しんけいいんせいぼうこう
神経因性膀胱
脳や自律神経の障害などにより尿を我慢したり出したりする膀胱の機能がコントロールできなくなる病気
6人の医師がチェック 85回の改訂 最終更新: 2022.02.07

神経因性膀胱とはどんな病気なのか? 症状・原因・検査・治療など

膀胱は袋のような形をしている臓器です。尿を一時的に溜めておく役割があり、膀胱の中の尿が一定量になると、縮んで尿を身体の外に排出します。膀胱の一連の動きは神経の働きによって制御されていますが、この神経の動きが乱れる病気が神経因性膀胱です。このページでは神経因性膀胱の概要について説明します。

1. 神経因性膀胱とはどんな病気?

神経因性膀胱(英語名:neurogenic bladder)は膀胱に司令を出す神経の働きが不十分になった状態です。具体的には膀胱が担っている「尿を溜める機能(蓄尿)」と「尿を排出する機能(排尿)」といった役割に狂いが生じて、さまざまな症状が現れます。

2. 神経因性膀胱の症状について

神経因性膀胱の症状は多様です。どの症状が現れるかは人によって異なります。

【神経因性膀胱の症状】

  • 尿を溜める機能の乱れ(蓄尿障害)
    • 尿が十分溜まっても尿意を感じない
    • 尿がほとんどたまっていないのに尿意を過剰に感じる
  • 尿を排出する機能の乱れ(排尿障害
    • 尿閉:膀胱に溜まった尿を出せない
    • 尿失禁:尿もれ

上のリストの症状が見られる人には神経因性膀胱の可能性があります。ただし、これらの症状は他の病気でも見られるものなので、症状だけで判断はつきません。例えば、「尿意を過剰に感じる」という症状は、神経因性膀胱だけではなく、膀胱炎過活動膀胱でも見られます。また、尿閉前立腺肥大症や、尿道結石でも見られる症状でもあります。このため症状の原因が神経因性膀胱かどうかは診察や検査の結果から総合的に判断されます。 症状についての詳しい説明は「こちらのページ」でも説明しているので参考にしてください。

3. 神経因性膀胱の原因について

排尿の一連の流れは脳神経によって制御されています。膀胱に一定以上尿が溜まると、その情報を膀胱周囲にある神経が受け取り、脊髄背骨の中を通る神経)を経由して脳に伝えます。これによって尿意を感じ、排尿の準備が整うと、今度は脳からの指示で膀胱が縮み尿が排出されます。正常な排尿機能を保つには、このような「脳ー脊髄ー膀胱周囲の神経」という、ひとつながりの神経の働きが欠かせません。

このため、脳から脊髄、膀胱の周りに至る神経のどこかが傷つくと、膀胱が正常に働かなくなります。このように神経の問題によって、膀胱の機能に狂いが生じるのが、神経因性膀胱です。 神経に問題を起こす病気が神経因性膀胱の原因となります。

【神経因性膀胱の原因となる主な病気】

脳血管障害は脳梗塞脳出血といった病気をまとめた総称です。脳血管障害によって、排尿を司る部分の脳にダメージを負うと、尿意に異常をきたします。また、多発性硬化症も脳血管障害と同様に脳にダメージを与える病気です。

脊髄損傷や脊柱管狭窄症、二分脊椎は背骨の中にある脊髄にダメージを与える病気です。脊髄に障害が起こると、手や足の運動や感覚に異常が生じることがよく知られていますが、神経因性膀胱も伴うことがあります。

生活習慣病の一つである糖尿病は膀胱の近くの神経(末梢神経)にダメージを与えます。排尿に関する神経にダメージが起こると、神経因性膀胱の原因になります。

また、上のリストにはありませんが、子宮や大腸、前立腺の手術で膀胱周辺の神経に影響が及ぶと、後遺症として神経因性膀胱が残ることがあります。

4. 神経因性膀胱の検査について

神経因性膀胱の可能性がある人には診察や検査が行われ、「症状が神経因性膀胱によるものかどうか」や「神経因性膀胱の原因」などが調べられます。

【神経因性膀胱の人に行われる診察や検査】

  • 問診
  • 身体診察
  • 排尿日誌
  • 尿流動態検査
    • 尿流測定
    • 残尿測定
    • 膀胱内圧測定
  • 超音波検査
  • 内視鏡検査

神経因性膀胱の診断は診察や検査結果から総合的に判断されますが、その中でも特に重要なのが、尿流動態検査です。排尿状況を客観的に調べることができ、診断の決め手になることが多いです。 それぞれの検査の詳しい内容については「こちらのページ」を参考にしてください。

5. 神経因性膀胱の治療について

神経因性膀胱の治療は一人ひとりの状態に応じて選ばれます。膀胱の神経がまだ機能する人と膀胱の神経が機能する見込みがうすい人で治療法を2つに大別することができます。

【神経因性膀胱の治療】

  • 膀胱の神経が機能する見込みがある場合の治療
    • 膀胱訓練
    • 骨盤底筋訓練
    • 薬物療法
  • 膀胱の神経が機能する見込みがうすい場合の治療
    • 手術:膀胱拡大術
    • 清潔間欠自己導尿
    • 尿道カテーテル

神経因性膀胱の治療は膀胱の神経機能の残存状況によって異なります。機能が残っている人には「膀胱訓練」や「骨盤底筋訓練」、「薬物療法」が行われます。病気になる前の状態にできるだけ近づけるようにするのが治療の目的です。一方で、機能が残っていない人には手術や清潔間欠自己導尿、尿道カテーテルなどが行われます。病気になる前の状態には戻らないので、症状を和らげて上手に付き合えるようにするのが治療の目的です。

それぞれの治療の詳しい内容については「こちらのページ」を参考にしてください。

6. 神経因性膀胱の人に知ってほしいこと

排尿は老廃物や余分な水分を身体の外に出す役割があり、人間が生命を維持する上で欠かすことができません。もし排尿が全く行えなければ、身体に老廃物や水分がたまり続け、数日で生命が危機に瀕してしまいます。「排尿」と聞くと、心臓や脳の病気に比べて、どうしても軽く考えられがちですが、じつは同じくらいしっかりと治療に向き合う必要があります。このページの内容を頭に入れて、治療に前向きに取り組んでもらえれば幸いです。

なお、よくある質問については「こちらのページ」にまとめてあるので、参考にしてください。

参考文献

・「標準泌尿器科学」(赤座英之/監 並木幹夫、堀江重郎/編)、医学書院、2014

・「泌尿器科診療ガイド」(勝岡洋治/編)、金芳堂、2011