くもまくかしゅっけつ
くも膜下出血
主に脳の表面にある血管が破裂して、くも膜と脳の隙間に出血が起こる脳卒中。突然の激しい頭痛・意識障害などが特徴だが、症状が軽い人もいる
25人の医師がチェック 402回の改訂 最終更新: 2023.08.18

くも膜下出血の症状について:前兆・頭痛・吐き気など

くも膜下出血が起こると頭痛や吐き気、意識消失などのさまざまな症状が現れます。発症したばかりの頃は頭痛や吐き気などの症状が中心で、時間が経つと意識障害などが起こります。また、くも膜下出血を起こした人には後遺症が残ることもあります。

くも膜下出血で起こる症状について説明します。

1.くも膜下出血に前兆や予兆はあるのか

くも膜下出血には「前兆」があることが知られています。

「前兆」の具体的な症状は「突然起こる軽い頭痛」です。この症状は少量の出血が原因で起こると考えられています。また、この少量の出血による頭痛は大きな出血の前に起きることが知られており、「警告頭痛」と呼ばれることもあります。

この警告頭痛で覚えてほしい特徴は「突然起こる」「吐き気をともなうことがある」ということです。「何時何分に頭が痛くなった」というように、起きた時間がはっきりとわかる突然の頭痛は、くも膜下出血の「警告頭痛」の可能性があります。「警告頭痛」の段階で治療することができれば、その後順調に治ることが期待できます。

とはいえ、頭痛は多くの人が経験する症状で、くも膜下出血の警告頭痛であることは少ないです。警告頭痛の特徴にあてはまらない場合や、頭痛持ちの人であればいつもと同じような頭痛の場合は、そのまま様子をみてもらって問題ないことがほとんどです。

「警告頭痛」が疑わしい場合は、医療機関を受診して詳しく調べてもらってください。

2.くも膜下出血の症状:頭痛・吐き気・意識の消失など

くも膜下出血が起きると主に次のような症状が現れます。

  • 激しい頭痛
  • 吐き気・嘔吐
  • けいれん発作
  • 意識がなくなる(意識消失)

これらの症状は「血液が髄膜を刺激すること(髄膜刺激)」や「頭蓋内の圧力の上昇(頭蓋内圧亢進)」、「脳組織の偏位(脳ヘルニア)」が原因で起こります。

それぞれの症状について次でもう少し詳しく説明します。

激しい頭痛

出血量が多い場合、脳を覆う髄膜への刺激(髄膜刺激)が強くなるので、激しい頭痛を自覚します。この頭痛は「突然バットで殴られたような痛み」や「人生で最も激しい頭痛」と表現されるほど強いものです。頭痛の原因はさまざまですが、今まで経験したことがない激しい痛みが突然起きた場合には、くも膜下出血の可能があります。すみやかに医療機関を受診して原因を詳しく調べてもらってください。

吐き気・嘔吐

くも膜下出血によって血液が髄膜を刺激したり(髄膜刺激)、頭蓋内の圧力が上昇(頭蓋内圧亢進)したりすると、吐き気や嘔吐が起こることがあります。頭痛に吐き気や嘔吐が伴う場合は、くも膜下出血を原因の一つとして考えなければなりません。

一方、くも膜下出血が原因で、頭痛を伴わない吐き気が起こることは多くありません。吐き気や嘔吐があって頭痛がない場合には、急性胃腸炎腎盂腎炎など脳とは関係のない別の病気の可能性も考えられます。

けいれん発作:身体に力が入りガクガクと震える

脳は身体を動かすために司令を出しています。くも膜下出血によって脳がダメージを受けるとこの司令に乱れが生じ、自分の意思とは無関係に勝手に筋肉が強く収縮する状態が現れます。これを「けいれん」といいます。

くも膜下出血後にけいれんが起こると、刺激で再出血する危険性を高めて、その後の経過を悪くする恐れがあります。全身状態をみて、けいれんを予防するための薬をあらかじめ投与することもあります。

意識がなくなる(意識不明)

くも膜下出血が重い状態になると、意識が朦朧としたり物が考えられなくなったりします(意識障害)。さらに重症化すると、呼びかけに応じなくなるいわゆる「意識不明」の状態になります。

意識がなくなるのは、頭蓋内の圧力が高まること(頭蓋内圧亢進)や後述する致死的な不整脈が起きたことが原因だと考えられています。

頭痛を訴えた後に意識障害が起きた場合は、脳に深刻な問題が起きている可能性が高いです。人を集めて、救急車の要請などを行ってください。

3.くも膜下出血の合併症

ある病気が原因で引き起こされる別の病気を合併症といいます。くも膜下出血は脳の病気ですが、脳以外の部分に合併症を引き起こすことがあります。

くも膜下出血の合併症は次のようなものです。

それぞれの合併症についてもう少し詳しく説明します。

脳血管攣縮(のうけっかんれんしゅく)

くも膜下出血後は脳の血管が痙攣して縮こまることがあります。この状態を脳血管攣縮(のうけっかんれんしゅく)といいます。脳血管攣縮が起こると脳の血流が悪くなり、脳の細胞がダメージを受けて機能を失います。その結果、身体が麻痺したり、しゃべりにくくなったりといった症状が現れます。

脳血管攣縮が起きると深刻な後遺症が残ることがあるので、最善の手を尽くして避ける必要があります。脳の血流をできるだけ保つために点滴などを行います。また、万が一脳血管攣縮が起きた場合には早期で対応する必要があります。このため、くも膜下出血を起こした人は、お医者さんや看護師さんが目を配りやすい集中治療室にしばらく滞在することが多いです。

たこつぼ型心筋症

くも膜下出血は心臓にも影響を及ぼして、たこつぼ型心筋症を起こすことが知られています。たこつぼ型心筋症は心臓の一部が動かなくなる病気で、左心室という心臓の場所のかたちが「たこつぼ」に見えることから、その名前がついています。心臓の動きが悪くなるため、胸の痛みや呼吸がしにくいなどの症状が現れます。

たこつぼ型心筋症は一般的にはその後軽快することが多いのですが、一部の人は心臓に問題を抱えることもあるので油断ができません。心電図などをしばらくの間装着して、悪化がないかが確認されます。

不整脈

くも膜下出血が起きると、身体からカテコラミンという物質が過剰に放出されます。

カテコラミンは身体にとって必要な物質なのですが、あまりにも多くの量が放出されると、心臓に悪影響を及ぼして致死的な不整脈心室頻拍心室細動)の原因になります。

致死的な不整脈が起きると、心臓が身体に血液を送れなくなり生命を脅すため、早期に治療をする必要があります。意識を失った場合は致死的な不整脈を起こしている可能性があり、一刻を争います。まず人手を集めて、救急車の要請やAED(自動体外式的除細動器)でできるかぎりの初期治療をすることが大切です。

尿崩症

くも膜下出血が起きた後は脳が浮腫み(むくみ)ます。脳が浮腫むと脳の圧力が高まり、視床下部脳下垂体の機能が低下することがあります。視床下部や脳下垂体は、ホルモンの分泌に関わる部位です。脳下垂体からは体内の水分を保とうとする重要なホルモン(抗利尿ホルモン)が放出されていますが、脳が浮腫むとこの分泌量が低下してしまいます。

抗利尿ホルモンの分泌量が低下すると、本来、身体の中に保たれるはずの水分が、どんどん尿として出ていってしまいます。このように尿量が異常に多くなる病気を尿崩症といいます。尿崩症によって不足した水分を補うために、点滴などで十分な量の水分が補われます。

4.くも膜下出血の後遺症

くも膜下出血が軽度であれば、後遺症が起こることは少ないですが、出血した量が多い場合には後遺症が残る可能性が高いです。

ここではくも膜下出血の後遺症について説明します。

身体の麻痺(運動麻痺)

くも膜下出血によって脳細胞がダメージを受けると、以前と同様には身体を動かせなくなります。これは運動麻痺という状態で、身体の片側に起こることが多いです。つまり「左の上半身と下半身が動かなくなる場合」や「右の上半身と下半身が動かなくなる場合」です。他にも、食べものを飲み込む力や言葉を発する力が低下することがあります。

脳細胞はダメージを受けると再生することはないと考えられています。このため、運動麻痺は自然に回復することはほとんど期待できません。ダメージを受けていない脳細胞を使って身体を動かせるようにリハビリテーションを行います。

リハビリテーションについては「くも膜下出血の治療」で説明しているので参考にしてください。

高次脳機能障害

高次脳機能障害は、記憶や注意などの情報処理がうまくできなくなることを指します。主に次のような障害が現れます。

  • 記憶障害
  • 注意障害
  • 遂行機能障害
  • 社会的行動障害

少し耳に馴染みのない言葉だと思いますので、それぞれを噛み砕いて説明します。

■記憶障害

ものの名前などを新しく覚えることができなくなります。そのために、同じことを何度も質問したりします。

■注意障害

作業中に混乱したり、長く続けられなくなったりといったことが現れます。注意力が低下しているので作業にもミスが生じやすくなっています。

■遂行機能障害

物事を計画を立てて実行する力が低下してしまいます。このために約束に遅れたり、人の指示がないと行動に移せないなどの問題が起こります。

■社会的行動障害

興奮したり、暴力的な行動をとったりすることがあります。また、思い通りにならないことに対して大声を出したりすることもあります。

高次脳機能障害は日常生活にも大きな影響を及ぼします。リハビリテーションによる機能の回復とともに周りの人のサポートもとても大切です。

患者さんがどのような後遺症で困っているかを、周囲の人が具体的に認識することで、上手に障害に付き合う手助けができます。例えば、記憶障害が強い場合にはものに名前を書いてあげることも有効ですし、遂行機能障害には予定を細かく指示してあげることによってスムーズな生活を送ることが可能になるかもしれません。

みんなで支えて、患者さんが困らない環境を整える工夫を考えてみてください。

参考文献

・日本脳卒中学会脳卒中ガイドライン委員会/編, 脳卒中治療ガイドライン2015, 協和企画, 2015
・福井次矢, 黒川 清 (日本語版監修), ハリソン内科学, MEDSi, 2017
・水野 美邦/著, 神経内科ハンドブック, 医学書院, 2016