しつこい便秘の救世主!?:慢性便秘症の治療薬5製剤のまとめ

便秘に使える新薬として約30年ぶりにアミティーザ®が発売され、リンゼス®、グーフィス®、モビコール®配合内用剤、ラグノス®NF経口ゼリーと続々と「慢性便秘症」の薬が保険適用となりました。従来の便秘症薬が使えない人や効果が得られない人に対する治療の選択肢が、ここ数年で格段に増えています。
今回のコラムではこれら5剤の特徴について紹介します。
1. 従来の主な便秘薬には何があるか
便秘を改善する薬として、主にマグネシウム製剤(商品名:酸化マグネシウム、マグミット®など)や大腸刺激薬(商品名:センノシドやラキソベロン®など)などが昔からよく使われています。
特にマグネシウム製剤は多くの人に処方されている薬です。便を柔らかくしてくれる作用があり、安価で安全性が高いことから、最初に試す便秘薬として重宝されています。しかし、腎機能が低下している人や高齢者では、まれに血液中のマグネシウム濃度が高くなる(高マグネシウム血症)副作用が現れるため、使えないことがあります。また、マグネシウム製剤だけでは効果が十分に得られない人もいます。
大腸刺激薬も安価で有効な薬剤ですが、日常的に使うと効果が薄れてしまうことから使用量が増えがちです。そのため、本当に便秘が辛いときだけ頓用として使うことが勧められています。
他にも色々な便秘薬がありますが、どの薬をどれくらいの量飲めばお通じがよくなるかには個人差があるため、実際に一つひとつの薬を内服して確かめているのが現状です。しかし、なかなか便秘が改善されず次の一手がなくて困る人がいました。そこへ近年立て続けに作用機序の異なる「慢性便秘症」の5製剤が登場し、選択肢の幅が広がりました。
2. 長引く便秘に新たな選択肢:「慢性便秘症」の薬5剤の特徴とは
慢性便秘症とは便秘が長く続いている状態のことです。慢性便秘症に保険適用される薬には、アミティーザ®、リンゼス®、グーフィス®、モビコール®配合内用剤、ラグノス®NF経口ゼリーの5つがあります(2019年12月現在)。
これらの5つの薬は特徴や飲み方が多少異なるので説明します。
アミティーザ®(一般名:ルビプロストン)
2012年に発売となった慢性便秘の内服薬です。
小腸内のクロライド(ClC-2)チャネルというクロールイオンの通り道を活性化することで腸内の水分を増やします。
成人に対して保険適用される薬で、妊婦は使用できません。1日1-2回食事の後に内服するカプセルです。副作用として下痢(30%)、悪心(23%)などが報告されています。
リンゼス®(一般名:リナクロチド)
2018年より慢性便秘症の人に使用できるようになりました。
腸粘膜にあるグアニル酸シクラーゼC受容体を刺激することで2つの効果を発揮します。1つ目は腸液を分泌促進して便秘を改善する効果で、2つ目は腹痛やお腹の違和感を改善する効果です。
成人に対して保険適用される薬で、1日1回食事の前に内服する錠剤です。最も多い副作用は、下痢(9.2%)と報告されています。
グーフィス®(一般名:エロビキシバット)
2018年に発売となった慢性便秘症の新薬です。
回腸末端にある胆汁酸トランスポーターを阻害して、大腸の水分量を増やす効果と大腸の運動を促進する効果を発揮します。
成人に保険適用される薬で、1日1回食事の前に内服する錠剤です。主な副作用は、腹痛(19.0%)、下痢(15.7%)と報告されています。
モビコール® 配合内用剤(一般名:マクロゴール4000など配合剤)
日本では2018年に慢性便秘症の人に保険適用されました。
マクロゴール4000は水を引きつける効果がありますが、大きな分子なので消化管では吸収されません。この原理によって便の水分を増やして便秘を改善します。
2歳以上の人に保険適用される薬で、1日1-3回水に溶かして内服します。主な副作用として下痢や腹痛などの報告があります。
ラグノス®NF経口ゼリー(一般名:ラクツロース)
ラクツロースは古くから発売されていますが、製剤によって保険適用になる人が異なります。これまで便秘に使えるラクツロースは産婦人科手術後の人や小児に限定されていましたが、2019年に慢性便秘症の成人にも使えるラグノス®NF経口ゼリーが登場しました。
また、ラクツロースは便秘以外では高アンモニア血症に対してもよく使われる薬です。
ラクツロースは腸から吸収されにくく水分を引き出す効果があることから、便を柔らかくして便秘を改善します。また、ビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌を増加させる効果によって、有害なアンモニア産生菌を減らします。
ラグノス®NF経口ゼリーは成人に対して保険適用される薬で、1日2-3回内服します。ゼリータイプなので嚥下の機能が低下している高齢者にも使用しやすいです。ガラクトース血症の人は使用できません。主な副作用は下痢(12.3%)、腹鳴(1.0%)、鼓腸(胃腸にガスが溜まること)(1.0%)であったと報告されています。
【慢性便秘症の5製剤の特徴】
商品名 | 一般名 | 剤形 | 便秘への主な効果 | 飲み方 |
アミティーザ® | ルビプロストン | カプセル | 便の水分を増やす | 1日1-2回食事の後に内服 |
リンゼス® | リナクロチド | 錠剤 | 便の水分を増やす 腹痛を軽減する | 1日1回食事の前に内服 |
グーフィス® | エロビキシバット | 錠剤 | 便の水分を増やす 大腸の運動を促進する | 1日1回食事の前に内服 |
モビコール®配合内用剤 | マクロゴール4000など配合剤 | 水に溶かす粉末 | 便の水分を増やす | 1日1-3回内服 |
ラグノス®NF経口ゼリー | ラクツロース | ゼリー | 便の水分を増やす | 1日2-3回内服 |
3. 便秘に悩む人がに知っておくと良いこと
ここまで便秘症の薬について説明してきましたが、便秘で受診してすぐにこれらの薬が処方されるわけではありません。また、処方された後に気をつけてほしいこともあります。
便秘に潜む怖い病気に注意
便秘を引き起こす病気として大腸がん、甲状腺機能低下症、パーキンソン症候群などが知られています。医療機関ではまず、このような病気が潜んでいないかを調べます。病気によっては便秘薬で病状が悪化することもあるため原因をきちんと調べることが重要です。
飲みはじめに気をつけたいこと
便秘薬を処方されたら、飲み始めのタイミングに注意してください。どんな下剤であっても便が緩くなりすぎて困ることが起こりうるので、大事な予定のある当日や前日から使用し始めるのは避けたほうが無難です。初めて使うときは特に、できるだけ余裕のある日程を見計らって内服してください。
生活の中でできる便秘対策
便秘薬は強い味方になりますが、食事の工夫や運動など自らできる便秘対策が多いことも知っておいてください。詳しくはこちらのコラム「薬に頼る前に!自分でやっておきたい便秘改善法」で説明しています。
便秘の人は少なくありません。便秘が当たり前の状態になってしまっている人や、対策をしてもなかなかよくならずに悩んでいる人は、一度医療機関を受診してみてください。便秘の原因を探ったり、一人ひとりに合わせて便秘薬の見直しを相談することができます。
執筆者
日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会/編, 「慢性便秘症診療ガイドライン2017」, 南江堂, 2017
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。