2019.04.19 | コラム

突然死はどういったときに起こるのか?あしたのジョーの名シーンを分析する

突然死は突然やってくる!?

突然死はどういったときに起こるのか?あしたのジョーの名シーンを分析するの写真

一世を風靡した漫画である「あしたのジョー」のラストシーンで、椅子に座った矢吹丈が下を向いたまま動かない描写があります。それまで苛烈なボクシングをしていたのに、突然座ったまま動かなくなってしまいます。
ジョーは死んでしまったのか、はたまた意識を失っているだけなのか、もしかしたらただ休んでいるだけなのか…このシーンだけではよく分かりませんが、もし死んでしまったのなら短時間で死が襲ってきたということになります。
医療現場にいると患者さんにいきなり死の危険が襲ってくることがあります。それまで死の危険がないと思われていた人の状態が突如として悪化して、一部は治療の甲斐なく亡くなってしまうのです。

1. ピンピンコロリはどんなときに起こるのか?

「ピンピンコロリが一番良い」という言葉を耳にします。寝たきりになる時間が長いよりは、元気なうちにいきなり亡くなったほうが良いという考え方です。最近では寿命よりも健康寿命(健康でいられるまでの期間)を重要視する風潮もあり、こうした状況が好まれるというのもよく分かります。果たしてこのピンピンコロリに代表されるようないわゆる突然死は一体どういった状況で起こるのでしょうか。

 

例えば、がんについて考えてみましょう。がんが進行すると段々と体力が低下し、最後には命が尽きるという経過をたどります。この経過ではピンピンコロリとは言い難いです。

がんは俗に三大疾患と呼ばれます。がん・心疾患・脳血管疾患をあわせて三大疾患と呼ぶのですが、これらは日本人の死因の上位3つの疾患を指します。

がんの次に死因が多い、心疾患の中には突然死するものがあります。心筋梗塞や心室細動がその代表です。これらは出来るだけ早く治療しなければ、心臓が有効に働くことができなくなり死に至ります。

また、脳血管疾患にも突然死を引き起こすものがあります。くも膜下出血や脳出血がその代表例です。治療が可能であると判断されたらすぐに手術やカテーテル治療が検討されます。一方で、脳血管疾患の中でもよく知られている脳梗塞では、突然死が起こることはほとんどありません。

 

以上の病気を病状が悪化する進行度合いでまとめると次のグループに分けられます

  • 段々と病状が進行する病気の例
    • がん
    • 脳梗塞
    • 慢性腎不全
    • 慢性肝炎
  • 突如として命の危険性が生じる病気の例
    • 不整脈の一部(心室細動、持続性心室頻拍、ブルガダ症候群)
    • 心筋梗塞(一部の狭心症)
    • くも膜下出血
    • 脳出血
    • 糖尿病ケトアシドーシス
    • 高エネルギー外傷
    • 窒息

 

「突如として命の危険性が生じる病気の例」において、受傷してからの時間経過について注目してみると、さらにグループ分けすることができます。不整脈、心筋梗塞、窒息は数秒から数分で命を落とすことがあるので、可及的速やかな対応が必要になります。また、高エネルギー外傷(高所からの転落や自動車事故のような大きなエネルギーが身体に降りかかった状態)では脳や心臓などの重要な臓器が瞬時に機能しなくなることがあります。

 

2. 話をあしたのジョーのラストシーンに戻すと

あしたのジョーの最終場面に戻ってみましょう。最終ラウンドを戦い終えたジョーがコーナーにある椅子に座って動かないでいます。漫画の中でジョーに何が起こったのかについて詳細な描写はないのですが、もし突然死が起こっているのであれば数秒から数分で身体に異変が起こったことになります。また、ジョーは推定20歳前後と年齢が若いことも死因を考える上でポイントです。

描写のような短時間で命に関わる状態になる病気は次のものが疑わしいです。

 

  • 致死性不整脈
  • 心筋梗塞
  • 高エネルギー外傷
  • 窒息

 

中でも窒息は、特に喉にものを詰まらせた描写がないので最も考えにくいかもしれません。残った病気の中でも、心筋梗塞は心臓の血管が詰まる病気で、中高年に多い病気であるため可能性は低そうです。また、運動習慣のある若者であるジョーが糖尿病や脂質異常症といった心筋梗塞に関連する病気を患っている可能性も低そうです。

 

ここまでくると、疑わしいのは不整脈と高エネルギーによる外傷(注:スポーツによる受傷は厳密な意味での高エネルギー外傷の定義とは外れるため表記を変えています。)の2つに絞れてきます。ボクシングという激しい運動が契機になったかは不明ですが、ジョーの身体に不整脈が起こった可能性があります。また、ボクシングというスポーツは日頃鍛えている人が行うだけでなく、安全面には最大限配慮されているとはいえ、まれに事故死(主に頭蓋内出血によるもの)が起こってしまいます。ジョーの身体に高エネルギーが降りかかったことによって異変をきたしたということも考えられます。

 

3. あしたのジョーから学ぶ「どうしたら突然死を回避できるか」について

上の章では「致死性不整脈」と「高エネルギー外傷」が起こった可能性を書きました。もちろんこれ以外にも考えられる原因はあるのですが、確率論でいうとこの2つがまず疑われます。

これらの病気は突如として死を運んでくるため、いかに予防するかはとても大事なことがらです。どういったことに気をつけて生活したら良いのかを踏まえつつ、もう少し深掘りしてみます。

 

致死性不整脈について

致死性不整脈とは心室細動を代表とする不整脈のことで、出現すると命に関わります。救命のためには直ちに心肺蘇生が必要で、出来るだけ早く対応することで救命率が高くなることがわかっています。

特に電気的除細動(電気ショック)による不整脈の除去が重要である一方で、医療機関以外で行うことが難しいことがネックとなっていた歴史的背景があります。しかし、2002年に故高円宮憲仁親王がスポーツ中に心室細動で亡くなられたことがきっかけの一つとなり、2004年から非医療者も使用できる自動体外式除細動器(AED)が市中に設置され、広く普及されていきました。AEDは意識を失った人の胸に電極パッドを貼るだけで心電図解析や電気的除細動を行ってくれるので、いざというときの救命に役立ちます。また、AEDの使い方を含めた救命処置に関する講習会(Basic Life Support:BLS)が開催されているのでみなさんも参加してみてください。得られた知識は、みんなのため・社会のために役立つ時が来るはずです。

 

「ブルガダ症候群」という名前を聞いたことがある人もいるかも知れません。ブルガダ型心電図と呼ばれる特殊な心電図波形が見られた一部の人に、突然死の危険性があることがわかっています。この心電図波形を指摘された人の多くは突然死が起こりませんが、次のことに当てはまる人は医療機関で相談するようにしてください。

 

  • 過去に失神の経験がある
  • 過去に心肺停止した経験がある
  • 動悸や胸部不快感を覚えることがある
  • 親戚に突然死した人がいる

 

致死性不整脈が起こる可能性が高いと判断された場合には、突然死予防のために植え込み型除細動器を提案されることになります。

 

高エネルギー外傷について

高エネルギー外傷は意図しない場面で起こります。転落や交通事故などがその代表例で、思いがけないタイミングで訪れた事故が原因となることがほとんどです。仮にリング上の競技スポーツが原因で起こったとしても、外傷を予見することは難しいため、高エネルギー外傷を予防することは非常に難しいです。

高エネルギー外傷によってふらついてしまったり意識を失ったりすることがありますが、受傷の直後には体調に異変を感じないこともあります。実はこのどちらも身体に危険が迫っていることが多いです。そのため、高所からの転落や自動車事故、機械に巻き込まれる事故などを経験した人は、異変の有無にかかわらず医療機関にかかることが望まれます。

また、受傷直後から意識がない人は周りの人のサポートが必要です。サポートの手は多いほうがやれることが増えるので、周囲の人が状況を確認しつつ手助けしてくれる人を呼ぶと良いです。

 

4. ジョーが残してくれた教訓

少々強引ではありましたが、今回はあしたのジョーをもとに突然死について書いてみました。最終場面以降の描写がないので、もちろん推論の域は出ませんが、そこから得られる教訓が何かについて医学的見地から考察しています。

突如として襲ってくる死への対応方法としては次のことを気をつけてください。

 

  • 以下に該当する人は一度心臓の精密検査を受けたほうが良い
    • 突然死した家族がいる人
    • 過去に突然失神したことがある人
    • 過去に心肺停止を経験したことがある人
  • 突然意識を失った人の側にいる人は次のことを行う
    • 声をかけたり身体を揺すったりして、本当に意識がないのかを確認する
    • 声をかけて助けを呼ぶ
    • AEDを持ってきてもらう

 

意識の確認の際には脈拍の有無と呼吸の有無も確認するとなお良いですが、BLSなどの訓練を受けていないと簡単ではないかもしれません。自信がない人はとにかく助けをすばやく呼ぶことを心がけてください。

実際に遭遇したときにパニックにならないように、みなさんには是非このコラムの内容を覚えておいて欲しいです。目の前の人が数秒から数分で意識を失って倒れたときに、すぐ行動に移すことで救われる命が増えることを願っています。

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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