2017.06.14 | ニュース

薬が薬を呼ぶ?「処方のカスケード」とその対策

実例の報告をふまえて

from Lancet (London, England)

薬が薬を呼ぶ?「処方のカスケード」とその対策の写真

どんな薬にも副作用があります。高齢者は特に複数の持病などに対して薬を処方されることも多く、より注意が必要となります。副作用を別の薬で治療するといった事態を問題視する意見を紹介します。

カナダのウィメンズ・カレッジ病院のポーラ・ローション氏らが、医学誌『Lancet』に寄せたエッセイで、「処方のカスケード」に注意を促しました。

薬を使うと副作用が出ることがあります。しかし、副作用には特徴がはっきりしないものも多く、もともと薬で治療しようとした病気の症状と見分けにくい場合などもあります。そのため、実は副作用により症状が出たとき、別の病気にかかったと間違われ、さらに別の薬が処方されることも考えられます。

このように状況の変化を見逃すことで処方が増えていくことを著者らは「処方のカスケード」と呼んでいます。カスケードとは連なった滝のことです。転じて、ものごとが連鎖して続いていくことのたとえとされます。
 

著者らは、処方のカスケードを呼び起こす薬剤の例として、NSAIDs炎症を抑える薬剤の総称(ただしステロイドを除く)で、鎮痛薬や解熱薬として頻用される。nonsteroidal anti-inflammatory drugsの略降圧薬を挙げています。

NSAIDsは一般的な痛み止めの薬です。日本でもロキソプロフェンナトリウム(商品名ロキソニン®)などのNSAIDsが多くの場面で使われています。NSAIDsには胃腸症状や呼吸器症状、腎機能腎臓の機能。腎臓がどれだけ血液をろ過してきれいにできるかを示す。血液検査でクレアチニンの値を元に判断される症状などの副作用があります。

降圧薬は血圧を下げる薬です。さまざまな種類の降圧薬が使われています。種類によって副作用は違いますが、どの種類でも副作用が問題となる可能性はあります。

ほかの状況でも、薬の副作用に対して新しい薬が処方される可能性があることが、過去の研究論文で指摘されています。

  • ACE阻害薬(降圧薬)による咳に抗菌薬細菌感染症に対して用いられ、細菌の増殖を防ぐ、もしくは殺菌する薬。ウイルスや真菌(かび)には効果がないが処方される
  • 抗精神病薬向精神薬の一種で、主に統合失調症に対して使われる精神科の薬による薬剤性薬が原因となって病気が引き起こされたり症状が現れたりすることパーキンソニズムパーキンソン病治療薬が処方される
  • コリンエステラーゼ阻害薬認知症治療薬)による尿失禁に抗コリン薬が処方される
  • NSAIDsによる高血圧に降圧薬が処方される
  • サイアザイド系利尿薬による痛風痛風治療薬が処方される
  • 降圧薬や抗菌薬などによる吐き気にメトクロプラミド(吐き気止め)が処方される
  • エリスロマイシン(抗菌薬)による不整脈に抗不整脈薬が処方される
  • リチウム躁病などの治療薬)による薬剤性パーキンソニズムパーキンソン病治療薬が処方される
  • メトクロプラミド(吐き気止め)による薬剤性パーキンソニズムパーキンソン病治療薬が処方される

これらの処方がすべて「処方のカスケード」に当てはまるわけではなく、副作用の対処として適切である場合も含まれると考えられます。しかし、副作用の可能性が見逃されていれば、当初の薬剤を見直すという選択肢が失われてしまいます。

 

ローション氏らは、処方のカスケードの問題点を「最も懸念される点は、比較的高齢の人に新たな症状が現れたとき、それが薬剤関連有害事象ではなく新しい病的状態のせいだと誤解され、その結果新しい、不要な薬物治療が開始されることである」と説明しています。

そして、処方のカスケードを中断させる工夫や、新薬の副作用が処方のカスケードを生む可能性を監視することの意義を強調しています。

処方のカスケードの考え方は、処方薬の副作用に対して患者が市販薬で解決しようとしたり、医療機器の使用につながったりする状況にも当てはまるとされています。

処方のカスケードを防ぐために、医療従事者が注意するべきことが3点挙げられています。

  • 新しい病態病気の状態や、その病気の原因・発生機序などを指して用いられる言葉に対して薬を処方しようとするとき、その病態が以前の薬物治療によるものではないかを考えること。
  • 最初に処方されていた薬が本当に必要だったかを考えること。
  • 元の薬物治療を続けることの利益と害を考えること。

 

薬の副作用の管理についての意見を紹介しました。

ここで「処方のカスケード」と呼ばれている状況は、一般にポリファーマシー(多剤処方)の問題の一部として認識されています。高齢者などでは複数の持病で薬を飲み続けている人も多く、5剤、8剤といった多数の薬を飲む人も珍しくありません。高齢化にともなってポリファーマシー対策はますます重視されてきています。

ただし、例として挙げられている薬剤でも、副作用を抑えながら使う価値があると考えられる場合もあります。著者の主張は、「薬剤の副作用を抑えるためにほかの薬剤を使ってはいけない」ということではなく、「副作用とそうでないものを見分けることで、当初の薬剤の見直しにより改善できるケースを見逃さないようにするべきだ」と理解できます。

実際には副作用とそうでないものを区別しにくい状況も想定できます。ポリファーマシーを恐れるあまり、必要な薬までためらうようになっては本末転倒です。個々の判断は医師や薬剤師に委ねられることになります。

 

処方する医師や薬剤師の心がけが大切なのは間違いありません。その一方で、患者としても気を付けられることがあります。

たとえば、日本では「お薬手帳」を使うことが患者に勧められています。お薬手帳には自分が使っている薬の名前、量などを記録できます。お薬手帳を使って医療従事者に情報を伝えることで、効果的にポリファーマシー対策を考えることができます。

お薬手帳は、これまでに使った薬や現在使用中の薬ができる限り漏れなく書き込まれていることで効果を発揮できます。お薬手帳に漏れがあったり、病院に行くときに持って行かなかったりすると、せっかく記録していても見逃しが出る恐れがあります。

また、市販薬やサプリメント、健康食品について伝えることも大切です。健康食品などは「薬とは関係ないし、体にいいものだろう」と思えるかもしれませんが、薬の効き目に影響する組み合わせもあります。

ポリファーマシーは複雑な問題です。医療従事者に任せきりにするのではなく、自分の体のためにできることを見つけることも大切です。

執筆者

大脇 幸志郎


参考文献

The prescribing cascade revisited.

Lancet. 2017 May 6.

[PMID: 28495154]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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