分子標的薬(チロシンキナーゼ阻害薬〔Bcr-Abl〕)の解説
分子標的薬(チロシンキナーゼ阻害薬〔Bcr-Abl〕)の効果と作用機序
分子標的薬(チロシンキナーゼ阻害薬〔Bcr-Abl〕)の薬理作用
がん細胞は無秩序に増殖を繰り返し、正常な細胞を障害し転移を行うことで本来がんのかたまりがない組織でも増殖する。
細胞増殖のシグナル(信号)を伝達する上で重要となるチロシンキナーゼという酵素があり、細胞増殖において異常なチロシンキナーゼが作られてしまった場合、無秩序な細胞増殖がおこる。
慢性骨髄性白血病(CML)では遺伝情報をもつ染色体に異常な変化が生じ、この染色体から異常なタンパク質(Bcr-Abl)が作られ、ここからBcr-Ablチロシンキナーゼが産生されることにより無秩序な細胞増殖がおこることになる。Bcr-AblチロシンキナーゼはATPという物質によって活性化しその作用をあらわす。
本剤は変異した染色体から産生されるチロシンキナーゼに対しATPの代わりに結合することにより、このチロシンキナーゼの活性を抑えることで細胞増殖の指令を遮断し、がん細胞の増殖を抑える作用をあらわす。また本剤の中にはKITチロシンキナーゼという酵素を介した細胞増殖を抑える作用により消化管間質腫瘍(GIST)に対しての抗腫瘍効果をあらわす薬剤もある。
本剤による治療における懸念として、治療への抵抗性(耐性)や不耐容がある。ボスチニブ(商品名:ボシュリフ)はそれまでのイマチニブ、ダサチニブ、ニロチニブとは異なる構造状態のチロシンキナーゼに結合するため、それまでの薬剤に対して抵抗性をあらわす患者に対しても有効性が期待できるとされている。またポナチニブ(商品名:アイクルシグ)もダサチニブやニロチニブなどに抵抗性や不体容の患者に対して有効性が期待できる薬剤で、中でも腫瘍細胞における耐性獲得の変異として高い難治性をあらわすT315I変異を有する患者などへの有効性が期待できるとされている。
なお、本剤はがん細胞の増殖などに関わる特定の分子の情報伝達を阻害することで抗腫瘍効果をあらわす分子標的薬となる。
分子標的薬(チロシンキナーゼ阻害薬〔Bcr-Abl〕)の主な副作用や注意点
- 消化器症状
- 吐き気・嘔吐、下痢、食欲不振、口内炎などがあらわれる場合がある
- 皮膚症状
発疹 、痒みなどがあらわれる場合がある
- 重篤な体液貯留
むくみ 、胸水 、腹水 、肺水腫などがあらわれる場合がある- 急激な体重増加、呼吸困難などがみられた場合は放置せず、医師や薬剤師に連絡する
肝機能障害 倦怠感 、食欲不振、発熱、黄疸 、発疹 、吐き気・嘔吐などがみられ症状が続く場合は放置せず、医師や薬剤師に連絡する
骨髄 抑制- 貧血、
血小板 減少、白血球 減少、好中球 減少などがあらわれる場合がある - 手足に点状出血、あおあざができやすい、出血しやすい、突然の高熱、寒気、喉の痛みなどがみられた場合は放置せず、医師や薬剤師に連絡する
- 貧血、
- グレープフルーツジュースなどとの飲み合わせに関する注意
- 本剤の血中濃度を上昇させる可能性があるためグレープフルーツなどの摂取を控えるなどの注意が必要