しんぶじょうみゃくけっせんしょう
深部静脈血栓症(DVT)
脚などの深いところにある静脈の中に血の塊(血栓)ができること
1人の医師がチェック 0回の改訂 最終更新: 2020.06.03

深部静脈血栓症(DVT)とは?症状、原因、検査、治療、予防など

深部静脈血栓症(DVT)は、主にふくらはぎや太腿の筋肉よりも深いところを走る血管に血の塊(血栓)ができる病気です。ここではその症状や原因、行われる検査や治療、予防法について解説します。

1. 深部静脈血栓症(DVT)とはどんな病気か

人間の血管には、心臓から送り出される血液が流れる「動脈」と、心臓に戻る血液が流れる「静脈」があります。手足の静脈には、皮膚のすぐ下を流れる「表在静脈」と、より深いところを流れる「深部静脈」があります。この深部静脈に血の塊(血栓)ができる病気を「深部静脈血栓症」と呼びます。英語で「Deep Vein Thrombosis」というので、「DVT(ディーブイティー)」と略して呼ばれることも多いです。DVTは腕などにできることもまれにありますが、下半身にできるものがほとんどです。

肺血栓塞栓症(肺塞栓症)との関係は?

DVTと深い関係がある病気に「肺血栓塞栓症」があります。肺血栓塞栓症は肺の血管に血栓が詰まってしまい、時に命に関わることもある重い病気です。下半身にできることが多いDVTがなぜ肺血栓塞栓症と関連するかは、血液の循環について知ると良く理解できます。

血液は心臓から肺に送り出されて酸素を多く含んだ状態となり、その酸素を多く含んだ血液が心臓に戻ってきた後に動脈を通って全身に送り出されます。そして全身に酸素を供給した血液は静脈を通って再び心臓に戻って肺に送り出される、という循環をしています。

全身の血液の循環

したがって深部静脈にできた血栓も、心臓に戻ってきて肺に送り出されることがあります。ところが肺の中を流れる血管は細く、血栓がそのまま流れていくことはできません。そのため血栓は、肺の中あるいは心臓から肺に向かう血管で詰まってしまいます。この状態を「肺血栓塞栓症」、または単に「肺塞栓症」と呼びます。心臓や肺などの重要な臓器の働きに問題が生じて突然死の原因となることもあるため、DVTよりも肺塞栓症は危険な状態です。また多くの場合、DVTは肺塞栓症に至る前段階であると言えます。

エコノミークラス症候群との関係は?

エコノミークラス症候群」は、航空機の利用にともなって生じたDVTや肺塞栓症を指す用語です。飛行機に乗っている間はDVTや肺塞栓症を起こしやすくなります。これは、長時間にわたり同じ姿勢でいること、脱水状態になりがちなことなどで血栓ができやすくなるためです。必ずしもエコノミークラスでなくても、ビジネスクラスやファーストクラスでも同じ現象が起こりえます。また、飛行機に限らず休みなしに長時間車に乗っているようなケースでもDVT、肺塞栓症は起こりやすくなります。

血栓性静脈炎との関係は?

表在静脈に血栓ができて、炎症が起きている状態を「血栓性静脈炎」と呼びます。DVTと似ている面も多い病気で、DVTと血栓性静脈炎を併発することもよくあります。

2. 深部静脈血栓症(DVT)の症状について

脚にDVTができると、以下のような症状が見られます。

【脚のDVTで起こりやすい症状】

  • 脚の痛み
  • 脚の腫れ
  • 皮膚が赤黒く変色する
  • こむら返り
  • 脚が重だるい
  • 脚の皮膚の痒み など

ただし、膝より下にできたDVT(末梢型DVT)では症状が軽いことも多く、全くの無症状であるケースもしばしばあります。こちらのページでさらに詳しく説明しています。

3. 深部静脈血栓症(DVT)の原因、メカニズム、リスク要因について

静脈に血栓ができる要因としては、以下の3つが知られています。

【血栓ができる三大要因】

  • 血管の内側の壁に傷がある
  • 血液が固まりやすくなっている
  • 血液の流れが滞っている

上記のような状態を引き起こしてDVTを発症しやすくなるリスクとして、具体的には以下のようなことが分かっています。

【DVTを発症しやすくなる主な状態】

〈静脈の内側の壁に傷がある状態〉

  • 骨折などの大怪我や手術の後
  • 血管の中に治療用のカテーテルが挿入された状態
  • 血管炎膠原病など血管にダメージが出る病気
  • 喫煙 など

〈血液が固まりやすくなっている状態〉

  • 体内に悪性腫瘍がある場合
  • 妊娠中や出産後
  • 骨折などの大怪我や大火傷、手術の後
  • ピルやステロイドなどの薬を内服中
  • 何らかの感染症で炎症がある場合
  • ネフローゼ症候群
  • 血球が異常に増加する血液の病気
  • 先天的に血液が固まりやすい病気(プロテインC欠損症プロテインS欠損症など)
  • 脱水状態 など

〈血液の流れが滞っている状態〉

  • 長時間動いていない、寝たきり、麻痺がある、などの状態
  • 肥満
  • 妊娠中
  • 心臓や肺の病気
  • 高齢者 など

上記のように多くの要因でDVTを発症しうることが分かっています。また、静脈の流れ方の関係で、DVTは右脚よりも左脚にできやすいことが知られています。両側の脚で同時にDVTを発症することはさほど多くありません。

4. 深部静脈血栓症(DVT)の検査・診断について

まずは問診や診察でDVTらしい症状がないか、DVTを起こしやすい持病やエピソードがないかを確認されます。そこでDVTの可能性が考慮される人には、まず血液検査が行われることが一般的です。

血液検査(Dダイマーなど)

血液検査ではさまざまな項目がチェックされます。その中で重要な項目として「Dダイマー」があります。DダイマーはDVT以外のさまざまな状況で異常値を示すため、「Dダイマーが異常値なのでDVT」とは言えません。しかし、DVTの人では基本的にDダイマーは異常値を示します。つまり、「Dダイマーが正常範囲内なのでDVTではないようだ」と考えることはできます。したがって、基本的にはDダイマーが異常値の人のみ、DVTを見つけるためのより詳しい検査、つまり画像検査へと進んでいきます。ただしDダイマーが正常範囲内でも、「他の状況証拠がいかにもDVTらしい」という人には、DVTの可能性を血液検査だけでは否定しきれず、画像検査が必要となりえます。

なお、血液検査はDVTを起こしやすくなる背景の有無を調べるためにも利用されます。

画像検査(超音波検査や造影CT検査など)

画像検査では実際に血栓があることを画像で確認できます。よく行われる画像検査には静脈超音波(エコー)検査、造影CT検査があります。(超音波検査は画像検査ではなく生理検査という区分になることも多いですが、ここでは便宜上画像検査として説明します。)

超音波検査と比較すると、造影CT検査のほうが精度が高く、肺塞栓症の有無まで同時にチェックできる点で有用です。一方で、造影CT検査にも以下の注意点があります。

【造影CT検査の注意点】

  • 放射線被曝があるので、妊娠中などは特に注意が必要である
  • 撮影前に造影剤の注射が必要であり、アレルギーを起こすことがある
  • 腎臓の機能が悪い場合には、造影剤を使用できない場合がある など

上記の注意点を踏まえたうえで、超音波検査あるいは造影CT検査が選択されます。また、両方の検査が行われることもあります。どちらの検査が行われるかは、医療機関ごとの検査体制やそれぞれの患者さんの状態によるので、一概に優劣は決められません。

5. 深部静脈血栓症(DVT)の治療について

DVT治療の中心は、抗凝固薬という血液をサラサラにする薬を使用することです。DVT治療に用いられる抗凝固薬には以下のようなものがあります。

【DVT治療に使われる抗凝固薬】

状態に合わせて、これらを3ヶ月ほど使用されることが多いです。ただし、膝よりも下にしかDVTがない場合(末梢型DVT)では肺塞栓症に進展する可能性が高くないため、抗凝固薬を使わずに様子をみることもよくあります。一方で膝より上にもDVTがある場合(中枢型DVT)では肺塞栓症に進展する可能性が十分あるため、抗凝固療法を行われることが一般的です。また、中枢型DVTを発症した原因がはっきりしない人や、原因の解消が難しい人では3か月以上の抗凝固治療も検討されます。

6. 深部静脈血栓症(DVT)の予防について

エコノミークラス症候群をはじめとして、DVTは比較的身近な病気です。もともと血栓ができやすくなる病気がある人は特に注意が必要です。ピルを飲んでいる人や妊娠している人、タバコを吸う人などでは、他の病気がない若い人でも突然発症することがあるため、やはり注意が必要です。

DVTを予防するために有効と考えられる対策として、以下のようなものが挙げられます。

【DVT予防のために心がけるとよいこと】

  • デスクワークや乗り物での移動などで数時間にわたって動かない場合には、軽い体操やストレッチ運動を行う
  • こまめに水分を摂取する
  • アルコールを控える
  • 禁煙する
  • ゆったりした服装をして、ベルトをきつく締めすぎない
  • 眠るときは足をあげる
  • かかとの上げ下ろし運動や、ふくらはぎのマッサージをする など

また、お医者さんからDVT予防のストッキング(弾性ストッキング)を使うように説明されている人は、指示通りに使用するようにしてください。

医療機関でのDVT予防法としては、抗凝固薬を予防的に使用したり、フットポンプという脚をマッサージしてくれる機械を用いたりします。これらの予防は、手術の後や、出産の前後などで、血栓ができやすいと判断された人に行われる方法です。

参考文献

肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版)

(2020.5.20閲覧)