おたふくかぜ(りゅうこうせいじかせんえん、むんぷす)
おたふく風邪(流行性耳下腺炎、ムンプス)
唾液をつくる耳下腺(耳の前〜下)、顎下腺(あごの下)が腫れて痛み、熱がでる感染症。特に小児に多い
10人の医師がチェック 155回の改訂 最終更新: 2022.05.04

おたふく風邪(流行性耳下腺炎、ムンプス)に関する注意点

おたふく風邪に関して生活上気を付けるべき注意点について説明します。まれですが、おたふく風邪にかかった後に難聴などの後遺症が残ることがあります。

1. おたふくかぜワクチンは打った方が良いか?

おたふく風邪はワクチンで予防できます。おたふくかぜワクチンを打つと90%以上で抗体ができ、おたふく風邪にかかりにくくなります。このため、理由があって打てない以外の全ての人で、おたふくかぜワクチンの接種が推奨されます。

おたふく風邪には治療法がないこと、難聴などの後遺症が残ることがあること、潜伏期が長く発症前から感染力があること、不顕性感染があり不顕性感染者にも感染力があることからも、ワクチンを打ちおたふく風邪にかからないようにすることが大切です。

世界100か国以上では麻疹風疹と合わせたMMRワクチンなどで定期接種が行われるようになったことで、おたふく風邪の発生が激減しています。日本ではおたふく風邪のワクチンが任意接種で接種率は2-3割と低いのが現状ですが、厚生労働省も接種の推進が望ましいワクチンだとして、定期接種の対象とすることが検討されています。

おたふくかぜワクチンは2回の接種が推奨されています。1回目は1歳を過ぎてから、2回目は1回目から2-4年あけてから(日本小児科学会の推奨では麻疹風疹ワクチンと同じく小学校入学前の1年間で)接種します。この時期に接種できなかった場合には、4週間以上の間隔をあけて2回接種します。

予防接種には生ワクチンと不活化ワクチンがあります。おたふくかぜワクチンは生ワクチンです。生ワクチンは、ウイルスの病原性を弱めてワクチンにしたものです。生ワクチンを注射した後1か月間は、他の生ワクチンも打つことはできません。ただし、生ワクチン以外のワクチン(不活化ワクチンなど)は特に間隔に制限はありません。

おたふくかぜワクチンは現在任意接種のため費用は自費となります。地域や病院によって価格は異なりますが1回につき数千円の費用がかかります。

2. 子どものおたふく風邪と大人のおたふく風邪は違うのか?

おたふく風邪は子どもに多い病気です。4-5歳でかかることが最も多く、8割が7歳以下で発症しています。

過去におたふく風邪にかかったことも予防接種を受けたこともない人は、大人になってもおたふく風邪にかかります。子どもに比べて大人の方が症状が重くなる傾向があります。また思春期以降の人がおたふく風邪にかかると睾丸炎や卵巣炎を合併する頻度が多くなります。睾丸炎はおたふく風邪の合併症の中で最も多くみられる合併症です。詳しくは「おたふく風邪の症状」のページで説明しています。

3. 妊婦がおたふく風邪になったらどうしたら良い?

妊娠中におたふく風邪にかかっても早産先天性形態異常との関連はないと言われています。妊娠初期におたふく風邪にかかると流産の確率が高まるため、妊娠希望の女性は妊娠前にワクチンを打っておくことが勧められます。ワクチンを打った後は2か月間避妊します。

4. おたふく風邪になったら学校はどうしたら良い?出席停止について

おたふく風邪にかかったら周囲への感染を防ぐために学校は休まなければなりません。おたふく風邪は学校保健安全法施行規則で出席停止期間が定められています。

学校保健安全法とは?

学校保健安全法とは学校における児童や職員の健康の保持増進を図るための法律で、学校保健安全法施行規則によって学校において予防すべき感染症にかかった場合の出席停止期間を定めています。

おたふく風邪では「耳下腺、顎下腺、舌下腺の腫脹が発現した後5日を経過し、かつ全身状態が良好になるまで」出席停止となります。大人でも同じように、感染を広げないために会社などをお休みし外出も控える必要があります。

5. おたふく風邪になった時の食事について

おたふく風邪になり耳下腺が腫れると、食べ物を噛んだり飲み込んだりする時に痛みを感じることがあります。特に酸っぱいもので痛みを感じやすくなります。おたふく風邪にかかったら出来るだけ酸っぱい飲食物を避け、あまり噛まなくても良いものを食べるようにします。

6. おたふく風邪になった時のお風呂について

おたふく風邪になった時も普段通りにお風呂に入って構いません。お風呂のお湯を介してうつることはないので、家族におたふく風邪になった人がいる場合にもお湯を入れ替える必要はありません。

7. おたふく風邪に後遺症はあるのか?

おたふく風邪は特別な治療をしなくても多くが数週間以内に自然に完治しますが、難聴やめまいなどの後遺症が残ることもあります。

ムンプス難聴について

おたふく風邪にかかると0.01-0.5%で聴力が低下し難聴になることがあります。めまいなどの症状を伴うこともあります。難聴は耳下腺の腫脹が治まった後1か月以内に急に生じることが多いですが、徐々に進行していくこともあります。難聴は片側だけの場合と両側の場合とがあります。聴力は回復することが多いですが、後遺症となることもあります。

一般的に症状は軽く日常生活に支障はない程度と言われていますが、耳鳴やめまいを伴い、他人とのコミュニケーションにストレスを感じることもあります。

両側性で重度の難聴となるのはまれですが、発症すると補聴器や人工内耳などが必要となることがあります。また中学生以前の発症では速やかな言語指導を行わないと言語能力を失う可能性もあります。おたふく風邪は小児に多い病気であることから本人の自覚が乏しく症状を訴えないため、早期発見が難しい面があります。

おたふく風邪にかかり難聴の後遺症に悩まされないようにするためにも、適切な時期に予防接種を打ちおたふく風邪にかからないようにすることが大切です。

遅発性内リンパ水腫について

鼓膜の奥、頭蓋骨の中に内耳と呼ばれる部分があり、平衡感覚や聴力に関与しています。内耳には内リンパと呼ばれる液体があり、内リンパが増えすぎた状態を内リンパ水腫と呼びます。

おたふく風邪にかかって高度の難聴となった数年から数十年後に、内耳に内リンパ水腫が生じめまい発作を繰り返すことがあり、遅発性内リンパ水腫と呼ばれています。遅発性内リンパ水腫になると、ぐるぐる回るようなめまい発作を繰り返しているうちに平衡感覚が障害され、日常生活に影響を及ぼすことがあります。遅発性内リンパ水腫は根本的な治療法がなく、国が指定する難病の一つです。診断基準を満たし自治体に申請すると医療費の助成が受けられます。