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乳がん

乳がんの基礎知識

乳がんとは?

  • 乳腺や乳管に発生する悪性腫瘍
    • 乳房には、母乳を作る乳腺と、乳腺をつなぐ乳管がある
  • 乳がんの発生や成長には女性ホルモン(エストロゲン)が関わっている
    • エストロゲンが出ている期間が長いと乳がんができやすくなる
  • エストロゲンが長く分泌される原因となる事柄
    • 初経年齢が若い
    • 閉経が遅い
    • 出産歴・授乳歴がない、高齢出産
    • 経口避妊薬(ピル)を使っていたことがある
    • ホルモン補充療法の経験がある(更年期障害の治療など)
  • その他に、乳がんの危険が高くなる例として以下のものが挙げられる
    • 乳がんの家族歴
    • 飲酒
    • 肥満
  • BRCA1、BRCA2という遺伝子が乳がんと卵巣がんを高い確率で引きおこすことが知られており、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)とも呼ばれることがある
    • ただしこれは一部の乳がんのみに当てはまることであり、この遺伝子がなくても乳がんになることは十分にありえる
  • 頻度
    • 30歳代から患者数が増加し、50歳前後での発症が最も多い

症状

  • 乳房のしこり
    • 乳がんは5mmくらいの大きさになった時点で、注意深く触るとしこりとして見つけられるようになる
    • 乳房の上外側(脇の下の近く)に最もできやすい
  • 乳房の皮膚のくぼみ
    • 乳がんが皮膚の近くにあると皮膚を引っ張って、えくぼのようなくぼみができる
  • 脇の下のリンパ節の腫れ
    • 乳がんがあると脇の下のリンパ節に転移をきたしやすい
    • 脇の下のリンパ節に転移した場合は、こりこりとした硬いリンパ節を触れることがある

検査・診断

  • マンモグラフィ
    • 乳房を上下、斜めから挟んで撮影するレントゲン
    • 健診でも一般的に行われる(40歳以上の女性は2年に1回検診を受ける)
  • その他の画像検査:がんの大きさ、位置、転移があるかどうかなどを確認する
    • 超音波検査
    • CTリンパ節転移、また全身への転移についても診断できる)
    • 胸部MRI(MRIのほうがCTよりも乳腺自体は見やすいと言われている)
  • 生検
    • 腫瘍の存在が疑われた場合に、(超音波で病変を見ながら)針を刺して細胞を吸い取って、それが良性腫瘍悪性腫瘍かなどを確認する(針の太さが太いほど取れる組織が大きく診断の正確性、またホルモン製剤などへの反応性、乳癌の中での悪性度の高さを示す指標を調べることができる)
    • この検査で細胞を顕微鏡で見ることで、悪性腫瘍の診断が確定される
  • 乳がんのステージは「腫瘍の大きさ」「周囲のリンパ節への転移」「離れた臓器への転移」の3つから決定される

治療

  • 乳がんの主な治療法
    • 手術
    • 放射線療法
    • 薬物療法
  • 治療法は以下の要素を総合的に判断して決定する
    • ステージ
    • がんの悪性度
    • ホルモン製剤への反応性 など
  • 手術について
    • 比較的早期のがんであれば手術を検討
    • 手術は大きく2種類
      ・乳房温存術(乳房を残す手術)
      ・乳房切除術(乳房を全部切り取る手術):別途、乳房を再建する方法もある
    • 追加で、脇の下のリンパ節を取って検査したり、転移がある可能性を考えて取り除く(腋窩リンパ節郭清)場合が多い
    • 乳がんでは放射線療法や薬物療法を組み合わせる場合が多い
      ・乳房温存手術をした場合には術後再発予防で放射線治療を行う
  • 薬物療法について
    • 薬物療法は大きく3種類
      化学療法
      ・抗HER2療法(分子標的薬という、乳がんの細胞を狙い撃ちする薬を使う)
      ・ホルモン療法(エストロゲンを抑える治療、閉経前後で使う薬剤には差がみられる)
    • 乳がんのタイプ(サブタイプという)によって効果的な治療は異なる
  • 5年生存率(5年間生きられる確率)は早期(ステージ1か2)で見つかれば90%以上である
  • 転移する臓器としては骨、肺、脳、肝臓などが一般的に多いとされる

乳がんに関連する治療薬

抗がん性抗生物質(アントラサイクリン系)

  • 細胞の増殖に必要なDNAやRNAの合成を阻害することで抗腫瘍効果をあらわす薬
    • がん細胞は無秩序な増殖を繰り返したり転移を行うことで、正常な細胞を障害し組織を壊す
    • 細胞の増殖には遺伝情報をもつDNAやRNAの合成が必要となる
    • 本剤は細胞内のDNAに結合するなどしてDNAやRNAの合成を阻害するなどして抗腫瘍効果をあらわす
  • 本剤は土壌などに含まれるカビなどの微生物由来の薬剤であり抗がん性抗生物質と呼ばれる
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アロマターゼ阻害薬

  • アロマターゼ阻害作用によりエストロゲンの生成を阻害し、乳がんの発生や成長を抑える薬
    • 乳がんは乳腺や乳管にできたがんであり、乳がんの発生や成長には女性ホルモンのエストロゲンが関与する
    • 閉経後の女性ではエストロゲンは主に男性ホルモンであるアンドロゲンから変換され作られる
    • アンドロゲンからエストロゲンへ変換する酵素をアロマターゼという
  • 本剤の特徴的な副作用として関節痛、骨粗しょう症などがあらわれる場合がある
  • 本剤は成分の化学構造などにより、非ステロイド性とステロイド性に分かれる
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NK1受容体拮抗薬

  • がん薬による嘔吐中枢への刺激を阻害し、悪心(吐き気)・嘔吐を抑える薬
    • 抗がん薬投与による悪心・嘔吐は延髄に嘔吐中枢に刺激が伝わりおこる
    • 脳のCTZや中枢神経に多く存在するNK1(ニューロキニン1)受容体が作用を受け嘔吐中枢に刺激が伝わる
    • 本剤はNK1受容体を阻害することで嘔吐中枢への刺激を抑える
  • 原則として、5-HT3受容体拮抗薬と併用して使用する
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5-HT3受容体拮抗薬

  • がん薬による嘔吐中枢への刺激を阻害し、悪心(吐き気)・嘔吐を抑える薬
    • 抗がん薬投与による悪心・嘔吐は延髄にある嘔吐中枢に刺激が伝わりおこる
    • 脳のCTZや消化管には5-HT3受容体という伝達物質のセロトニンの作用により嘔吐中枢へ刺激を伝えるものがある
    • 本剤は5-HT3受容体拮抗作用により、嘔吐中枢への刺激を阻害する
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微小管阻害薬(タキサン系)

  • 細胞分裂で重要な役割を果たす微小管に作用し細胞分裂を阻害することで抗腫瘍効果をあらわす薬
    • がん細胞は無秩序に増殖を繰り返したり転移を行うことで、正常な細胞を障害し組織を壊す
    • 細胞増殖は細胞が分裂することでおこるが、細胞分裂に重要な役割を果たす微小管という物質がある
    • 細胞分裂の後半では、束になっている微小管がばらばらになる(脱重合する)必要がある
    • 本剤は微小管の脱重合を阻害し細胞分裂を阻害する作用をあらわす
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抗エストロゲン薬

  • 乳がん組織においてエストロゲンの作用を阻害する抗エストロゲン作用により乳がんを治療する薬
    • 乳がんは乳腺や乳管にできたがんであり、乳がんの発生や成長には女性ホルモンのエストロゲンが関与する
    • 乳がん細胞にはエストロゲン受容体というものがあり、この受容体にエストロゲンが作用し乳がんが進行しやすくなる
    • 本剤は主に乳がん細胞のエストロゲン受容体におけるエストロゲンの作用を阻害する抗エストロゲン作用をあらわす
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代謝拮抗薬(ピリミジン拮抗薬)

  • DNAの構成成分に類似した化学構造をもち、細胞増殖に必要なDNA合成を阻害して抗腫瘍効果をあらわす薬
    • がん細胞は無秩序に増殖を繰り返したり転移を行うことで、正常な細胞を障害し組織を壊す
    • 細胞増殖に必要なDNAの成分にピリミジン塩基と呼ばれる物質がある
    • 本剤はピリミジン塩基と同じ様な構造をもち、DNA合成の過程でピリミジン塩基の代わりに取り込まれることなどにより抗腫瘍効果をあらわす
  • フルオロウラシルやシタラビンを元にして造られ体内で代謝を受けてこれらの薬剤へ変換される製剤(プロドラッグ製剤)がある
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微小管阻害薬(エリブリンメシル酸塩製剤)

  • 細胞分裂に不可欠な紡錘体の形成を阻害し細胞分裂を停止させ、がん細胞の自滅を誘導することで抗腫瘍効果をあらわす薬
    • がん細胞は無秩序に増殖を繰り返したり転移を行うことで、正常な細胞を障害し組織を壊す
    • 細胞増殖は細胞が分裂することでおこるが、細胞分裂に重要な役割を果たす微小管という物質がある
    • 細胞分裂の中期くらいまでは微小管同士が束になり(重合し)微小管が伸長し、分裂に不可欠な紡錘体というものが形成される
    • 本剤は微小管の重合を阻害し紡錘体形成を阻害することで細胞分裂を停止させる作用をあらわす
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分子標的薬(チロシンキナーゼ阻害薬〔EGFR、HER2〕)

  • 細胞増殖に関わる上皮成長因子受容体(EGFR)のチロシンキナーゼ活性を阻害し、がん細胞の増殖を抑える薬
    • がん細胞は無秩序な増殖を繰り返したり転移を行うことで、正常な細胞を障害し組織を壊す
    • 上皮成長因子が結合する受容体(EGFR)に異常がおこると細胞増殖の伝達因子となるチロシンキナーゼが常に活性化され、がん細胞が増殖を繰り返す
    • EGFRの種類の中で、EGFR(ErbB1)やHER2(ErbB2)は、がんの予後などに特に影響するとされる
    • 本剤はEGFR及びHER2のチロシンキナーゼ活性を阻害し抗腫瘍効果をあらわす
  • 本剤はがん細胞の増殖などに関わる特定の分子の情報伝達を阻害することで抗腫瘍効果をあらわす分子標的薬となる
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分子標的薬(ベバシズマブ〔抗VEGFヒト化モノクローナル抗体〕)

  • がん細胞の増殖に必要なVEGFという物質の働きを阻害し血管新生を抑えることで抗腫瘍効果をあらわす薬
    • がん細胞は無秩序な増殖を繰り返したり転移を行うことで、正常な細胞を障害し組織を壊す
    • がん細胞の増殖には、がんに栄養を送る血管の新生が必要となり血管内皮増殖因子(VEGF)という物質が血管内皮の増殖や血管新生に関与する
    • 本剤はVEGFに結合しVEGFの働きを阻害することで腫瘍組織の血管新生を抑制する作用をあらわす
  • 本剤は他の抗がん薬の効果を高める作用もあらわす
  • 本剤はがん細胞の増殖などに関わる特定分子の情報伝達を阻害することで抗腫瘍効果をあらわす分子標的薬となる
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分子標的薬(トラスツズマブ〔抗HER2ヒト化モノクローナル抗体〕)

  • がん細胞の増殖に関わるHER2という物質に結合し、細胞障害作用などにより抗腫瘍効果をあらわす薬
    • がん細胞は無秩序な増殖を繰り返したり転移を行うことで、正常な細胞を障害し組織を壊す
    • 上皮成長因子受容体(EGFR)という細胞増殖のシグナル伝達に重要な物質がある
    • EGFRに類似した構造をもつ物質の中でもHER2は乳がんや胃がんなどにおいて過剰に発現している場合がある
    • 本剤はHER2に結合することで抗体による細胞障害作用などをあらわす
  • 本剤はがん細胞の増殖などに関わる特定分子の情報伝達を阻害することで抗腫瘍効果をあらわす分子標的薬となる
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分子標的薬(トラスツズマブ エムタンシン〔抗HER2抗体チューブリン重合阻害薬複合体〕)

  • がん細胞の増殖に必要なHER2という物質の働きを抑えたり、細胞分裂を阻害し自滅を誘導する作用などにより抗腫瘍効果をあらわす薬
    • がん細胞は無秩序な増殖を繰り返したり転移を行うことで、正常な細胞を障害し組織を壊す
    • 上皮成長因子受容体(EGFR)という細胞増殖のシグナル伝達に重要な物質がある
    • EGFRに類似した構造をもつ物質の中でもHER2は乳がんなどにおいて過剰に発現している場合がある
    • 本剤はHER2への作用による抗体依存性細胞障害作用及び細胞増殖シグナル伝達抑制作用に加え、細胞障害活性作用などをあらわす
  • 本剤はがん細胞の増殖などに関わる特定分子の情報伝達を阻害することで抗腫瘍効果をあらわす分子標的薬となる
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分子標的薬(ペルツズマブ〔抗HER2ヒト化モノクローナル抗体〕)

  • がん細胞増殖因子となるHER2という物質に特異的に結合し抗腫瘍効果をあらわす薬
    • がん細胞は無秩序な増殖を繰り返したり転移を行うことで、正常な細胞を障害し組織を壊す
    • 上皮成長因子受容体(EGFR)という細胞増殖のシグナル伝達に重要な物質がある
    • EGFRに類似した構造をもつ物質の中でもHER2は乳がんなどにおいて過剰に発現している場合があり、がん細胞の増殖因子となる
    • 本剤はHER2のドメインIIという部位に結合し、HER2の活性化などを阻害する作用をあらわす
  • 本剤はがん細胞の増殖などに関わる特定分子の情報伝達を阻害することで抗腫瘍効果をあらわす分子標的薬となる
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