いんのうすいしゅ
陰のう水腫
陰のうに水がたまる病気で先天的なものと他の病気が原因のことがある
8人の医師がチェック 100回の改訂 最終更新: 2022.02.09

陰のう水腫で知っておくとよいことについて

デリケートな場所であるため、陰のうにまつわる悩みは打ち明けにくいものです。一人で抱え込んでしまっているがために、不安な気持ちで過ごしている人も少なくないかもしれません。このページで患者さんからよく受ける質問をベースに知っておくとよいものを説明していきます。

1. 陰のう水腫は自然治癒することもあるが受診が必要

陰のう水腫は自然に治ってしまうことがある病気です。ですので、陰のう水腫がみつかった場合、まず様子をみるというやりかたは理にかなっていると言えます。 ただし注意しなければならないのは、必ず受診した上で経過観察を選ぶということです。後述しますが、陰のう水腫の症状に似た病気はいくつかあり、中には精巣腫瘍のように一刻を争う病気もあります。繰り返しになりますが、自己判断での経過観察は危険です。お医者さんから経過観察でも良いと言われた場合に選ぶようにしてください。

経過観察で良いのかの判断軸や治療に踏み込むタイミングは、大人と子どもでやや異なるので、それぞれに場合分けして説明します。

子どもの場合

子どもの陰のう水腫の治療を考えるとき、年齢が1つの判断材料になります。1歳未満であれば自然に治りやすいことがわかっているので、しばらく様子をみることが多いです。一方、1歳を超えて見つかった場合や1歳未満に見つかって1歳を超えても治らない場合は治療が必要になることが多いのもわかっているので、手術を積極的に検討します。

とはいえ、命に関わる病気ではないので、すぐに手術しなければならないことはありません。大きくなるスピードや違和感の程度に加えて、本人の様子や親御さんの考え方なども踏まえて、治療のタイミングが決められます。

大人の場合

大人になって見つかる陰のう水腫の多くは少量であれば自然に治るので、まずは様子見となります。「なかなか治らない」「増大傾向がある」「溜まっている液体の量が多い」といった場合には治療が検討されます。

治療には手術と穿刺吸引治療の2つがあるのですが、増大のスピードや再発のしやすさ、本人の考え方などを判断軸にしてどちらかを選びます。例えば、初めて陰のう水腫になって「早く治療をしてほしい」という人は穿刺吸引治療を選ぶことが多いですし、再発を繰り返していて「もう再発させたくない」という人は手術を選ぶことが多いです。

どちらの治療にもメリットとデメリットがあるので、最終的には自分の考えにあったものを選ぶということになります。「こちらのページ」で2つの治療法について詳しく説明しているので、参考にしてみてください。

2. 陰のう水腫と混同されやすい病気について

陰のう水腫はあまり聞いたことのない病名のせいか、イメージがつきにくいようです。ここではよく混同されている「脱腸鼠径ヘルニア)」と「水腎症」との違いについて説明します。

陰のう水腫と脱腸(鼠径ヘルニア)はどう違うのか

陰のうに液体が溜まって大きく膨らむのが「陰のう水腫」で、腹壁から腸が飛び出して足の付け根付近がぽっこりと膨らむのが「脱腸」です。身体の一部分が盛り上がるという点では共通していますが、場所や中身が違います。陰のう水腫と脱腸は違う病気ではあるのですが、同時に見つかることがあり、その場合は両方の治療が必要になります。 脱腸鼠径ヘルニア)についてより詳しく知りたい人は「こちらのページ」で説明しているので、参考にしてください。

陰のう水腫と水腎症はどう違うのか

ともに「水」が病名に入るからか、しばしば2つの病気を混同している人がいます。水腎症腎盂(腎臓の一部で尿管と腎臓をつなぐ構造物)や尿管が閉塞して、腎盂が腫れ上がる病気です。腎臓は身体の中にあるので、水腎症が起こっても外見上に変化はありません。対して、陰のう水腫は陰のうに水が溜まる病気です。陰のうとは精巣を収める男性特有の臓器で、陰のう水腫になると陰のうが腫れ上がった様子が観察できます。 水腎症についてより詳しく知りたい人は「こちらのページ」で説明しているので、参考にしてください。

3. 陰のうが腫れ上がる病気は他に何があるのか

陰のう腫大(陰のうが腫れて大きくなること)が症状となる病気は陰のう水腫以外にもいくつか存在します。ここでは代表的な病気として「精巣腫瘍」「精巣炎」「精巣上体炎」について説明します。

陰のう水腫と精巣腫瘍はどう違うのか

陰のう水腫では陰のう内に液体が溜まって陰のうが膨らみます。不快な症状があらわれる人もいますが生命に影響はなく、自然治癒することもあります。一方で、精巣腫瘍のほとんどは悪性腫瘍、つまり「がん」です。膨らみの原因は精巣が大きくなるためで、陰のう水腫との区別は比較的容易にできます。精巣腫瘍転移しやすく、がんの中でも進行が早いため、速やかに受診・治療することが大切です。

精巣腫瘍について詳しくは「こちらのページ」を参考にしてください。

陰のう水腫と精巣炎はどう違うのか

精巣炎精巣腫瘍と同じく、精巣が大きくなることによって、陰のうが腫れます。精巣炎の主な原因はムンプスウイルスおたふく風邪の原因ウイルス)の感染によるものです。陰のう水腫とは異なり、陰のうに激しい痛みが現れ、発熱することが多いです。

精巣炎については「こちらのページ」を参考にしてください。

陰のう水腫と精巣上体炎はどう違うのか

精巣上体は精巣に乗っかるような形で存在する臓器です。精子を一時的にためておく働きがあります。精巣上体炎に感染が起こると、精巣炎と同様に陰のうが腫れます。精巣上体炎を起こす原因はさまざまで、高齢者では腸内細菌、若年者には性感染症の原因菌(クラミジア淋菌など)が多いとされます。精巣炎と同様に発熱が痛みがみられ、これが陰のう水腫の症状との違いです。 精巣上体炎については「こちらのページ」を参考にしてください。

参考文献

・「標準泌尿器科学」(赤座英之/監 並木幹夫、堀江重郎/編)、医学書院、2014
・「泌尿器科診療ガイド」(勝岡洋治/編)、金芳堂、2011