おたふくかぜ(りゅうこうせいじかせんえん、むんぷす)
おたふく風邪(流行性耳下腺炎、ムンプス)
唾液をつくる耳下腺(耳の前〜下)、顎下腺(あごの下)が腫れて痛み、熱がでる感染症。特に小児に多い
10人の医師がチェック 155回の改訂 最終更新: 2022.05.04

おたふく風邪(流行性耳下腺炎、ムンプス)の症状について:熱、顔の腫れ、難聴など

おたふく風邪になると耳下腺が腫れて痛む以外にも、発熱や嚥下痛などの症状が出ます。また合併症が起こることもあります。おたふく風邪が疑われる症状にはどのようなものがあるのでしょうか。おたふく風邪とよく似た症状を来たす別の病気についても合わせて説明します。

1. よくある症状について

おたふく風邪で最もよくみられる症状は、耳下腺(じかせん)の腫脹です。耳の前下方にある耳下腺が腫れて痛みます。それ以外にも発熱や嚥下痛(えんげつう)などの症状が出ることもあります。

顔が腫れる:耳下腺の腫脹

ムンプスウイルスに感染した人のうち30-40%で耳下腺が腫れて痛みます。耳下腺は唾液を分泌する唾液腺のひとつで、耳の前下方にあります。耳下腺が炎症をもち腫れて痛む状態を耳下腺炎と呼びます。

おたふく風邪による耳下腺炎は2-9歳に多くみられます。多くは耳下腺が腫れる前に痛みが出ます。また耳の痛みを伴うこともあります。耳下腺炎は左右どちらかだけのこともあれば両側のこともあります。多くは最初に片側だけが腫れ、数日後にもう片方も腫れます。両側の耳下腺炎を起こし腫れた顔の様子がおたふくに似ていることからおたふく風邪と言われていますが、耳の前下方が腫れるのであって、頬が腫れるわけではありません。耳下腺の腫脹は2日目にピークとなり、最長10日間まで続きます。

耳下腺が腫れて痛み、周囲でおたふく風邪が流行している場合、特に今までおたふく風邪にかかったことも予防接種を打ったこともない場合には、おたふく風邪の可能性があります。小児科か内科を受診してください。

耳下腺炎を来たす原因にはムンプスウイルスの他にも、コクサッキーウイルス・EBウイルスなどの他のウイルス、黄色ブドウ球菌などの細菌唾液腺腫瘍シェーグレン症候群などの感染症以外の要因があります。また耳下腺炎を何度も繰り返す場合、反復性耳下腺炎の可能性があります。唾液管末端拡張症が原因となり、体力が低下した時などに口腔内の常在菌から耳下腺炎を繰り返し起こすことを反復性耳下腺炎と言います。おたふく風邪は基本的に終生免疫といって一度かかると再びかかることはないので、何度も耳下腺炎を起こす場合には反復性耳下腺炎の可能性があります。反復性耳下腺炎の場合はおたふく風邪のように学校や会社を休む必要はありません。耳下腺炎を繰り返す場合には血液検査でムンプスウイルスの抗体を調べると診断の参考になることがあります。

熱が出る

耳下腺が腫れる1-2日前に、頭痛や筋肉痛、倦怠感、食欲不振とともに熱が出ることがあります。この時の熱は37-38度前後であることが多いです。

耳下腺炎を起こすと、その経過と連動して40度前後の高い熱が1-3日間続くことがあります。高熱が出ている間は耳下腺の痛みも強くなります。

飲み込むと喉が痛い:嚥下痛

耳下腺炎を起こした時の最初の自覚症状として、食べ物を噛んだり飲み込んだりした時に痛みを感じることがあります。特に酸味の強いものを飲み込む際に痛みを感じることが多いです。

2. 気をつけた方が良い症状について

ある病気が原因となって起こる別の病気のことを合併症と言います。おたふく風邪にかかると合併症が起きることがあります。自然軽快するものがほとんどですが、まれに起こることのある難聴は後遺症となることもあります。またおたふく風邪の主な症状である耳下腺の腫脹が起こらずに、合併症だけが起きることもあります。

頭が痛い:髄膜炎

おたふく風邪の合併症として髄膜炎を起こすことがあります。おたふく風邪にかかった人のうち髄膜炎になるのは1-10%です。男性で起こすことが多く、女性の3倍と言われています。髄膜炎は、耳下腺炎の最中だけでなく前後でも起こることがあります。ムンプスウイルスに感染して髄膜炎を起こした人のうち、耳下腺炎を伴うのは半分以下で、耳下腺炎を伴わずに髄膜炎を起こすことの方が多いです。

髄膜炎の症状は、頭痛、吐き気・嘔吐、発熱などです。おたふく風邪にかかり熱が出た場合、それだけでも頭が痛くなることはあります。発熱や頭痛に加えて吐き気や嘔吐もみられる場合には、髄膜炎合併している可能性もあるため、医療機関を受診してください。小児科や内科(神経内科)で診てもらえます。

髄膜炎が疑われたら髄液検査を行うことがあります。髄液検査については、「おたふく風邪の検査」のページで詳しく説明しています。

ムンプスウイルスによる髄膜炎には特別な治療法はなく、症状を軽減させるための対症療法を行います。ムンプスウイルスによる髄膜炎の経過は良好であることが多く、後遺症を残さずに完治します。

睾丸が腫れる:睾丸炎

睾丸炎はおたふく風邪の合併症の中で最もよくある合併症です。おたふく風邪にかかった思春期以降の男性の15-30%に起こります。耳下腺炎を発症してから5-10日後に睾丸炎が起こります。睾丸炎になると、睾丸の痛み、陰嚢の腫れと赤み、高熱が起こります。睾丸炎は60-80%で片側性です。つまり、2個の睾丸のうち1個だけが睾丸炎になります。

おたふく風邪にかかった男性で、耳下腺が腫れてから数日後に睾丸が腫れて痛む場合、睾丸炎を合併している可能性があります。小児科や内科、泌尿器科を受診してください。

おたふく風邪の予防接種を打ったことのない人がおたふく風邪による睾丸炎になった場合、30-50%で睾丸が萎縮し、精子数が減少します。両側の睾丸炎を起こすと生殖能力が低下することがありますが、非常にまれなことであり、不妊症の原因となることはほとんどないと考えられています。

女性のお腹が痛い:卵巣炎

おたふく風邪にかかった思春期以降の女性の5%に卵巣炎が起こります。卵巣炎になると、下腹部痛や発熱、嘔吐が起こります。

おたふく風邪にかかった女性で、経過中に下腹部痛や発熱、嘔吐がみられた場合、卵巣炎を合併している可能性があります。小児科や内科、婦人科を受診してください。

おたふく風邪で卵巣炎になった場合にも不妊の原因となることはほとんどないと考えられています。

耳が聞こえにくい:難聴

おたふく風邪にかかると0.01-0.5%で聴力が低下し難聴になることがあります。めまいなどの症状を伴うこともあります。難聴は耳下腺の腫脹が治まった後1か月以内に急に生じることが多いですが、徐々に進行していくこともあります。難聴は片側だけの場合と両側の場合とがあります。聴力は回復することが多いですが、後遺症となることもあります。

おたふく風邪にかかった後、会話中に聞き返すことが増えたりテレビのボリュームを上げるなど、耳が聞こえにくくなった様子がある場合、難聴を合併している可能性があります。耳鼻科を受診してください。

ムンプス難聴については「おたふく風邪に後遺症はあるのか?ムンプス難聴について」で詳しく説明しています。

背中が痛い:膵炎

おたふく風邪にかかった人のうち10%以下で、膵炎を合併することがあります。おたふく風邪による膵炎は子どもにも大人にも起こります。耳下腺炎を生じてから1週間前後で膵炎を発症することが多いです。一般的に症状は軽度ですが、みぞおちや背中の痛み、吐き気・嘔吐、発熱などの症状が出ます。

おたふく風邪にかかった後でみぞおちや背中の痛み、吐き気・嘔吐、発熱がみられた場合、膵炎を合併している可能性があります。小児科や内科(消化器内科)を受診してください。

おたふく風邪による膵炎の経過は良好で、1週間程度で軽快します。