こうりんししつこうたいしょうこうぐん
抗リン脂質抗体症候群 (APS)
身体の中に血栓でできやすくなる膠原病の一種で、特に女性に多い。流産の原因となることがある
11人の医師がチェック 134回の改訂 最終更新: 2021.11.28

抗リン脂質抗体症候群の治療について:ワーファリン、ヘパリン、バイアスピリンなど

抗リン脂質抗体症候群では血のかたまりができるのを防ぐため、ワーファリン、ヘパリン、バイアスピリンなどの血液をサラサラにする薬を使って治療を行います。一方で、血が固まりにくくことによる副作用があるため、日常的に出血に注意しておく必要があります。

1. 抗リン脂質抗体症候群の治療

抗リン脂質抗体症候群の治療では、血のかたまりができるのを防ぐために血液をサラサラにする薬を使います。抗リン脂質抗体症候群でよく用いられる薬に以下のものがあります。

  • ワルファリン(商品名:ワーファリンなど)
  • ヘパリン(商品名:ヘパリンカルシウム皮下注など)
  • アスピリン(商品名:バイアスピリン®など)

それぞれの薬について、以下で説明していきます。

2. ワルファリン(商品名:ワーファリンなど)

ワーファリンはビタミンKの働きを抑えることで血液をサラサラにする薬です。ビタミンKは血液を固める物質の生成に関わっているので、働きを抑えることで反対に血液をサラサラな状態にすることができます。

ワーファリンの効果はPT-INRという血液検査の項目を見ることで、把握することができます。抗リン脂質症候群の治療においてもPT-INRの値を見ながら、ワーファリンの量を調整します。

服用時の注意点

ワーファリンを飲んでいる時にはビタミンKを多く含む食品を摂り過ぎないようにする必要があります。ビタミンKを多く含む食品を過剰に摂ってしまうと、せっかくのワーファリンの効果が減ってしまうためです。納豆やクロレラ、青汁などは多くのビタミンKを含むため、ワーファリンを服用している場合は控えるようにしてください。

また、ワーファリンの重要な副作用に催奇形性(赤ちゃんの奇形を誘発する作用)があります。そのため、抗リン脂質症候群の流産を予防するための治療としては使用できません。流産を予防する目的では、次に述べるヘパリンとバイアスピリンが用いられます。

3. ヘパリン(商品名:ヘパリンカルシウム皮下注など)

ヘパリンは点滴・注射タイプの血液をサラサラにする薬です。ヘパリンの強みは大きく2つ考えられます。

一つ目は薬を使い始めてすぐに効果が得られる点です。例えば、ワーファリンは薬を飲み始めてから効果がではじめるまでに5日から1週間程度かかります。そのため、新たな血のかたまり(血栓)が見つかり早急に血液をサラサラしたい状況ではワーファリンはあまり適した薬とは言えません。このような場合には、最初は入院してヘパリンを点滴で投与して、なるべく早く血液をサラサラな状態にし、ある程度状態が安定したところで内服でも続けられるワーファリンに切り替えていくことが多いです。

二つ目のヘパリンの強みは、ワーファリンとは異なり催奇形性がない点です。そのため、妊娠を希望する抗リン脂質症候群の人や流産を予防する目的で使用することができます。自宅でヘパリンの投与を行う場合には、皮下注射タイプのものを使って太ももやお腹の皮下に1日2回注射します。自分で注射するのは不安に感じるかもしれませんが、やり方はお医者さんや看護師さんが教えてくれます。

4. アスピリン(商品名:バイアスピリン®など)

アスピリン(商品名:バイアスピリン®など)は血小板の働きを抑えることで、血液をサラサラにする薬です。血小板は血液を固める役割をもつ血液細胞です。 抗リン脂質抗体症候群では脳梗塞を起こした場合に使われたり、また流産の予防目的に用いられます。ワーファリンのように血液検査結果を見ながらの用量調整は行わず、バイアスピリンであれば1日100mgと決められた量を内服します。

5. 血液をサラサラにする薬を使用中の注意点

抗リン脂質抗体症候群の治療では血液をサラサラな状態にしておくことは非常に大切なことですが、一方で、血が固まりにくくなることによる副作用が問題になることがあります。そのため、転倒・打撲しないように気をつけたり、日常的な出血に注意が必要です。日常生活の注意点はこちらで詳しく説明しています。

6. 治療のガイドラインとは?

近年、どこの病院でも一定水準以上の医療を受けられるようにするため、さまざまな病気に対して治療の指針が作成されています。これをガイドラインと言います。抗リン脂質抗体症候群のガイドラインは2019年にヨーロッパリウマチ学会(European League Against Rheumatism: EULAR)から発表されています。

Tektonidou MG, et al. : EULAR recommendations for the management of antiphospholipid syndrome in adults. Ann Rheum Dis 2019;0:1–9

日本では難治性血管炎に対する調査研究班から治療の手引きが出版されています。

https://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0466/G0001264

これらのガイドラインでは抗リン脂質抗体症候群の薬をどのように使い分けるか、治療が有効でない場合に、どのように治療薬を変更していったら良いかなどが紹介されています。