こうりんししつこうたいしょうこうぐん
抗リン脂質抗体症候群 (APS)
身体の中に血栓でできやすくなる膠原病の一種で、特に女性に多い。流産の原因となることがある
11人の医師がチェック 134回の改訂 最終更新: 2021.11.28

抗リン脂質抗体症候群とは?症状、原因、検査、治療など

抗リン脂質抗体症候群は免疫の異常により身体のあちこちで血のかたまり(血栓)ができる病気です。できた血栓が脳や肺などに詰まることで脳梗塞肺塞栓症などを起こします。治療では血液をサラサラにする薬を用いて、血のかたまりができないようにします。

1. 抗リン脂質抗体症候群とはどんな病気か?

抗リン脂質抗体症候群は免疫に異常が生じて身体のあちこちで血のかたまり(血栓)ができる病気です。血栓が血流にのって脳や肺に詰まると脳梗塞肺塞栓症を起こします。また、妊娠時に赤ちゃんに栄養を届ける血管が血栓で詰まると流産してしまうことがあります。脳梗塞肺塞栓症流産を繰り返す場合には、抗リン脂質抗体症候群が原因となっていないか疑って検査する必要があります。

2. 抗リン脂質抗体症候群の症状

血のかたまりが脳や肺などに詰まることで、脳梗塞肺塞栓症の症状があらわれます。また、妊娠しているお母さんの場合には、流産の原因になることもあります。

抗リン脂質抗体症候群の代表的な症状としては以下のものがあります。

  • 身体の片側が動かしにくい、しゃべりにくい
  • 胸が痛い、息が切れる
  • 足のむくみや痛み
  • 流産を繰りかえす
  • 皮膚に潰瘍ができる

ここで挙げる症状が複数該当する場合や、繰り返している場合には、抗リン脂質抗体症候群が特に疑われる状況なので、医療機関への受診をお勧めします。それぞれの症状について詳しくはこちらのページで説明しています。

3. 抗リン脂質抗体症候群の原因

抗リン脂質抗体症候群は免疫の異常で起こる病気です。免疫は通常、外敵や異物だけを攻撃し、自分の身体には反応しないようになっています。しかしながら、抗リン脂質抗体症候群の人では自分の血管を構成するリン脂質に対して免疫反応が起きてしまいます。これにより血管内で血のかたまり(血栓)が出来やすくなり、それが脳や肺、赤ちゃんに栄養を送る血管に飛ぶことで、脳梗塞肺塞栓症流産を繰り返してしまいます。

こちらのページでは病気の名前の由来にもなっている「抗リン脂質抗体」についても説明しています。

4. 抗リン脂質抗体症候群の検査

抗リン脂質抗体症候群が疑われる人には問診、身体診察、血液検査、造影CT検査、超音波検査などが行われます。血液検査では抗リン脂質抗体がないか、造影CT検査と超音波検査では血のかたまりがないかという点に注意して検査が行われます。そして、検査結果をもとに抗リン脂質抗体症候群の可能性があるかを見極めていきます。それぞれの検査方法や注意点について詳しくはこちらのページで説明しています。

5. 抗リン脂質抗体症候群の治療

抗リン脂質抗体症候群の治療では、血のかたまりができるのを防ぐために血液をサラサラにする薬を使います。抗リン脂質抗体症候群でよく用いられる血液をサラサラにする薬としては、以下のものがあります。

  • ワルファリン(商品名:ワーファリンなど)
  • ヘパリン(商品名:ヘパリンカルシウム皮下注など)
  • アスピリン(商品名:バイアスピリン®など)

どの薬を使うかは病状に合わせて決められます。また、ワーファリンは赤ちゃんの奇形を誘発する副作用があるため、妊娠希望の人にはヘパリンやバイアスピリンを用いて治療を行います。それぞれの薬について詳しくはこちらで説明しています。

6. 抗リン脂質抗体症候群について知っておいてほしいこと

抗リン脂質抗体症候群は現在の医療では根治することが難しく、付き合いが長くなる病気です。そのため、病状によっては医療費の助成を受けることができます。

そもそも難病とは?

厚生労働省は原因が十分にわかっておらず治療法が確立されていない病気を指定難病(難病)と分類しています。難病患者の負担を軽減するため、一定の重症度を超える場合に医療費の助成があります。現在300を超える病気が難病に指定されており、抗リン脂質抗体症候群も難病のひとつです。抗リン脂質抗体症候群の中で、重症度基準の3度以上の人が医療費の助成を受けることができます。

難病の医療費助成の申請手順

難病の医療費助成の申請は大まかに以下の手順です。自治体ごとに準備する書類が異なりますので、詳しくは住んでいる都道府県の保健所にお問い合わせください。

  • 医療費助成に必要な以下の書類を準備します。(カッコ内は入手可能な場所)
    • 臨床調査個人票(厚生労働省のホームページ、福祉保健局のホームページ、市区町村の窓口)
    • 特定医療費支給認定申請書(福祉保健局のホームページ、市区町村の窓口)
    • 個人番号に関わる調書(市区町村の窓口)
    • 住民票(市区町村の住民票窓口)
    • 市区町村税課税証明書(市区町村の住民税窓口)
    • 健康保険証の写し
  • 臨床調査個人票の記入を医師(※)に依頼します。臨床調査票は難病であることの証明(診断書)でもあるので、医師による記入が必要になります。
  • 上記の書類を揃えて、住んでいる市区町村窓口で申請します。指定難病として認定されると、医療券が発行されます。要件が満たされないと判断された場合には不認定通知が発行されます。認定の決定は、指定難病審査会で行われ、結果が出るまでには3ヶ月程度の時間がかかります。

※臨床個人調査票は難病の臨床調査個人票の記入を都道府県知事から認定された医師しか作成できません。この都道府県知事から認定された医師を指定医と呼びます。主治医が指定医であるかは主治医に直接問い合わせてください。各自治体の福祉保健局のホームページなどにある一覧などでも確認できます。

その他、抗リン脂質抗体症候群の人が知っておくと良いことはこちらのページにまとめましたので、参考にしてください。

参考:

・埼玉県HP「難病対策
・東京都福祉保健局HP「難病医療費助成の支給認定申請手続等
・難病情報センター「原発性抗リン脂質抗体症候群