けいしつえん(だいちょうけいしつえん)
憩室炎(大腸憩室炎)
憩室に感染や虚血による炎症が起きた状態。大腸憩室に起こることが多い
4人の医師がチェック 66回の改訂 最終更新: 2022.06.05

憩室炎の症状について

繰り返すお腹の痛みの原因の一つに憩室炎があります。憩室炎になると、憩室炎が起こった場所に一致したお腹の痛みや発熱といった症状があらわれます。まれに憩室炎が重症化して腹膜炎を起こしてしまうと、お腹全体に痛みが広がったり、お腹が硬くなったりすることがあります。このページでは憩室炎によって起こる症状について詳しく説明しています。

1. 憩室炎で起こりやすい症状について

憩室があることを憩室症といいます。憩室に炎症がない時はほとんどの人が特に症状を感じませんが、なかには、便秘や下痢を繰り返したり、お腹の張りや痛みなどを慢性的に感じたりする人も少ないながらいます。

これらの症状は、過敏性腸症候群と呼ばれる病気と似ています。憩室症であっても過敏性腸症候群であっても炎症は起こっていないので、熱が出ることはめったにありません。 一方で、憩室に炎症が起こった状態を憩室炎と呼びます。大腸に憩室がある人のうちおよそ1-2割の人に憩室炎が起こるといわれています。憩室炎の代表的な症状は以下になります。

  • 腹痛
  • 発熱
  • 吐き気・嘔吐
  • 排便異常(便秘や下痢など)

腹痛と発熱は憩室炎が起こった人に最も多くみられる症状です。しかし憩室炎に限った症状ではないため、他の病気と見分けがつきにくいことがあります。憩室炎を放置していると、なかには重症化する人もいるため、症状がある人は医療機関で詳しく調べてもらうようにしてください。

以下では、憩室炎の症状について具体的に掘り下げて説明します。

腹痛

憩室炎で最も多い症状の一つが腹痛です。憩室の炎症が狭い範囲だけにとどまっているうちは、お腹の痛みを感じる場所と憩室炎が起こっている場所はほぼ一致します。お腹の色々な場所を手で押さえてみたときに、一番強い痛みを感じるところに憩室炎が起こっている可能性が高いです。

憩室炎が起きやすい場所は年齢によって異なります。日本においては60歳未満であれば右側結腸に憩室炎を起こす人が70%と多く、60歳以上になると左側結腸に憩室炎を起こす人が60%に増えると報告されています。それぞれについて詳しく説明します。

右側結腸とは、大腸の始まり(小腸とのつなぎ目)に近い部分を指します。ここには、上行結腸や盲腸、虫垂が存在します。右側結腸に憩室炎が起こった人は、右脇腹から右下腹部の辺りに強い痛みを感じます。ときに虫垂炎(いわゆる盲腸)とほぼ同じような場所(右下腹部)に痛みが現れることもあります。

左側結腸とは、大腸の終わり(肛門)に近い部分です。下行結腸やS状結腸を指しますが、ここでは直腸とよばれる場所も含んで説明します。左側結腸の憩室炎では、左脇腹や下腹部に痛みを強く感じることが多くなります。

しかし、お腹の奥の方(背中側)で憩室炎が起こってしまうと、最初は腹痛として感じにくいことがあります。お腹の表面から下腹部を押さえても、違和感を感じる程度でそれほど強い痛みに感じられないことがあるかもしれません。

高齢になるにつれて左側結腸から直腸にかけての憩室炎が増えるといわれています。高齢者の左側結腸憩室炎は重症化しやすいといわれているので早めの対応が必要です。お腹の奥深い場所で起こってしまった憩室炎は、初期に症状がはっきりと現れにくいことも重症化してしまう原因の一つとして考えられます。

憩室炎の起こり始めは症状が分かりにくいことや、便秘や胃腸炎など他の病気との区別がつきにくいことがあります。お腹の痛みに加えて熱が出た時には、できるだけ早めに医療機関を受診するようにしてください。

なお、憩室から出血が起こっている憩室出血の人では、腹痛を感じることはあまり多くありません。

発熱

憩室炎が起こると、多くの人は熱が出ます。炎症の程度が比較的軽く、狭い範囲にとどまっている人は、微熱程度のこともあります。個人差はありますが、炎症が広い範囲に広がって重症化すると、38度以上の高熱が出る人も少なくありません。

吐き気・嘔吐

腹痛や発熱に比べると頻度は少ないですが、吐き気や嘔吐の症状が出る人もいます。

憩室炎で腸に炎症が起こったことで、腸の動きが一時的に弱まることがあります。腸の動きが弱まると、ムカムカするような吐き気を感じたり、嘔吐してしまったりすることがあります。

さらに炎症が激しくすすみ、腸全体の動きが完全に止まってしまうと麻痺イレウスと呼ばれる状態になることがあります。麻痺性イレウスになると、見た目にもお腹全体が膨らんで、はち切れそうな苦しさを感じます。これを腹部膨満感と呼びます。強い吐き気や嘔吐とともに腹部膨満感、しゃっくり、食欲不振などの症状が現われた時は、麻痺性イレウスが疑われます。

排便異常(下痢、便秘など)

憩室を持っている人の中には、炎症がなくても日常的に下痢や便秘を繰り返したり、お腹の張りを感じたりする人がいます。これは過敏性腸症候群の症状と似ています。便秘や下痢といった排便異常の原因を特定するために、画像検査を受けます。

日常的に下痢や便秘がない人でも、憩室炎が起こった時には炎症の影響で腸の動きや機能が落ちて、便秘や下痢になることがあります。

下血(便に血が混じること)

便に血が混じることを下血といいます。じつは憩室炎が起こったときに下血の症状があらわれる人はほとんどいません。憩室から出血が起こることを憩室出血といいます。憩室炎と憩室出血は別の病気であり、2つが同時に起こることは比較的まれだといわれています。

もし便に血が混じっている場合には、胃や腸といった消化管のどこかから出血している可能性があります。切れ痔などの肛門疾患で出血することもありますが、大腸がんや特殊な腸炎などが潜んでいる可能性もあります。便に血が混じっているときは放置せずに、早めの受診を心がけてください。

憩室出血の詳細に関しては、「大腸憩室出血」の基礎情報ページを参照してください。

2. 憩室炎が重症化して、周りに広がったときの症状について

大腸憩室は、腸の壁のうち内側の層だけが外側に飛び出してしまったものです。そのため、憩室の壁は通常の腸の壁よりも薄く脆い状態となっています。この憩室に激しい炎症が起こると、憩室の薄い壁が破れて腸に穴があいた状態(穿孔)となり、憩室から離れた広い範囲にまで炎症が及ぶことがあります。

憩室炎が重症化して、憩室の壁にあいた穴から炎症が周りに広がった状態を、以下の3つのパターンに分類できます。

  • 憩室の外側のお腹にうみ)が溜まった状態
  • お腹全体に炎症が広がった汎発性腹膜炎の状態
  • 他の臓器に穴があくことで腸とつながる道(孔)ができた状態

それぞれの症状について以下に詳しく説明します。

憩室炎の影響でお腹に膿が溜まったときの症状について

憩室に穴があくと、腸の中の便が憩室の穴を通じて腸の外に漏れてきてしまいます。

憩室の穴がとても小さい人や、穴が開くまでに炎症が長く続いていた人のお腹の中では、身体の防御反応として憩室の周りに他の組織が集まって、穴に蓋をするような働きをします。穴から漏れた腸液や便がわずかな量であれば、憩室の周りの限られた狭い範囲で炎症が起こった結果、膿の溜まりがお腹の中にできます。

お腹に膿の溜まりができると、高熱が出たり、強い腹痛を感じたりします。炎症は比較的狭い範囲とはいえ腸の外側に広がっているので、限局的な腹膜炎の状態ともいえます。腹膜炎とはお腹の臓器を包む腹膜にまで炎症が及んでいる状態です。膿の溜まっている場所を押さえた時には、強い圧痛を感じるだけでなく、押さえた手を離した時にも激しい痛み(反跳痛)を感じるようになります。また、膿の溜まっている場所が硬くなってお腹の中に大きなしこりがあるように感じられたりすることもあります。

さらにお腹に膿ができてしまった影響で、吐き気や嘔吐、下痢などがあらわれることもあります。

お腹全体に炎症が広がる汎発性腹膜炎の症状について

炎症が急激にすすんで憩室に穴があいてしまった時や、憩室の穴が大きくあいてしまった時に、身体の防御反応が追い付かずに腸の中の便が穴から多量に漏れてしまうことがあります。非常に激しい炎症がお腹全体まで広がると、汎発性腹膜炎とよばれる最も重症化した憩室炎になります。

汎発性腹膜炎になったときの具体的な症状の例を以下にまとめます。

  • 38度以上の高熱がでる
  • お腹のどこを押さえても激しい痛みがある
  • お腹を押さえた手を離したときにも強い痛みを感じる(反跳痛)
  • お腹全体が硬くなる
  • 吐き気・嘔吐がある
  • 脈が速くなる(頻脈(ひんみゃく))
  • 血圧が下がる:ふらつく、顔色が青ざめる
  • 意識がもうろうとしてくる
  • 呼吸が荒くなる

上記の症状のすべてがあらわれるわけではありませんが、炎症が広範囲になればなるほど、意識や呼吸の状態が悪化して重篤な状況に陥る可能性が高くなります。腹膜炎の症状が少しでもみられる場合には、早急に医療機関を受診するようにしてください。

他の臓器と腸がつながってしまう:瘻孔ができたときの症状について

憩室炎が重症化することで、他の臓器と腸がつながってしまうことがあります。腸と他の臓器に穴があいてできた通り道を瘻孔といいます。

瘻孔ができる経緯にはおよそ2つのパターンが考えられます。

  • 憩室の周りに溜まった膿の影響で、膿と接している他の臓器の壁に穴があいてしまう場合
  • 憩室炎を繰り返すことで憩室と他の臓器がくっついてしまい、くっついている部分に穴があいてしまう場合

どちらの場合も炎症が強く長引くことで瘻孔ができます。瘻孔ができる憩室炎は、憩室炎全体の4~20%と報告されています。

憩室炎で瘻孔ができるのは主に以下の臓器です。

  • 膀胱
  • 子宮
  • 膣(子宮摘出後の人)
  • 腎臓
  • 皮膚 など

上記の中で最も瘻孔ができる頻度が多いといわれているのは膀胱です。

膀胱に瘻孔ができてしまうと、尿に便やガスが混じるようになります。また、尿路感染症を起こして排尿時の痛みや残尿感などの症状が出るようになります。(尿路感染症の詳しい症状はこちらを参照してください)少しでもおかしいなと思ったら、医療機関を受診して詳しく調べてもらうようにしてください。

腸と他の臓器がつながってしまう瘻孔によって、それぞれの臓器に由来する新たな症状が出てきますが、憩室炎の症状である腹痛や発熱が起こることは共通しています。

腹痛と発熱を繰り返しているのに放置したままの人は、瘻孔形成や腹膜炎など新たな合併症を引き起こしてしまう可能性がありますので、早めに受診することをおすすめします。

参考文献:

・大腸憩室症(憩室出血・憩室炎)ガイドライン 2017
・「ハリソン内科学 第5版」(福井次矢, 黒川 清/日本語版監修) 、MEDISI、2017
・「NEW外科学 改訂第3版」(出月康夫, 古瀬彰, 杉町圭蔵/編集)、南江堂、2012
・眞部紀明、今村祐志、鎌田智有、他 大腸憩室疾患の疫学. 胃と腸 2012; 47:(7): 1053-1062.
・Stollman N, Raskin JB: Diverticular disease of the colon. Lancet 363: 631-639,2004
・Yamauchi N, Shimamoto T, Takahashi Y, et al: Trend and risk factors of diverticulosis in Japan. PloS One 10: e0123688, 2015