しんぶじょうみゃくけっせんしょう
深部静脈血栓症(DVT)
脚などの深いところにある静脈の中に血の塊(血栓)ができること
1人の医師がチェック 0回の改訂 最終更新: 2020.06.03

深部静脈血栓症(DVT)で知っておきたいこと

深部静脈血栓症(DVT)は、主にふくらはぎや太腿の筋肉よりも深いところを走る血管に血の塊(血栓)ができる病気です。ここではDVTについて知っておくと役立つかもしれないことを解説していきます。

1. 深部静脈血栓症(DVT)は自然治癒するのか

DVTの治療の中心は、抗凝固薬という血液をサラサラにする薬を使用することです。血栓がどのような状態なのか、なぜ血栓ができたか、などの背景によって治療期間は異なりますが、抗凝固薬は3ヶ月程度あるいは無期限に使われることが多いです。

一方で、血栓が膝よりも下の血管にしかない場合には、症状が乏しく、血栓が身体の他の部位に飛んでいくことも比較的少ないことが分かっています。また、そうしたケースでは血栓が自然に溶けていくこともよくあります。したがって、膝より下のDVTで症状が乏しい場合には自然治癒を期待して、薬による治療を行わないこともよくあります。

2. 深部静脈血栓症(DVT)は何科を受診すればよいのか

DVTの診断や治療は循環器内科が中心となって行われることが一般的です。したがって、DVTが心配な人は循環器内科を受診してください。症状が軽くて念のため受診しておく程度でしたら、診療所・クリニックといった小規模な医療機関でまずは対応可能です。循環器内科以外でも、一般内科、救急科、血管外科などでの初期対応ができることもあります。

一方で、本格的な検査や治療、救急対応については緊急でCT検査ができる程度の中〜大規模病院でなければ困難です。「急激に脚が変色し腫れてきた」、「脚がとても痛い」、「胸の痛みや息苦しさもある」、といった症状がある人は緊急で受診する必要がありますので、救急車での受診も検討してください。

深部静脈血栓症(DVT)と紛らわしい病気は?

DVTでは以下のような症状がよく見られます。

【DVTの主な症状】

  • 脚のむくみ
  • 脚の痛み
  • 皮膚が赤黒く変色する
  • こむら返り
  • 脚が重だるい
  • 脚の皮膚の痒み など

こうした症状が見られる病気やケガはDVT以外にも数多くあります。以下に列挙します。

【DVTと紛らわしいことがある病気の例】

  • 蜂窩織炎(ほうかしきえん)
  • リンパ浮腫
  • リンパ管炎
  • 廃用性浮腫
  • 脂肪浮腫
  • 筋断裂、筋内筋間出血
  • 筋膜炎
  • 外傷
  • 関節炎による腫脹
  • 滑液嚢胞の破裂
  • 中枢性静脈圧迫
  • 静脈弁不全 など

このように数多くの病気やケガが挙げられます。とくに蜂窩織炎はよくある病気で、問診や診察だけではDVTと区別がつきにくいこともよくあります。このような他の病気と簡単には区別できないケースでは、血液検査や画像検査を用いて区別していくことになります。

3. 深部静脈血栓症(DVT)は予防できるのか

予防について説明する前に、まず、静脈に血栓ができる要因について説明します。

【血栓ができる三大要因】

  • 血管の内側の壁に傷がある
  • 血液が固まりやすくなっている
  • 血液の流れが滞っている

上記の要因を引き起こして、DVTを発症しやすくなるリスクとして具体的には以下のようなことが分かっています。

【DVTを発症しやすくなる主な状態】

〈静脈の内側の壁に傷がある状態〉

  • 骨折などの大怪我や手術の後
  • 血管の中に治療用のカテーテルが挿入された状態
  • 血管炎膠原病などの血管にダメージが出る病気
  • 喫煙 など

〈血液が固まりやすくなっている状態〉

  • 体内に悪性腫瘍がある場合
  • 妊娠中や出産後
  • 骨折などの大怪我や大火傷、手術の後
  • ピルやステロイドなどの薬を内服中
  • 何らかの感染症炎症がある場合
  • ネフローゼ症候群
  • 血球が異常に増加する血液の病気
  • 先天的に血液が固まりやすい病気(プロテインC欠損症プロテインS欠損症など)
  • 脱水状態 など

〈血液の流れが滞っている状態〉

  • 長時間動いていない、寝たきり、麻痺がある、などの状態
  • 肥満
  • 妊娠中
  • 心臓や肺の病気がある
  • 高齢者 など

こうした背景がある人や、DVTを発症したことが過去にある人は、DVTに気を付けて生活すると良いと考えられます。具体的には下記のようなことを意識するとDVTの予防に有効と考えられます。

【DVT予防のために心がけるとよいこと】

  • デスクワークや乗り物での移動などで数時間にわたって動かない場合には、軽い体操やストレッチ運動を行う
  • こまめに水分を摂取する
  • アルコールを控える
  • 禁煙する
  • ゆったりした服装をして、ベルトをきつく締めすぎない
  • 眠るときは足をあげる
  • かかとの上げ下ろし運動や、ふくらはぎのマッサージをする など

また、お医者さんからDVT予防のストッキング(弾性ストッキング)を使うよう説明されている人は、指示通りに使用するようにしてください。

病院でのDVT予防法としては、弾性ストッキングやフットポンプという脚をマッサージしてくれる機械を用いたりします。予防的に抗凝固薬が使用されることもあります。これらの予防は、手術の後や、出産の前後などで、血栓ができやすいと判断された人に行われる方法です。

4. 深部静脈血栓症(DVT)を妊娠中に発症した場合どうしたらよいのか

妊娠中はDVTを発症しやすいことが分かっています。したがって、DVTを発症したことがある人や、血栓ができやすい背景のある人が妊娠した場合には予防的に抗凝固薬を使用することが検討されます。DVTを発症したことがある、またはDVTが心配な妊婦さんはまずは産婦人科の担当医に相談してみてください。

実際に妊娠中にDVTを発症してしまった場合、基本的な治療方針は妊娠していない人と同様です。ただし、妊娠中に抗凝固薬を使用する場合には飲み薬を避けて、ヘパリンという注射薬の点滴または皮下注射が選択されることが一般的です。飲み薬の抗凝固薬は胎児への悪影響が懸念されているためです。

妊娠中のDVT治療は、軽症であれば産婦人科の担当医が診てくれることもあります。しかし、ある程度以上重症で専門的な治療が必要になってきた場合には、循環器内科をはじめとする他科との連携が不可欠です。そうした場合では、産婦人科の医療機関から、循環器内科も併設されているような総合病院にかかりつけの変更が必要になることがあります。

5. 深部静脈血栓症(DVT)とエコノミークラス症候群は別の病気なのか

DVTは主に脚の静脈に血栓ができる病気です。この血栓が心臓や肺に流れていってしまい、心臓から肺に流れる血管に詰まる病気を「肺血栓塞栓症」、あるいは単に「肺塞栓症」と呼びます。

エコノミークラス症候群は、航空機の利用にともなって生じたDVTや肺塞栓症を指す用語です。長時間にわたり同じ姿勢でいること、脱水状態になりがちなことなどで脚の血流が滞り血栓ができやすくなるため、航空機利用中はDVTや肺塞栓症を起こしやすくなります。必ずしもエコノミークラスに乗らなくても、ビジネスクラスやファーストクラスでも同じ現象が起こりえます。また、休みなしに長時間車に乗っているようなケースでもDVT、肺塞栓症は起こりえます。

6. 深部静脈血栓症(DVT)治療にガイドラインはあるのか

ガイドラインとは、学会などが病気の診断や治療方針に関して、大まかな指針を示したものです。日本中どこの医療機関にかかっても一定水準以上の医療を受けられるように、学会などが今までの研究成果を分かりやすくまとめたガイドラインを作っているわけです。ガイドラインはその分野に精通した専門医が集まって、検討に検討を重ねて作ったものですから、多くのケースでガイドラインにしたがった治療はベストな選択となります。ただし、医療は患者さんの年齢、体力、合併症、価値観、地域や医療機関ごとの医療事情などによってベストな選択が変わってくるものですから、ガイドラインを外れた診療をすることが必ずしも悪いものとは言えません。

DVTについては、日本循環器学会が中心になって作成された「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン」があります。多くの医療関係者がこのガイドラインを参考にしてDVTの診断や治療、予防に携わっています。