前十字靭帯損傷の基礎知識
POINT 前十字靭帯損傷とは
ひざ関節の中にある靭帯のうち前十字靭帯が全部あるいは一部が断裂した状態です。傷みや腫れ、膝の不安定感が現れます。スポーツなどジャンプをした際の着地や急な方向転換によって起こることが多いです。前十字靭帯損傷が疑われる人に対しては診察やMRI検査によって膝の状態が詳しく調べられます。損傷の程度に応じて、手術や保存療法(安静・固定・鎮痛など)のどちらかの治療法が選ばれます。前十字靭帯損傷が疑われる人は整形外科を受診してください。
前十字靭帯損傷について
- ひざ関節の中にある前十字
靭帯 の全部、あるいは一部の断裂損傷- 前十字靭帯はひざ関節を構成する脛骨(すねの骨)が大腿骨(太ももの骨)に対してズレたり、捻れたりすることを防ぐ役割を持っている
- この靭帯によりひざが安定し、正常な屈伸運動が可能となる
- 強い捻れや、引き延ばされる力が生じると全部、または一部が断裂し、ひざが不安定な状態となる
- 主な原因
- スポーツなどで強くひざをひねる
- ジャンプの着地
- 急な方向転換
- 年間10000人あたり4人程度が
発症 - 男性に比べ女性の方が2~3倍多い
- 断裂の種類
- 完全損傷:靭帯が完全に切れたもの
- 部分損傷:靭帯の一部が切れたもの
前十字靭帯損傷の症状
前十字靭帯損傷の検査・診断
- ラックマンテスト:ひざを前後に動かし、膝がグラグラしないか(安定性)を確かめる
MRI :靭帯 、半月板 の損傷を確認する
前十字靭帯損傷の治療法
- 手術療法
- ひざにある自分の腱や
靭帯 を使った再建術が標準 - 靭帯があった場所にトンネルを掘り、採取した腱や靭帯を通し両端を金属でとめる
- 傷はお皿の周りに2ヶ所、ひざの内側に数cm
- ひざにある自分の腱や
保存療法 - スポーツ活動をしない人や部分損傷の人に限られる
- 靭帯への負担を軽減する装具をつける
- リハビリテーション
- 手術療法、保存療法のどちらでも行なう
- ひざの動きや筋力の改善、再度損傷しないような動きを身につける
- 病院によって手術の方法が異なるため、リハビリプログラムも病院により異なる
- 多くはスポーツ中に発生するため、動き方などを修正するトレーニングプログラムがある
- 再建術をした60-70%はスポーツ復帰可能
- 治療後、順調に行けば6ヶ月でスポーツ活動を再開することができる
- 許可をされていない無理な動きやスポーツ活動により再断裂する場合もある
- 靭帯が損傷したまま放置し、スポーツ活動を続けると
半月板 を痛め、変形性膝関節症に至ることがある
前十字靭帯損傷の経過と病院探しのポイント
前十字靭帯損傷が心配な方
前十字靱帯損傷は、膝にある4本の主な靱帯のうち、前十字靱帯に起こる外傷です。靱帯が完全に切れてしまった場合と、部分的に切れつつも繋がりが残っている場合があります。
スポーツ中の急な方向転換や急停止、スキー中のように足を固定された状態での転倒での受傷が多いです。このような形で膝をひねったり痛めたりした後から膝が腫れて曲げられなくなったような場合には、前十字靱帯損傷の可能性があります。それ以外に似た症状を来たす疾患としては膝のその他の靱帯の損傷(後十字靭帯損傷、側副靭帯損傷)や、半月板損傷、大腿骨、脛骨、腓骨の骨折などがあり、症状だけからご自身で前十字靱帯損傷と診断するのは必ずしも容易ではありません。
ご自身の症状が前十字靱帯損傷でないかと心配になった時、まずは整形外科のクリニックを受診されることをお勧めします。実際に医療機関を受診された後は、前十字靱帯損傷の診断のためには、診察とレントゲンでまずある程度の当たりをつけます。レントゲンでは靱帯そのものは写らないため、骨折でないことを確かめるために行います。前十字靱帯損傷の診断を確定するためにはMRIの検査を行います。もし前十字靱帯損傷の疑いが強い場合には、膝の固定などの応急処置を行った上でレントゲンやその他行われた診察、検査の結果をまとめた診療情報提供書とともに、手術可能な病院を紹介してくれます。
前十字靭帯損傷でお困りの方
前十字靱帯損傷の場合、手術をするかどうかが大きな治療の分かれ目になります。切れてしまった靱帯が自然に元通りになることはほぼ期待できません。しかし、激しいスポーツを行わずに通常の日常生活を送る分には、前十字靱帯を必ずしも手術しなければならないということはありません。体重がかかった時に支える靱帯がないため膝ががくっと崩れてしまうことがあり得ますが、この症状が出なければ(あるいは症状が出てもあまり困らなければ)手術を行わずに安静にして日常生活が送れるようになるのを待つのも選択肢の一つです。
一方で、その後もスポーツ活動を続けていくということであれば、やはり原則は手術になります。関節鏡といって、膝に小さな傷を作り、そこから内視鏡を入れてカメラ越しに膝の内部を観察しながら手術を行います。また、その際であってもケガをした直後に手術を行うのではなく、1か月ほどリハビリテーションを行い、腫れが引いたタイミングで手術することになります。
手術を行った後に半年ほどをかけてリハビリを行っていくことになります。ただし、低い確率ではありますが手術後であっても再発することがありますので、正しいフォームや筋力トレーニングを含むリハビリテーションの指導を受けられて、信頼できる主治医を見つけることが大切です。