いんとうがん(じょういんとうがん、ちゅういんとうがん、かいんとうがん)
咽頭がん(上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん)
咽頭がんは咽頭にできるがん。鼻の奥から口蓋垂に高さにできる上咽頭がん、口蓋垂から舌の付け根までにできる中咽頭がん、食道の入り口付近にできる下咽頭がんに分けられる
1人の医師がチェック 16回の改訂 最終更新: 2024.05.10

咽頭がんってどんな病気?

咽頭(いんとう)と喉頭(こうとう)はいずれも「のど」の一部です。名前も似ていて混乱してしまいますね。それぞれ働きが異なり、できるがんも異なります。咽頭の場所や、咽頭と喉頭の違い、咽頭がんについてみていきましょう。

1. 咽頭のある場所はどこ?

図:咽頭の位置。上咽頭・中咽頭・下咽頭に分けられる。

咽頭はいわゆる「のど」の一部です。のどの奥は食事の通り道である食道と、空気の通り道である喉頭(こうとう)につながっています。咽頭は、鼻の奥から食道までの食べ物と空気の両方が通る部分です。

咽頭と呼ばれる範囲は下記の構造物で囲まれた範囲です。

  • 上方:頭蓋底(ずがいてい)=頭蓋骨の底面
  • 下方:食道
  • 前方:鼻、口、喉頭
  • 後方:背骨の前にある筋肉

咽頭は更に上咽頭(じょういんとう)、中咽頭(ちゅういんとう)、下咽頭(かいんとう)の3つに分けられます。それぞれの部位にできるがんを、上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がんと呼びます。できる部位で、がんの広がり方や、治療方法は異なります。

2. 咽頭は3つに分けることができる

咽頭は「のど」の一部です。上は頭蓋底から、下は食道に繋がる部分という広い範囲にあたります。高さで上咽頭、中咽頭、下咽頭の3つに分けられます。

上咽頭

上咽頭は鼻の一番うしろ奥にあります。鼻に連続して、下方は軟口蓋(なんこうがい)の高さまでです。軟口蓋は鼻の奥と口を隔てている柔らかい組織です。上咽頭の上方は頭蓋底になります。上咽頭を口から直接見ることはできません。

上咽頭の境界を正確に言うと次のようになります。

  • 後上壁:頭蓋底から、硬口蓋と軟口蓋の境目の高さまでの部分。咽頭扁桃が増殖したアデノイドはこの部分にできます。
  • 側壁:上咽頭の両脇にあたる部分。中耳につながる耳管の咽頭側の穴や、ローゼンミューラー窩を含む部分。
  • 下壁:軟口蓋上面(軟口蓋の鼻側の粘膜)

解剖学用語がたくさん出てきますが、おおまかには上咽頭は「鼻の奥」という理解で足りるでしょう。上咽頭は周囲が脳や耳に近いため、がんができると様々な症状が出ます。

中咽頭

中咽頭は口を開けたときに見える部分です。硬口蓋(こうこうがい)と軟口蓋の境目から、舌骨(ぜっこつ)の上、喉頭蓋(こうとうがい)の付け根までです。

  • 側壁:口蓋扁桃の周囲
  • 前壁:舌の付け根や、喉頭蓋の付け根
  • 上壁:軟口蓋から口蓋垂(のどちんこ)
  • 後壁:口から見える1番後ろの壁

中咽頭がんは側壁に最も多く、全体の半分以上を占めます。側壁にできるがんとしては、ヒトパピローマウイルスが関連するがんが多くできます。

下咽頭

下咽頭は喉頭蓋の付け根の高さから、輪状軟骨(りんじょうなんこつ)の下縁までです。のど仏の内側の空間です。

喉頭と下咽頭の境目に境は被裂喉頭蓋ひだ(ひれつこうとうがいひだ)があります。口から見ることはできません。

  • 梨状陥凹:下咽頭の側壁の部分で、食道の入り口の部分
  • 輪状後部:下咽頭の前壁の部分で、喉頭に接する部分
  • 咽頭後壁:下咽頭の後壁の部分

下咽頭がんの中では、梨状陥凹(りじょうかんおう)がんが最も多く80%程度を占め、輪状後部がん、咽頭後壁がんは10%ずつです。

下咽頭がんは女性より男性に10倍多く発生します。しかし、輪状後部がんは女性が多い傾向にあります。女性に多い鉄欠乏性貧血が輪状後部がんに関連しているとされます。輪状後部がんは進行がんが多く、見通しが悪いがんです。とはいえ、女性のがん全体の中で見ると、輪状後部がんは比較的まれなものです。

3. 咽頭と喉頭の違い

図でわかる咽頭と喉頭の違い

図:咽頭と喉頭の位置関係。

咽頭と喉頭はいわゆる「のど」です。咽頭は鼻の奥から食道の入り口までの広い範囲にあたります。喉頭と下咽頭はのどぼとけの高さにあります。喉頭の背中側に下咽頭があります。中咽頭から下咽頭は食事の通り道で、喉頭は空気の通り道です。

咽頭と喉頭の違い:働き

咽頭の働きは、発音、咀嚼(そしゃく)、嚥下(えんげ)などがあります。咀嚼は噛むこと、嚥下は飲み込むことです。喉頭の働きは、発声、誤嚥(ごえん)防止、気道などの役割があります。誤嚥とは食べ物が気管に入っていくことで、喉頭によって誤嚥が防がれています。気道とは喉頭が空気の通り道にあたるということです。

咽頭の働きのうち、発音、咀嚼、嚥下は主に中咽頭と下咽頭の働きです。

上咽頭は中咽頭・下咽頭と異なり、呼吸の経路(気道)として働いたり、中耳の圧の調整を行なっています。

中咽頭は発音や咀嚼、嚥下に関わっています。中咽頭がんになったり、治療を行なったりすると、正しく発音できなくなったり、うまく飲み込めなくなったりします。

下咽頭は嚥下に関わっています。下咽頭がんができると、うまく飲み込めなくなります。下咽頭は喉頭のすぐ横にあるため、下咽頭がんが大きくなって、周囲に広がると喉頭の働きにも影響が出るようになります。発声がうまく行かず、声がかすれたり(嗄声)、誤嚥しやすくなったり、気道が狭くなって息苦しくなることがあります。

咽頭と喉頭の違い:がんの原因

咽頭がんは飲酒や喫煙が原因になることが知られていますが、部位によって他の原因もあります。一方、喉頭がんの原因は、喫煙が主で、その他に飲酒やアスベストが知られています。

咽頭がんではウイルス感染が原因となることも知られています。上咽頭がんはEBウイルス、中咽頭がんはヒトパピローマウイルスとの関連が知られています。

ヒトパピローマウイルスと関連した中咽頭がんは、生存率が良好です。中咽頭がんでは、ヒトパピローマウイルスの感染の有無で治療方針も異なります。

下咽頭がんでは飲酒と喫煙が原因となります。例外として、輪状後部という部位にできるがんは、鉄欠乏性貧血が原因のひとつとなり、女性に多いです。

なお、咽頭がんでも喉頭がんでも原因はひとつだけではありません。がんが見つかってから原因を調べてもはっきりしない場合はよくあります。飲酒・喫煙・ウイルス感染などがまったくない人でも咽頭がんや喉頭がんができることはあります。

咽頭と喉頭の違い:がん患者の罹患数と死亡数

がんの統計2023年版によると咽頭がん及び喉頭がんの罹患者数と死亡者数は次のようになっています。(統計の分類によって咽頭がんではなくて口腔・咽頭がんとなっていることにご注意ください。)

【咽頭がん・喉頭がんの罹患数と死亡数】

  罹患数 死亡数
口腔・咽頭がん 23,200人 8,000人
喉頭がん 5,300人 800人

*がんの統計2023を参照し作成

表にある通り、年間で決して少なくない人が咽頭がんや喉頭がんを罹患しており、残念ながら亡くなっていることがわかります。次に罹患してしまった人の生存率はどうなのかもう少し紐解いて行きます。

咽頭と喉頭の違い:がんの生存率

咽頭がん、喉頭がんの5年実測生存率の一覧を表に提示します。早期がんから進行がん(I期からIV期)までを合わせた生存率になります。

【咽頭がん・喉頭がんの5年実測生存率】

がんの部位 5年生存率(%)
咽頭がん 上咽頭がん 62.4
中咽頭がん 49.0
下咽頭がん 41.2
喉頭がん 68.6

表の通り、喉頭がんより咽頭がんのほうが、生存率が低いです。咽頭がんは喉頭がんより自覚症状に乏しく、進行してから発見されることや、咽頭周囲のリンパ流が多いため、早期から頸部リンパ節転移することなどが、原因と考えられます。

下記に咽頭がんの部位ごと、ステージごとの5年実測生存率を提示します。咽頭がんの中でも下咽頭がんは進行するまで自覚症状が出にくいため、最も生存率が低くなります。

【上咽頭がん・中咽頭がん・下咽頭がんのステージごとの5年実測生存率(%)】

病期

上咽頭がんの
5年生存率(%)

中咽頭がんの
5年生存率(%)

下咽頭がんの
5年生存率(%)

I 89.3 57.9 61.3
II 83.7 70.9 59.3
III 64.5 58.9 50.0
IV 46.8 42.7 33.1
全病期 62.4 49.0 41.2

ただし、生存率はあくまで統計上の数値です。ひとりひとりの経過には大きな個人差があります。下咽頭がんが見つかっても、4割ほどの人が実際に5年以上生存しているとも言えます。数字はあくまで目安と考えて、自分のいまの状況でできることは何かを主治医とよく話し合うことが大切です。

参考文献
全国がん(成人病)センター協議会の生存率共同調査(2019年11月集計)

4. 咽頭がんはどこにできやすい?

咽頭がんでは、下咽頭がんが最多で、次に中咽頭がん、上咽頭がんの順番です。下咽頭の中でも、梨状陥凹という横の部分に最も多くできます。中咽頭では口蓋扁桃(こうがいへんとう)の周りにできる中咽頭側壁がんが最多で、中咽頭がんの半分以上です。

5. 咽頭がんで起こりやすい症状

咽頭がんの症状はがんのできた場所で異なります。

上咽頭がんは周囲に鼻や耳、脳が近く、それらに影響することで症状が出ます。中咽頭がんや下咽頭がんでは痛みや違和感などが出ますが、上咽頭がんは痛みの症状がないか軽度であることが多いです。

中咽頭は噛む機能や飲み込みの機能を担当している部分なので、中咽頭がんになるとその機能に障害が出ます。下咽頭がんは飲み込みの機能や、隣接する喉頭の声を出す機能に障害が出ることがあります。

いずれの咽頭がんも、頸部のリンパ節には転移しやすいので、頸部の腫れが見つかることがあります。

【上咽頭がんに起こりやすい症状】

  • 耳の症状:耳のつまったような感じ、耳鳴り、難聴
  • 鼻の症状:鼻づまり、鼻血、血混じりの鼻水
  • 脳神経症状:顔のしびれ、ものが2重に見える、など

【中咽頭がんに起こりやすい症状】

  • のどの違和感、痛み
  • 飲み込み時の違和感

〔特に進行した中咽頭がんに起こりやすい症状〕

  • のどからの出血
  • 口が開けにくくなる
  • 飲み込み時のムセ込み
  • 呼吸が苦しくなる

【下咽頭がんに起こりやすい症状】

  • のどの違和感、痛み
  • 飲み込み時の違和感
  • 耳の痛み
  • 嗄声(声がれ)

くわしくは「のどの違和感は咽頭がん?咽頭がんの症状や、咽頭がんになりやすい人は?」をご参照ください。

6. 咽頭がんに対して行う検査

咽頭がんが疑われた時に行う検査には、咽頭がんの確定診断をする検査と、がんの広がりを調べる画像検査があります。がんの治療を決める時には、がんの広がりを調べて、進行度をきちんと評価することが重要だからです。

最初に行なう検査はファイバースコープ検査です。ファイバースコープは胃カメラのような柔らかいカメラです。上咽頭がん・下咽頭がんは口から見えないため、ファイバースコープを使ってがんを疑う腫瘤(しゅりゅう)を観察します。

咽頭がんの診断を確定するために行う検査は病理検査です。がんを疑う腫瘍(しゅよう)から、細胞や組織の一部を採取して、顕微鏡でよく調べます。病理検査には、細胞をみる細胞診と、大きなかたまりを採取して評価する組織診があります。

中咽頭がんでは組織診で、がんの中にヒトパピローマウイルスが感染しているかどうかを調べ、治療方法を選択するための参考にします。

がんの広がりを調べる画像検査は、造影CT検査、造影MRI検査、超音波検査エコー検査)、PET-CT検査などを行います。

中咽頭がんや下咽頭がんでは、食道がん胃がんも同時に存在することが多いため、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ検査)も行います。

詳しい検査方法や、検査をする意味などは「咽頭がんを疑われたときに行う検査、診断の付け方」に記載してありますので、ご参照ください。

7. 咽頭がんに対して行う治療

咽頭がんに行う主な治療は、手術治療もしくは放射線治療です。

がんのできた部位と種類、進行度によって、手術治療、放射線治療、抗がん剤を併用した化学放射線治療のいずれかを行います。咽頭がんでは、抗がん剤のみで根治することは難しいため、根治目的に抗がん剤のみの治療を行うことはありません。治療を選択するにあたっては機能の温存が重要です。中咽頭がんや下咽頭がんでは、治療によって咀嚼(噛む)機能や嚥下(飲み込む)機能が、悪化することがあります。がんを治すことともに、機能の温存を考慮して治療を選択します。

咽頭がんの多くが扁平上皮(へんぺいじょうひ)という細胞からできた扁平上皮です。扁平上皮以外からできた咽頭がんの場合は治療法も違うのですが、以下では扁平上皮癌の咽頭がんの治療方法を簡単に説明します。

上咽頭がんでは、放射線治療もしくは、化学療法を併用した化学放射線治療を行います。上咽頭は場所的に手術が困難であり、手術治療は行いません。中咽頭がんや下咽頭がんでは放射線治療、化学放射線治療もしくは、手術治療を行います。ヒトパピローマウイルスが感染した中咽頭がんでは、化学放射線治療で治る率が、感染していないがんに比べて高くなります。

詳しい治療については「咽頭がんの治療について:手術、放射線治療など」に記載してあります。

8. 咽頭がんの治療後の注意点

咽頭がんの治療後に最も重要なことは、治療中にやめた喫煙や飲酒を再開しないことです。その他には、外来への定期通院、定期的な画像検査、症状変化時の外来受診などが大切です。治療後には声が出ないことや、食事が上手く飲めないなどの不安もあります。不安に思ったことは、なんでも担当医に聞けるようにしておくと、治療後の経過観察への不安も少なくなると思います。

喫煙や飲酒は咽頭がんの主な原因であり、治療中に喫煙を続けている場合は、治療の合併症が多くなったり、再発リスクが高まります。咽頭がんが再発しなくとも、食道がんになることもありますし、肺がんになることもあります。辛い治療を乗り越えたのですから、ぜひ治療後も、禁煙、節酒を続けられるといいですね。

定期的に外来に通院することは、再発や転移を早期に発見できるメリットがあります。再発や転移は2年以内に起こることが多いので、この間は1-1.5ヶ月ごとに通うことになります。定期的に画像検査も行います。

症状の変化や悪化についてですが、痛みや飲み込みの悪化など、今までない症状が出た場合や、悪化した場合には、担当医に知らせてください。放射線治療後に喉頭がむくんで気道が狭くなることがあります。再発時の最初の症状として、痛みが出ることがありますので、新しく違和感や痛みがでた場合には担当医に相談してみましょう。

その他、喉頭を摘出した場合の注意点などは「咽頭がんに関する日常的な注意点」をご参照ください。