前立腺がんの基礎知識
POINT 前立腺がんとは
高齢男性に多く発生する前立腺の悪性腫瘍です。主にPSAという血液検査項目の上昇をきっかけとして発見されます。PSA値が高い人には前立腺生検が検討され、がんが検出されれば診断が確定します。がんの広がりはCT検査やMRI検査を用いて調べられます。がんの状態に応じて手術、放射線療法、ホルモン療法などで治療されます。前立腺がんは経過が良いことが多く、早期に治療を行った人の5年生存率は90%を超え、完治が望みやすいがんだと言えます。その一方で、骨に転移をした状態で見つかる人もおり、進行した状態での生存率は高くはありません。前立腺がんが心配な人は泌尿器科や検診でPSA検査を受けることをおすすめします。
前立腺がんについて
前立腺 にできたがん - 英語名:Prostate Carcinoma
- 年間罹患者数94,748人(2020年)
- 年間死亡者数13,439人(2022年)
- 5年実測生存率(2014-2015年診断)
ステージ 1:89.6%- ステージ2:91.1%
- ステージ3:86.4%
- ステージ4:51.1%
- 主な原因として以下のものが関わっていると考えられている
- 遺伝
- 肉中心の食生活
男性ホルモン (アンドロゲン )
- 中高年の男性に起こり、65歳以上になると発生する人が増える
- 国内では年間に約9万人が新たに罹患しているとされる
- 男性のがんの中で罹患者数は第1位だが、死亡率は高くはない(
5年生存率 が高い)
- 前立腺がんと前立腺肥大症の関係
- 前立腺がんの
悪性度 は様々であり、手術が必要なものから経過観察 が可能なものまである 予後 は比較的良好なことが多く、転移 があるステージ4でも長期に生存できる場合もある- 明らかな予防法は確立していない
前立腺がんの症状
- 主な症状
がん が早期の段階では自覚症状はほとんどない- がんが進行すると次のような症状が現れる
- 排尿困難
- 排尿時の痛み
血尿 や血精子症
- がん自体はゆっくり成長し、症状が出るまで時間がかかる
- 症状が出て発見された場合はすでに
転移 がある進行がんであることが多い - 尿が出にくい症状の多くは前立腺肥大症を原因とする
- 尿が出にくさは前立腺がんの存在を必ずしも意味しない
- 症状が出て発見された場合はすでに
- 骨に転移することが多く、腰の骨に転移し腰痛を起こすこともある
- 転移しやすい部位は骨、肺、
リンパ節 など - 末期では悪液質という状態に陥る
- 悪液質とはがんや慢性疾患が進行する過程で現れる症状
- 体重減少(筋肉の減少)
- 疲労感
- 食欲不振にともなう低栄養状態
抑うつ 症状(気持ちの落ち込み)免疫 力低下にともなう易感染状態(感染症 にかかりやすくなる)
- 悪液質とはがんや慢性疾患が進行する過程で現れる症状
前立腺がんの検査・診断
- 血液検査
腫瘍マーカー (PSA)や全身状態などを調べる
- 直腸診
- 肛門から指を入れて、直腸越しに
前立腺 を触って硬さや凹凸を調べる 腫瘍 がある場合は、前立腺が固くなったりする
- 肛門から指を入れて、直腸越しに
超音波検査 腹部超音波検査 - お腹から前立腺を観察する方法
- 膀胱に尿がたまった状態の方が観察しやすい
- 経直腸的超音波検査
- 直腸から長細い棒状の機械(プローブ)を挿入し、前立腺の画像として映し出す
- 外来で行うこともできる
- 前立腺
生検 ・病理検査- PSAが高値を示すなど前立腺がんが疑わしいときに行う
- 前立腺がんの確定診断を目的とする
- 前立腺に細い針を刺して、前立腺の組織を採ってくる
- 前立腺生検の方法
- 経直腸式前立腺生検(直腸越しに針を刺す)
- 経会陰式前立腺生検(会陰から針を刺す)
がん の検出率は約30-50%とされている- 採取した組織を顕微鏡で調べる
- がん細胞の有無
- がん細胞がある場合はその
悪性度
- 画像検査
- 前立腺がんの広がりや大きさ、
転移 の有無などを調べる - 経直腸的超音波検査
- 前立腺がんの有無、広がりの評価に向いている
CT 検査(胸部〜腹部)- 他の臓器や
リンパ節 への転移の有無の評価に向いている
- 他の臓器や
MRI 検査(骨盤部)- 前立腺がんの有無、広がりの評価に向いている
骨シンチグラフィ ー- 骨転移の有無を調べるのに向いている
- 前立腺がんの広がりや大きさ、
- 「がんの広がり」「
リンパ節転移 の有無」「他の臓器への転移の有無」でステージ を決定する - ステージの他にリスク分類も治療方針を決めるのに重要
- リスク分類はがんの前立腺での広がり、病理検査の結果(グリソンスコア)、PSAの3つの項目で決定する
- リスク分類は前立腺がんの悪性度の目安になる
前立腺がんの治療法
- 治療を選択するうえでの目安
- 治療の選択を決める上で参考になるものは以下である
がん のステージ - リスク分類(
悪性度 の目安) - 年齢
- 全身の状態を総合的に考慮して治療方法を決める
転移 のない前立腺がんでかつ高齢ではない場合は根治的治療を行う- 根治治療は手術・
放射線治療 のこと ホルモン 療法は根治的治療ではないので転移がない場合には基本的には用いない
- 患者さん自身の意向と治療効果のバランスを考えて決める
- 治療後の予測される状態と自分の生活スタイルがどの程度マッチするかが大切。余命に影響しないと考えられる場合は
経過観察 の選択がとられることもある - 主治医に予測される
合併症 をあらかじめ尋ねておくことが大切
- 治療後の予測される状態と自分の生活スタイルがどの程度マッチするかが大切。余命に影響しないと考えられる場合は
- 治療の選択を決める上で参考になるものは以下である
- 主な治療
- 手術
- 放射線治療
- 方法は主に3つある
- 体の外から前立腺に放射線を当てる方法(外照射)
- 前立腺に放射線がでる金属を埋め込む方法(組織内照射)
- 外照射と組織内照射を組み合わせた方法もある
- 外照射・組織内照射・ホルモン療法の3つを組み合わせて治療する方法をトリモダリティと呼ぶことがある
- 放射線治療は手術と同じく、がんを体からなくす根治的治療として行える
- 手術と放射線治療はがんを治す効果としては差がないと考えられている
- 副作用は
排尿障害 、尿失禁、直腸や膀胱からの出血など
- ホルモン療法(内分泌療法)
アンドロゲン (男性ホルモン )を抑える治療- 注射薬と
内服薬 を併用することがある - アンドロゲンを体からできるだけ少なくすることで前立腺がんの増殖を抑える
- 手術や放射線治療が向かない高齢者に対して行う
- 診断時にすでに転移がある人の最初の治療として行う
- 悪性度の高い前立腺がんに対して、手術や
放射線療法 の効果を高めるために手術や放射線療法の前後で行うことがある - ホルモン療法の効果がなくなった状態を去勢抵抗性前立腺がん(
CRP C)という - CRPC(去勢抵抗性前立腺癌)に対しては新規ホルモン剤(エンザルタミド、アビラテロン、アパルタミド、ダロルタミド)と
抗がん剤 (化学療法 )の治療効果が確認されている
- 化学療法
- 骨転移の治療
- 前立腺がんはしばしば転移を起こし、骨への転移が多い
- 放射線治療とゾレドロン酸、デノスマブ、ラジウム223などを組み合わせる
前立腺がんに関連する治療薬
微小管阻害薬(タキサン系)
- 細胞分裂で重要な役割を果たす微小管に作用し細胞分裂を阻害することで抗腫瘍効果をあらわす薬
- がん細胞は無秩序に増殖を繰り返したり転移を行うことで、正常な細胞を障害し組織を壊す
- 細胞増殖は細胞が分裂することでおこるが、細胞分裂に重要な役割を果たす微小管という物質がある
- 細胞分裂の後半では、束になっている微小管がばらばらになる(脱重合する)必要がある
- 本剤は微小管の脱重合を阻害し細胞分裂を阻害する作用をあらわす
抗アンドロゲン薬(前立腺がん治療薬)
- 前立腺細胞においてアンドロゲン(男性ホルモン)のアンドロゲン受容体への結合を阻害し、抗腫瘍作用をあらわす薬
- 前立腺がんは男性ホルモン(アンドロゲン)が前立腺のアンドロゲン受容体(AR)に作用することで発症リスクが高まり、がんが進行する
- がん細胞が前立腺に存在する場合では男性ホルモンがARに作用することで、がんの悪化につながる
- 本剤は男性ホルモンのARへの結合を阻害し抗アンドロゲン作用をあらわす
- 本剤の中にはAR阻害作用の他、複数の作用の仕組みによって前立腺がん細胞の増殖を抑える薬剤もある
前立腺がんの経過と病院探しのポイント
前立腺がんが心配な方
前立腺がんは、高齢男性に多くみられる病気でPSAという前立腺がんの腫瘍マーカーを測定することで見つけることができます。前立腺がんは症状が出にくい病気なので自分で気づくことは少ないです。尿の出にくさを調べていて見つかることもありますが、その症状はほとんどが同時にある前立腺肥大症が原因です。前立腺肥大症は前立腺がんと合併することはありますが変化してがんにはならないと考えられています。
PSA検査は、自治体によっては補助が効く検診として行うこともできますし、それ以外でもクリニックなどで実施することができます。前立腺がんが心配な人はお近くの泌尿器科で相談してみることをお勧めします。
前立腺がんでお困りの方
前立腺がんの治療法は多様です。また、進行が緩やかなので、治療法を選ぶ時間は他のがんに比べて十分とれることが多いです。まず、このページなども参考にして、自分がどの治療を受けられるかを把握してみてください。その上で、自分の考えをはっきりとさせ、考えにあった治療法を選んで見てください。お医者さんも時間をとって相談にのってくれますので、しっかり話し合ってみてください。