いんとうがん(じょういんとうがん、ちゅういんとうがん、かいんとうがん)
咽頭がん(上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん)
咽頭がんは咽頭にできるがん。鼻の奥から口蓋垂に高さにできる上咽頭がん、口蓋垂から舌の付け根までにできる中咽頭がん、食道の入り口付近にできる下咽頭がんに分けられる
1人の医師がチェック 16回の改訂 最終更新: 2024.05.10

咽頭がんに関する日常的な注意点

咽頭がんの術後で声が出ないことや、食事が上手く飲めないことなど、不安がたくさんあると思います。咽頭がんにならないための生活や、再発しないための生活などとあわせて、日常生活の注意点についてみていきましょう。

1. どんな生活をすれば予防できる?

生活の中で咽頭がんと関連が明らかなものは、飲酒と喫煙です。中咽頭がんはヒトパピローマウイルス感染、上咽頭がんはEBウイルスにも関連することが明らかになっています。

咽頭がんと飲酒または喫煙の関係の強さを調べた研究で、咽頭がんの原因のうち飲酒で5.6%、喫煙で24.3%、飲酒と喫煙の併用で41.6%が説明できると報告されています。この研究は合計すると咽頭がんの72%が、喫煙または飲酒が原因と推定しています。飲酒と喫煙に関しては生活の改善により、咽頭がんを予防できる可能性があります。

子宮頸癌の原因としても知られているヒトパピローマウイルスは中咽頭がんの原因になることもあります。アメリカで女性より男性は口腔内にヒトパピローマウイルス16型を保持している人が6倍多いという報告もあります。アメリカでは男性も予防接種を推奨されており、予防接種によって中咽頭がんを防ぐことができる可能性があります。

EBウイルスの持続感染の仕組みはいまだわからないこともあり、予防方法は現時点では解明されていません。

参考文献:Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2009 Feb;18(2):541-50. Ann Intern Med. 2017 Oct 17.

関連記事:子宮頸がんワクチンは男性も打って!アメリカがん協会が勧告

2. 手術後に気をつけるべき生活は?

咽頭がんの手術後に気をつけるべき生活で最も重要なことは、禁煙や節酒を継続することです。喫煙や飲酒を再開すると、再発リスクが高くなることや、他のがんが新たにできる可能性があります。苦労して治療をしたので、ぜひ治療後も継続して禁煙、節酒ができると良いですね。

手術後の生活において、最も問題になる機能障害は嚥下機能の低下です。リハビリを行って、食事が食べられるようになった場合でも、ゆっくり食べたり、咳払いをまめにしたりと、リハビリで習ったことを守って食事を摂るように心がけると、肺炎などの合併を防ぐことができます。誤嚥により嚥下性肺炎誤嚥性肺炎)を起こした場合は、咳や痰が多くなったり、発熱をすることがあります。その場合は、次の外来予約まで待たずに、通院中の医療機関に受診してみましょう。

喉頭(こうとう)を摘出して永久気管孔になった場合には、別途注意点がありますので、「手術後に永久気管孔になった時の注意点は?」を見てみてください。

3. 手術後に声がでなくなったらどうしたら良い?

図:咽頭と喉頭の位置関係。

下咽頭喉頭頸部食道切除術や、舌喉頭全摘術を行うと、がんのある咽頭とともに、声を出す働きを持つ喉頭も摘出を行います。喉頭を摘出した場合は、声が出せなくなります。喉頭を摘出した場合は身体障害者3級の取得が可能です。電子喉頭などの補助がでる自治体もあります。認定には申請後2ヶ月程度かかりますので、術後は早めに申請しましょう。

身体障害者手帳の申請

手術で喉頭を摘出した場合は、身体障害者3級に認定されます。音声又は言語機能の障害の3級です。自治体によって異なりますが、電子喉頭、FAX、ガス警報器などの購入の補助、交通機関の運賃割引、税金の補助などが受けられます。

申請後、手帳の交付まで2ヶ月程度かかるため、手術後は速やかに書類を取り寄せて、病院に提出してください。書類の取り寄せは、住居地の自治体に問い合わせてください。

声を失った後のコミュニケーション方法の獲得

咽頭がんの手術で咽頭とともに喉頭を摘出した場合は、声を出せなくなります。声を失う精神的な負担も大きく、どのようにコミュニケーションをとるか心配になりますね。声を失った後でも、コミュニケーションをとる方法があります。代替発声方法を獲得するまでは、筆談を併用する場合もありますが、発声方法に慣れたら通常のスピードで会話が可能です。

筆談でのコミュニケーションを行う場合は、繰り返し書くことができる筆談用ボードなどもあります。

代替発声方法は下記のものがあります。

  1. 食道発声
  2. 電子喉頭
  3. シャント発声

それぞれみていきましょう。

食道発声

食道や胃に空気を吸い込むか飲み込むかして、その空気を吐き出すときに、のどまたは食道粘膜を震わせて音を出す方法です。自然な声になりますが、習得に時間がかかります。自己習得が難しく、全国の発声教室で練習が可能です。

<利点>

  • 比較的自然な声
  • 追加の手術や、器具の準備が不要
  • 器具がいらないので、いつでも発声が可能

<欠点>

  • 習得に時間がかかる
  • 音量が小さい
  • 声が途切れがちになる(息継ぎが多くなる)
  • 高齢者では発声がしにくくなることがある
  • 雑音が入る

電子喉頭

小型のマイクのような機械を首の皮膚に密着させて、電気的に振動させながら口を動かすことで、声をだす方法です。常に道具を持ち歩かなければならないのですが、短期的に習得が可能で、社会復帰に有利です。

身体障害者に認定されると電子喉頭の購入に補助金がでます。

<利点>

  • 習得が比較的容易
  • 大きな音量を出すことができる
  • 続けて長く話すことができる
  • 高齢者でも発声方法の獲得が可能

<欠点>

  • 器具を常に持ち歩く必要がある
  • 平坦で機械音の音声になる
  • 片手が塞がる

シャント発声

食道と気管をつなぐ穴(シャント)をあけて、肺からの空気を食道に導いて発声します。シャントから漏れた食物が気管に入る(誤嚥)危険性があります。誤嚥防止機能を食道の筋肉を用いて手術的に作成する方法と、ボイスプロテーゼを用いる方法があります。

ボイスプロテーゼを用いた発声方法が簡便で習得しやすいため、以下に説明します。

ボイスプロテーゼと呼ばれる小さなシリコーン製の器具をシャントに装着して声を出す方法です。発声時には、指で気管孔を閉じながら息を吐き出すことで、発声が可能です。肺からでた空気が粘膜を振動させて発声します。

指でおさえずに発声できる器具もあり、手を使わずに会話が可能となります。

シャントの穴は咽喉食摘術と同時、もしくは、後日改めて手術で作成します。シャントを毎日掃除することと、発声に必要な器具の入手が必要です。自治体によっては器具の購入に補助金がでる場合もありますので、問い合わせてみましょう。

<利点>

  • 習得が比較的容易
  • ある程度の音量を出すことができる
  • 続けて長く話すことができる

<欠点>

  • 初回は全身麻酔での手術が必要
  • 器具の入手と、装用が必要で費用がかかる
  • シャントの掃除、定期的なシャントの交換が必要
  • 通常片手が塞がる
  • 食道から気管への唾液の漏れが起こることがある

4. 手術後に永久気管孔になった時の注意点は?

咽頭がんで、下咽頭喉頭頸部食道切除術や、舌喉頭全摘術を行うと、がんのある咽頭とともに、声を出す働きを持つ喉頭も摘出を行います。喉頭を摘出した後には、左右の鎖骨の間に永久気管孔を作ります。永久気管孔は鼻や口にかわる新しい呼吸の経路です。空気は永久気管孔から出入りし、口や鼻には空気が通らなくなります。鼻をかんだり、においをかぐことができません。永久気管孔から水が入ると、肺に水が入って溺れてしまうため、首まで湯船につかることができません。

永久気管孔になった場合にできないことは下記のことになります。

  • 声を出すこと
  • においをかぐこと
  • 鼻をすすること
  • 鼻をかむこと
  • 麺類をすすること
  • 肩まで入浴すること
  • 排便時に息むこと

さらに、永久気管孔がある日常生活では下記のことに注意が要るようになります。詳細については、担当医や看護師にもきいてみてください。喉頭摘出後の患者団体もありますので、情報交換などをおこなうこともできます。

気管孔の保護方法

喉頭がある人が呼吸をするとき、鼻や口をとおった空気は、鼻毛で小さなごみが取り除かれ、加湿加温されて気管に到達します。気管孔からの呼吸では、冷たい乾燥した、ホコリ混じりの空気が直接気管に入ります。なるべく状態のいい空気を吸い込むために、気管孔は小さなガーゼや専用のエプロンで保護します。専用のエプロンが販売されていますが、スカーフやハンカチを用いても構いません。自分に合ったものを使用しましょう。

気管孔の保護が不十分な場合は、痰の量も増加しがちなので、十分に保護しましょう。

ほかにも気管孔が狭くなることがあります。定期的に通院する中で、担当医から指摘されることもあるかもしれません。状況によっては気管孔を拡げる手術をしたり、気管孔にチューブを留置することがあります。

痰の管理

痰が気管孔の周りに付着しますので、やさしく拭き取りましょう。

手術後1年程度は、気管孔呼吸になれていないため、頻繁に咳き込みます。痰の量や、痰の排出回数は術後は多いですが、徐々におさまってきます。術後の放射線治療をした場合は、痰が増える傾向にあります。また気管孔からホコリが入ることで、炎症を起こしやすく、痰が増えることがあります。

手術前は気管から上がってきた痰は自然に飲み込んで気になっていなかったところが、手術後は気管孔から痰も排出されるため、痰が多くなったように感じることもあります。

冬で乾燥すると痰が硬くなり、気管孔につまる場合がありますので、加湿器や濡れタオルを部屋に置くことで湿度を調整しましょう。乾燥がひどくなって、咳などで硬い痰を出すと、出血し血痰がでることがあります。そのような場合は担当医に相談しましょう。ネブライザーを用いて霧状の水分を吸入すると気管孔の乾燥や傷にも有効です。

入浴時の注意点

気管孔は直接気管や肺と繋がっているため、気管孔から水が入らないようにしましょう。入浴の時は首にタオルを巻いたり、専用のエプロンを用いて入り、気管孔に向かってシャワーをかけないようにします。湯船は脇下までつかって、冬の寒い時期は熱いお湯で絞ったタオルを肩にかけると良いでしょう。

湯船につかる時に注意すれば、旅行で温泉などに行くのも構いません。

もし気管孔に水が入った場合には、あわてずに咳をして水をだします。

通常は、手術後の入院中に入浴の練習をします。わからないことなどがあったら、担当医や看護師にきいてみましょう。

排便で困ること

気管孔があると、息を止めて息むことができなくなります。便秘になりやすくなりますので、食物繊維や水をとることを心がけましょう。便秘に対して薬を使うこともあります。

食事の注意点

食事はよく噛んで食べましょう。喉頭全摘術後の場合は、縫合した部分が細くなり、大きな食べ物が詰まることがあります。

口から空気を吸うことが難しくなるため、麺類をすすれなくなったり、ストローを吸うことが難しくなります。熱いものをフーフーと口で吹いて冷ますことも難しいため、やけどをしないようにしましょう。鼻に空気が通らなくなるために、においがしなくなります。ただしからしやわさびはむしろ数倍きくようになったという人もいますので、注意して食べましょう。ガス漏れなどに気づきにくいので、ガス漏れ探知機は必ず設置しましょう。

ただし食道発声を習得できると、鼻に空気が吸い込めますので、においが戻ることがあります。

食事をした後にすぐ横になると、逆流しやすいこともあります。術後しばらくして、食道の機能が戻ると症状は減少することが多いとされます。

咽喉食摘術後には小腸を移植しますが、小腸は蠕動(ぜんどう)といって動くので、食道が一瞬詰まって飲食物が飲み込めなくなることがあります。1回の症状は数分で収まることが多いです。術後の経過で回数が減ることもありますが、持続する場合もあります。

旅行や外出時

外出先で体調が悪くなった時のために、常にメモを持っていると安心です。メモには「私は手術をして声がでません。首の前の穴で呼吸をしています」と記載しておくといいでしょう。その他に、名前・連絡先・かかりつけ医療機関名と連絡先・服用中の薬の名前・血液型などを記載したメモをもっていると役に立つこともあります。

5. 手術後に飲み込みが悪くなったらどうしたら良い?

手術後に飲み込みが悪化した場合は、通院中の医療機関に受診しましょう。下咽頭がんの経口的切除では、食道が癒着して食事の通り道が狭くなることがあります。病状によっては食道を広げる処置が必要になることもあります。

再建手術をした場合には、食事の通り道が狭くなることはあまりありませんが、内側に炎症を起こしている場合などもありますので、一度診察を受けると安心です。

中咽頭がんや下咽頭がんの手術後では、嚥下機能(飲み込みの機能)や咀嚼機能(噛む機能)が低下することがあります。通常、手術後十分なリハビリを行って、自宅でも食事が十分に取れる段階での退院になります。自宅退院後に、十分な食事量を口から摂れなくなることもあるかもしれません。その場合は通院中の医療機関で食事形態の工夫の方法や、栄養補助剤について聞いてみてもいいかもしれません。十分な食事が摂れない場合は、胃瘻(いろう)などの併用を考慮します。

6. 咽頭がんは完治するのか?

咽頭がんは早期に発見できれば、完治するがんです。初回治療後に再発した場合でも、再発に早く気がつけば、治療を行うことができます。

治療後5年間に再発がなければ、咽頭がんの場合は完治とみなします。以下に咽頭がんの病期ステージ)別の5年生存率を提示しました。5年間生存している人が下記の割合でいます。個々の状況はわからないため、がんが再発しているけれど元気という場合も含まれているかもしれません。しかし、咽頭がんは完治が可能ながん、と言えるのではないでしょうか。

病期を決める分類としてTNM分類があり、下記の表では古い版を使用しています。中咽頭がんは第8版からヒトパピローマウイルスの有無で病期が変更になりましたが、下記の表では反映されていません。

生存率はあくまで統計上の数値です。ひとりひとりの経過には大きな個人差があります。下咽頭がんがステージ4で見つかっても、3割ほどの人が実際に5年以上生存しているとも言えます。数字はあくまで目安と考えて、自分のいまの状況でできることは何かを主治医とよく話し合うことが大切です。

表 上咽頭がんの病期別の5年実測生存率(2006-2010年集計)

病期 5年実測生存率(%)
I 89.3
II 83.7
III 64.5
IV 46.8

表 中咽頭がんの病期別の5年実測生存率(2006-2010年集計)

病期 5年実測生存率(%)
I 57.9
II 70.9
III 58.9
IV 42.7

表 下咽頭がんの病期別の5年実測生存率(2006-2010年集計)

病期 5年実測生存率(%)
I 61.3
II 59.3
III 50.0
IV 33.1

参考文献
全国がん(成人病)センター協議会の生存率共同調査 KapWeb(2019年11月集計)

再発するとはどんなことなのか?

治療後に再び病気が現れることを再発といいます。がんがもともとあった場所の近く(局所再発)や遠く離れた場所(遠隔再発)に再発します。再発がみつかった場合でも、早くみつかれば治療が可能なこともあります。治療後2年以内に再発が多いので、早期に発見するためにもきちんと通院することが大切です。また、喫煙を再開した場合には、再発率が高くなるという報告があるので、治療後も禁煙を続けてください。

再発した場合には、再発した状況によって行う治療が異なります。例えば、放射線治療を行っていて局所再発をした場合、放射線治療を重ねて行うのを避けるために、手術治療や定位放射線治療(ガンマナイフやサイバーナイフ)、粒子線治療(陽子線など)を検討します。また、遠隔再発(離れた場所に再発)した場合は、全身にがん細胞が散らばっている可能性を考えなければなりません。このような場合、主に化学療法抗がん剤治療)で治療します。

再発や転移をした状況はそれぞれの人で異なります。いくつもの臓器に遠隔転移がある人と、リンパ節にだけ再発した人では状況が大きく異なります。自分の状況をしっかりと把握して、目の前の選択肢の中で自分や家族などにとって一番よいと思った治療を選んでいくことが大事です。

参考文献
Marur S, Forastiere AA. Head and neck cancer: changing epidemiology, diagnosis, and treatment. Mayo Clin Proc. 2008 Apr;83(4):489-501.

どのくらい経過観察のために通院するものなのか?

咽頭がんの再発の多くは、初回治療後2年以内に見つかります。頭頸部の進行がんでの局所再発や頸部リンパ節再発の60-70%は治療後1年以内に、約90-100%は2年以内に起こるという報告があります。そのため、治療後2年間は月に1回程度の診察がすすめられます。5年再発がなければ、通院終了となることが多いですが、個々の病状に応じてかわります。

がんが再発した場合でも、早期に発見できれば、がんを制御することも可能です。早期に発見をするために、定期的な外来での経過観察が必要です。

アメリカのNational Comprehensive Cancer Network(NCCN)のガイドライン2016年版に外来での経過観察の目安があります。最初の1年は1-3ヶ月毎の喉頭ファイバーなどを用いた定期観察、2年目は2-6ヶ月毎、3-5年は4-8ヶ月毎、5年経過以降は1年毎と経過観察の間隔は長くなります。画像検査は再発が疑わしい場合などに追加して行うとされています。

実際には画像検査は3-6ヶ月毎に行われます。頸部造影CTや頸部造影MRI頸部エコーなどを組み合わせて経過観察を行います。1年に1回程度PET-CT検査を行って全身を検査し、再発や転移がないかも観察します。遠い臓器での再発(遠隔転移)は肺転移が最も多く、経過観察の目的で頸部CTを撮るときには、一緒に肺のCTも撮影して、肺転移の有無を確認することもあります。

中咽頭がんや下咽頭がんになった人で、飲酒歴や喫煙歴があれば、食道がん胃がんのリスクにもなります。通院している際には、定期的に上部消化管内視鏡検査を行うこともあります。

参考文献
Vokes EE, et al. Induction chemotherapy followed by concomitant chemoradiotherapy for advanced head and neck cancer: impact on the natural history of the diseaseJ Clin Oncol. 1995 Apr;13(4):876-83