X連鎖無ガンマグロブリン血症とは?
X連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)は、遺伝子の異常により生まれつき免疫が弱い、まれな病気です。
XLA患者の体は、免疫のしくみの中で重要な抗体という物質をまったく作れないか、ごくわずかしか作れなくなっています。
抗体がなくても細胞性免疫というしくみが働くので、感染症に抵抗することはできます。しかし、抗体が特に重要になる一部の感染症にはかかりやすくなります。たとえば、予防接種をしても抗体ができないことがXLAの診断の参考にされる場合があります。
XLAはほとんど男性にだけ現れます。
XLAが男性にしかない理由は、原因の遺伝子がX染色体の中にあるためです。
X染色体は全身の細胞の中にあります。ひとつの細胞の中に、X染色体は女性なら2本、男性なら1本あります。女性で2本あるX染色体のうち1本は父親由来、1本は母親由来です。
XLAの男性では1本のX染色体の中に原因の遺伝子変異があります。女性では、2本のうち1本のX染色体に遺伝子変異があっても、もう1本のX染色体が正常ならXLAにはなりません(劣性遺伝と言います)。XLAを起こす遺伝子変異はまれにしかないので、父親と母親の両方から同じ遺伝子変異が受け継がれることはほとんどありません。このため、女性のXLAはきわめてまれです。
XLAの原因の遺伝子としてBTK遺伝子が知られています。XLA患者では高い頻度でBTK遺伝子の変異が見つかります。
上海174人の統計
中国の研究班が、上海第二医科大学の免疫不全診療科で診察を受けていたXLAの患者174人のデータをまとめ、集団として見られた特徴を医学誌『Medicine』に報告しました。2000年から2015年の記録が使われました。
感染症、家族歴、遺伝子変異
症状が現れ始めたときの年齢は平均2.15歳でした。診断されたときの年齢は平均7.09歳でした。
対象者174人のうち173人が、XLAにともなって何らかの感染症を経験していました。
- 気管支炎または肺炎 77.01%
- 中耳炎 40.23%
- 持続する下痢 18.97%
- 鼻副鼻腔炎 13.22%
- 皮膚感染症 8.05%
重症の感染症があった人は以下の割合でした。
- 中枢神経系の感染症 19.65%
- 慢性の感染症 19.8%
- 敗血症 8.67%
- 結核 3.47%
感染症以外の病気を経験した人もいました。
- 無菌性の関節炎 18.75%
- 好中球減少症または血小板減少症 5.17%
- 貧血 3.57%
- ギラン・バレー症候群 1.74%
親族の病気について情報が得られた170人のうち59人では親族にも免疫不全の病歴がありました。
BTK遺伝子変異の検査が行われた142人のうち127人に変異がありました。遺伝子に大きな変異があった人では、症状が始まった年齢が平均1.91歳と、中等度の変異だけだった人の平均2.83歳よりも早く症状が始まっていました。
研究班は「先天性無ガンマグロブリン血症の早期診断は、臨床症状、家族歴、BTK遺伝子の分子解析に基づくべきだ」と結論しています。
XLA治療の進歩に向けて
XLAでよく見られた特徴の報告を紹介しました。
ここでは肺炎や中耳炎などの感染症が多いという特徴がありました。また、その中でも重症になる例は一部に限られていました。
一方で、関節炎や血球減少が現れた例も報告されました。これらの症状は、免疫が働きすぎて起こる病気(自己免疫疾患)でもよく現れるものです。たとえば関節リウマチは免疫が自分自身の体(関節滑膜)を攻撃して炎症を起こす病気です。
免疫のしくみは複雑なので、抗体が少ない異常によってバランスが崩れ、ある場面では感染症に弱く、別の場面では自分の体を攻撃してしまうといった一見相反する問題が起こるという仮定も、ないとは言えません。
XLAの治療には、薬として抗体を注射するなどの方法があります。適切に治療を続けていれば、普通の生活をして生存できます。診断の手がかりになる特徴が報告されたことで、繰り返す感染症などから早く見つける助けになるかもしれません。
執筆者
Clinical characteristics and genetic profiles of 174 patients with X-linked agammaglobulinemia: Report from Shanghai, China (2000-2015).
Medicine (Baltimore). 2016 Aug.
[PMID: 27512878]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。