憩室炎とはどんな病気なのか
繰り返すお腹の痛みの原因の一つに憩室炎があります。憩室とは腸の壁の一部が外側へ袋状に飛び出してしまったものです。この憩室に
目次
1. 繰り返すお腹の痛みの原因となる憩室炎とは?
憩室に炎症が起きた状態を憩室炎(けいしつえん、英語:Diverticulitis)といいます。憩室とは、
憩室があるだけではほとんどの人に
まずは憩室炎に関する基本的な知識について以下で説明します。
憩室とは何か
憩室とは、腸の壁の一部が外側へ袋状に小さく飛び出してしまったものです。憩室は、生まれつきできている
後天性に憩室ができるメカニズムは、およそ次のように考えられています。
便秘や下痢が起こるような、腸の動きが上手く調整できていない状態では、腸の中の圧が必要以上に高まります。腸の内圧が高い状態が長く続くと、腸の壁の弱い部分が負荷に耐えられなくなり、腸に裂け目ができます。この結果、腸壁の内側の層だけが風船のように膨らんで飛び出し、後天的な憩室ができると考えられています。先天性の憩室のほとんどは単発のものですが、後天的にできた憩室は1個だけではなく多数できていることが多いです。
近年は日本人に後天的な憩室が増えてきているといわれています。とくに腸の動きが乱れる大きな要因となる便秘は食生活の欧米化に関わっていて、それが憩室炎の発症にもつながると考えられています。生活習慣を見直して便秘解消に努めることは、憩室や憩室炎の発症の予防につながります。
憩室炎は大腸のどこに起こりやすいか
憩室に炎症が起きた状態を憩室炎といいます。憩室の中で
日本においては60歳未満であれば右側結腸に憩室炎を起こす人が70%と多く、60歳以上の高齢の人は左側結腸に憩室炎を起こす人が60%と報告されています。それぞれについて詳しく説明します。
右側結腸とは、大腸の始まり(小腸とのつなぎ目)に近い部分を指していて、上行結腸、盲腸、虫垂があります。右側結腸に憩室炎が起こった人は、右脇腹から右下腹部の辺りに強い痛みを感じることが多いです。ときに虫垂炎(いわゆる盲腸)とほぼ同じような場所に痛みが現れることがあります。
左側結腸とは、大腸の終わり(肛門)に近い部分です。ここには下行結腸やS状結腸があります。左側結腸の憩室炎では、左脇腹や下腹部に強い痛みを感じることが多いです。
高齢の人に多い左側結腸の憩室炎は、右側結腸に比べて重症になりやすいといわれています。重症になりやすい理由には、左側結腸の憩室炎の起こり始めは症状が分かりにくいことや便秘や胃腸炎など他の病気との区別がつきにくいことがあげられます。高齢の人でお腹の痛みが現れたときは、できるだけ早めに医療機関を受診するようにしてください。
憩室炎になる人はどのくらいいるのか?
日本で全国的に憩室炎の発症率を調査した報告はないため、正確な数字は分かっていません。憩室がある人のうちのおよそ1-2割程度に憩室炎が起こると考えられています。
憩室症の人数を調べた2001-2010年の統計では、日本人の23.9%に大腸憩室があると報告されています。1990年代と比較して2000年代は約2倍に増えていたということです。
憩室や憩室炎の発症には、便秘や肥満が関わっているとされています。近年の日本人の食生活の欧米化や生活スタイルの変化は、便秘や肥満の増加につながり、その影響で憩室炎も増えてきていると考えられています。
2. 憩室炎の症状について:腹痛、発熱など
憩室を持っているだけでは、ほとんどの人は特に症状がありません。そして大腸に憩室を持っている人の中で憩室炎を経験するのは、そのうちの1-2割程度だといわれています。
憩室炎の代表的な症状は以下のものです。
- 発熱
- 腹痛
- 吐き気・嘔吐
- 排便異常(便秘、下痢など)
腹痛と発熱はなかでも特に多くみられますが、これらは憩室炎に限った症状ではありません。詳しい検査を受けることで症状の原因を絞り込んでいくことができます。憩室炎を一度でも起こしたことのある人は、前回と同じような場所に腹痛を感じた時には再発の可能性を考える必要があります。
詳しくは「憩室炎の症状について」で説明しています。
3. 憩室炎の原因について:タバコやストレスなどとの関係について
憩室炎が起こるメカニズムは完全に解明されているわけではありません。便秘や下痢などが原因で腸の動きが乱れると腸の中の圧が異常に高くなり、この状態が続くと憩室ができると考えられています。
憩室炎が起こる原因には、憩室の中で細菌が異常に増えてしまうことや、憩室の壁の血流が悪くなることがあげられます。
憩室炎が起こりやすいと言われているのは以下のような人です。
- タバコを吸う人
- 肥満の人
- 便秘や下痢になりやすい人
- 高齢の人
- 飲酒する人
上記に当てはまる人は腸に負担がかかる状況になりやすく、憩室炎を起こしがちです。他に、
憩室炎が起こる原因や、起こりやすい人の特徴についての詳しい説明は、こちらのページを参照してください。
憩室や憩室炎の原因として最も関わりのある便秘や下痢の解消は、上記の中でもとくに取り組みたい内容です。排便異常の原因には様々なことがあげられますが、生活習慣や精神的なストレスが関わっている場合も少なからずあります。上記の特徴に当てはまるような人は、憩室炎を予防するためにできることを、日頃から少しずつ取り組んでみてください。具体的な予防法については、「再発や予防のことなど」で詳しく説明しています。
4. 憩室炎の検査について:血液検査や画像検査など
憩室炎が疑われたときには、
- 血液検査
- 画像検査
レントゲン (X線 )検査腹部超音波検査 腹部CT検査 - 注腸
造影 X線検査
下部消化管内視鏡検査
これらの検査を用いて憩室炎かどうかや、憩室炎の炎症がどの範囲まで広がっているかの確認が行われます。画像検査の中で腹部CT検査は憩室炎を見つけるのが最も得意とされていて、憩室炎を疑われた人のほとんどが受けることになる検査です。注腸造影X線検査と下部消化管内視鏡検査の2つは、憩室炎の炎症が落ち着いた後に腸の様子を詳しく観察するために行われることが多いです。
詳しくは「憩室炎を診断するための検査について」で説明しています。
5. 憩室炎の治療について:薬を使った治療や入院が必要な人について
憩室炎の炎症がそれほど広がらずに重症化していない人は、まずは手術を行わない
- 腸を休めるための治療:食事の中止、水分補給のための点滴、安静
抗菌薬 (抗生剤)を使う治療
症状に合わせて痛み止めや吐き気止めも併用しながら身体の回復を待ちます。
憩室炎の治療は必ずしも入院する必要はなく、症状が比較的軽い人は入院せずに外来で通院しながら治療を受けることができます。一方で、入院を強くすすめられるのは以下のような人です。
- 炎症が腸の外に広がって、お腹の中に
膿 が溜まっている人 - 炎症が腸の外からお腹全体に広がって、汎発性腹膜炎の状態になっている人
- 憩室炎の炎症が広がって、腸と他の臓器がつながってしまった人
上記にあてはまる人は、憩室炎が重症化していて、炎症が全身にまわって命に関わる可能性もあります。手術が必要だったり、長期に渡って食事を中止したりすることもありますので、入院での治療がすすめられます。ただし重症ではなくても、高熱や強い腹痛がある人は入院をすすめられることが多いです。
「憩室炎の治療について」のページには、上記の内容に加えて手術についての詳しい解説もありますので参考にしてください。
6. 憩室炎について知っておきたいこと:再発や予防について
憩室炎は、重症でなければほとんどの人は手術を受けずに治療できる病気です。しかし、手術をしないと憩室は身体の中に残ったままなので、再発することがあります。
憩室炎の再発について
重症でない憩室炎を手術を受けずに治療した人のうち、22-47%が再発すると報告されています。一方で、初回の憩室炎でお腹に膿が溜まっていた人は、手術を行わずに治療した後に再発する確率は30-60%といわれています。また、初回で膿が溜まっていなかった人に比べて、何らかの症状が残ったり、再発したりする割合も多いといわれています。
一度憩室炎を起こした人は再発の可能性も考えて、普段から自分の体調には気を配るようにしてください。とくに以前と同じような場所にお腹の痛みが出てきた時は、再発の可能性があります。早めに医療機関を受診するなどして対処することが望ましいです。
詳しくは「憩室炎の再発について知っておきたいこと」で説明しています。
憩室炎の予防について
憩室炎の予防法についてはさまざまな報告がありますが、効果がはっきりしないものも多くあります。ここでは大腸憩室症(憩室出血・憩室炎)
- 食物繊維を摂る
- 便秘や下痢を解消する
- 禁煙する
- 肥満を解消する
- 飲酒を控える
憩室炎を一度起こしてしまった人はもちろんですが、そうでない人も身体のために、上記のような生活習慣の改善をしていくことは健康への第一歩となります。
詳しくは「憩室炎を予防するためにできること」で説明しています。
参考文献:
・大腸憩室症(憩室出血・憩室炎)ガイドライン 2017
・「ハリソン内科学 第5版」(福井次矢, 黒川 清/日本語版監修) 、MEDISI、2017
・「NEW外科学 改訂第3版」(出月康夫, 古瀬彰, 杉町圭蔵/編集)、南江堂、2012
・眞部紀明、今村祐志、鎌田智有、他 大腸憩室疾患の疫学. 胃と腸 2012; 47:(7): 1053-1062.
・Stollman N, Raskin JB: Diverticular disease of the colon. Lancet 363: 631-639,2004
・Yamauchi N, Shimamoto T, Takahashi Y, et al: Trend and risk factors of diverticulosis in Japan. PloS One 10: e0123688, 2015