やはり十分な治療とは言い難いと思います。

喘息で使う主な薬が市販されていない理由は、使用にあたって専門的な注意が必要な場合が多いからです。医師が薬を処方する時には、本当に効果が期待できるのか、実は薬を使ってはいけない場合(禁忌)に当てはまらないのか、をチェックするなど多くのことを考えています。できる限り安全性を確保しながら効果的に治療するために、やはり医師の診察は欠かせないのです。

喘息の治療期間をどの程度にする、というのは特に決まりがありません。例えば数年に1回しか症状が出ない方であればその時だけ症状が治まるまで治療すればよいでしょうし、気管支の破壊・変形(リモデリング)が進んでしまっていつも症状があるような方では無期限に治療を継続する必要があります。継続的な喘息治療が必要な方でも、リモデリングがあまり進んでいなければ、治療薬を段階的に減量(ステップダウン)していくことで、治療薬なしの状態までもっていくことができる場合もあります。一般的には症状のほとんど無い順調な状態が3ヶ月程度以上維持できれば、治療薬を1段階ステップダウンすることを検討します。

ただし、乳幼児ではそもそも喘息の診断自体を広い意味で捉えているため、真の喘息では無いけれども軽い喘息に準じて治療されることも多々あります。このようなケースでは早期のステップダウンが検討されます。

参考文献

  • 日本アレルギー学会喘息ガイドライン専門部会/編, 喘息予防・管理ガイドライン2015. 協和企画, 2015