すいぞうがん
膵臓がん
膵臓にできるがんの総称。早期で発見するのが難しく、経過が最も悪いがんの一つ
15人の医師がチェック 206回の改訂 最終更新: 2023.05.30

膵臓がん(膵がん)とはどんな病気?症状・原因・検査・治療など

膵臓(すいぞう)がんは進行した状態で発見されることが多く、そのために治療が難しいがんの一つです。ここでは症状から診断、治療など膵臓がんについてのあらましを説明します。

1. 膵臓がんはどんな病気?

膵臓がんは膵臓の膵管(すいかん)の細胞から発生するがんで治療が難しいことが知られています。この膵臓がんはどのくらいの人に発生しているのでしょうか。
膵臓がんの統計学的な数値を「最新がん統計」をもとに説明します。

膵臓がんの罹患者数

膵臓がんの2019年の罹患(りかん)者数は、43,865人(男性:22,285人、女性:21,579人)でした。罹患者は病気にかかった人の数のことです。つまり、1年間に新たに膵臓がんと診断された人の数のことです。がんを部位別に分けて罹患者数で順位をつけたとき、膵臓がんは男性、女性ともに第6位です。

膵臓がんによる死亡者数

2020年の膵臓がんによる死亡者数は、37,677人(男性:18,880人、女性:18,797人)でした。がんの部位別の死亡者数の統計で膵臓がんは男性において第4位、女性において第3位となっています。

膵臓がんが発生しやすい年齢は?

年齢を重ねるとともに膵臓がんが発生する人は増加する傾向にあり、この傾向は男性、女性に共通しています。具体的には、50歳頃から膵臓がんを発病する人が増えはじめます。逆に50歳以下の人に膵臓がんが発生することはまれです。

膵臓がんの発生しやすさに性別で差はある?

10万人あたりに発生する膵臓がんの罹患者数は男性では36.3人、女性では33.3人です。男性の方がやや膵臓がんが発生しやすい傾向があります。

2. 膵臓はどんな臓器なのか:場所と周りの臓器

膵臓はあまり聞き慣れない臓器の名前だと思います。
膵臓はどこにありどんな働きをしているのでしょうか。膵臓のある場所や周りの臓器、役割などについて解説します。

■膵臓の場所
膵臓はみぞおちあたりの背中側(せなかがわ)にある臓器です。背中側にあるという意味で、後腹膜臓器(こうふくまくぞうき)というものに分類されます。上腹部にあります。

■膵臓の構造と周りの臓器

図:膵臓の解剖(膵頭部・膵体部・膵尾部)

膵臓の大きさは15-20cm程度です。細長い形をしています。部分を細かく膵頭部(すいとうぶ)、膵体部(すいたいぶ)、膵尾部(すいびぶ)という3つに分けて呼ばれることがあります。膵臓がんが発生しやすいのは膵頭部です。
膵臓の周りには十二指腸があります。膵臓と十二指腸は主膵管(しゅすいかん)という管でつながっています。膵臓の前には胃があります。膵臓の左隣には脾臓(ひぞう)があります。

■膵臓の役割
膵臓の役割は主に次の2つです。

  • ホルモンを分泌する(産生する)
  • 消化酵素を分泌する

膵臓は、インスリンやグルカゴンという血糖値の調節に必要なホルモンなどを作っています。インスリンは糖尿病の治療に用いることがあるので聞いたことがあるかもしれません。
もう1つの役割は食べ物を消化するための役割です。膵臓から分泌される膵液には、タンパク質や脂肪を分解する消化酵素が含まれています。膵液が食べ物と混ざることによって食べ物が分解されて体の中に吸収されやすくなります。
ホルモンを分泌する機能を内分泌(ないぶんぴつ)、消化酵素を分泌する機能を外分泌(がいぶんぴつ)とも言います。

3. 膵臓がんの症状:黄疸・腹痛・腹水など

膵臓がんの症状は多様です。体が黄色くなる黄疸(おうだん)や痛み(腹痛・背部痛)、腹水などです。

膵臓がんの初期症状

膵臓がんは初期には症状がないことが多く、進行して始めて症状が出ることの方が多いです。

膵臓がんの症状:黄疸など

膵臓がんの症状はがんによって胆汁の流れなどが悪くなったり、周りの神経に浸潤したりすることで現れます。病気の進行度によっても現れる症状は異なります。膵臓がんの症状は以下のものになります。

  • お腹が痛くなる
  • 食欲がなくなる
  • すぐに満腹になる
  • 体が黄色くなる(黄疸)
  • 体重が減少する
  • 背中の痛み(背中のあたりが重く感じる)
  • 下痢をする

膵臓がんの症状は漠然としているという感想を持たれるかもしれません。膵臓がんの症状は多様です。さらに症状から膵臓がんを診断することは難しくいくつかの検査なども用いなければなりません。

膵臓がんに特徴的な症状の1つが黄疸(おうだん)です。黄疸は体が黄色くなったり体がかゆくなったりする原因になります。黄疸については少し難しいので次で詳しく解説します。

■黄疸(おうだん)

黄疸(おうだん)とは皮膚や眼球結膜(しろ眼の部分)が黄色く染まる状態です。原因は、ビリルビンという物質が血液内で多くなることです。体が黄色くなり黄疸と診断されるのはある程度ビリルビンが上昇してからになり、初期の黄疸は尿の色が濃く見えたりします。黄疸の症状は以下のものです。

  • 皮膚や眼球結膜が黄色くなる
  • 体がだるく感じる(全身倦怠感、疲労感)
  • 皮膚がかゆくなる
  • 風邪のような症状
  • 微熱
  • 尿の色が濃くなる

黄疸が起きるメカニズムはかなり専門的な内容になります。詳細について知りたい人は「膵臓がんの症状は?」を参考にしてください。

4. 膵臓がんの原因:家族歴、慢性膵炎、IPMN、肥満、飲酒、喫煙など

膵臓がんが発生するにはいくつかの原因が重なり合っていると考えられています。膵臓がんの原因はひとつではありません。膵臓がんを発生する危険性を上昇させるものについて解説します。以下が膵臓がんを発生させる危険性を高めると考えられている主なものです。

  • 家族歴(血縁者に膵臓がんが発生した人がいる)
  • 遺伝性膵臓がん症候群
  • 慢性膵炎
  • 膵管内乳頭粘液腫(IPMN:Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm)
  • 糖尿病
  • 肥満
  • 飲酒
  • 喫煙

この中に該当するものがあるからといって必ずがんが発生することを意味する訳ではありません。逆にこれらのどれにも当てはまらないからと言って膵臓がんが発生しない訳ではありません。膵臓がんを発生させると考えられるものの中には家族歴など避けがたいものがあります。治療や改善が可能なものについては実行し、家族歴など避けることができないものに心当たりがあれば、専門の医師に相談して早期発見などについてどのような方法や考えがあるかを相談してみるのがよいと思います。

それぞれの要因については「膵臓がんの原因は?飲酒、喫煙などとの関係は?」で詳しく解説しているので合わせて参考にしてください。

5. 膵臓がんの検査:CT検査、MRCP、ERCPなど

膵臓がんはいくつかの検査を用いて診断します。以下が膵臓がんの診断に用いる主な検査です。

  • 血液検査
    • 腫瘍(しゅよう)マーカー
    • 膵酵素(すいこうそ)
  • 画像検査
    • 超音波検査
      • 腹部超音波検査 
      • 超音波内視鏡検査EUS
        • 超音波内視鏡穿刺吸引法(EUS-FNA)
    • CT検査(造影CT検査)
    • MRI検査
      • MRCP
    • PET(PET/CT)
    • 内視鏡的逆行性膵管造影(ERCP: endoscopic retrograde cholangiopancreatography)
  • 審査腹腔鏡(しんさふくくうきょう)

必ずしも全ての検査を用いる訳ではありません。いくつかの検査を用いた時点で診断に十分だと考えられる場合には省略する検査もあります。
膵臓がんの検査の目的は2つです。
1つ目は膵臓がんと診断することと、もう1つは膵臓がんの進行度を判断することです。膵臓がんの進行度を決めることをステージを決めるともいいます。
ここでは特に大事な検査であるCT検査とMRI検査、ERCP、EUSについて説明します。

CT検査

CT検査は体の断面を映し出すことのできる放射線を用いた検査です。膵臓の様子や遠隔転移の有無を確認することができます。
CT検査には造影剤という薬品を用いて撮影する方法があり造影CT検査といいます。造影CTは膵臓がんの診断のためにはとても大事な検査です。造影剤を使うことで、よりはっきりと病変の位置や広がり、また血管の位置関係が見える(描出される)ようになります。がんの広がりと血管の位置関係は手術を検討する上でとても重要です。

MRI検査・MRCP(magnetic resonance cholangiopancreatography)

MRIは磁気を利用して体の中を撮影する検査です。放射線は使いません。体の中に金属製品(ペースメーカーなど)を植え込んでいる人は使えない場合があります。MRI検査ではCT検査と同様に体の断面を画像化することができます。
MRI検査の中にはMRCPという撮影の方法があります。MRCPでは胆管(たんかん)や膵管を観察することができます。内視鏡を用いるERCPと同じような役割があります。

内視鏡的逆行性膵管造影(ERCP: endoscopic retrograde cholangiopancreatography)

ERCPは内視鏡を口から挿入し、内視鏡の先から造影剤を膵管に注入してその形などを観察する検査です。膵管を観察できる検査にはMRCPもあります。
ERCPは、内視鏡を使って細胞を取ってくることも一緒にできる点がMRCPにはない優れた点です。しかし、ERCPは検査後に急性膵炎を起こすこともあり、患者さんの負担も大きいのが問題です。現在ではMRCPをまず施行して、診断がはっきりと付けられない場合にはERCPを行うという順番にしている施設が多いようです。

超音波内視鏡検査(EUS:endoscopic ultrasound)

EUSは内視鏡の先端に超音波検査のプローブ(超音波が出る装置)を取りつけたものを使って、身体の中からさらにその奥の場所を観察する検査です。膵臓は胃の後ろ側(背中側)にある臓器です。お腹の皮膚の上から超音波検査をしても膵臓がはっきりと見えないこともあります。EUSでは、胃の中から超音波検査を行うので、見づらさの弱点を解消できます。お腹の上から見るより鮮明に膵臓を観察することができます。
EUSを行うときは口から内視鏡を挿入して先端のプローブを操作します。EUSで用いる内視鏡は通常の内視鏡より太いので、挿入するときなどにやや違和感が強いかもしれません。
EUSで病変が明らかな場合は胃の壁越しに腫瘍に針を刺して吸引します。この検査をEUS-FNAといいます。EUS-FNAによって取り出された腫瘍の組織は顕微鏡で詳しく観察(病理検査)されます。

5. 膵臓がんのステージ

膵臓がんに限らず「がん」と診断された後にはステージを決めることが重要です。ステージは最適な治療法を決めることを目的の1つとしています。

膵臓がんのステージは以下の3つの要素を元にして決められます。

  • T因子:膵臓でのがんの状態 
  • N因子:領域リンパ節転移の有無とその範囲 
  • M因子:遠隔転移の有無

ステージ分類は、原発巣の状態(T因子)、リンパ節転移(N因子)、遠隔転移(M因子)の3点の組み合わせによってがんの状態を分類する方法です。

がんの大きな特徴のひとつが転移を起こすことです。転移とは、がんが元あった場所とは違うところにも移動して増殖することです。元あった場所のがんを原発巣(げんぱつそう)または原発腫瘍と言います。転移によってできたがんを転移巣(てんいそう)と言います。
がんの進行度を判定するには、原発巣と転移巣の両方を考えに入れる必要があります。

参考:
膵癌取扱い規約 第7版

ステージ分類の方法

膵臓がんのステージ分類の基準について解説します。基準として使われている専門用語をそのまま紹介しますが、この後の内容を理解するには詳細にこだわる必要はありません。

【T因子】

TはTumor(腫瘍)の頭文字をとったものです。膵臓でのがんの状態を表しています。がんがもともと発生した場所のことを原発巣(げんぱつそう)と言います。T因子は原発巣を評価しています。膵臓がんのT因子は比較的早期のものに関しては大きさが重視されます。進行しているものは血管との関係によって決定されます。

  • TX:膵局所進展度が評価できないもの
  • T0:原発腫瘍を認めない
  • Tis:非浸潤
  • T1:腫瘍が膵臓に限局しており、最大径が20mm以下である
    • T1a:最大径が5mm以下の腫瘍  
    • T1b:最大径が5mmをこえるが10mm以下の腫瘍
    • T1c:最大径が10mmをこえるが20mm以下の腫瘍
  • T2:腫瘍が膵臓に限局しており、最大径が20mmをこえている
  • T3:腫瘍の浸潤が膵臓をこえて進展するが、腹腔動脈もしくは上腸間膜動脈に及ばないもの
  • T4:腫瘍の浸潤が腹腔動脈もしくは上腸間膜動脈に及ぶもの

がんは周りの組織に浸潤(しんじゅん)していく性質を持っています。浸潤とはがん細胞が隣り合った正常組織の中に入り込んで広がっていくことです。広い範囲に浸潤しているほど進行していると評価されます。

【N因子】

N分類はリンパ節転移についての評価です。Nはリンパ節(lymph node)を指すNodeの頭文字です。
がんは時間とともに徐々に大きくなり、リンパ管や血管などの壁を破壊し侵入していきます。リンパ管にはところどころにリンパ節という関所があります。リンパ管に侵入したがん細胞はリンパ節で一時的にせき止められます。がん細胞がリンパ節に定着して増殖している状態がリンパ節転移です。リンパ節転移があるとリンパ節は硬く大きくなります。N因子ではN1が2つに分かれています。

  • NX:領域リンパ節転移の有無が不明である
  • N0:領域リンパ節に転移を認めない
  • N1:領域リンパ節に転移を認める
    • N1a:領域リンパ節に1-3個の転移を認める
    • N1b:領域リンパ節に4個以上の転移を認める

がん細胞が最初の段階でたどり着くリンパ節を領域リンパ節と呼びます。領域リンパ節のみの転移であれば領域リンパ節を切除することですべてのがんを体から取り除く可能性が残されています。領域リンパ節以外のリンパ節に転移をしている場合は、手術で取り切れる可能性は少なく、全身化学療法抗がん剤)が検討されます。リンパ節転移を評価するにはCT検査やMRI検査が使われます。

【M因子】

M因子は遠隔転移の評価です。MはMetastasis(転移)の頭文字です。膵臓から離れた臓器に膵臓がんが転移することを遠隔転移と言います。領域リンパ節転移は遠隔転移とは言いません。領域リンパ節以外のリンパ節転移は遠隔転移です。単に「転移」と言うと遠隔転移を指す場合が多いです。

  • M0:遠隔転移を認めない
  • M1:遠隔転移を認める

遠隔転移がある膵臓がんは、手術が勧められません。余命の延長を目的とした全身化学療法(抗がん剤治療)を行います。

3点の基準とステージの対応

T因子、N因子、M因子を元にしてステージの分類を行います。上の基準を下の表に対応させてステージを決めます。

ステージ T因子 N因子 M因子
ステージ 0 Tis N0 M0
ステージ IA T1(T1a、T1b、T1c) N0 M0
ステージ IB T2 N0 M0
ステージ IIA T3 N0 M0
ステージ IIB T1(T1a、T1b、T1c)、T2、T3 N1(N1a、N1b) M0
ステージ III T4 Any N M0
ステージ IV Any T Any N M1

「Any T」や「Any N」というところは、どの分類であってもよいという意味です。たとえばT4かつM0であればN因子にかかわらずステージIIIとします。

ステージを決める目的は、妥当な治療法を選択することや余命の大まかな目安とすることです。

切除可能性分類

T因子、N因子、M因子を用いたステージ分類の他に、「外科手術で膵臓がんを完全に取りきれるかどうか」という視点から膵臓がんを分類したものを「切除可能性分類」と呼びます。切除可能性分類は3つの段階に分けられています。

  • 切除可能(Resectable)
  • 切除可能境界(Borderline resectable)
  • 切除不能(Unresectable)

膵臓の周りには動脈や門脈などの重要な血管が多く存在しています。そのため、膵臓がんはこれらの重要な血管に浸潤(がんが入り込むこと)しやすいことが知られています。重要な血管に膵臓がんが浸潤している場合、手術で膵臓がんを取り切ることが難しくなります。

詳しくは「膵臓がんのステージ:ステージ分類から生存率(余命)などについて」でも解説していますので参考にしてみてください。

6. 膵臓がんの生存率:ステージごとの生存率

膵臓がんの生存率はステージごとに集計されています。『がんの統計』というもっとも網羅性が高く集計数が多い資料を参考に解説します。まず生存率の統計は以下の通りです。

ステージ(UICC 第7版) 5年生存率(%)
I(1) 53.4
II(2) 22.2
III(3) 6.1
IV(4) 1.5

参考:
「がんの統計 ’22」

膵臓がんの生存率はステージ毎に集計されています。ステージは担当医に尋ねると教えてもらえると思います。ステージを知った後にはどうしても生存率が気になるところです。膵臓がんの生存率は決して高いとはいえません。このステージごとの生存率を参考にする際にはいくつか注意することがあります。

  • 一人ひとりでがんの状態と体の状態がことなる
  • 過去の治療結果に基づくものである 

ステージは説明してきたようにあくまでもがんの状態を評価したものです。体の状態などは加味されていません。さらに同じステージと診断されてもその状態は一人ひとりで異なります。一人ひとりの違いは生存率にも大きく影響します。

ステージごとの生存率は知ることができます。しかしそれは過去の治療実績をもとにして算出された値です。つまり今現在行っているまたはこれから行おうとしている治療の効果を反映しているとは限りません。医療は日進月歩です。短い期間に治療法が様変わりすることも決して珍しいことでありません。

数値は印象に残りやすいです。特に厳しい数値を目にするとそれにとらわれがちになってしまう気持ちも理解できます。しかし数値を眺めていても何かが変わる訳ではありません。自分の状況に向き合い治療に向けて気持ちを切り替えることが大切です。

7. 膵臓がんの治療:手術・放射線・抗がん剤治療など

膵臓がんの治療は手術・放射線・抗がん剤治療などがあります。体の状態とがんの状態をみて適切な治療を選びます。

 

膵臓がんの手術

膵臓がんの手術にはいくつか方法があり、目的に適したものを選びます。膵臓がんの手術の方法は以下のものになります。

  • 膵臓がんのステージを決めるための手術
    • 審査腹腔鏡
  • がんを取りきるための手術
    • 膵頭十二指腸切除術
    • 膵体尾部切除術
    • 膵全摘除術
  • 症状を緩和するための手術
    • 胆道バイパス術(胆管空腸吻合術) 
    • 消化管バイパス術(胃空腸吻合術)

【膵臓がんのステージを決めるための手術】

審査腹腔鏡(しんさふくくうきょう)は検査に分類されますが、手術室で行われ、手術として説明される場合もあります。
審査腹腔鏡はお腹の中にがんが飛び散っているのか(播種)、肝臓に転移があるのかの判断が画像検査(CT検査・MRI検査など)のみでは難しい場合に行います。審査腹腔鏡で転移が見つかれば膵臓をとる手術はやめて抗がん剤治療などに切り替えたほうが利益が大きいという判断になります。審査腹腔鏡ではお腹にいくつか小さな穴をあけて内視鏡を挿入してお腹の中を観察します。
審査腹腔鏡で転移が認められなかったときは、後日に仕切り直して手術を行う場合と、その場で開腹手術に移行して治療を行う場合があります。

【がんを取りきるための手術】

がんを取りきるための手術は3つあります。がんができた部分によって方法が選ばれます。膵臓に発生したがんの周りの臓器と一緒に切除し、転移しやすいリンパ節を切除します。膵臓がんの手術はとても複雑です。手術の詳細は「膵臓がんの手術とは?手術前から手術後の過ごし方や各術式の解説」で解説しているので参考にしてください。

【症状を緩和するための手術】

がんが大きく広がるとがんによって様々な症状が現れます。膵臓がんでは胃や腸などの流れや胆汁の流れが悪くなることがあります。胃や腸の流れが悪くなるといわゆる腸閉塞の状態になり、胆汁の流れが悪くなると黄疸の症状がでます。

症状を緩和するために手術をすることがあります。症状を緩和する治療では流れが悪くなった腸や胆汁の流れを作り変えたりします。迂回路を形成する手術になるのでバイパス術ということもあります。

膵臓がんの抗がん剤治療

膵臓がんの抗がん剤治療は以下のような場合に用います。

  • 手術の後
  • がんが膵臓の周りに激しく広がっていて手術できない
  • がんが膵臓から離れた他の臓器に転移している

それぞれに目的があります。抗がん剤治療に用いる薬やその組み合わせ、効果などは「膵臓がんの抗がん剤治療とは?抗がん剤のレジメン、効果などについての解説」で詳細に解説しているので参考にしてください。

ここでは抗がん剤治療の目的を大まかに説明します。

【手術の後】
手術後に再発を予防する目的で抗がん剤治療をすることがあります。がんに対する手術療法は、がんを目に見える範囲でしっかりと切除します。しかしながら、がんは顕微鏡でしか見えないレベルで潜んでいる可能性があります。そのために手術後に抗がん剤を投与することで、小さながんを叩いておき、再発する確率を下げることができます。

【がんが膵臓の周りへの広がりが激しくて手術できない】
膵臓の周りには重要な血管がいくつかあります。膵臓がんが激しく周りに広がっていると血管を巻き込んだりして手術が出来ないことがあります。がんの進行を防ぐことを目的として抗がん剤治療を用います。抗がん剤治療と併行して放射線治療を用いることもあります。中には抗がん剤治療の結果がんが縮小して手術ができる状態になることもあります。そのときには改めて手術について検討します。
 

【がんが膵臓から離れた他の臓器に転移している】
膵臓がんは遠隔転移をした状態で発見されることも珍しくはありません。遠隔転移とは領域リンパ節以外にもがんの転移がある状態です。

遠隔転移があると全身にがん細胞があると考えられます。このために手術をしてがんの部分を切除しても治療効果は乏しいと考えられています。全身に広がったがんに対しては全身をカバーできる抗がん剤治療が治療法として適しています。膵臓がんに対する抗がん剤治療では生存期間の延長効果などが期待できます。

膵臓がんの放射線治療

膵臓がんの放射線治療は2つの場合に用います。

  • がんが膵臓の周りに広がって手術ができない場合
  • がんが遠隔転移して痛みなどの症状がある場合

膵臓の周りには重要な血管がいくつかあります。膵臓がんが激しく周りに広がっていると血管を巻き込んだりして手術が出来ないことがあります。がんの進行を防ぐことを目的として放射線治療を用いることがあります。多くの場合は抗がん剤治療と併行して放射線治療を行います。中には抗がん剤治療の結果がんが縮小して手術ができる状態になることもあります。そのときには改めて手術について検討します。

膵臓がんは遠隔転移をした状況で見つかることも珍しいことではありません。遠隔転移とは領域リンパ節以外にがんが転移をしている状態のことです。膵臓がんは骨などに転移をすることがあり疼痛(痛み)の原因になります。がんの転移による痛みがある場所には放射線を照射することで症状の緩和が期待できます。

黄疸の治療:減黄術

膵臓がんは進行すると黄疸が現れます。
黄疸は皮膚や眼球結膜が黄色くなったり発熱したりと様々な症状が現れます。黄疸は胆汁の流れが悪くなって現れる症状なので胆汁の流れを良くする治療をします。胆汁の流れをよくして黄疸を改善する治療を減黄術(げんおうじゅつ)ということもあります。減黄術には内視鏡を利用する方法と体の外から管を入れる方法の2つに分けることができます。

  • 内視鏡を利用する方法
    • ENBD(endoscopic nasobiliary drainage: 内視鏡的経鼻胆道ドレナージ
    • ステント療法(endoscopic biliary stenting: EBS)
  • 体の外から管を入れる方法
    • PTBD(percutaneous transhepatic biliary drainage: 経皮経肝胆道ドレナージ)

それぞれの減黄術には向き不向きがあります。患者さんの状態などからもっとも適した治療法を選びます。それぞれの減黄法については「膵臓がんの症状は?黄疸、腹水などについて解説」で解説していますので参考にしてください。

膵臓がんの緩和医療(緩和ケア)

緩和医療と聞くと死が間近に迫った人が受ける治療という印象があるかもしれません。そのとらえ方は正確ではありません。緩和医療は症状を緩和する治療の全てを指すこともあります。緩和医療は膵臓がんと診断されて間もない時期から用いることができるものです。

膵臓がんと診断されて手術や抗がん剤治療が予定されている人でも背中に痛みがあったりするとそれを和らげるために鎮痛剤などを用います。この痛みを和らげる治療も緩和医療の一つです。がんが転移して出た痛みを抑えるために使う放射線治療や鎮痛剤も緩和医療に含まれます。

緩和医療はがん治療の多くの場面に登場します。抗がん剤治療などの効果がなくなって症状の緩和が主体になると緩和医療が治療に占める割合が大きくなります。緩和医療とがんに対する治療(手術・抗がん剤治療・放射線治療など)は同時に用いながらその配分が身体やがんの状態に合わせて変化をしていくのです。

緩和医療はまだまだ正確には理解されていないことが多いです。緩和医療を使うことは末期で治療する手立てがないことを意味する訳ではありません。治療の初期から緩和医療を治療の中に組み込むことで様々な効果も期待できます。

緩和医療についてさらに詳細な情報は「膵臓がんの緩和医療はどんな治療なのか?」で解説しているので参考にしてください。

8. 膵臓がんの末期はどんな状態?ステージIVとどう違う?

膵臓がんの末期はどのような状態なのでしょうか。末期の状態は一人ひとりで異なりますが、ここでは一般的と考えられる状態について解説します。またよく末期がんと混同されがちなステージIVという状態についても合わせて解説します。

がんの末期の様子は?

まず『がんの末期』には明確な定義はありません。
ここで言う「末期」は抗がん剤による治療も行えない場合、もしくは抗がん剤などの治療が効果を失っている状態で、日常生活をベッド上で過ごすような状況を指すことにします。つまり膵臓がんの末期は、すでにいくつかの臓器に転移があり、緩和的な治療が主体になってきている段階です。

ステージIVは末期がんなのか?

末期がんの説明をする際によく誤解されがちなステージIVについて説明します。ステージIVは一度は耳にしたことがあると思います。ステージIVは膵臓がんのステージの中では最も進行した状態にあたります。ステージIV=末期がんと考えている人がいると思いますがそれは正確ではありません。膵臓がんのステージIVに該当する人は「遠隔転移が有る人」です。

遠隔転移とは領域リンパ節以外の場所にがんの転移があることです。ステージIVはがんの状態を示した言葉に過ぎません。確かにステージIVの人の中には末期がんの状態の人もいるのは事実ですが、一方で治療の選択肢が多く残されている人もいます。

ステージIVという言葉は重いものですが、その言葉にとらわれるのではなく自分の状況に向き合うことが大事です。残された選択肢が多いならばそれらについて理解して取り組んでみてください。

末期がんの症状は?

膵臓がんの末期ではがんが全身に広がって、身体に影響を及ぼします。このような状況では、以下のような症状が目立つ悪液質(カヘキシア)と呼ばれる状態が引き起こされます。

  • 常に倦怠感につきまとわれる
  • 食欲がなくなり、食べたとしても体重が減っていく
  • 身体のむくみがひどくなる
  • 意識がうとうとする

悪液質は身体の栄養ががんに奪われ、点滴で栄養を補給しても身体がうまく利用できない状態です。気持ちの面でも、思うようにならない身体に対して不安が強くなり、苦痛が増強します。

末期がんになったときには何をすればいい?

末期の症状は抗がん剤治療などでなくすことができません。緩和医療で症状を和らげることが重要です。また精神的にも孤立していると感じやすくなり不安を感じやすくなります。不安を少しでも取り除くために、できるだけ過ごしやすい環境を作ることも大事です。

何を大事にするかということはその人の価値観によって異なります。自分が「何を大事にしてきたか」、「今、何をしたいか」などを考えることが「何をすればよいか」の答えを見つける手がかりを与えてくれるかもしれません。