けいしつえん(だいちょうけいしつえん)
憩室炎(大腸憩室炎)
憩室に感染や虚血による炎症が起きた状態。大腸憩室に起こることが多い
4人の医師がチェック 66回の改訂 最終更新: 2022.06.05

憩室炎が疑われた人に行われる検査について

憩室炎が疑われた人は、症状を詳しく聞かれたうえで、いくつかの検査を受けることになります。血液検査や腹部CT検査などの画像検査を使って、症状の原因が憩室炎かどうかや憩室炎の炎症がどの範囲まで広がっているかの確認が行われます。このページでは憩室炎に関連する診察や検査について詳しく説明します。

1. 憩室炎の検査の目的と種類について

検査の目的は、「憩室炎かどうか」と「憩室炎の重症度」を判断することです。主に以下の検査が行われます。

  • 問診
  • 身体診察
  • 血液検査
  • 画像検査
    • レントゲンX線)検査
    • 腹部超音波検査
    • 腹部CT検査
    • 注腸造影X線検査
  • 下部消化管内視鏡検査

なかでも、身体診察に加えて血液検査や腹部CT検査は、憩室炎が疑われた多くの人が受けることになる検査です。腹部CT検査は炎症が起きている原因や炎症が広がっている範囲を画像で把握するために重要な検査となります。

2. 問診

問診は症状を詳しく把握し、症状の原因が憩室炎によるものか、その他の疾患によるものかを判断する最初の手がかりとなります。

問診では身体の状況だけでなく、普段の生活や過去の病気の状況などについても聞かれます。問診は身体診察を行う前に行われることが多いです。

以下は、憩室炎が疑われる人が聞かれる質問の例です。

  • どんな症状があるか
  • 症状はいつからどの程度あるか
  • 腹痛があるとしたら、痛みの場所が移動したり広がったりすることはあったか
  • 症状が出るきっかけとして考えられることはあるか(疲労が溜まっている時など。または嘔吐や下痢があれば1-2日前の食事内容など)
  • 過去に同じような症状を経験したことはあるか
  • 症状に対して市販薬などを試したか
  • 普段の排便状況について(便秘や下痢が日常的にあるか)
  • 持病や過去にかかったことのある病気はあるか
  • 持病がある場合には内服中の薬は何か
  • 過去に腹部手術を受けたことがあるか
  • 過去に注腸検査や内視鏡検査を受けたことがあるか
  • 喫煙歴はあるか
  • 飲酒歴はあるか

憩室炎の主な症状は腹痛と発熱ですが、吐き気・嘔吐や排便異常などを伴う人もいます。これらの症状は憩室炎以外の病気でも現れることがあります。このためお医者さんは患者さんにさまざまなことを聞いて、他の病気の可能性を除外したり診断のあたりをつけたりします。

3. 身体診察

身体診察とは、身体を触ったり聴診器を使って身体の中の音を聞いたりすることで、問診であたりをつけている診断にさらに迫ることができます。その方法には次のようなものがあります。

  • バイタルサインの測定
  • 視診
  • 聴診
  • 触診
  • 打診

憩室炎の症状からは多くの病気が推定されます。このために全身のあらゆる部位を診察して原因となっている病気を絞り込んでいきます。身体診察の例について、各々の診察方法を説明していきます。

バイタルサインの測定

どんな病気の診察でもバイタルサインの測定は欠かすことはできません。バイタルサインは生命徴候という意味の医学用語です。一般的にバイタルサインは脈拍数、呼吸数、体温、血圧、意識状態の5つのことを指します。また、身体に酸素が行き渡っているかを調べる酸素飽和度も同様にバイタルサインとして扱うことが多いです。

憩室炎では炎症のために体温が上昇する人が多くいます。憩室炎の炎症の範囲が狭ければ微熱程度で済むことが多く、呼吸や意識状態に異常が出ることはほとんどありません。

憩室炎の炎症が周りに広がって重症化してしまうと、炎症は腸だけにとどまらず全身に及ぶようになります。この場合は高熱が出て脈拍数が増え、次第に呼吸が荒くなったり血圧が下がったりして重篤な状態へ変化していきます。最終的に意識状態が悪くなり、命に関わる状況に陥る人もいます。

バイタルサインを測定することで、炎症の広がり具合を大まかに予測することができます。

視診

視診は全身の見た目を観察する診察方法です。身体の凹凸の変化や色の変化などが起こる病気は視診で異常がわかります。

憩室炎が起こっている人で、憩室からの出血も伴っている場合には、眼瞼結膜まぶたの裏側)の赤色の程度をみることで、貧血の有無を推測できます。

憩室炎は、肥満の人がなりやすいといわれているため、栄養状態も視診で観察されます。

聴診

聴診器を用いて身体で起こる音を聞く診察方法を聴診といいます。この方法では肺の音や腸の音、心臓や血管を通る血液の音など多くの音を聞くことができます。また、本来聞くことのできる音が聞こえなくなる場合にも異常を探知することができます。

憩室炎が起きている人では下痢や便秘を伴っていることがあるので、お腹に聴診器を当てて腸の動いている音(蠕動音)を確認されます。憩室炎が広がって腹膜炎という重篤な状態に陥っている人では、強い炎症の影響で腸の動きがとまってしまい、本来聞こえるはずの腸の音が聞こえなくなることがあります。

触診

触診は身体の一部を念入りに触ったり押したりすることで異常を探知する診察方法です。普段は存在しないしこりを触ったり、押すことで現れる痛みを探知したりすることで、体内の様子を推定できます。

憩室炎では、ほとんどの人に腹痛が現れます。みぞおち辺りの重い感じや不快感として漠然とお腹の痛みを感じる人もいますが、触診でお腹を押さえた時に最も強く痛みを感じる場所が、憩室炎が起こっている場所と一致することが多いです。

触診では、腹部のあらゆる場所を丁寧に押さえて、最も痛みを強く感じる場所を詳しく調べます。憩室炎が起きやすい主な場所は、60歳未満の人であれば右側結腸、60歳以上の高齢者では左側結腸です。

憩室炎が重症になると、憩室の壁に穴があいて炎症が腸の外側へ広がります。その結果、お腹の中にがたまったり(膿瘍)、腹膜炎を起こしたりします。炎症が周りに広がっているときには「激しい腹痛がある」「お腹の壁が硬くなる」「お腹が膨れる」といった特徴が見られるため、入念に触ってこれらの特徴がないかを確認されます。また、お腹を押さえたときよりも、押さえた手を離したときに強い痛みを感じる反跳痛とよばれるサインは腹膜炎の特徴です。

さらに膿瘍ができていないかを確認するために、痛みを感じる場所にしこりの様なものが触れないかも確認されます。

憩室炎の症状についての詳しい説明はこちらのページを参考にしてください。

打診

打診は身体の一部を軽く叩いて反応をみる診察方法です。叩いた時の音や振動の伝わり方を調べることで、身体の中で起こっている変化を探知します。

憩室炎では主にお腹を打診します。痛みのある場所を中心に全体を叩いていくことで、異常がないか探していきます。

4. 血液検査

血液検査は、主に腕や足の血管から血液を採取し、血液中に含まれるさまざまな成分の数や濃度を計測して異常を探知する検査方法です。

憩室炎で血液検査を行う目的は炎症の程度や全身状態を把握することです。血液検査の項目だけでは憩室炎と診断することはできませんが、有力な判断材料になります。

憩室炎を疑ったときの血液検査では以下のポイントに注目します。

  • 炎症の程度 
  • 臓器(腎臓・肝臓など)の機能 
  • 脱水の有無

血液検査の情報と画像検査の結果などを総合して、治療方針が決められます。例えば脱水が著しいことがわかったときには点滴による水分補給が行われたり入院が必要であると判断されたりします。

5. 画像検査

憩室炎の有無や憩室炎以外の病気が隠れていないかを調べるために画像検査を用います。憩室炎が疑われた人に行われる画像検査には次のものがあります。

  • レントゲン(X線)検査
  • 腹部超音波エコー)検査
  • 腹部CT検査
  • 注腸造影X線検査

なかでも、腹部CT検査は炎症が起きている原因や炎症が広がっている範囲を調べるために重要な検査となります。

それぞれの検査について以下で説明します。

レントゲン(X線)検査

レントゲン(X線)検査では放射線を使うので、少ないながらも放射線被曝があります。

レントゲン写真だけでは憩室炎を診断することはできません。憩室炎と他の病気との区別や、腸の状態を推測するのに役立ちます。

具体的には、腸に穴が開いているかや腸閉塞が起きているかなどの診断にレントゲン写真が役立つことが多いです。

腹部超音波(エコー)検査

超音波(エコー)検査は超音波を利用した検査です。放射線は使用しないので被曝の心配はありません。このため妊婦や子どもなど放射線の影響が懸念される人には超音波検査は特に有効な検査です。

超音波検査では、お腹にプローブという機械を押し当てて身体の中を観察します。超音波検査は簡便で被曝がないので繰り返し検査ができ、その場で画像が見えるので、救急外来や病室などさまざまな場面で使われることがあります。

腹部超音波検査では、炎症が起きている憩室はいびつな塊のように見えることが多いです。憩室の周りの大腸の壁は厚くなり、腸の壁の外側を取り囲んでいる脂肪組織も腫れているように見えます。憩室の中に、便が固まった小さな石のようなもの(糞石)が見えることもあります。

超音波検査で憩室炎を診断する場合は検査をする人にも技術が必要です。また、患者さんの体型などによりうまく腸の様子を観察できないこともあります。超音波検査ではっきりと原因を突き止められない時にはCT検査を行います。

腹部CT検査

CT検査はレントゲン(X線)を使った検査で、レントゲン検査より精密な画像を得ることができます。X線は放射線なので身体に放射線被曝があります。

CT検査では超音波検査と同様に憩室の形や大きさ、憩室の周りに膿があるかなどを観察することができます。臨床の現場でお医者さんは以下のような特徴が見られるかどうかに注目しています。検査の後に説明があるかもしれないので参考にしてみてください。

  • 大腸の壁から外側に飛び出した憩室がみられる
  • 憩室の壁の厚みが4mm以上である
  • 憩室に近い腸の壁に厚みがある
  • 憩室の周りの脂肪組織に厚みがあり、もやもやした毛羽立ちがみられる
  • 憩室の周りに液体の溜まりができている
  • 造影剤によって憩室の壁がくっきりと強調される

CT検査の画像からこれらの特徴が確認できた場合には、憩室炎の可能性が高いと診断されます。

CT検査の方法の一つに造影剤を使用する「造影CT検査」があります。造影剤は血管の形をくっきりと写りやすくする効果があり、注射で身体の中に入れられます。炎症が起きている部分では血液の流れが増えるので、憩室炎が起きていれば、くっきりと厚みのある憩室の壁を目にすることができます。造影剤は腎臓の負担にもなりますので、全ての人に使われるわけではありません。お医者さんの判断で、CT検査のときに造影剤を追加で使われる場合があります。

重症化して憩室炎の炎症がより広い範囲に広がっているときは、CT画像で膿の場所や大きさを確認したり、他の臓器にも炎症が及んでいないかを確認したりします。また、腸に穴があいてしまうことで、腸の中にあるべきガスや消化液、糞便などがお腹の中に漏れ出ていないかもCT検査でわかります。

注腸造影X線検査

注腸造影X線検査は、肛門からバリウムやガストログラフィンなどとよばれる造影剤を流し入れてレントゲン写真(X線写真)を撮る検査です。造影剤はレントゲン写真では白く写ります。大腸に造影剤を流し入れてレントゲン写真を撮ることで、造影剤が大腸の形に写り、大腸の内側の輪郭がわかります。

憩室炎を発症してすぐの炎症が強い時期は、注腸造影X線検査によって腸に穴があくリスクが高まるので行われることはほとんどありません。憩室炎の炎症がある程度落ち着いた人や、何度も憩室炎を繰り返している人に対して、腸の状態を知るために行われることが多いです。

注腸造影X線検査では、憩室が腸の外側に袋状に小さく飛び出している様子を確認することができます。また、憩室に穴が開いていたり、他の臓器とつながる穴(孔)ができていいたりすると、腸の外側へ造影剤が広がっていく様子が見られます。

何度も同じ場所で憩室炎を繰り返すうちに、腸の中が狭くなってしまう人がいます。注腸造影を行うことで、大腸の狭くなっている程度や範囲を客観的に確認することができます。

大腸がんなど別の病気を診断する目的で行われた注腸X線造影検査のときに、大腸に憩室があることが判明する人もいます。

6. 下部消化管内視鏡検査

下部消化管内視鏡検査は「大腸カメラ」とも呼ばれる検査です。内視鏡と呼ばれる細長いカメラを肛門から入れて大腸の中を映像で観察することができます。

注腸造影X線検査と同様に、憩室炎を発症してすぐの炎症が強い時期は、腸に穴があくリスクが高まるので行われることはほとんどありません。一般的には炎症がある程度落ち着いた人や、何度も憩室炎を繰り返している人に対して腸の状態を知るために行われることが多いです。ただし憩室から出血がある人は、出血を止めるために緊急で内視鏡検査を行われることがあります。

内視鏡で観察すると、憩室だけでなく大腸がんやポリープなどの異常があるか、あればどんな特徴かも詳しくわかります。憩室炎を起こした人の中には、大腸がんなど他の病気が隠れている可能性もありますので、憩室炎の治療後に内視鏡検査がすすめられます。

なお、憩室炎と大腸がんの関連性は今のところ不明で、結論は出ていません。

参考文献:

・大腸憩室症(憩室出血・憩室炎)ガイドライン 2017
・「ハリソン内科学 第5版」(福井次矢, 黒川 清/日本語版監修) 、MEDISI、2017
・「NEW外科学 改訂第3版」(出月康夫, 古瀬彰, 杉町圭蔵/編集)、南江堂、2012
・眞部紀明、今村祐志、鎌田智有、他 大腸憩室疾患の疫学. 胃と腸 2012; 47:(7): 1053-1062.
・Stollman N, Raskin JB: Diverticular disease of the colon. Lancet 363: 631-639,2004
・Yamauchi N, Shimamoto T, Takahashi Y, et al: Trend and risk factors of diverticulosis in Japan. PloS One 10: e0123688, 2015