しきゅうけいがん
子宮頸がん
子宮の入り口(子宮頚部)にできるがん。HPV(ヒトパピローマウイルス)というウイルスの感染が主な原因
9人の医師がチェック 226回の改訂 最終更新: 2024.05.29

子宮頸がんとはどんな病気なのか?症状・原因・検査・ステージ・治療について説明

子宮頸がんは子宮にできるがんの一種で、20歳代後半から40歳代前半に多く見られます。発症にはヒトパピローマウイルスの感染が関連していることがわかっており、ワクチン接種で感染を予防することができます。ここでは子宮頸がんの概要として、症状や原因、検査、治療を中心に説明します。

1. 子宮頸がん(英語名:cervical cancer)とはどんな病気なのか

子宮は女性特有の臓器です。下図のように子宮頸部と子宮体部の2つに分けられます。子宮の出入り口にあたる子宮頸部に発生するがんが「子宮頸がん」です。一方、子宮の奥側にあたる子宮体部に発生するがんは「子宮体がん」と呼ばれます。

【子宮の模式図】

子宮の模式図

どのくらいの人が子宮頸がんになっているのか

10万人あたりの子宮頸がんが見つかった人数(罹患者数)をグラフ化したものを次に示します。

【子宮頸がん年齢調整罹患率(全国推計値・2014年)】

子宮頸がん年齢調整罹患率(全国推計値・2014年)

上のグラフには上皮内がんを含むもの(赤色)と含まないもの(青色)の2つがあります。2つのグラフの違いを説明する前に、上皮内がんについて説明します。 子宮頸がんは進行度によって、「上皮内がん」と「浸潤がん」の2つに分けられます。子宮頸がんはもっとも表面に近い層である粘膜に発生し、その後進行するにしたがって下に根を伸ばしていきます。がんが粘膜にとどまっているものを「上皮内がん」といい、粘膜の下の間質より深くがんが及んだものを「浸潤がん」といいます。簡単に言うと、上皮内がんは最も早期のがん、浸潤がんは上皮内がん以外のすべての進行度のがんと考えてください。

話をグラフに戻します。上皮内がんを除いた子宮頸がんの罹患者数(青色のグラフ)は一時期(1980年代後半から2000年代中盤)減少していましたが、おおむね横ばいです。一方で、上皮内がんを含めた子宮頸がん(赤色のグラフ)は2000年代中盤から急激に増加しています。2つのグラフの差のほとんどが上皮内がんにかかった人の数によるものなので、2000年代中盤から上皮内がんが見つかる人が急増していると考えることができます。

子宮頸がんが見つかりやすい年齢について

年代ごとのグラフと同様に、年齢階級ごとの罹患者数(患者さんの数)グラフを上皮内がんを含んだもの(赤色)と含まないもの(青色)を示します。

「上皮内がんを含まない子宮頸がん」は20歳代の後半から増加し、40歳代にピークがあります。一方、「上皮内がんを含んだ子宮頸がん」に注目すると20歳から増え始め、急激に増加し30歳代にピークがあります。

【子宮頸がん年齢階級別罹患率(全国推計値)】

子宮頸がん年齢階級別罹患率(全国推計値)

ピークのある「30歳から34歳の人」では10万人あたり140人を超える人に子宮頸がんが見つかっています。これは約700人に1人の割合で子宮頸がんが見つかっていることになります。

子宮頸がんと子宮体がんの違いについて

子宮体頸がんと子宮体がんには、がんができた場所以外にも違いがあります。治療法やその後の経過に違いがあるので、「子宮のがん(または疑われる)」と言われた人は子宮頸がんなのか子宮体がんなのかをお医者さんによく確認してください。また、場所の違いについては、上にある【子宮の模式図】を参考にしてください。

■がんが見つかる年齢の違い

子宮頸がんは30歳代から40歳代で見つかることが多いのに対して、子宮体がんは50歳代から60歳代で見つかることが多いです。このため、子宮頸がんを早期発見するために、20歳から2年に1度の定期健診を受けることが推奨されています。

■がんが発生する原因の違い

子宮頸がんの発生にはヒトパピローマウイルス(HPV)が強く関係しており、ワクチンの接種によってHPVの感染を予防できます。一方、子宮体がんの原因ははっきりとは分かってはいませんが、閉経した人やホルモン補充療法を受けている人にできやすいと考えられています。

2. 子宮頸がんの症状について

子宮頸がんは検診で見つかることもあれば、自覚症状から見つかることもあります。子宮頸がんの主な自覚症状は次のものです。なお、「がんが転移した人」や「がんが再発した人」、「末期の人」の症状は「こちらのページ」を参考にしてください。

【子宮頸がんの主な自覚症状】

それぞれの症状を簡単に説明します。

不正性器出血不正出血

不正性器出血不正出血)は月経(生理)や分娩(出産)、産褥期(出産直後)以外で起こる性器からの出血です。子宮頸がん以外の原因には「女性器(子宮や卵巣、膣)の病気」や「閉経による影響」などがあります。不正性器出血の原因は「こちらのページ」を参考にしてください。

■膣分泌物(おりもの)の異常

がんから分泌された液体を膣からの分泌物(おりもの)として自覚することがあります。具体的には、おりものの量が増加したり、色や匂いに変化します。

■下腹部痛

早期の段階では起こりにくいですが、がんが子宮頸部を超えて広がると下腹部痛を感じることがあります。下腹部痛は便秘食中毒のように誰でも経験しうる病気でも起こりますが、子宮頸がんが原因の下腹部痛は、排便で軽快しなかったり、痛みを長期間繰り返すなどが特徴がです。

3. 子宮頸がんの原因について

子宮頸がんの発生にはヒトパピローマウイルス(HPV)が強く関わっていることが知られています。HPVには100以上の種類があり、このうちの15種類(高リスク型HPV)が子宮頸がんの発生に関与していると考えられています。高リスク型HPVは主に性行為によってうつり、男性にも女性にも感染します。決して珍しいウイルスというわけではなく、性行為の経験がある女性の大半が一度は感染し、子宮頸部の細胞に異常がない女性であっても10%から20%程度の人に感染がみつかることが知られています。

誤解されやすいのですが、HPVに感染した人が必ず子宮頸がんになるわけではありません。感染した人の約9割ではウイルスが身体から自然に排除されます。一方、ウイルスが排除されずに数年から数十年にわたり感染が持続した人の一部では、子宮頸部の細胞がゆっくりとがん化していくと考えられています。

4. 子宮頸がんの種類について:腺癌・扁平上皮癌

子宮頸がんにはいくつか種類があり、病理検査(顕微鏡で細胞を観察する検査)で調べることができます。中でも、扁平上皮(へんぺいじょうひがん)と腺癌(せんがん)という2つのタイプが全体のほとんどを占め、その割合は、扁平上皮癌が約80%、腺癌が約15%です。腺癌のほうが扁平上皮癌に比べて、悪性度が高く、治療が難しいと考えられています。

5. 子宮頸がんの検査について

「子宮頸がんが疑われる人」や「子宮頸がんと診断されたを受けた人」には次のような診察や検査が行われます。

【子宮頸がんが疑われる人や子宮頸がんと診断された人に行われる検査】

  • 問診
  • 身体診察
  • コルポスコープ検査(膣拡大鏡検査)
  • 病理検査
    • 細胞診
    • 組織診
  • ウイルス検査(ヒトパピローマウイルス)
  • 画像検査
    • 超音波検査
      • 経膣超音波検査
      • 経腹超音波検査
    • CT検査
    • MRI検査

「子宮頸がんが疑われる人」と「子宮頸がんと診断されたを受けた人」では受ける検査に違いがあるので分けて説明します。 それぞれの検査の詳しい説明は「こちらのページ」を参考にしてください。

子宮頸がんが疑われる人が受ける診察や検査

子宮頸がんが疑われる人は「がんの有無」を調べるための診察・検査を受けます。特に重要なのが病理検査です。病理検査では、子宮頸部の一部を取り出して顕微鏡で観察してがんの有無が確認されます。病理検査では、上のリストにある細胞診がまず行われ、がんの存在が否定できない人にはより詳しく調べるために組織診が行われます。

子宮頸がんと診断された人が受ける検査

子宮頸がんと診断された人は主に「ステージ病期)」を調べるための検査を受けます。ステージはがんの広がりで決まるので、身体の中の状態がよくわかる画像検査(CT検査やMRI検査)が中心になります。

6. 子宮頸がんのステージについて

子宮頸がんのステージは4つ(IからIV)に大別されます。それぞれのステージの内容について説明します。

ステージI

ステージIはがんが子宮頸部に留まっている状態です。転移はなく、子宮頸部とつながっている子宮体部や膣にも広がりはありません。

ステージII

ステージIと異なり、ステージIIではがんが子宮頸部から外に広がっています。しかし、周りの臓器への広がりは大きくありません。専門的には「骨盤壁または膣壁の下1/3に達していない状態」と言い表されます。骨盤壁とは子宮頸部の周りにある構造物のことを指し、「膣壁の下」は足側を下とした表現です。

ステージIII

ステージIIIはステージIIと同様に子宮頸部の外にがんが及んでいますが、その広がりがより大きいです。より詳しく説明すると「骨盤壁または膣壁の下1/3を超えている状態」です。また、がんが膀胱や尿管に広がった影響で、水腎症(尿の流れが滞り腎臓の一部が腫れること)が起こり、腎臓が廃絶している(機能がほとんどない)状態も含まれます。

ステージIV

ステージIVはがんが最も広がった状態です。具体的には「膀胱や直腸の中に入り込んで最も内側の粘膜まで達した状態」または「がんがお腹の中や遠く離れた臓器に転移した状態」です。

7. 子宮頸がんの治療について

子宮頸がんの治療法には次のものがあります。

【子宮頸がんの治療法】

  • 手術
    • 円錐切除術
    • 単純子宮全摘除術
    • 広汎子宮全摘除術
  • 抗がん剤治療
  • 放射線治療
  • 緩和治療

ステージに応じて適した治療法が上のリストの中から選ばれます。以下ではそれぞれの治療法について簡単に説明していますが、より詳しい内容は「こちらのページ」を参考にしてください。

手術

手術の目的はがんを取り除くことです。方法には、「円錐切除術」「単純子宮全摘除術」「広汎子宮全摘除術」の3つがあり、進行度に応じて選ばれます。 円錐切除術は子宮頸部を円錐状にくり抜く手術です。お腹を切る必要はなく、がんが早期の人に行われます。一方、単純子宮全摘除術と広汎子宮全摘除術はお腹を切って行われ、どちらも子宮を取り除く点では共通していますが、頸部の周りの取り除き方が異なります。単純子宮全摘除術に比べて、広汎子宮全摘除術では子宮頸部の周りにある組織が多く取り除かれ、がんが進行した状態の人に行われます。

抗がん剤治療

抗がん剤治療は主に「手術後に再発する可能性が高い人」や「がんが子宮から離れた場所に転移した人」に行われます。抗がん剤治療を行うことで、再発率を下げたり、転移したがんが大きくなるのを遅らせることができます。抗がん剤治療のより詳しい説明や副作用については「こちらのページ」を参考にしてください。

放射線治療

放射線は放射性物質から放出されるもので、細胞にダメージを与える力があります。この放射線の力が治療に利用されます。放射線治療は子宮頸がんの治療のさまざまな場面で行われます。手術の代わりとして用いられることもあれば、転移したがんによる症状(痛みや痺れなど)を和らげるために行うこともあります。詳しくは「こちらのページ」を参考にしてください。

緩和治療

緩和治療は生命を脅かす病気によって生じる肉体的・心理的な苦痛を和らげる方法です。かつては、緩和治療と終末期治療が同義と理解されていることがありましたが、現在の認識は異なります。終末期の治療だけではなく「手術後の傷の痛みををとる治療」や「抗がん剤による吐き気を抑える治療」などが緩和治療に含まれ、「精神面の負担を和らげること」もその1つです。

緩和治療を上手に使うと、手術や放射線治療、抗がん剤治療に前向きに取り組めるようになるなどの効果があります。がんの治療中に苦痛に思うことがあれば、お医者さんと相談して緩和治療を検討してみてください。

8. 子宮頸がんの人に知って欲しいこと

子宮頸がんと診断を受けた人にとって気になる「生存率」と「完治」について説明します。その他の疑問などは「こちらのページ」を参考にしてください。

子宮頸がんは完治するのか

子宮頸がんは根治治療(手術や放射線治療)によって完治が見込めます。しかし、治療を受けた全員が完治するわけではなく、中には再発して完治が難しくなる人がいます。全ての人で再発の可能性がありますが、時間の経過とともにその可能性はだんだん低くなります。治療後、数年経って再発がなければ、再発する可能性はかなり低いので、「完治」したと言えます。

子宮頸がんの生存率はどれくらいか

がんの統計’24」をもとにしたステージごとの生存率を表に示します。

【子宮頸がんのステージごとの5年実測生存率(2014年-2015年に診断)】

  5年生存率(%)
ステージI 93.3
ステージII 76.5
ステージIII 62.2
ステージIV 25.1

がんと診断を受けて自分の当てはまるステージが分かると、生存率がどうしても気にかかるものですが、気にしすぎる必要はありません。今知ることができる生存率は過去の治療の結果であり、現在の治療結果を予想したものではないからです。治療は進歩をしているので、現在の治療が過去の治療実績を上回ることは十分ありえます。生存率はあくまで参考程度にとどめ、「治療に前向きになること」や「日常生活を充実させること」に目を向けることをお勧めします。

なお、子宮頸がんの約半数を占める「上皮内がん」の人の生存率は上記の表には含まれていません。これは、「がんの統計」で上皮内がんの生存率が集計されていないからです。上皮内がんは最も早期の段階であることから、生存率はステージIより高い可能性が高いと考えられます。

参考文献

・公益財団法人がん研究振興財団, 「がんの統計’24
・日本婦人科腫瘍学会/編, 「子宮頸癌治療ガイドライン2022年版」, 金原出版, 2022年
・国立がん研究センター内科レジデント/編, 「がん診療レジデントマニュアル(第7版)」, 医学書院, 2016年
・日本産婦人科学会,日本産婦人科医会/編, 「産婦人科 診療ガイドライン-婦人科外来編 2017」, 2017年
婦人科腫瘍委員会報告 2016年度患者年報 日本産婦人科学会誌7巻4号
・厚生労働省:HPVワクチンQ&A(2021.7.16閲覧)