はくせん
白癬
白癬菌(かびの一種)による皮膚感染症の総称
9人の医師がチェック 153回の改訂 最終更新: 2022.03.30

白癬(水虫・たむし)の人が知っておいたほうが良いこと:予防や対策など

家族や自分が白癬(水虫・たむし)になったら、周りにうつるのではないか、治らないのではないかなど気になることが出てくると思います。ここでは、生活に関わる疑問をはじめ、治療の注意点や予防方法など、白癬になった人が知っておくとよいことについて詳しく説明します。

1. 白癬についてのよくある疑問

ここでは白癬になりやすい季節や、なりやすい人について詳しく説明します。

一年のうち白癬になりやすい季節はいつか?

白癬の原因となる白癬菌はどの季節でも感染を起こしますが、足白癬(水虫)で症状を自覚しやすいのは菌が増える高温多湿の季節です。そのため、梅雨から夏にかけて足白癬にかかったと感じる人が増えます。しかし、実際にはもともと感染していた白癬菌が増殖して症状が強くなっているだけのことがほとんどです。

子どもや赤ちゃんでも白癬になるのか?

子どもや赤ちゃんでも白癬にはなりますが、白癬にかかっている人の1.5%程度と少ないです。子どもは大人と比較して足白癬より体部白癬や頭部白癬になる人の割合が多いことが特徴です。足白癬が少ない理由として子どもや赤ちゃんは靴を履いている時間が大人に比べて短いことなどが考えられます。

男性と女性では白癬にどちらがなりやすいか?

足白癬や爪白癬にかかる人数は、若干男性に多いものの男女で大きな差はありません。体部白癬や頭部白癬などは全般的に男性が多いです。

足白癬や爪白癬は足が蒸れることが原因になるため、男女を問わず、靴を長時間履く習慣のある人に多くみられます。頭部白癬、体部白癬が男性に多いのは、格闘技などのコンタクトスポーツをする人が男性に多いことを反映しています。

2. 白癬の治療に関する疑問:市販薬、完治、再発など

白癬は治りにくいというイメージがあるかもしれません。しかし、適切な治療をきちんとすれば治る病気です。ここでは治療の疑問点について詳しく説明します。

市販薬を使うときの注意点は何か

医療機関で処方される薬と同様の成分が含まれた市販薬があります。このような薬をスイッチOTC薬と呼びます。手軽に入手できるため、受診する時間がない場合などに利用できる利点があります。

市販薬を検討している人は次のことに注意してください。

  • 白癬と診断がついてから使用する
  • 使用中に症状が悪化した場合には、中止して医療機関を受診する

◎白癬と診断がついてから使用する

足がジュクジュクしてかゆかったら、足白癬(水虫)だと思って市販の水虫薬をつけたくなるかもしれません。しかし、足のかゆみの原因となる病気は他にもあり、お医者さんであっても症状のみから足白癬かどうか判断するのは難しいです。白癬以外の病気が原因のときは、水虫の薬では効果がないばかりか、皮膚の荒れを起こしてさらにかゆみが悪化することがあります。

また自己判断で水虫薬をつけ始めると、その後に医療機関に受診したときに、白癬菌の検査で確定診断がつかないことがあります。白癬かもしれないと思ったときは、まず受診して診断をしてもらってください。

その後、処方してもらった外用薬がなくなり医療機関に受診する時間がない場合や、再発した場合には手軽に入手できる市販薬が選択肢になります。しかし、自己判断で治ったと判断することは難しいため、治癒しているかどうかを見てもらうために定期的に受診することが望ましいです。

◎使用中に症状が悪化した場合には、中止して医療機関を受診する

市販薬を使用して症状が悪化した場合はすみやかに中止してください。市販薬は処方薬と主な成分は同じものの、かゆみ止めなどの成分が追加されていることがほとんどです。これらの添加物によってかぶれを起こすことがあります。かぶれの原因となりやすい添加物はクロタミトン、リドカイン、ジブカインなどです。市販薬でかぶれたときには使用を中止して医療機関に受診してください。

かゆみを治す方法はあるのか

処方薬である抗真菌薬にはかゆみ止めの成分は含まれていませんが、市販薬ではかゆみ止めの成分が配合されていることが多いので試してみるのも一つの手です。また、かゆみ止めの入っていない抗真菌薬であっても、塗り始めて2週間程度でかゆみは落ち着いてきますので、根気よく治療を続けてみてください。

ただし、抗真菌薬を適切に使用してもかゆみがおさまらない場合には、かぶれを起こしている可能性がありますので、お医者さんに相談してみてください。

白癬に効果のある漢方薬はあるのか

漢方薬だけで白癬を完治させることは難しいです。白癬の原因は白癬菌という真菌(かび)なので、真菌の増殖抑制や殺菌効果のある抗真菌薬での治療が必要です。白癬の治療には効果がはっきりしている抗真菌薬の使用をお勧めします。

白癬は完治するのか

白癬は十分な治療をすることで完治できます。症状が改善したからといって自己判断で途中で治療を中止したり、症状のある部分のみに外用薬を使用していると、白癬菌が身体に残ってしまい完治しません。完治のためにはお医者さんに指示された量の薬を、指示された期間継続することが重要です。

白癬は再発するのか

白癬が完治しても再感染することがあります。家族に白癬の人がいたら一緒に治療する、家の中に白癬菌が残らないように掃除や洗濯を十分にする、共同浴場やプールなど公共の場に行った後はきれいに足を洗う、などの予防を心がけてください。

一方、不十分な治療によって、いったんおさまった症状が再び現れて再発したように感じる場合があります。毎年夏になると足白癬になる、という人はこのケースが多いと考えられます。足白癬の塗り薬を使いはじめると約2週間程度で症状がよくなりますが、この時点では、まだ白癬菌が残っているため、治療を中止してしまうと、翌年の夏などに症状が再び強くなり再発したように感じます。

また、足白癬では症状がある部分だけでなく、そのまわりの部分にも白癬菌がいます。そのため、症状がない部分も含めて両足の足裏と足指の全体に薬を塗らないと、完治せずに再び症状が現れてしまいます。

セルフケアで効果があるものは?:酢、アルコール、重曹、石鹸など

水虫を治す方法として酢や重曹を用いる方法を聞いたことがあるかもしれません。しかし、酢や重曹などで効果があるというはっきりとした報告はありません。一時的に症状が軽くなったように見えた場合でも、白癬菌がいなくなったわけではないので、白癬菌が増えると再び症状が現れます。

セルフケアとしてよく紹介されているものについて、次に詳しく説明します。

◎アルコール、重曹、酢など

アルコールに白癬菌を死滅させる効果はありません。アルコールは皮膚を乾燥させるため、かえって皮膚の荒れを起こして白癬の症状を悪化させることも少なくありません。同様に酢や重曹を用いた場合も、皮膚炎を起こして症状が悪化しがちです。効果があるとはいい難いうえに、症状を悪化させる可能性があるこれらのセルフケアを試みるよりも、通常の抗真菌薬での治療をお勧めします。

◎石鹸

白癬菌に効果のある成分やかゆみ止めが配合された石鹸もありますが、完治させることは難しいです。また、配合された成分で肌荒れを起こすこともあるので注意が必要です。使用した後に、皮膚のかゆみや刺激感が起きた場合には使用を中止してください。

色々なセルフケアがありますが、白癬かもしれないと思った場合には自分の判断で薬を使ったり、他のもので対処せずに、まずは医療機関で適切な治療を受けることが、完治を目指すもっとも早い方法です。

3. 白癬の予防についての疑問

白癬にかかると長期間の治療が必要であったり、同居する家族などにうつしてしまうなど気がかりが増えます。白癬にかからないように予防することができれば、これらの心配も減ります。ここでは予防法について詳しく説明します。

白癬を予防するための対策には何があるか

白癬は菌が付着しただけでは感染を起こさず、皮膚の角質内に入ることではじめて感染して症状を起こすようになります。そのため、皮膚の角質内への侵入を防ぐことが予防法になります。場面ごとの予防法を説明しましたので、当てはまる項目を参考にしてください。

◎日常生活での予防方法

  • 皮膚は優しく洗う
  • 足を蒸れた状態にしないようにする
  • 身体を清潔に保つ

皮膚に傷があると、ない場合に比べて白癬菌の感染が早く起こると言われています。きれいに洗おうとしてゴシゴシこすると皮膚表面に細かな傷がついてしまうので、泡立てた石鹸で優しく洗うようにしてください。また、白癬菌は高温多湿の環境で増殖するので足を蒸らさないようにすることも大事です。1日のうち靴や靴下を履かない時間を作るようにしてください。

◎公衆浴場やプールに行った後の予防方法

  • 利用後は足を乾燥させてから靴下、靴を履く
  • 帰宅後に足を洗う

公衆浴場やプールを利用した後には、足の裏に白癬菌が付着していると考えて対処してください。これら大勢の人が素足で使う場所を歩いた後には、足をしっかり乾燥させてから靴下や靴を履くようにします。また、帰宅後には足を洗うことをお勧めします。皮膚に傷がある場合には12時間程度で白癬菌が角質に侵入すると言われているので、施設の利用後、半日以内を目安に洗うようにすると良いです。

◎ボディコンタクトのあるスポーツをしている場合の予防法

  • 練習、試合後にシャワーを浴びる

格闘技などのボディコンタクトがあるスポーツでは、体部白癬や頭部白癬がうつることがあります。練習や試合をした後には白癬菌が付着している可能性がありますので、できるだけ早くシャワーで洗い流すことが重要です。

◎家族に足白癬の人がいる場合の予防法

  • 足の裏を傷つけないように注意する
  • 足をこまめに洗う
  • バスマット、スリッパ、タオルを共用しない
  • 床の掃除をまめにして乾燥させる
  • 市販の白癬の薬を予防薬として使用する

家族に足白癬や爪白癬の人がいる場合にはうつりやすい環境にあります。足の裏を傷をつけないように注意しながら泡立てた石鹸でやさしく洗い、十分に乾燥させます。白癬の家族とバスマット、タオル、スリッパを別にしたり、こまめにを洗濯したり、掃除をしたりする予防策も重要です。

市販の白癬の薬を足の指から足裏全体に塗ることも予防になります。しかし、市販薬には肌荒れを起こしやすい成分も含まれているため、肌荒れが起きた場合には速やかに使用を中止して医療機関を受診してください。

予防薬はあるのか

家族に足白癬の人がいる場合など、白癬に効果のある外用薬を使用することで予防ができます。しかし、感染予防の目的で薬を医療機関で処方してもらうことはできません。

市販薬を使い始めて肌荒れなどが現れた場合には、使用をやめて医療機関を受診してください。

アルコール消毒液は有効か

アルコールで足や床をふいても白癬の感染予防効果はありません。普通の石鹸でしっかり洗い、乾燥させることが感染の予防になります。家の中もアルコール消毒よりも拭き掃除を行って、きちんと乾燥させることで白癬菌の量を減らすことができます。白癬菌を減らすことで、他の家族への感染や自分への再感染の予防につながります。

4. 足白癬、爪白癬の人の生活についての疑問

症状を悪化させない靴や靴下の選び方と、周りにうつさないための方法を詳しく説明します。

靴・靴下の選び方は?

白癬菌は高温多湿の環境で感染を起こしやすく、増殖しやすいです。そのため、靴や靴下は通気性の良いものを選ぶようにしてください。さらにオフィスワーカーの人では会社でサンダルに履き替えるようにすると、蒸れを軽減できて効果的です。靴下は5本指ソックスがおすすめです。通気性がよく足の指の密着や指同士のこすれを予防し、症状の悪化を防ぎます。

靴のケア方法は?

靴の中は蒸れやすく白癬菌が増殖するにはとても良い環境です。白癬を悪化させないためには靴のケアも大切です。

  • 靴をよく洗う、もしくはよく拭く
  • 毎日同じ靴を履かない
  • 長時間靴を履く場合には時々脱いで通気をよくする

靴下を履いていても、靴の中には白癬菌が付着したアカが残ります。洗える靴の場合にはよく靴を洗い、洗えない場合には、中を濡れた布で拭いてアカを取り除きます。いずれもケア後にしっかりと乾燥させることが重要です。

毎日同じ靴を履くと蒸れが残って白癬菌が増殖するので、靴は2-3足を交互に履きます。また長時間靴を履く場合には、時々脱いで蒸れないようにしてください。

靴下やタオルの洗濯は一緒にしてよいのか

白癬の人が使った靴下やタオルを一緒に洗濯をしてもうつることはありません。洗濯をすると白癬菌を取り除くことができるので、バスマットやタオルなどはこまめに洗濯することが重要です。

白癬をうつさないための方法は

足白癬や爪白癬は歩行によって自宅内に白癬菌が広まりやすいため、他の家族にうつさない、また自分が再感染しないための対策が必要です。具体的な対処法は次の通りです。

  • バスマットやスリッパは共用しない
  • バスマットやタオルはこまめに洗濯する
  • スリッパは十分に拭き掃除をして乾燥させる
  • 床や畳は濡れた雑巾で十分に拭き、乾燥させる
  • 部屋のすみや家具の下までしっかり掃除する

バスマットや玄関マット、トイレのスリッパなどを介して感染が広がる可能性があるので、共用しないようにしてください。洗濯できるものはこまめに洗濯をして、スリッパなど洗えないものは拭き掃除をして、十分に乾燥させてください。

また、床や畳なども白癬菌が付着している可能性があるので、濡れた雑巾で十分にふいて除去し、しっかり乾燥させてください。

また、剥がれ落ちたアカにいる白癬菌は長期間にわたって生き続けるので、ごみがたまりやすい部屋のすみや、家具の下なども重点的に掃除をするようにしてください。

参考文献

清佳浩, 2011 年次皮膚真菌症疫学調査報告, Med. Mycol. J Vol. 56J. J129-J135, 2015(2020.2.26閲覧)