1. パンケーキ症候群とは?
「パンケーキ症候群」とはホットケーキなどの粉物を食べた際に、粉物に含まれるダニ成分に対するアレルギー症状を起こすものです。小麦そのものに対する食物アレルギーとは似て非なるものです。1993年に初めて報告されて以来、医療者の間で注目を集めてきました[1]。
「パンケーキ症候群」とは呼ぶものの、日本ではほとんどがお好み焼きミックス、たこ焼きミックスを家庭で使用した際に発症することが知られています[2]。ドーナツ、ピザ、ケーキ、天ぷら、チヂミなどでも発症することがあります[3]。
また、純粋な小麦粉よりは、調理用にミックスされている製品のほうがダニが繁殖しやすいと言われています[4]。
パンケーキ症候群の主な症状は以下の通りです。
【パンケーキ症候群の主な症状】
- 咳や声がれ、息苦しさ
- 鼻水や鼻詰まり
- じんましんなどの皮疹
- 脈が速くなる、動悸
- 嘔吐、下痢 など
原因となる食事を摂取した後30分以内に、上記のような症状が起こります。また、重症の人では意識がもうろうとしてきて、命に関わることもあります。「パンケーキ症候群」で出現するアレルギー反応は強いことが多いので、「パンケーキ症候群」かもしれないと思ったら夜間や休日でも速やかに医療機関を受診するのが無難と言えます[2]。
2. 特に注意が必要な人は?
ダニ成分が多く含まれる食事をしても、症状が強く出てしまう人と、あまり問題を起こさない人がいます。症状が出やすい人には、以下のような特徴があることが分かっています[3]。
【パンケーキ症候群に特に注意が必要な人の特徴】
- もともとアレルギー体質である
- ダニアレルギーがある
- NSAIDs(ロキソニン®など)というタイプの解熱鎮痛薬にアレルギーがある
上記に心当たりのある人は、特に要注意と言えます。
また、「パンケーキ症候群」と喘息の発作は紛らわしかったり、併発することがあるので、喘息の人は知っておくと特に役立つと思います[5]。
3. 予防策は?
高温多湿な日本の夏は、ダニが特に繁殖しやすい環境です。そのため、開封後のお好み焼き/たこ焼きミックスなどの粉物は冷蔵庫に保管し、なるべく早く使い切ってください。
日持ちする期間については各商品の記載に従えば大丈夫と思われますが、理想的には8週間以内に使い切るのがよいとされています[3]。冷蔵する際には、タッパーにつめて乾燥剤も入れておくと万全です。ただし、飲食店のように粉物をすぐに使い切るようなケースでは「パンケーキ症候群」は滅多に起こりません。
加熱すれば大丈夫?
「加熱したらダニは死ぬから大丈夫じゃないの?」と思う人もいるかもしれませんが、これは正しくありません。加熱しないでダニを食べてしまうよりはマシですが、加熱してもダニのアレルギー成分は残るからです。また、お好み焼きやたこ焼きでは、中心部の加熱が不十分になりがちです。
ダニはなぜ入る?
常温で放置したらダニが繁殖するのは分かるとしても、もともとのダニはどこから混入してしまうのでしょうか。これには2通りの経路があります。一つは最初から製品に「貯蔵ダニ」と呼ばれるタイプのダニが混入している場合と、もう一つは開封後に家庭内の「チリダニ」などが混入する場合です[3]。海外と比べると、日本の製品では「貯蔵ダニ」が購入時から混入している頻度は低いですが、ゼロではありません[6]。
「製品に生きたダニが入っているなんてひどい!」と思うかもしれません。しかし、自然由来の食品なので、肉眼で見えないダニを完全にゼロにすることはなかなか難しいものです。また、ダニが含まれることがあるとはいえ、買ったばかりの製品に「パンケーキ症候群」を起こすほどの量のダニは含まれていません。
4. 最後に
ここまで、高温多湿な日本の夏だからこそ気をつけたい「パンケーキ症候群」について解説しました。名前のインパクトから、テレビやSNSで取り上げられることも多い病気ですが、開封後の粉物を常温の棚で保存している家庭はいまだに少なくありません。
日本の製品にはダニの混入が少ないとはいえ、油断はできません。粉物の開封後は冷蔵庫に入れて、速やかに使い切るようにしてください。
なお「以前に粉物でアレルギーを起こしたことがあるけれども、普段は大丈夫」という人は、以前の症状が「パンケーキ症候群」だった可能性があります。小麦そのものに対するアレルギーとは別物なので、必ずしも小麦の摂取を避けなくてもよいわけです。
一方で、小麦を摂取した後に運動するとアレルギー症状を起こす「小麦依存性運動誘発アナフィラキシー」という他の病気もあるので、そちらとの区別には注意が必要です。
このコラムを読んで、少しでも粉物をしっかりと冷蔵保存する人が増えれば幸いです。
執筆者
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。