2018.05.29 | コラム

CT検査を受けるまえに知っておきたいこと

子どもや妊婦についても説明します

CT検査を受けるまえに知っておきたいことの写真

CT検査は、X線を使って身体の中を詳しく調べる検査です。おもに身体の中にある水分や臓器などの軟らかい構造物、骨などのカルシウムを含む構造物が、身体の中でどのように分布するかを測定します。得られた測定値を計算することで、画像を再構築して身体の断面像を作成します。病気の原因を探す目的やがんの転移を探す目的などでこの検査が行われます。

1. CT機器:CT検査を行うときに使用される機械

写真のような内部が空洞となっている機器の中を身体が通過することで検査が行われます。検査を受ける人は特に何かをする必要はなく、機器に附属した寝台に仰向けに寝ているうちに検査が行われます。

検査中に多少の音がしますが、ものすごく音がうるさいということはありません。また、狭い空間に入るわけではないですし、検査時間も数分以内に終わることがほとんどですので、この検査自体にはあまり恐いことはありません。

しかし、造影CT検査の場合で造影剤を使用する場合には、いくつか注意するべきことがあります。次の段落で詳しく説明します。

 

2. 造影CT検査:造影剤を用いたCT検査

造影CT検査はその名の通り''造影剤を用いたCT検査''のことです。造影剤を用いる場合には、通常のCT検査のステップに加えていくつかの注意点があります。

 

  1. 造影剤を血管に入れるために、点滴のときと同じような細い管を一次的に静脈の中に入れる必要があります。この細い管を静脈の中に入れる際には、注射をするときと同じように、少しちくっとします。
  2. 造影剤を血管の中に入れている最中には、血液とは違う液体が血管の中に入るために刺激があります。そのため、血管が少し痛くなったり、身体がとても熱く感じられることがあります。血管の軽い痛みや身体が熱くなる現象は造影CT検査の際でよく起こりますが、心配いりません。
  3. 造影剤を入れているところの血管がとても痛くなる場合は、造影剤を入れる圧力が強すぎて、造影剤が血管の外に漏れてしまっている可能性があります。その場合には検査をすぐに止める必要があります。検査の際にも放射線科技師や医師から説明がありますが、強い痛みを感じたらすぐに放射線技師に知らせましょう。検査中でもボタンで知らせることができるようになっている病院が多いですが、ボタンがない場合には声を出して知らせてください(通常CT機器にはマイクがついており、検査中の患者さんの声は聞こえるようになっています)。
  4. 造影剤が身体に合わず、アレルギーが出る人がいます。検査時に息苦しくなったり、急に咳やくしゃみが出たり、喉がかゆくなったり、身体がかゆくなったりするような場合には3.の場合と同様に検査をしている放射線技師に知らせるようにして下さい。特に持病に喘息がある人はアレルギーが起きやすいので、検査の前に主治医に伝えるようにしましょう。

 

これらのポイントを検査前に覚えておくことはとても大切です。しかし、いざ検査の場に行くと緊張感からどうして良いか分からなくなってしまうことがあります。検査中に何か違和感を感じたら、近くにいる人に遠慮なく伝えるようにしてください。

 

3. CT検査の際の医療被ばく(ひばく)について

CT検査は病気の原因を探したり、がんの転移を探したりするのに有用である一方で、X線を用いる検査であるためにどうしても医療被ばくが発生します。

医療被ばくという言葉はおそろしいものと考えられてしまいがちですが、原爆の被ばくや原発事故の被ばくなどとはまったく異なる、自然界でもふだんから起こりえる程度の少量の被ばくであることが多いです。ただし、撮影の仕方や頻度によって被ばく量が変わってくるため、1回の検査でどの程度の被ばくがあるかを知っておくことは大切です。

表にしていくつか例を挙げます。

 

【1回の検査における被ばく量の目安】

検査名 被ばく量(mSv)
胸部単純写真 0.04mSv
腹部単純写真 1.2mSv
上部消化管検査(消化管造影検査) 8.7mSv
胸部CT検査 7.8mSv
腹部CT検査 7.6mSv
世界の自然放射線による被ばく量 平均2.4mSv(10mSv程度の地域もある)
日本の自然放射線による被ばく量 平均1.2mSv(地域により異なる)

*mSv(ミリシーベルト): 生物学的効果の目安に用いられる。人体あるいは生命体にどの程度影響を与えるかを表した放射線量。実効線量という。

 

上の表を見ると、年に1回程度までの検査では、自然界の被ばくが多い地域と同程度の被ばくが起こることが分かります。この程度の被ばくであればほとんどの場合で問題になりません。

しかし、実際には年に2回、3回と検査をされる患者もいます。そのような場合には、繰り返し検査をしなければならない理由(病状の進行の確認など)があり、検査のメリットとデメリットを比較した上で、メリットの方が大きいと判断される状況でのみ検査が行われています。

 

また、10mSvの被ばく量を超えるとただちに皆ががんになるというわけではありません。CT検査を受ける機会が非常に多い場合には、被ばく量が増えるにつれてがんが発生するリスクが増えるという結果を出している論文はあります。しかし、「相当に医療被ばくの多い人でごくわずかに増える可能性がある」という結論が出ているのみで、どの程度の被ばく量でどの程度がんが増えるのかについて明確な結論は出ていません。実際の個々の患者においては、放射線被ばく以外にも喫煙や飲酒やウイルス感染、糖尿病などの生活習慣病によってがんが発生するリスクがあります。一方で、CT検査をすることで他のがんがたまたま早期に発見されたり、治療中の病気の詳細を知ることができたりするメリットもあり、個々の患者が医療被ばくによってがんを発生する不利益を被ったかどうかを検証するのは極めて難しいのが現状です。

 

検診目的でいろいろな病院を受診して年に何回もCT検査を受けるような人は、CT検査を受ける前に受けるべきかどうか考えた方がよいです。肺がんなどに対するCT検診は年1回程度であればメリットとデメリットを考えて受けても問題が起こりにくい範囲内と考えられますが、年に何度も受けるような場合には医療被ばくによるデメリットの方が大きくなる可能性があります。

 

子どもの被ばくについて

子どもがCTの検査を受ける場合も注意が必要です。子どもは身体が小さいことや今後の生きる期間が長いことから、医療被ばくの影響が大人よりも出やすいため、慎重に判断する必要があります。メリットとデメリットを天秤にかけて検査の要否を判断することが大切です。一般的に小児科の医師は医療被ばくについてとても敏感で、無用な被ばくを避けることを極めて重視して考えています。

子どもでは医療被ばくによって白血病などのがんのリスクが上昇することについて、成人よりも慎重に考慮されるべきです。しかし、もともと発症頻度が高くない小児がんが発生するリスクが上昇しても、数字にしたら大きなリスクにはなりにくいとも考えられます。目の前の病気が悪化することで子どもに迫っているリスクを前に、少量の医療被ばくよりもCT検査を行う価値が高いと判断されたからこそ、担当医師がCT検査を勧めてきているということは忘れてはなりません。

 

お腹の赤ちゃんの被ばくについて

CT検査がお腹の赤ちゃんに与える影響(胎児被ばく)が気になるお母さんは多いと思います。胎児被ばくについては、CT検査の中でも最も胎児の被ばく量が多くなる骨盤部CT検査を受けると、およそ25mGy(生体に吸収された放射線エネルギー量のこと。吸収線量という。)の被ばくとなると考えられています。胎児への悪影響を考える上での限界放射線量(しきい線量)は100mGyです。

被ばく量によって成人・子ども・胎児ともにがんのリスクが高まると言われていますが、100mGy未満の被ばくでの影響は証明されていません。「医療被ばくなどを受けていない自然環境下での子どもたちと差がない」と発表されている論文が複数あります。よって、妊娠中の被ばくは避けるべきことではありますが、妊娠と知らずにCT検査を受けた場合や妊娠中に必要があってCT検査を受けた場合でも、特に問題とならないことがほとんどです。もちろん被ばく量が増えれば問題となることも考えられますが、最も胎児被ばくの多い骨盤部CTであっても、3回程度までのCT検査では100mGy未満の医療被ばくにとどまります。よって妊娠していることを知らずに1~3回程度CTを撮影してしまったような場合に、堕胎を考慮する必要は全くありません。

 

4. まとめ

  • 造影CT検査を受ける場合は、上記の1.-4.の変化が検査時に起こりうる
  • 特に喘息の持病があるかどうかは造影CT検査を検査を受ける際の重要な情報なので、事前に伝える
  • 検査中に痛みやアレルギーを疑うような症状が出てきた場合には、すぐに放射線技師に知らせる
  • CT検査による医療被ばくは最低限に抑えられている
  • 妊婦は不必要なCT検査を避けるべき。一方で、妊娠していることを知らずにCT検査を受けてしまったとしても、1-3回程度の被ばくによって胎児が影響を受けることは考えなくて良い

 

5. さいごに

最後に、近年CT機器の被ばく量低減技術が各社で積極的に進められていることを追記しておきます。最新の機器においては、従来のものよりも50%程度の被ばく低減をできるものがあります。また、検診の現場では、線量を落として被ばく量を減らして撮影するのが一般的ですが、新技術を搭載したCTでは画像の再構成に時間はややかかるものの、80%程度までの被ばく低減が可能なものもあります。胸部単純写真(いわゆる胸部レントゲン)などと比べて被ばく量が多いと言われるCT検査でも、今後はそれほど医療被ばくの心配をすることなく今までと同等以上の画質を担保した検査が広く普及してゆくことが期待されています。

 

参考文献

1. 医療科学社 あなたと患者のための放射線防護Q&A 草間朋子

2. 放射線医学総合研究所HP:http://www.nirs.qst.go.jp/rd/faq/medical.html#anchor_03

3. CH McCollough, BA Schueler, TD Atwell, et al. Radiation exposure and pregnancy: when should we be concerned? RadioGraphics 2007; 27:909 –918.

4. MS Pearce, JA Salotti, MP Little, et al. Radiation exposure from CT scans in childhood and subsequent risk of leukaemia and brain tumours: a retrospective cohort study. Lancet 2012; 380: 499–505.

5. A Sodickson, PF Baeyens, KP Andriole, et al. Radiology 2009; 251:175–184. Recurrent CT, Cumulative Radiation Exposure, and Associated Radiation-induced Cancer Risks from CT of Adults.

6. LL Geyer, UJ Schoepf, FG Meinel, et al. Radiology 2015; 276:339–357. State of the Art: Iterative CT Reconstruction Techniques

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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