てんかん
てんかん
脳細胞が一時的に異常な活動をすることで、さまざまな発作症状が現れる病気
26人の医師がチェック 287回の改訂 最終更新: 2024.01.10

てんかん(癲癇)の人や家族が知っておきたいこと:遺伝・車の運転・専門医がいる病院についてなど

てんかんの人は、発作時の対応や日常生活のことなど、さまざまなことに気を配る必要があります。また、女性では妊娠への影響が気になるところです。ここではてんかんの人やその家族に知っておいて欲しいことをまとめました。

1. てんかん発作が起きたときの対処について

てんかん発作が起きた場合、周囲の人にまず行ってほしい適切な対応と、とっさにやってしまいがちだけれども避けてほしい行動とがあります。ここでは発作時の具体的な対応や注意することなどについて説明します。

周りの人がまず行うべきこと

まず、周囲の人は慌てないことが大切です。

てんかん発作にはさまざまな種類がありますが、ほとんどの発作は数秒から数分でおわります。ですから患者さんに発作が起きた場合には、まず落ち着いて次の3つの対応をしてください。

  • 患者さんの周りに危険があるかを確認し、あれば取り除く
  • 身体を横にする
  • 見守る

この3点は発作を起こした人を危険から守るためにとても大切なことです。それぞれのポイントについて説明します。

■患者さんの周りに危険があるかを確認し、あれば取り除く

発作が起きている時の患者さんの身体は、どのような方向に動くか予想できません。もし周りに危険物があると身体が触れて怪我をおってしまうこともあるので、可能な限り危険物を身体の近くから取り去るようにしてください。

例えば、近くに火がある場合はそれを消したり、道路で発作が起きた場合には患者さんを安全な場所に移動させたりしてください。

■身体を横にする

発作時に嘔吐することがあります。吐いたものが気管につまると呼吸ができなくなることがあるので、患者さんの身体を横向きに寝かせて吐いたものがなるべく気管に流れ込まないようにしてください。

■見守る

てんかん発作は力ずくで止めることはできません。患者さんの周りに危険物がないことを確認した後は見守ることに徹してください。

また、見守りながら患者さんの発作がどのような発作であるかをよく見てもらうとその後の診察に役立ちます。てんかんは発作のタイプによって治療薬が異なりますが、てんかんのタイプは発作の様子をもとに決められるからです。このため、どのような発作が起きたかをお医者さんに伝えることは重要です。可能であれば、発作の様子をスマートフォンなどで撮影しておくと、お医者さんにどのような発作が起こったかを正確に伝えることができます。

発作が起きたときに避けるべきこと

てんかん発作が起きたときには避けるべき行動があります。とっさにしてしまいそうな行動もあるので、周囲の人はしっかり頭に入れておいてください。

■力ずくで発作をとめようとする

てんかんの発作は力ずくでは止めることはできません。力ずくで抑えようとすると抵抗にあい、周囲の人が怪我をしてしまうこともあります。このため、強引に力で抑えるような行為は避けるようにしてください。もし倒れそうな危険がある場合には、怪我をしないように支えてあげるだけで良いです。

■口にものを入れる

発作で舌を噛んでしまうのではないかと心配して、口の中にタオルやスプーン、指を入れようとする人がいます。しかし、無理に口の中にものを入れると歯が折れてしまったり、かえって口の中が傷ついてしまうことがあるので、避けてください。

■何回も呼びかける

発作中は呼びかけても応じられないことが多いので、呼びかける意味があまりありません。また、発作時に意識がある人では、発作中に何回も呼びかけられるとかえって不安になる、という意見もあります。

声をかける場合は、「大丈夫だよ」など患者さんを安心させるような言葉をかけるようにしてください。

発作がとまらない場合の対応:救急車を呼ぶべき状態について

てんかんがとまらない重積状態が疑われる場合は救急車を呼んでください。

てんかん発作は通常は1分から2分で自然にとまりますが、重積状態になって長時間発作が続く場合には脳に障害が残る可能性が高くなります。重積状態は自然にとまるものではないので、発作をとめるために薬の投与が必要になります。 5分間にわたって発作がとまらないときには救急車を呼んで、医療機関で治療を受けるようにしてください。

2. てんかんの人の結婚や妊娠、出産について

てんかんの人は結婚や妊娠、出産について悩みがあるとよく耳にします。ここではてんかんの持病がある人が知っておきたいことを説明します。

てんかんは遺伝するのか

てんかんの持病がある人が結婚を考えるときに、てんかんが子どもに遺伝するのではないかと心配になるとよく耳にします。結論からいうとてんかんの遺伝性は少ないと考えられています。

てんかんを起こす病気のなかには遺伝性であるとわかっているものもありますが、これは極めてまれな病気です。 また、研究報告のなかには、てんかんの既往がある人の子孫はてんかんの既往がない人の子孫に比べてるとてんかんが起こりやすい、とするものがありますが、それは数%の頻度の上昇に過ぎません。このため、てんかんの遺伝は過度に気にする必要はないと考えられています。

抗てんかん薬はお腹の赤ちゃんに影響するのか

いくつかの抗てんかん薬は、赤ちゃんに先天異常が起こる可能性を高めることが知られています。具体的には、バルプロ酸やトピラマート、フェニトイン、フェニトインなどの薬が影響するとされています。(抗てんかん薬の詳しい情報については「てんかんの治療」を参考にしてください。)

また、薬を複数飲んでいる場合にも先天異常が多く発生することもわかっています。このため、妊娠を考えている女性の抗てんかん薬は次のようにすることが望ましいと考えられています。

  • 先天異常が起こりにくい薬に変更する
  • 1つの薬にする

どの抗てんかん薬をどのくらい使えば症状を抑えられるのか、薬の種類や量の調整は長い時間をかけて行われます。このため、それまで使っていた抗てんかん薬を変更したり減らしたりするのは簡単ではありません。

妊娠を希望される場合には、時間的な余裕をもってかかりつけのお医者さんに相談してください。計画的に内服薬を妊娠に適した状態にしておくのがよいでしょう。

葉酸は飲んでもよいのか

妊娠中または妊娠希望があるてんかんの女性は、葉酸を飲んだほうが良いとされています。

葉酸は、赤ちゃんが神経管閉鎖障害という病気になるリスクを低減させることが知られており、一般的に妊娠1ヶ月以上前から妊娠3ヶ月までの間に1日あたり0.4mg(400μg)を摂取することが推奨されています。

一部の抗てんかん薬は血中の葉酸濃度を低下させる作用があることが知られており、なかでもバルプロ酸とカルバマゼピンを内服している人は、特に積極的に葉酸を摂取することが望ましいとされています。

摂取する葉酸の量は抗てんかん薬を飲んでいない人と同じく、1日あたり0.4mgから0.6mgです。葉酸は緑黄色野菜(ほうれん草、アスパラガス、ブロッコリーなど)や納豆、あずき、果物などに多く含まれていますが、加熱すると壊れやすく摂取が難しい栄養素です。このため、食事に加えてサプリメントを利用することで上手に葉酸を摂取することができます。

葉酸の摂取はメリットもある一方で、摂りすぎるとビタミンB12が不足する原因になることもわかっています。妊娠を希望する人や妊娠中の人は、適量を摂取できるようにお医者さんや管理栄養士に相談してみてください。

自然分娩は可能なのか

てんかんの持病があっても自然分娩は可能です。懸念されるのは分娩中にてんかん発作が起こることです。てんかん発作が起きた場合には帝王切開に変更されることもありますが、発作への対応は、怪我をしないよう気を配るなどの一般的な対応で問題ないとされています。分娩は不安が多いと思いますが、起こりうる状況や発作時の対応について周りの人とも整理してみてください。対応を整理するだけでも不安は和らぎます。

抗てんかん薬の母乳への影響

抗てんかん薬を内服中でも母乳による授乳は可能だと考えられています。抗てんかん薬の多くはその成分の一部が母乳に移行しますが、赤ちゃんへの影響は少ないと考えられています。ただし、母乳を介して抗てんかん薬が赤ちゃんに届くこともあり、その際には眠気や手足の脱力、哺乳力の低下などの症状が現れます。抗てんかん薬の影響が赤ちゃんに現れていると考えられる場合は、母乳ではなく人工乳(粉ミルク)へ変更してみてください。

また、赤ちゃんの様子がおかしいなと感じたら、かかりつけの小児科医に相談してみてください。

子育ての注意点

子育てはとても大変なものです。特に、生後しばらくは昼夜問わず授乳が必要になるので育児者は寝不足になりがちです。疲労や寝不足はてんかん発作の引き金になるので、睡眠時間をなるべく確保できるような準備が必要になります。

そのために、周りの人の助けを得られるような環境づくりを前々から進めておいてください。例えば、夜間はパートナーと交代でミルクを与えるように役割分担を決めておいたり、家事の分担を減らして日中に休みを取れるようにしておくだけでも負担はずいぶん軽減されます。産後ヘルパーの利用を選択肢の一つとして加えるのも良いかもしれません。できるだけ上手に周りの人の手をかりて育児を行うようにしてください。

3. 日常生活の工夫や注意点について

てんかんの人の治療は長期に及ぶこともあるので、日常生活で注意をしなければならないことも増えます。ここではてんかんの人の食生活や運転、運動などについて説明します。

てんかん発作に予防効果がある食事はあるのか

薬物療法の効果が小さい難治性てんかんに対しては、発作の回数を抑える食事法として「ケトン食療法」と「アトキンス食療法」が知られています。

ケトン食療法は子どもに、アトキンス食療法は大人に行われます。栄養のとり方に違いがありますが、ともに食事から炭水化物を少なくして、タンパク質や脂質の量を増やす点が共通しています。食事から炭水化物を少なくすると、身体の中のグルコースが減って、ケトン体が作られるようになります。血液中のケトン体が多いと、てんかん発作が少なくなることがわかっています。

ケトン食療法やアトキンス食療法は専門的な知識が必要であり、自己判断では栄養が偏る可能性もあるので医師や管理栄養士に相談して行うようにしてください。

食事療法についてのさらに詳しい説明は「てんかんの治療」を参考にしてください。

てんかんの人はアルコールを控えた方がよいのか

てんかんの人はアルコールは控えめにした方がよいです。てんかんの人が飲酒を控えた方がいい理由は次のような影響を避けるためです。

■発作を起こす原因になる

てんかんの人が大量にアルコールを摂取すると脳に影響して発作が起こることがあります。特に大量飲酒で発作を起こすことが知られています。

てんかんの人は少なくとも常識を超えた量のアルコールの摂取は避けるべきです。

■薬の効果に影響する

過量のアルコールを摂取すると、抗てんかん薬の効果が強くなったり弱くなったりします。薬の効果が強く出すぎると副作用が現れやすくなり、弱くなるとてんかん発作が起こりやすくなっしてまいます。

薬の効果を一定に保つためにも、過量のアルコールの摂取は避けるようにしてください。

■睡眠の質が下がる

飲酒は眠りを浅くしてしまうことが知られています。飲酒が常習化すると日々の睡眠の質が低下してしまい睡眠不足に陥ります。睡眠不足はてんかん発作を起こすきっかけになります。

てんかんの人はアルコールを全く飲んではいけないわけではありませんが、飲み過ぎは避けるべきです。また、アルコールを体内で分解する力は一人ひとりによって異なるので、一概にここまでの量なら影響がないとも言えません。 とはいえ、飲酒を楽しみにしている人もいると思います。飲酒をしたい場合には、量や回数などについてお医者さんとしっかり相談してください。

てんかん発作はストレスが原因で起こるのか

てんかん発作が起こるきっかけの1つにストレスがあります。

脳は電気的な興奮とその抑制のバランスを保ちながら機能をしています。ストレスによって興奮と抑制のバランスが崩れると、てんかん発作が起こると考えられています。ストレスには精神的なものと身体的なものがありますが、どちらもてんかん発作のきっかけとなります。

てんかん発作を抑えるためには、できるだけストレスを感じない環境にいることが大事です。また、ストレスを感じた場合は十分な休息や睡眠をとり、精神的なつらさには「人に話を聞いてもらう」、「リラックスできる音楽を聞く」など自分にあった対処方法を見つけておくことが大切です。

てんかんの人は車の運転できるのか

てんかんの人が車の運転をするには医師の許可が必要であり、また、免許の更新時にも医師の診断書が必要です。

車の運転をするには次のような条件を満たさなければなりません。

  • 発作が過去5年以内に起こったことがなく、医師が「今後、発作が起こる恐れがない」旨の診断を行った場合 
  • 発作が過去2年以内に起こったことがなく、医師が「今後x年程度であれば、発作が起こる恐れがない」旨の診断を行った場合
  • 医師が、1年間の経過観察の後「発作が意識障害及び運動障害を伴わない単純部分発作に限られ、今後、症状の悪化の恐れがない」旨の診断を行った場合
  • 医師が、2年間の経過観察の後「発作が睡眠中に限って起こり、今後、症状の悪化の恐れがない」旨の診断を行った場合

運転中の発作によって事故を起こしてしまうと、自分だけではなく同乗者や周囲の人も怪我をさせてしまったり生命を奪ってしまったりすることも考えられます。

また、てんかんの持病を隠して運転免許証を得ようとすることは法律で罰せられます。車の免許や運転に関しては医師に必ず相談してから行動するようにしてください。

参考:

一定の病気に係る免許の可否等の運用基準:てんかん(令第33条の2の3第2項第1号関係)

てんかんの人が運動をするときに気をつけることはあるのか

特に発作がない限りはてんかんの人はどのような運動をしても問題ありません。しかし、てんかん発作はいつ起こるかわからないので常に注意が必要です。特に発作が問題になるのが水泳です。水泳を行っている最中に発作が起こると、そのまま溺れてしまい生命に危険が及ぶこともあるからです。とはいえ、発作がない場合は水泳をすることには何ら支障はありません。

てんかんがある人が水泳をするときには次のことに気をつけてください。

  • 監視・救助体制が整っている場所で泳ぐこと 
  • 深く潜ったりしないこと
  • 休憩をとって泳ぐこと 

それぞれについてもう少し詳しく説明します。

■監視・救助体制が整っている場所で泳ぐこと 

発作が起きたときに備えて、監視・救助体制が整っている場所で泳ぐようにしてください。救助のしやすさを考えると、流れの速い川や海は避けたほうがよいです。人の目が行き届いているプールが泳ぐ場所としては理想的です。

■深く潜ったりしないこと

たとえ周りに人がいても深く潜ると目が行き届かなくなります。深く潜った場所で発作が起きると、気づくのが難しくなるので救助も遅れてしまいます。潜水をするときは同行者とともに行うようにしてください。

■休憩をとって泳ぐこと 

水泳は負担の多い運動の1つです。このため、長時間泳ぎ続けると疲労も大きくなります。疲労はてんかん発作のきっかけになると考えられているので、できるだけ休憩をはさんでください。そして疲労を感じたらあまりを無理せずに終了することも大事です。

てんかんの人が旅行をするときに注意すること

長期の休みに旅行に出かけるのを楽しみにしている人は多いと思います。旅行は生活に活力を与えてくれたり、気分転換にもなります。

旅行を楽しむために、てんかんの人にはいくつか気をつけて欲しいことがあります。

■規則正しい生活をして薬を飲むのを忘れない

旅行中は環境が変化するので生活のリズムが乱れがちになります。

リズムの乱れから疲労がたまると、てんかん発作が起こりやすくなります。くれぐれも旅行中は無理をしないように気をつけてください。また、薬を飲む時間と移動時間が重なったりすると、薬を飲むのを忘れてしまうことがあります。

携帯電話のアラームを利用したりして、なるべく普段と同じ時間に飲むようにしてください。

■薬は多めに持っていく

旅先では交通のダイヤが乱れて、帰宅日がずれ込むことがあるかもしれません。スケジュールの変更に備えて、薬はあらかじめ多めに持っておくと安心です。少なくとも2−3日分は余分に薬を持っておいてください。

■飲んでいる薬や病気の経過についてまとめた資料を持っていく

旅先で発作が起きた場合は、かかりつけではないお医者さんの診察を受けることになります。「薬の情報」や「病気の経過」など患者さんの背景がわかれば、かかりつけでないお医者さんでも対応しやすくなります。旅行の前にはかかりつけのお医者さんからこれらの情報についてまとまった書類をもらっておくと良いでしょう。

てんかんは仕事に影響するのか

てんかんの持病があったとしても、ほとんどの仕事につくことができますが、発作によって自分や他の人の生命に影響が及ぶ職業は適正がないとされています。

具体的には、次のような職業です。

  • バスや電車、パイロットなどの運転や操縦を伴う職業
  • 高所での作業を伴う職業

それぞれについて説明します。

■バスや電車、パイロットなどの運転や操縦を伴う職業

てんかんの人は「発作が2年間ない」などの一定の条件を満たせば自動車の運転はできます。しかし、バスや電車の運転手やパイロットなどの職業は、万が一発作が起きた場合の影響を考えてつくことができないとされています。

■高所での作業を伴う職業

高所での作業中に発作が起きてしまうと生命に危険が及びます。このため、てんかんの人は高所での作業を伴う職業には適正がないとされます。

■てんかんのことを職場の人にどのように伝えたらよいのか

まず、てんかんの持病があることを職場に伝えることが大切です。発作に備えて職場の人たちに、てんかんの持病があることを伝えておかなければなりません。

特にてんかんの発作が起きやすいとお医者さんに言われている人や、治療を始めて間もない人は必ず伝えてください。

なぜなら、てんかんが起きた場合には速やかな対応が必要になるからです。職場の人にてんかんのことを伝える際には病名を伝えるだけではなく、発作が起きた場合にどんなことが起きるのか、どう対応するとよいのかを説明しておくとよいでしょう(対応についてはこのページの最初の「てんかん発作が起きたときの対処」で確認してくさい。)。

例えば、「意識を失う」であるとか「手や足が震える」など症状の説明が具体的であればあるほど、周りの人は驚くことなく対応しやすくなります。発作時の症状を自分で伝えるのが難しい場合には、かかりつけのお医者さんに経過や症状などを記載した文書を依頼するのも良い方法です。

自分の発作時の状態について、できるだけ周りの人に正確に知ってもらえるような試みをしてみてください。

4. てんかんの疑問について

てんかんは長期にわたって治療が必要な病気なので、付き合っていくうちにさまざまな疑問が生まれると思います。ここではよく耳にするてんかんの疑問についてまとめました。

てんかんは治るのか

薬(抗けいれん薬)を飲まない状態でも発作が出なくなれば、てんかんは完治したと言えます。しかし、抗けいれん薬をやめて完治したと考えられても、一定数の人は再発を経験します。

大人の場合、2年以上発作がなかった人を対象にして治療を終了した場合、その後2年間で再発しなかった人は59%だったとする研究報告があります。 2年間再発がなければ治療を終了してもよいかは専門家のなかでも意見は定まっていません。このため、それまでの治療の経過と患者さんの身体の状態などから総合的に判断して抗てんかん薬をやめるかが決められます。

一方、子どもは2年間発作がなければ完治と考えて薬をやめてもよいと考えられています。しかし、大人と同様に一定数の子どもでも再発することがあります。約3年間発作がなかった子どものうち36%は、治療終了から5年弱の間に再発したとする研究報告があります。

子どもの場合は2年間再発がなければ治療の中止が検討されますが、それも大人と同じく一人ひとりの状態から判断されます。

てんかんと診断されると治るかどうか不安になると思います。長期間、発作が起きなければ完治だと考えられますが、いつでも再発の可能性があることを頭の片隅においてください。

過度に不安になる必要はありませんが、再発時の対応や備えを日頃からしておくことが重要です。

【参考】

Lancet. 1991 May 18;337(8751):1175-80. Randomised study of antiepileptic drug withdrawal in patients in remission. Medical Research Council Antiepileptic Drug Withdrawal Study Group.

Ann Neurol. 1994 May;35(5):534-45. Discontinuing antiepileptic drugs in children with epilepsy: a prospective study.

てんかん発作の後に後遺症が残ることはあるのか

通常のてんかん発作の後に後遺症が残ることはほとんどありません。しかし、てんかん重積状態に陥り発作が長時間続くと、脳がダメージを受けて後遺症が残ることがあります。(てんかん重積状態については「てんかんの症状」を参考にしてください。)

後遺症は脳が受けたダメージによって異なりますが、手足の麻痺や、記憶・認知などの脳の高度な機能(高次脳機能)の低下が起こることもあります。

てんかんの専門医がいる病院はどうすれば探せるのか

てんかんには、「日本てんかん学会」が専門的な知識や経験をもつと認定した「てんかん専門医」がいます。てんかん専門医の名前や在籍する医療機関は日本てんかん学会のホームページから検索することができるので利用してみてください。

てんかんの名医はいるのか

どんな病気であっても名医を定義するのは難しいことです。なぜなら、名医を考えるときの判断軸は多く存在するからです。

例えば、次のような特徴をもつお医者さんを名医だと考えることができるかもしれません。

  • 知識が豊富である
  • 経験が豊富である
  • 技術がある
  • 患者さんに寄り添ってくれる

しかしながら、知識や経験の豊富さなどを客観的に評価するのは簡単ではありませんし、たとえこれらすべての条件を満たしたお医者さんと出会ったとしても、それがあなたにとっての名医と呼べるかはわかりません。

てんかんは長期間にわたって治療が必要な病気です。このため医師とも長く付き合うことになります。長い付き合いになると、診療とともに人としての相性も大事になります。どんなに名医と誉れ高くても「あの先生とは話しにくい」、「話しても聞いてくれない」、「何となく相性が良くない気がする」と思うようなお医者さんはあなたにとっては名医ではないのかもしれません。むしろ「なんでも話せる」、「受診するのが楽しみ」というくらいの気持ちを抱かせる医師があなたにとってふさわしいとも考えられます。

世間の評価に加えて自分との相性も基準に入れると、あなたにとっての名医に巡り会いやすくなるかもしれません。

5. てんかんの人が利用できる社会制度について

てんかんの人はいくつかの社会制度を利用でき、社会的、経済的な支援を受けることができます。

てんかんの人が利用できる社会制度は主に次の3つです。

  • 自立支援医療制度
  • 精神障害者保健福祉手帳
  • 障害年金

それぞれで受けられるサービスの内容が異なりますので以下で説明します。

自立支援医療制度

自立支援医療制度とは精神科疾患の通院治療に使うことができる医療費の助成制度です。てんかんは自立支援医療制度の対象疾患に含まれています。

てんかんの人は、この自立支援医療制度を使うことで医療費の自己負担額を通常の3割から1割にすることができます。

対象となるのは外来での診察、投薬、検査、訪問看護、デイケアなどです。また世帯所得に応じて1ヶ月の負担額の上限が決まっているので、医療費がかさんだ場合の配慮もされています。

自立支援医療制度の申請は市町村の窓口で行うことができます。

一般的に申請に必要なものは次のものです。

  • 申請書(申請する市町村の窓口で入手可)
  • 医師の診断書(申請日から3ヶ月以内に記入されたもの)
  • 世帯所得が確認できるもの(課税証明書もしくは非課税証明書)
  • 健康保険証

世帯の所得が確認できる課税証明書や非課税証明書などは市町村の窓口で入手できます。市町村によっては上に示した書類以外のものが必要になることがあります。申請を考えたら市町村に問い合わせてみると確実です。また、自立支援医療制度の有効期限は1年です。このため、利用には毎年更新する必要がある点も忘れないようにしてください。

精神障害者保健福祉手帳

精神障害者保健福祉手帳は精神障害者の自立と社会参加を促すためのものです。てんかんの人は発作の程度によって精神障害者保健福祉手帳を持つことができ、さまざまな社会サービスを受けることができます。

受けられるサービスには次のものがあります。

【全国一律で受けられる主なサービス】

  • 以下の税金の控除・減免
    • 所得税
    • 住民税
    • 相続税
  • 公共料金の割引
    • NHK受信料の減免

これ以外にも「施設の利用料」や「タクシーの利用料」、「携帯電話の利用料」などさまざまなものが減額の対象になります。精神障害者保健福祉手帳の申請は、最初に病院を受診した日から6ヶ月以上経過していれば市町村の窓口で行うことができます。

申請の際には次のものを用意してください。

  • 申請書
  • 診断書またはてんかんによる障害年金などの証書などの写し
  • 本人写真

てんかんの人は治療期間が長くなるので経済的な負担も大きくなります。精神障害者保健福祉手帳を持つことで、日常生活のさまざまな経済的負担を軽減することができ、家計の助けにすることができます。また、上手に利用すれば日常生活にゆとりが生まれ楽しみも増やすことができるので、ぜひ申請を検討してみてください。

障害年金

障害年金は病気やけがによる障害によって、社会的、経済的に困難をしいられている人に対して支給される年金のことです。てんかん人のなかには障害年金が利用できる人がいます。

てんかんに限らず障害年金を受けることができるのは次のような条件を満たす人です。

  • 初診日から1年6ヶ月以上経過している 
  • 初診日の時点で、公的年金(国民年金、厚生年金、共済年金)に加入している
  • 初診日以前の一定期間、保険料を納めている
  • 一定以上の障害がある
  • 原則として20歳以上65歳未満

支給される年金額は公的年金の種類や障害の程度によって異なります。また、年金を申請する先も加入している年金によって異なります。国民年金によって支給される障害基礎年金の場合は住民票がある市町村の窓口、障害厚生年金の場合は社会保険事務所、障害共済年金の場合は共済組合です。

必要な書類は各窓口で確認して用意してください。用意する書類は一般的には「医師による診断書」や「年金手帳」、「戸籍謄本」などです。また、障害年金には期限が決まっている「有期認定」と「永久認定」の2つがあります。注意が必要なのは「有期認定」です。これは定期的に病状の報告などの書類の提出が求められます。

てんかんの人に支給される障害年金は「有期認定」なので、定期的な報告を忘れないようにしてください。また、有期認定の場合は障害の状態に変化がある場合は、支給額などが変更されるることもあります。

【参考】

・てんかん診療ガイドライン 2018

・UpToDate Overview of the management of epilepsy in adults

産婦人科診療ガイドライン 2017

厚生労働省 みんなのメンタルヘルス