らんそうはいさいぼうしゅよう
卵巣胚細胞腫瘍
女性の卵巣において生殖細胞から発生する腫瘍。タイプによって良性から悪性まである
4人の医師がチェック 151回の改訂 最終更新: 2019.01.08

卵巣胚細胞腫瘍の基礎知識

POINT 卵巣胚細胞腫瘍とは

卵巣で卵子になるはずの生殖細胞(始原生殖細胞)が腫瘍化したものです。卵巣腫瘍の1つにあたり、卵巣腫瘍のうち20%から25%を占めます。10代から30代の若い女性に多く、この年代の女性の卵巣腫瘍のうち約70%が卵巣胚細胞腫瘍です。腹満感(お腹が張る感じ)や腹痛などから見つかることがあり、早期に発見されることが多いです。治療には手術や放射線療法、抗がん剤治療があり、腫瘍の状態によって組み合わせられます。卵巣腫瘍が疑われる場合は診察や血液検査、画像検査(超音波検査やCT検査、MRI検査など)が行われて、がんの広がりや転移の有無が調べられます。手術後には取り出した卵巣を詳しく調べることができる(病理検査)ので、より詳しい情報を得ることができます。卵巣胚細胞腫は産婦人科で治療が行われます。

卵巣胚細胞腫瘍について

  • 卵巣で卵子になるはずの生殖細胞(始原生殖細胞)が腫瘍化することが原因で発生する
    • 女性の病気
  • 卵巣腫瘍の一種。卵巣腫瘍のうち、20−25%を占める
  • 10−30代の若い女性に多い。この年代の女性の卵巣腫瘍のうち約70%を占める
  • 胚細胞腫瘍は精巣、卵巣、脳、胸部、腹部などに発生する
  • 総論、それぞれの詳細については下記参照
  • 一般的に卵巣胚細胞腫瘍は早期に発見されることが多く、手術や化学療法で治療すれば治癒することが多い
  • 治療としては手術、放射線療法、化学療法がある
    • 患者によってそれぞれが組み合わされて治療が行われる
    • 基本的には手術でがんを切除することが最も信頼できる治療であるが、子どもを希望される場合は治療成績と子どもを作ることのどちらを優先するかを判断することになる

卵巣胚細胞腫瘍の症状

卵巣胚細胞腫瘍の検査・診断

  • 内診
    • 子宮と卵巣の形、大きさ、位置、しこりがないかどうかを調べる
  • 血液検査
    • 腫瘍マーカーとしてAFPやHCGが上昇する
      • AFPが高いほど病状は悪いことが知られている
    • 組織型(タイプ)によって腫瘍マーカーの上がり方も異なる
    • 治療の効果を判定したり、再発を早く察知する上でも腫瘍マーカーの値は重要である
  • 画像検査
    • 経膣超音波検査
      • 腫瘍の状態、腹水の有無を調べる
    • CT検査
      • 腫瘍の広がりや、胸部、腹部、骨盤部などに転移がないかどうかを調べる
    • MRI検査
      • 腫瘍の状態を見ることで、組織型や良性か悪性かの推定が出来る
    • PET検査
      • 転移がないかどうかを調べる
  • 病理検査
    • 手術によって採取された組織の病理を調べる
    • 精巣胚細胞腫瘍生検をすることによって転移が起こると考えられるため、生検は行われない。手術によって組織を採取する
    • 病理検査によって診断が確定される
    • 治療方針を決定する上で、病理検査は必須である
    • 病理の組織型によって下記に分類される
      • 成熟嚢胞性奇形腫:良性
      • 成熟充実性奇形腫:良性
      • 未熟奇形腫:境界悪性〜悪性
      • ディスジャミノーマ:悪性
      • 卵黄嚢腫:悪性
      • 胎児性:悪性
      • 混合型胚細胞腫瘍:悪性
      • 多胎芽腫:悪性
  • 大きく「ディスジャミノーマ」、「非ディスジャミノーマ」に2つのタイプに分けられ、両者で腫瘍の性質、治療方針が異なる
    • ディスジャミノーマ:発見された時、卵巣に留まっていることが多い。放射線療法が良く効く
    • 非セミノーマ:セミノーマに比べると悪性。化学療法は効くが、放射線療法は効かない
  • 腫瘍の広がりや転移によって、病期分類がなされる
    • ステージⅠ:腫瘍が卵巣に限られている
    • ステージⅡ:腫瘍が卵巣以外の骨盤内の組織に進展している
    • ステージⅢ:腫瘍が骨盤内を超えて、腹部内に進展している
    • ステージⅣ:離れた部位に転移がある

卵巣胚細胞腫瘍の治療法

  • 治療としては手術、放射線療法化学療法がある
  • 基本的に最初にまず手術が行われ、病理検査で組織型の診断が確定してから、それぞれに合わせた治療を行う
  • 転移腫瘍が大きく広がりすぎていたり、手術が危険な場合は、先に化学療法を行うこともある
  • 治療方針は組織型、病気分類(腫瘍の広がりや転移)によって異なる
  • 手術
    • 診断と治療のために手術が必要である
    • 開腹して行われる場合と、内視鏡下で行われる場合がある
    • 病期分類や妊娠の希望によって、例えば以下のような術式が選ばれる
    • 両側付属器切除術+広汎子宮全摘術:最も標準的。両方の卵巣、卵管、子宮とその周りの組織を摘出する。妊娠・出産は出来なくなる
    • 両側付属器切除術:子宮は残っているので、ドナーの卵子や凍結保存した自分の卵子で妊娠・出産出来る可能性がある
    • 片側付属器切除術:腫瘍がある側の卵巣、卵管を摘出する。妊娠・出産の能力を残すことが出来る
    • 腫瘍減量術:進行していて上記の手術が難しい場合、腫瘍をなるべく出来るだけ多く摘出する。腫瘍の量を減らせば、その後の化学療法の効果が高まると考えられている
  • 化学療法
    • シスプラチンが良く効くので、手術の後にシスプラチンをベースとした化学療法を行うのが標準的である
    • BEP療法(エトポシド、イフォスファミド、シスプラチン)やEP療法(エトポシド、シスプラチン)が行われることが多い
  • 放射線療法
    • 「ディスジャミノーマ」に効く。一方で「非ディスジャミノーマ」には効かない
    • 化学療法の方が長期の毒性が低く、放射線療法よりも優先して行われる
    • 手術後の追加治療として、あるいは化学療法が効かなかった場合、何らかの理由で化学療法が出来ない場合に放射線療法が行われる。
  • 5年生存率
    • ステージⅠ:100%、ステージⅡ:85%、ステージⅢ:79%、ステージⅣ:71%という報告がある
  • 治療後の妊娠・出産について
    • 化学療法の後でも、80%以上の女性は月経が訪れる
  • 卵母細胞凍結保存
    • 両側付属器切除術が行われる場合や、化学療法が行われる場合、本人の希望によって自身の卵母細胞を凍結保存できる
    • 通常化学療法を行う前に保存する
  • 子どもを今後作りたいと考えている場合は、必ず主治医と治療方法について相談する必要がある

卵巣胚細胞腫瘍が含まれる病気

卵巣胚細胞腫瘍のタグ

卵巣胚細胞腫瘍に関わるからだの部位