きょけつせいだいちょうえん
虚血性大腸炎
大腸への血のめぐりが悪くなり必要な酸素や栄養が届かなくなるため、大腸が炎症を起こしたり大腸が壊死したりしてしまう病気
8人の医師がチェック 81回の改訂 最終更新: 2022.03.04

虚血性大腸炎とは?症状・原因・検査・治療など

虚血性大腸炎とは大腸への血流が悪くなることが原因で起こる病気です。虚血性大腸炎の症状は腹痛、血便、下痢などが特徴的です。多くの場合、症状は一時的で適切な治療で回復が見込めます。

1. 急にお腹が痛くなって血便がでる虚血性大腸炎とは?

急にお腹が痛くなり血便が出るととても驚くと思います。この症状は虚血性大腸炎の典型的な症状です。虚血性大腸炎は大腸の血流(血の巡り)が一時的に悪くなることが原因で起こると考えられている病気です。虚血性大腸炎はびっくりする様な症状に比べるとその経過は良好なことが多いです。

虚血性大腸炎はなぜ起こる?

虚血性大腸炎が起こる原因は大腸に来る血流(血の巡り)が悪くなることと考えられています。血流が悪くなることの主な原因は血管が細くなること血のかたまりなど血管の中を塞ぐものができることなどです。血流が悪くなると腹痛や血便などの症状が現れます。

虚血性大腸炎の分類

虚血性大腸炎は3つの種類に分類することがあります。

  • 一過性型:粘膜、粘膜下層までに炎症がとどまる 
  • 狭窄型:粘膜下層にまで炎症が及びその後線維化が起きて腸管が狭くなる 
  • 壊死型:腸管壊死が起きて腸に穴が空いたりする

難しい言葉が並んだので解説します。

虚血性大腸炎の重症度は炎症がどこまで深く大腸の壁に及んでいるかで分類します。大腸は筒状の形をした臓器で、大腸の壁はバウムクーヘンのようになっており内側から粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層(しょうまくかそう)、漿膜(しょうまく)という名前がついています。

炎症が深い層に及べば及ぶほど深刻な状態になります。上に示した通りどこまでの層に炎症が及んだかで虚血性大腸炎は3つに分類することができます。

壊死型(えしがた)は一過性型と狭窄型(きょうさくがた)に比べて極めて重い状態で緊急手術による治療が必要です。一方、一過性型と狭窄型は保存的治療(絶食と点滴)で回復が見込めます。

重症度や治療法が異なるので、狭い意味で虚血性大腸炎という言葉を用いるときには一過性型と狭窄型の2つだけを指すことがあります。3つを虚血性大腸炎として扱う意見もあります。この解説ページでは壊死型も虚血性大腸炎の中の一つとして解説します。

参考文献
・矢﨑義雄/編, 朝倉内科学, 朝倉書店, 2019

2. 虚血性大腸炎の症状:腹痛・血便・下痢など

虚血性大腸炎の典型的な症状は次の3つです。

  • 腹痛
  • 血便
  • 下痢

腹痛は突然起こることが多く左下腹部に多いことが特徴的です。左側の大腸部分(下行結腸・S状結腸)はもともと血流が悪くなりすいための虚血性大腸炎が起こりやすいです。炎症が起きている場所に近い部位が痛みます。腹痛に続いて血便(便に血が混ざる)下痢(水の様な下痢)が繰り返し現れます。

虚血性大腸炎の症状の詳細は「虚血性大腸炎の症状:下痢・血便・嘔吐」でも解説しているのは合わせて参考にしてください。

3. 虚血性大腸炎の原因:動脈硬化・便秘・激しい運動など

虚血性大腸炎は大腸への血流が悪くなることで様々な症状が現れると推測されています。血流が悪くなる原因は血管が細くなること血管を塞ぐかたまり(血のかたまりなど)ができることなどです。血管が細くなったり血液のかたまりができる原因には以下のようなものがあります。

  • 高血圧・脂質異常症糖尿病の持病がある 
  • 高齢者 
  • 血液が固まりやすい持病がある 
  • 脱水
  • 透析治療を行っている
  • 心臓の機能が低下している
  • 腹部の血管の手術歴がある

血管が細くなる原因には動脈硬化があります。一般的な動脈硬化は血管の壁にプラークと呼ばれる脂肪などの塊ができて血管の中が細くなります。動脈硬化は加齢や病気により起こります。動脈硬化の原因となる病気は高血圧・脂質異常症高脂血症)・糖尿病などです。

血液が塊をつくって血管を塞ぐことも血液が流れにくくなる原因の一つです。血液が固まりやすくなる病気は抗リン脂質抗体症候群などの病気があります。

脱水も虚血性大腸炎を発症する危険性を高めると考えられています。マラソンなどの極度の脱水になる競技後に虚血性大腸炎を起こした人は過去にも報告されています。

透析治療をしている人は虚血性大腸炎が起こりやすいと考えられています。透析治療は腎臓の機能が生命を維持するに足りない人が受ける治療です。透析治療を続けると血管が細くなっていきます。血管が細くなると血流が低下しやすく虚血性大腸炎が発生する危険性が高くなっています。さらに透析治療中や直後は血圧が低下することがあります。血圧が低下すると腸への血流も悪くなります。血管が細くなっていることと血圧が下がりやすいことの2つの要因があるので、透析治療をしている人は虚血性大腸炎に注意が必要です。

心臓は体全体に血液を送り出すポンプの働きをしています。心臓の動きが弱くなると全身に送られる血液の量が少なくなります。大腸への血流が悪くなることがありその結果、虚血性大腸炎が起こることがあります。

腸に栄養を送る血管(上腸間膜動脈・下腸間膜動脈)は腹部大動脈から出ています。腹部大動脈に瘤(こぶ)ができたり破裂したりすると手術が必要になります。腹部大動脈に対する手術の影響で腸への血流が悪くなり虚血性大腸炎が起こることがあります。

4. 虚血性大腸炎の検査:CT検査・内視鏡検査など

虚血性大腸炎は腹痛や下痢・血便などがよく現れる症状です。しかし腹痛などは誰しもが経験する症状であり原因も様々です。症状の様子から虚血性大腸炎かを完全に見分けることは難しいです。虚血性大腸炎と診断するにはいくつかの検査を使う必要があります。虚血性大腸炎を診断するための診察や検査などは以下のものです。

  • 診察
    • 問診
    • 身体診察
  • 検査
    • 血液検査
    • 画像検査
      • レントゲン検査
      • 注腸造影検査
      • 腹部超音波検査
      • CT検査(造影CT検査)
      • 下部消化管内視鏡検査大腸カメラ

虚血性大腸炎の診断にはいくつかの検査をもちいることがありますが全ての検査が必要な訳ではありません。明らかに虚血性大腸炎と診断できる場合は検査を省略したり症状がよくなった後に行う場合もあります。

診察や検査などは「虚血性大腸炎の診断および検査」で詳細に解説してあるのであわせて参考にしてください。

5. 虚血性大腸炎の治療:保存的治療・手術適応など

虚血性大腸炎の治療はほとんどの場合は絶食(食事を一時的にやめる)と点滴による保存的治療により効果があります。手術が必要な場合は限られています。

保存的治療(腸管安静)

虚血性大腸炎は大腸に炎症が起きています。炎症が起きている場所はなるべく刺激しないことが回復に重要です。虚血性大腸炎に対して腸を安静にする治療を保存的治療または腸管安静と呼ぶことがあります。保存的治療は具体的には主に絶食と点滴により行われます。点滴を行うのは絶食による脱水を予防する意味などがあります。

手術が必要なのはどんなときか?どんな手術をするのか?

虚血性大腸炎で手術が行われるのは腸が壊死(えし)した場合や腸が狭窄(きょうさく)した(狭くなった)ときなどです。手術では壊死や狭窄した部分の腸を取り除いて腸同士をつなぎ合わせたり人工肛門を作成したりします。

虚血性大腸炎の治療の詳細は「虚血性大腸炎の治療」で解説しています。

参考文献
Am J Gastroenterol.2015;110:18-44
Clin Gasteroetnterol Hepatol.2009;7:1075-80

6. 虚血性大腸炎を再発させないために

虚血性大腸炎は原因がはっきりしないこともあるために再発を予防することは難しいと考えられます。虚血性大腸炎の発症に関わりがあり再発に対して対策できる要素は多くはありません。生活習慣の改善や虚血性大腸炎につながる病気を予防することが再発をさせないためには有利に働くかもしれません。以下の2つがポイントです。

  • 便秘の改善 
  • 動脈硬化の予防

虚血性大腸炎は大腸へ流れ込む血液の流れが悪くなることが原因と推測されています。便秘と動脈硬化はそれぞれで影響の仕方は異なりますが、腸への血流は悪くなると考えられています。

虚血性大腸炎を再発させない方法を探すとすれば、便秘を解消したり動脈硬化の予防をすることが考えられるでしょう。

虚血性大腸炎を再発させないための考え方やより詳細な解説については「虚血性大腸炎を再発させないために」をご覧ください。