たはつせいこうかしょう
多発性硬化症
免疫の異常が原因で、中枢神経(脳や脊髄)が障害を受ける病気。障害を受けても回復することがあり、症状が出たり消えたりする。
13人の医師がチェック 228回の改訂 最終更新: 2022.02.28

多発性硬化症の診断を行うための検査について

多発性硬化症には似た症状が現れる病気がいくつかあります。他の病気との区別をするために、多発性硬化症が疑われる人には診察や検査が行われ、その中でも神経学的診察やMRI検査が重要です。ここでは診察や検査の目的やその内容について詳しく説明していきます。

1. 問診

問診は対話による診察です。患者さんの身体の状況や持病などの背景を確認する目的があります。具体的には、患者さんは自分の困っている症状をお医者さんに伝え、症状ついて詳しく質問を受けます。また、お医者さんからは症状についてより詳しい質問を受けたり、持病、飲んでいる薬について聞かれます。

多発性硬化症が疑われる人にお医者さんがする質問の例は以下の通りです。

  • どんな症状があるのか
  • いつから症状があるのか
  • 症状が軽くなったり重くなったりする変化はあるか
  • 風邪や胃腸炎を数週間から数ヶ前に間に経験したか
  • 現在治療中の病気はあるか
  • 定期的に飲んでいる薬はあるか

多発性硬化症では全身の色々な箇所に症状が現れます。一見、同じ病気で引き起こされているとは思わない症状でも、多発性硬化症によるものの可能性があります。

例えば、手足のしびれと尿もれは関係なさそうに見えますが、両方とも多発性硬化症によって起こる症状です。ですので、気になる症状はもらさずお医者さんに伝えるようにしてください(症状については「多発性硬化症の症状」で詳しく説明しています)。また、多発性硬化症の人の約半数が、症状が現れる数週間から数ヶ月前の間に風邪や胃腸炎などの感染症を経験していると言われています。お医者さんから質問されたら、憶えている範囲で体調不良の経験を伝えてください。

2. 身体診察

お医者さんがくまなく身体の状態を直接調べることを身体診察といいます。身体診察を行うことによって身体の状態を客観的に判断することができます。身体視察にはいくつか種類がありますが、多発性硬化症が疑われる人には「神経学的診察」が中心に行われます。

神経学的診察では神経の異常の有無を調べます。例えば、筋肉の腱を叩くことでその筋肉に司令を出す神経の異常の有無を調べることができます。もう少し具体的に言うと、筋肉の腱を優しく叩くと、意識とは無関係に反射的に筋肉が動き、これを腱反射と言います。腱反射が弱かったりなくなっていたり、反対に極端に強くなっていたりすると、神経に異常が起こっていると判断する材料にできます。これはあくまで一例ですが、神経学的診察では全身の神経の状態をさまざまな方法で調べ上げられます。

3. 血液検査

多発性硬化症は問診や身体視察、MRI検査によって診断されることが多いですが、他の病気と区別が難しいときには血液検査の結果も参考にされます。多発性硬化症に似た病気として「視神経脊髄炎」が知られています。視神経脊髄炎の人の血液には「抗アクアポリン4抗体」が正常範囲より多く含まれている一方で、多発性硬化症の人では正常範囲を超えて増加していることはありません。血液検査の結果を参考にすることで視神経脊髄炎と見分けがつきやすくなります。

4. 画像検査:MRI検査とCT検査

脳や脊髄背骨の中の神経)の病気である多発性硬化症を調べるには、画像検査が有効です。脳や脊髄の断面を画像化して詳しく調べることができます。脳や脊髄の主な画像検査にはMRI検査とCT検査があります。

頭部MRI検査

MRI検査では磁気を利用して、身体の断面を画像化します。CT検査とは異なり放射線を使うことはないので、被曝の可能性はありません。多発性硬化症の人にはMRI検査で特徴的な結果が現れます。特徴的な結果が現れれば多発性硬化症の可能性が高いと判断でき、反対に現れなかった時には他の病気を考えることができます。

MRI検査の前に押さえておきたいことや、詳しい原理については「MRI検査を受ける前に知っておきたいこと」を参考にしてください。

頭部CT検査

CT検査はMRI検査と同様に身体の断面を画像化します。MRI検査は磁気を利用する検査であるの対して、CT検査はX線を利用する検査です。頭部CT検査より頭部MRI検査の方が、多発性硬化症の病気の部分をはっきりと見られるので行われないこともあります。身体に金属を埋め込んでいる人や閉所恐怖症の人にはMRI検査を行うことができないので、代わりとしてCT検査が行われます。

CT検査の前に押さえておきたいことや、詳しい原理については「CT検査を受ける前に知っておきたいこと」を参考にしてください。

5. 髄液検査

髄液とは、脳と脊髄(背骨の中にある太い神経の束)と、これらを包んでいる膜の間を満たしている液体のことです。髄液検査では髄液を取り出してその成分を詳しく調べます。多発性硬化症の人の髄液からは、「オリゴクローナルバンド」というものが見つかることが多く、この検査結果を診断に役立てることができます。

髄液検査に用いる髄液(脳脊髄液)は腰椎穿刺という方法で身体から取り出されます。腰椎穿刺では、背骨の腰付近の位置に細い針を刺して、そこから髄液を取り出します。腰椎検査は「腰椎穿刺(ルンバール)の目的、方法、合併症」で詳しく説明しているので参考にしてください。

6. 誘発電位検査

多発性硬化症は神経細胞から伸びた軸索を覆う髄鞘(ずいしょう)が障害を受ける病気です。髄鞘が障害を受けた状態を「脱髄」と言います。髄鞘の役割は神経に電気信号が伝わるスピードを加速させることです。そのため、脱髄した部分では電気信号の伝達が遅くなってしまいます。誘発電位検査は電気信号の伝達スピードを測ることができるので、脱髄が起こっている場所の検討をつけることができます。具体的には、頭に電極を貼って電気的な刺激を与えて、その反応で起こる脳波を記録します。脳波に異常がある場所では脱髄が起こっている可能性が考えられます。

7. 多発性硬化症の診断基準

多発性硬化症の診断には2015年に発表された厚生労働省が定めた診断基準が用いられることが多いです。この診断基準は難しく専門的であるので、かいつまんでいうと、次の3つが診断において重要です。

  • 脳や脊髄に2つ以上の病気の部分がある
  • 寛解と再発がある
  • 他の病気ではない

それぞれについて説明します。

■脳や脊髄に2つ以上の病気の部分がある

多発性硬化症の特徴は病気の部分が脳や脊髄に多発することです。脳や脊髄に多発しているかどうかは、神経学的診察やMRI検査によって調べられます。

■寛解と再発がある

症状が良くなることを寛解といい、一度は軽くなった症状が再び現れることを再発といいます。寛解と再発の繰り返しは多発性硬化症の特徴なので、この繰り返しが確認されることも多発性硬化症の診断において重要です。

■他の病気ではない

多発性硬化症と似た症状が現れる病気は他にもあります。例えば、視神経脊髄炎は近年まで多発性硬化症の亜型の1つと考えられていましたが、別の病気であることがわかりました。違う病気だと治療法が異なるので、見分けるために診察や検査が行われます。

参考文献
・「神経内科ハンドブック」(水野美邦/編集)、医学書院、2016
・難病情報センターホームページ「多発性硬化症/視神経脊髄炎」(2019.3.20閲覧)