けいしつえん(だいちょうけいしつえん)
憩室炎(大腸憩室炎)
憩室に感染や虚血による炎症が起きた状態。大腸憩室に起こることが多い
4人の医師がチェック 66回の改訂 最終更新: 2022.06.05

憩室炎について知っておきたいこと:再発や予防のことなど

憩室炎は欧米でよくみられる病気ですが、食生活の欧米化や肥満の増加に伴い日本でも増えてきていると考えられています。また、手術以外の方法で憩室炎を治療した人では、再発することがあります。このページでは、憩室炎を予防するための具体的な方法のほか、憩室炎に関するさまざまな疑問について説明しています。

1. 憩室炎の再発について知っておきたいこと

繰り返すお腹の痛みの原因の一つに憩室炎があります。大腸の壁の一部が外側に小さく飛び出してしまった部分を憩室といって、この憩室に炎症が起きた状態を憩室炎といいます。

憩室炎を起こしたけれども手術を受けずに回復した人は、炎症を起こす元となる憩室は残ったままなので、再び憩室炎を起こす可能性があります。そこで憩室炎の再発について知っておきたいことを以下に説明します。

手術をしない場合の再発率について

憩室炎に対して手術が行われるのは、憩室の炎症が周りに広がって、お腹の中にができたり、腹膜炎になったりした人です。そこまで重症の憩室炎に至らなかった人は、手術を行わない保存的治療だけで症状が改善する人がほとんどです。

初回の憩室炎が重症でなかったために手術を受けずに治った人のうち、その後の人生で憩室炎が再発した人の割合は13-47%といわれています。これは医療機関を受診し、憩室炎と診断された人の割合です。詳しい検査を受けてはいないけれども憩室炎の再発が原因と思われるお腹の痛みを感じた人まで含めると、およそ2人に1人は再発の症状が現われたと報告されています。憩室炎が再発した人の多くは重症度が低く、緊急手術が必要となった人の割合は2-5%という報告でした。

初回の憩室炎でお腹に膿が溜まっていた人は、そうでない人に比べて治療後も何らかの症状が残ったり、再発したりする確率は高くなります。また、手術を行わずに治療した人が後に再発する確率は30-60%で、膿が溜まっていなかった人に比べて多いといわれています。しかし、再発したときにも膿が溜まるとは限らず、2回目以降も手術を受けずに治ることが多いと報告されています。

憩室がある限り再び憩室炎が起こる可能性があるので、一度憩室炎を起こした人はとくに日頃から自分の身体の調子には気を配っておくことが大切です。そのためにできることは、次の章で説明しています。

憩室炎の再発に早く気づくために知っておきたいこと

憩室炎の主な症状には、腹痛と発熱があります。ただし憩室炎が起こってすぐに高い熱が出るわけではありません。憩室炎の起こり始めは熱が出ても微熱程度なので、最初はお腹の痛みを自覚することが多いです。

以前に憩室炎を起こした場所と同じ場所が痛くなることもあれば、漠然とお腹全体が張った感じがしたり、みぞおち辺りに痛みを感じたりすることもあります。前回と違う痛み方をした場合でも、以前起こした憩室炎の場所を手で押さえてみると、同じようなお腹の痛みが感じられることがあります。

お腹に何らかの違和感や不快感を感じるときはそのままにせず、以前起こした憩室炎の場所を自分の手で押さえてみてください。押した時に痛みが強く感じられる場合には、憩室炎が再発している可能性があります。

また、疲れが溜まっていたり、風邪など他の病気にかかったりして身体が弱っていると、憩室炎が再発することがあります。色々な理由で身体の調子が思わしくない時には、憩室炎が再発してしまう可能性も気にかけておいてください。

憩室炎が再発したかもしれないと思ったら

以前起こした憩室炎と同じような場所にお腹の痛みを感じる時は、憩室炎が再発したかもしれないと考える人も多いと思います。まずは、自分で以下について確認してみてください。

  • 熱が全く出ていないか、微熱(37℃前半)程度で済んでいる
  • お腹を押さえた時の痛みの場所が狭い範囲に限られている
  • お腹の痛みの強さが以前起こした憩室炎の時と同程度かそれより軽い
  • 上記以外に気になる症状がない

上記に当てはまる人は、症状の原因が憩室炎の再発によるものであっても、手術を行わない治療で症状が改善していく可能性があります。慌てずに、しかし放置しすぎることなく医療機関の受診を検討してください。医療機関を受診するまでの間は、まずは自宅でできる以下のことをしてみてください。

  • 学校や仕事を休んで身体を安静にする
  • 食事はできる限り控えて、水分は多めにとる
  • 食事を摂るときは、刺激物や脂肪の多い食べ物を避け、食物繊維の少ない消化の良いものを心がける
  • タバコやアルコールは控える
  • かかりつけのお医者さんから予備の抗菌薬や整腸剤を渡されているときはそれを内服する

自宅で様子をみていて少しでもおかしいなと思う症状が出た人は、速やかに医療機関を受診するようにしてください。

また、高熱が出たり腹痛が強くなったりと、上記の条件に当てはまらない人は憩室炎が重症になっている可能性があります。すぐにでも医療機関を受診してください。

2. 憩室炎を予防するためにできること

憩室炎はもともと欧米でよくみられる病気ですが、食生活の欧米化や肥満の増加に伴い日本でも増えてきていると考えられています。近年の憩室炎の治療では、手術を行わずに治療できることが多くなっています。身体への負担は少なくて済みますが、憩室を取り除かない代わりに再発に気をつける必要があります。

憩室炎の予防法についてはさまざまな研究報告がありますが、効果がはっきりせず検討の余地があるものも少なくありません。ここでは日本消化管学会が作成した「大腸憩室症(憩室出血・憩室炎)ガイドライン」を参考に、憩室炎の予防法について紹介します。ガイドラインとは、その病気に関連する多くの報告から、信頼度の高いと思われる研究結果をまとめて診療方針を示したものです。

憩室炎を起こさないための食事について

食事療法の一つとして、食物繊維を多くとることで憩室炎の再発率が下がったという報告があります。しかし、これは研究の信頼度が高い調査ではなく、食物繊維の予防効果ははっきりと確認されていません。

食物繊維は便の量を増やし、腸内における便の運搬をスムーズにする働きがあるといわれています。便秘は憩室炎の原因になり、憩室ができている人には便秘が多いといわれています。便秘解消の一つの対策として普段から食物繊維を摂ることは、憩室炎の予防につながるかもしれません。

ただし、憩室炎が起こってしまったときは、腸をできるだけ休めることが必要です。食物繊維は消化や吸収に時間がかかり、腸に負担をかけます。憩室炎の症状が改善するまでは、食物繊維のできるだけ少ない、消化の良い食べ物を摂るようにしてください。

排便習慣の見直しについて

便秘や下痢は、腸の働きが上手く機能していないサインです。便秘や下痢といった排便異常ために腸の動きが上手く調整されないと、腸の中の圧が上がって憩室ができてしまいます。また排便異常は憩室に炎症が起こる大きな要因と考えられています。

普段からの排便習慣を見直すことは憩室が新たにできる予防にもなりますし、憩室に炎症が起こるリスクを下げることにつながります。

ただし、便秘の解消のためにセンナやピコスルファートナトリウムなどの成分を含む刺激性下剤を使うことはおすすめできません。刺激性下剤は腸を刺激するので、憩室がある人はとくに使用を避けることが好ましいです。(刺激性下剤についてはこちらのコラムを、便秘対策についてはこちらのコラムを参考にしてください。)

下痢になりがちな人は、規則正しい食事を意識して夜食や偏食などはできるだけ控えるようにし、また香辛料やアルコールの取り過ぎには注意するようにしてください。

便秘や下痢で困っていてなかなか症状が良くならない人は、一度医療機関へ相談するようにしてください。

その他の生活習慣について

食事や排便以外で憩室炎のリスクが高いいわれている人の特徴は以下になります。

  • 喫煙する
  • 肥満である
  • 飲酒する

これらは、憩室炎に限らずさまざまな病気の原因として挙げられている要素です。憩室炎を一度起こしてしまった人はもちろんですが、身体のために上記の要素を1つでも改善していくことが健康への第一歩となります。

3. 憩室炎に関する疑問について

ここでは、憩室炎といわれた人が知っておくと良いことについて説明します。

憩室炎で死亡することはあるのか

憩室があるだけで命に関わることは、まずありません。しかし憩室に炎症が起こる憩室炎の状態となった人の中には、まれですが生命が危険な状態になることがあります。

日本からの報告では、憩室炎の炎症が周りに広がって、お腹の中に膿を作ったり腹膜炎を起こしたりした人の死亡率は2.8%でした。一方で、そのような重篤な合併症のない憩室炎の死亡率は0.2%でした。

憩室炎によってお腹に膿を作ったり腹膜炎を起こしたりしているのは、憩室炎全体のおよそ16%の人にみられます。お腹の痛む範囲が広がって、高熱が出るなどの症状がある人は速やかに医療機関を受診するようにしてください。

憩室炎の治療に手術は必要か

炎症が広がってお腹全体が腹膜炎の状態になっている人には、手術を強く勧められます。腹膜炎は、憩室に穴が開いてお腹の中に便が漏れることで起こります。お腹全体が腹膜炎になっている人は、時間の経過とともに炎症が全身にまわり、生命が危険な状態になっていくので、早急な手術が必要になります。

腹膜炎であっても一部のみに炎症が止まっていれば、まずは手術を行わない治療を受けることが多いです。食事を止めて腸管を安静にし、抗菌薬を使う保存的治療で症状が改善していきます。

憩室炎の炎症が腸の外にも及んでお腹に膿が溜まっている人も、3cm以下の小さいものであれば抗菌薬の投与で改善することが多いです。お腹の膿が3cm以上と大きいものになると、抗菌薬だけで膿が消えることは少ないので、経皮的膿瘍ドレナージ術が併せて行われることになります。経皮的膿瘍ドレナージ術が行えない人や、ドレナージが上手くいかずに症状があまり改善しなかった人には手術がすすめられることになります。

その他に、手術を行わない治療だけでは症状が残りやすく、追加の治療として手術がすすめられる可能性があるのは以下の人です。

  • 少なくとも2回以上憩室炎を繰り返していて、症状が強い人
  • 憩室炎を繰り返しすことで腸が狭くなっていて、日常生活で不便がある人
  • 他の臓器と腸が憩室の穴を介してつながっている(孔ができている)人

上記の人は、保存的治療で炎症は一旦治まったとしても、症状は残ってしまうことが多いです。腸が狭くなったり、腸と他の臓器がつながったりしている状態では、日常生活を送るのに支障が出る人がいます。お医者さんと患者さんのあいだで十分に話し合ったうえで、必要と判断されれば手術することになります。

憩室炎にはガイドラインがあるのか

ガイドラインとは、診療の手引きとなる参考書のようなもので、多くの研究報告をもとに客観的な信頼度の高い研究結果を重視しながら作られています。憩室炎の診療では、日本消化管学会が作成している「大腸憩室症(憩室出血・憩室炎)ガイドライン」に基づいて行われることが多いです。

憩室炎と大腸がんは関係があるのか

憩室炎の人が大腸がん発症しやすいかについては、今のところはっきりとは分かっていません。憩室炎が起こった人に大腸がんはとくに多くなかったという報告は少なくありません。一方で、憩室炎に隠れて大腸がんも存在していたことが見落されているケースもあります。大腸がんがあるかどうかを調べるには、下部消化管内視鏡検査大腸カメラ)が最も役に立つ検査です。憩室炎を治療して炎症が落ち着いた人は、一度大腸カメラの検査で腸を詳しく調べてもらうことをおすすめします。

参考文献:

・大腸憩室症(憩室出血・憩室炎)ガイドライン 2017
・「ハリソン内科学 第5版」(福井次矢, 黒川 清/日本語版監修) 、MEDISI、2017
・「NEW外科学 改訂第3版」(出月康夫, 古瀬彰, 杉町圭蔵/編集)、南江堂、2012
・眞部紀明、今村祐志、鎌田智有、他 大腸憩室疾患の疫学. 胃と腸 2012; 47:(7): 1053-1062.
・Stollman N, Raskin JB: Diverticular disease of the colon. Lancet 363: 631-639,2004
・Yamauchi N, Shimamoto T, Takahashi Y, et al: Trend and risk factors of diverticulosis in Japan. PloS One 10: e0123688, 2015