結核の検査:ツベルクリン反応・レントゲン検査・CT検査など
結核でしか現れない
目次
1. 結核の検査にはどんなものがある?
しばしば行われる結核の検査は何種類かあります。主なものは以下です。
細菌 学的検査(痰や胃液などの検査)- 画像検査(
レントゲン 検査やCT 検査) - 血液検査
- ツベルクリン反応
これらの中でも特に細菌学的検査が重要になります。細菌学的検査は
ここからはそれぞれの検査について説明します。
2. 結核の細菌学的検査
細菌学的検査は、大きく分けると以下の検査になります。
- 塗抹(とまつ)検査
培養 (ばいよう)検査- 遺伝子検査
詳しく見ていく前に結核菌について少し確認しておくことがあります。
結核菌は抗酸菌(こうさんきん)と呼ばれるグループに属する細菌です。抗酸菌には細かいタイプが100種類ほどあり、結核菌はその一つです。抗酸菌はその性質から、結核菌と非結核性抗酸菌に大別できます。
塗抹検査では抗酸菌を探します。しかし、結核菌と非結核性抗酸菌を見分けることができません。つまり、塗抹検査で抗酸菌が見つかっても結核とは限りません。塗抹検査は非常に簡便に素早く行える検査ですが、結核かどうかを見分けるには遺伝子検査や
塗抹検査
塗抹検査は顕微鏡で細菌の存在を確認する検査です。調べたいもの(
観察の際、菌を見やすくするために色を付ける工夫がなされます。通常の細菌感染の原因菌を見つける場合にはグラム染色と呼ばれる方法が取られます。しかし、グラム染色では抗酸菌を見つけることができません。そのために、抗酸菌の感染を疑う場合は、チールニールセン法(Ziehl-Neelsen法)あるいは蛍光
塗抹検査の利点は速さです。30分ほどもあれば、検体を染色して顕微鏡で検査することが可能です。見つかった抗酸菌の量を評価するガフキーという基準があります。ガフキーは0号から10号の11段階で規定されています。0号は菌が見つからない状況のことです。10号は最も多く菌が見られている状態を指します。
塗抹検査は非常に簡便に行える一方で、以下のような弱点もあります。
- 検体の中に抗酸菌がいるかどうかを判断できるが、抗酸菌の種類まではわからない
- 検体に含まれている菌の量が少ないと見逃されることがある
塗抹検査で抗酸菌が見えても、それが結核菌なのか非結核性抗酸菌なのかの判断はつきません。
また、検体に含まれている菌の量が少ないと発見しにくいことも弱点です。発見しやすくするために、痰などの検体を3回採取して検査を3回行うことが多いです。しかし、それでも本当は結核なのに結核菌が見つからないということがしばしば起こります。
培養検査
培養検査は、抗酸菌
培養検査を行うと増やした菌に対して追加の検査を行うことができるため、菌の種類まで判定できるようになります。また、結核菌に対する治療薬の有効性(薬剤感受性)も検査で調べることができます。
その一方、培養検査には長い時間がかかるという弱点があります。結核菌がうまく増えて菌名が分かるまでに平均で3-4週間ほどかかります。その後治療薬の有効性(薬剤感受性)を調べた場合にはさらに1-2週間かかります。この弱点を補うために液体培地と呼ばれるものがあります。液体培地では従来よく使われている小川培地よりも早く菌が発育します。培養検査に液体培地が用いられることが増えてきています。
遺伝子検査(PCR法、MTD法)
結核の遺伝子を検出する検査があります。主に実用されているこのタイプの検査には、PCR法とMTD法があります。
PCRとはPolymerase Chain Reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)の略です。PCRはDNAを増幅させる方法です。DNAに着目して結核菌の有無を調べます。MTD法ではリボソームRNAという物質を増幅させて結核菌がいないかを調べます。
このタイプの検査は、検体を外部施設に送って検査してもらっても数日から1週間ほどで結果が出ます。
3. 結核の画像検査
結核を疑った場合に、レントゲン検査やCT検査は非常に有力です。何より撮影したらすぐに結果が見えることは大きな武器になります。
結核は様々な陰影を生じると言われています(画像検査では本来は存在しない白い影が見えた場合、それを陰影と呼びます)。結核で現れやすい陰影の特徴はわかっています。以下がその例になります。
- 多発する小粒状影
- 空洞影
- tree-in-bud appearance
- air bronchogramを伴う浸潤影
- 気道壁の肥厚
- 小葉間隔壁肥厚
画像診断の専門用語がたくさん出てきました。専門的な話になりますので、医療者でない方は読み飛ばして構いません。しかし、結核の患者を診療する医師であれば当然知っておかなければなりません。
レントゲン検査やCT検査で上記の陰影が見られた場合は、肺結核を疑わなければなりません。
また、レントゲン検査で肺に空洞が見られる時は排菌しやすいと言われています。そのため、レントゲン検査で空洞影がある場合は特に要注意です。
ここで注意しなければならないのは、画像検査でどんなに結核らしい陰影が見られても結核であると断定はできないということです。結核であることを証明するには体内に結核菌がいるということを証明しなければなりません。画像検査では結核菌の存在を証明することはできないのです。
4. 結核の血液検査
結核の疑いで血液検査を行うことがあります。IGRAという検査を使います。
IGRAは結核菌に感染したことがあるかどうかを調べる検査です。以前に感染したことがあるか、現在感染している人の血液は、結核菌に反応する状態になっています。
IGRAのしくみを少し詳しく説明します。
身体が結核菌に感染すると、免疫の機構が結核菌を排除するように働きます。ここで、免疫の反応は結核菌が体内に入ってきたらすぐに起こるのではなく、しばらく経ってから免疫の反応が起こります。
結核菌の記憶があれば、免疫は結核菌をほかのものと見分けて攻撃することができます。結核菌の目印になるのが抗原という物質です。結核菌が持っている抗原を頼りに、免疫は結核菌が侵入したことを認識します。免疫細胞はインターフェロンγ(ガンマ)という物質を放出します。インターフェロンγは周りの免疫細胞に対して指令を出す働きがあります。
IGRAは、結核菌の抗原が血液に入るとインターフェロンγが放出されることを測定する検査です。採取した血液に、結核菌の
IGRAの中に2種類の検査があります。結核菌の特異的抗原を用いて血液に反応させた後に放出されたインターフェロンγの量を測定するのがクオンティフェロン(QFT)検査です。インターフェロンγを作る
IGRAは結核菌に感染すると陽性(結核の疑いあり)になります。感染と発病が違うことには注意が必要です。結核菌に感染したけれど発病していない人(潜在性結核)も陽性になります。
画像検査と同じく、血液検査の結果がどんなに結核らしくても結核と断定することはできません。結核であることを証明するには体内に結核菌がいるということを証明しなければなりません。血液検査では特殊な場合を除いて結核菌の存在を証明できません。
例外として粟粒結核(ぞくりゅうけっかく)という状態があります。粟粒結核は、結核菌が血液中に侵入することで全身に感染が広がっている状態です。粟粒結核の疑いがある場合は、血液を用いた培養検査を行うことになります。
5. ツベルクリン反応
結核を見つける検査としてツベルクリン反応(ツ反)があります。ツ反は昔から使われているので聞いたことがある人も多いでしょう。
ツ反は結核菌に対する抗体があるかを見る検査です。ツ反には弱点があります。
- 過去に結核になった人は治療後もずっとツ反陽性になる
- BCG注射(結核の予防接種)を打ったあとにはツ反陽性になる
BCG注射を打ったあとで結核に感染したかどうかはツ反で見分けることができません。
現在の予防接種の状況では、1歳になる前に全ての赤ちゃんがBCG注射を受けることになっています。そのため、近いうちにツ反はあまり意味のない検査になることが予想されます。
ツベルクリン反応では、特殊な試薬を溶かした液体を皮内注射して48-72時間後に皮膚の変化を見ます。現在推奨されているツベルクリン反応は、BCGの予防接種を受けたことがあるかどうか、また結核患者と接触したことがあるかによって、判定基準が変わります。
【ツベルクリン反応の判定基準】
結核患者との接触あり | 結核患者との接触なし | |
BCG接種あり | 硬結15mm以上または |
硬結20mm以上または発赤40mm以上 |
BCG接種なし | 硬結5mm以上または発赤10mm以上 | 硬結15mm以上または発赤30mm以上 |
硬結(こうけつ)とは硬くなることです。発赤(ほっせき)は赤くなることです。発赤と硬結以外にも、
いずれにしても、結核の診断は結核菌の存在を証明して初めて確定します。ツベルクリン反応のみで結核の有無を判断することは難しいです。しかし、結核が最も疑わしい状況であるのになかなか細菌学的検査で結核菌が見つからないこともあり、その場合の診断の補助としてツベルクリン反応は選択肢に挙がります。
6. どうやって結核の診断をつけるのか?
結核の診断は結核菌の存在を証明した時に確定します。そのためには、結核を疑われる人に対して検査を行わなければなりません。
1. 結核が疑われる人に画像検査を行う
- 2週間以上咳や痰、発熱のある人
- 理由なく体重の減少する人
- 結核患者と接触した人
2. 結核が疑わしい人及び検診を受診した人に対して画像検査を行う
3. 病状と画像検査で結核を否定できない人に対して細菌学的検査を行う
- 抗酸菌塗抹検査
- 抗酸菌培養検査
- 結核遺伝子検査
細菌学的検査で結核菌が存在することがわかれば診断が確定しますが、結核菌の存在が証明できなかった場合はIGRAを用いてさらに
7. 結核の診断をつける際のポイント
結核は簡単には診断をつけることができない感染症です。そのため、繰り返し検査を行うことでなんとか診断がつくということも多いです。
結核の診断をつける際にもっとも重要なのは、結核かもしれないと疑うことです。結核を疑わないと検査をすることができませんので、まずは疑って検査を始めることが大切になります。その上でどういったポイントに注意して結核かもしれないと疑えばよいのでしょうか?
気を付けるべきポイントを挙げます。
- 2週間以上続く咳や痰、発熱
- 原因の分からない
倦怠感 や体重減少 - なかなか改善しない肺炎
- 持病(HIV感染症、腎不全、糖尿病、肺がんなど)のある人が起こした肺炎
- 同居している家族に結核患者がいる、あるいは過去に結核になったことがある人がいる
これらに該当する場合は結核を考えなくてはなりません。医療機関を受診するようにしましょう。特に、呼吸器内科・感染症内科・一般内科を受診することが望ましいです。
参考文献
日本結核病学会/編, 結核診療ガイド, 南江堂, 2019