きかんしえん
気管支炎
気管支に炎症があり、咳や痰が出る状態。原因は細菌やウイルスの感染、アレルギーなどさまざま
8人の医師がチェック 84回の改訂 最終更新: 2024.05.22

気管支炎の治療について:対症療法など

気管支炎とは、空気の通り道である気管支炎症を起こしている状態を指します。ウイルス感染によって発症する急性気管支炎が最も一般的です。ウイルスに抗菌薬抗生物質)は無効なので、治療に抗菌薬は必ずしも使われません。ここでは、気管支炎の治療について解説します。

1. 鎮咳薬(咳止め)、去痰薬(痰切り)

急性気管支炎は喉かぜや鼻かぜを起こすようなウイルスによる炎症が、気管支まで波及することによって発症することが多いです。炎症で気管支が刺激されるため、強い咳が出ることが特徴的です。痰はほとんど出ない人から多く出る人まで様々ですが、黄色いドロっとした痰が出る人は肺炎や、細菌による気管支を起こしている可能性があり要注意です。

鎮咳薬(ちんがいやく)は咳の程度を軽くする効果が、去痰薬(きょたんやく)は痰の量を減らす・粘度を下げてくれるなどの効果が期待できます。しかし、気管支炎そのものを早く治す効果はありません。したがって、鎮咳薬や去痰薬の使用は必須ではありません。つらい咳や痰があるだけでもそれなりに体力を消費しますから、症状が辛い人は使ってみるのも立派な選択肢と考えられます。

近年は医療機関で処方されるものと同様の鎮咳薬・去痰薬も多く市販されています。そのため、これらをもらうために医療機関を受診する必要は必ずしもありません。ただし、上述したように肺炎や細菌性気管支炎が考慮されるような痰が出る人は、医療機関を受診してください。

2. 解熱薬

気管支炎は主にウイルスが気管支に炎症を起こした状態であり、その他の感染症と同様にしばしば熱が出ます。熱があると体力的にも辛くなるので、熱そのもので辛い人は躊躇なく解熱薬を使用して問題ありません。

熱を下げると治りが悪くなるというような説もありますが、十分に証明されたものではなく、希望に応じて解熱薬を使用してよいものと思われます。

なお、38℃以上の発熱が何日も続くような人では、一般的なウイルス性の気管支炎よりも肺炎や細菌性の気管支炎の可能性が高まります。肺炎や細菌性の気管支炎に対しては抗菌薬を用いるなど治療方針も変わってくるので、市販の解熱薬で様子を見ないで医療機関を受診すべきです。

3. 抗ウイルス薬

抗ウイルス薬は特定のウイルス自体を標的として作用する薬であり、気管支炎そのものの治りを早くしてくれることが期待されます。しかし、気管支炎の人は全員が使用すればよい、というような薬ではありません。副作用や高額な薬価が懸念されるためです。

急性気管支炎の多くは、原因となっているウイルスが特定されないまま自然治癒します。したがって、わざわざ原因となっているウイルスを特定する検査をして抗ウイルス薬の使用が検討されるのは、重症のウイルス性気管支炎の人など特殊なケースに限られます。

インフルエンザウイルスによる気管支炎に対しては、日本ではタミフル®(オセルタミビル)やイナビル®(ラニナミビル)などの抗インフルエンザ薬が多く使われます。しかし、若くて持病がない人であれば、これらの薬を服用するメリットが大きくないことが多いと言わざるをえません。そのため、欧米などではインフルエンザに対して抗インフルエンザ薬を使用する頻度は、日本と比較して極めて少なくなっています。(関連コラム「感染症内科医が伝えたいインフルエンザの治療薬について」)

4. 抗菌薬(抗生物質)

かぜや急性気管支炎の原因の多くはウイルス感染によるものです。抗菌薬は名前の通り、菌に対する効果はありますが、ウイルスに対する効果は全くありません。むしろ、鎮咳薬や解熱薬と比較するとアレルギーなどの副作用を起こすリスクが高く、薬剤耐性菌を無駄に誘導してしまうため、ウイルス感染に対して抗菌薬を使うのは一般に有害です。

急性気管支炎においては、マイコプラズマ百日咳などの菌に対しては抗菌薬が有効ですが、ウイルスによる急性気管支炎では抗菌薬を使うべきではありません。

ウイルスによる気管支炎か、細菌性の気管支炎や肺炎かを見極めるのはお医者さんの腕の見せ所です。たとえCT検査やウイルス検査などの精密検査を行ったとしても、それらの結果から必ずしも容易に原因を判別できるものではないからです。

患者さんの立場から抗菌薬の必要性を判断することはほぼ不可能ですが、抗菌薬にはメリット・デメリットが両方あることをよく理解して、お医者さんに必要以上に抗菌薬を求めないことが賢い医療機関のかかり方と言えます。

5. 気管支拡張薬

気管支拡張薬は、気管支を広げることによって空気の通りを良くしてくれる薬です。通常は急性気管支炎の治療には使われず、COPDなどの病気で月単位〜年単位以上のしつこい気管支炎を起こしている人に使用されます。また、喘息の治療薬としても使われます。

主に子どもでは、ホクナリン®テープ(ツロブテロールテープ)など、身体に貼るタイプの気管支拡張薬が気管支炎に対して使われることがあります。これは子どもでは喘息発作なのか気管支炎なのか、分かりにくいためとも言われています。

しかし、こうした気管支拡張薬は気管支を物理的に広げてくれるものの、決して「咳止め」ではなく、貼り薬では即効性もありません。動悸や手の震えなどの副作用が出ることも多く、喘息でない気管支炎の人が安易に使用するのは推奨されません。

参考文献:

日本呼吸器学会呼吸器感染症に関するガイドライン作成委員会(編):呼吸器感染症に関するガイドライン成人気道感染症診療の基本的考え方, 日本呼吸器学会, 東京, 2003