2016.03.29 | コラム

膝の靭帯が切れたらどうする?前十字靭帯損傷の手術方法について解説

スポーツ復帰などを目指した治療
膝の靭帯が切れたらどうする?前十字靭帯損傷の手術方法について解説の写真
(C) Monika Wisniewska - Fotolia.com

この記事のポイント

1.前十字靭帯損傷とは?
2.前十字靭帯損傷の治療方法には何がある?
3.前十字靭帯損傷の手術とは

膝の靭帯である前十字靭帯は、スポーツなどで損傷しやすい場所です。前十字靭帯損傷の治療のひとつが手術です。競技復帰などが治療の目標になります。手術を中心に、前十字靭帯損傷の治療について説明します。

 

◆前十字靭帯損傷とは?

前十字靭帯は膝関節にある組織で、骨と骨をつなぐ役割があります。

膝関節は、大腿骨と呼ばれる太ももの骨と、脛骨と呼ばれるすねの骨、それから膝蓋骨と呼ばれる膝のお皿で構成されています。膝関節は大きく曲げることができるような構造で、骨自体がぴったりくっつくのではなく、いくつかの靭帯や半月板というクッションが関節をコントロールする役割を持っています。つまり靭帯や半月板があることで、膝を滑らかに動かすことができます。前十字靭帯はすねの骨と太ももの骨をつなぐことで、すねの骨が前に滑り出すのを防いでいます。

膝は大きく動くだけでなく強い力がかかるため、スポーツのけがの中でも膝のけがはよくあるもののひとつです。特に前十字靭帯損傷は、ジャンプして着地した時、方向転換した時、急に動きを止めた時などによく起こります。スポーツのけがと言うとほかの選手とぶつかるイメージがあるかもしれませんが、前十字靭帯損傷はぶつからなくてもよく起こります。

損傷した時の様子としては、膝が軽く曲がっていた、膝が内側に入ったなどがあり、膝からけがの音が聞こえる人や、けがをしてすぐに動ける人もいます。

前十字靭帯を損傷すると、膝の痛み、膝の腫れなどの症状が現れます。また、損傷のあと動けていても、急に膝がガクっと折れる「膝崩れ」という症状が出ることがあります。

 

前十字靭帯損傷を放置していると、膝の半月板や軟骨といったクッションの役割を持っている組織に負担がかかり、そちらも損傷してしまう可能性があります。また、膝を動かす感覚に変化が現れる場合もあります。

 

術後の再発(再受傷)はよくあります。最初にけがをしたのと同じ側も反対側も再受傷の可能性があります。再受傷があれば、再び治療することはできます。

 

症状を改善し、悪化を防ぐことが治療の目的になります。以下では治療法の中でも手術を中心に説明します。

 

◆前十字靭帯損傷の治療方法には何がある?

前十字靭帯を損傷した場合、治療方法は大きくわけると、保存療法と手術療法の2つがあります。

保存療法は、手術をせず、関節を支えたり、膝周りの筋力をつけるなどのリハビリを行う方法です。前十字靭帯損傷後の保存療法の例として以下のものが挙げられます。

  • 関節可動域訓練

  • 筋力増強訓練

  • 装具療法

関節可動域訓練は、前十字靭帯損傷によって曲げ伸ばししにくくなった膝を、理学療法士などの専門家が動かしながら、動く範囲を広げていく方法です。

筋力増強訓練では、膝周りをはじめとした足の筋肉を鍛え、前十字靭帯損傷による筋力低下を改善します。

装具療法は、膝を支える装具を使うことで動作を助ける方法です。

 

このような方法がとられる保存療法ですが、効果には一般的に限界があると考えられ、『前十字靱帯(ACL)損傷診療ガイドライン 2012』では、「保存的治療によりジョギングのような軽度なスポーツ活動へは復帰は多くの場合は可能である。一方、バスケットボール、サッカーのようなジャンプ、カット動作の多いスポーツ活動(pivoting sports)への復帰は保存的治療では困難である」とされています。

 

そこで保存療法に加え、本格的なスポーツ復帰を目指す場合などでは、手術が選択肢となります。

では、前十字靭帯損傷の手術とは、どのようなものなのでしょうか。次に解説します。

 

◆前十字靭帯損傷の手術とは

前十字靭帯損傷の手術として、再建術と呼ばれる方法が使われています。再建術は、損傷した靭帯の位置に、新しく靭帯の役割をするもの(グラフト)を移植する手術です。再建に人工靭帯を使う方法もありますが、手術後の人工靭帯の断裂などの点から、現在は、自分の足の腱を移植して再建する方法がよく使われています。

移植する腱をどこから取るかによって、再建術をさらに分類できます。たとえば以下の方法があります。

 

  • 膝蓋腱を移植する方法(BTB法)

  • 半腱様筋腱、薄筋腱(STG法)

 

膝蓋腱は、膝のお皿についている腱です。膝蓋腱は両側で骨につながっていて、骨(bone)が腱(tendon)の両側にくっついている状態のものを切り出すことができます。膝蓋腱を使う再建術は、両側に骨のついた腱を使うことから「BTB」の名前があります。手術では、グラフトの骨の部分と移植する先の骨が癒合するように固定します。

半腱様筋(semitendinosus muscle)、薄筋(gracilis muscle)は、太ももの裏側にある筋肉です。半腱様筋と薄筋が骨に付着する場所の腱を切り取って使うのがSTG法です。

 

膝蓋腱を使うBTB法と、半腱様筋腱・薄筋腱を使うSTG法は、どちらも実際に行われている治療法です。どちらが優れているかについては、日本整形外科学会による『前十字靭帯(ACL)損傷診療ガイドライン2012』に以下の記載があります。

 

BTB法の方が術後安定性の獲得に優れ、STG法の方が前膝部痛の合併の頻度が低い傾向があるものの、両者のoutcomeの差異に関しては対立する見解が多い。

 

つまり、いくつかの点について手術方法による差があるという意見があるものの、必ずしも意見は一致していません。

BTB法とSTG法の他にも、大腿四頭筋腱(太ももの前側の筋肉の腱)を用いる方法などがあります。

実際には個々の状況に応じて考えられるメリットとデメリットを総合し、患者本人と主治医などが相談して手術方法を選ぶことになります。

 

手術の方法は、手術する場所にたどりつく方法によって分類することもできます。

 

  • 関節鏡下前十字靭帯再建術(鏡視下法)

  • 関節切開による前十字靭帯再建術(関節切開法)

 

鏡視下法とは、内視鏡で手術を行う方法です。膝に小さい傷を開け、道具を挿入して操作します。関節切開法に比べると手術の傷が小さく済みます。関節切開法は、手術する場所を切り開く方法です。

『前十字靭帯(ACL)損傷診療ガイドライン』では「術者の鏡視下手術への習熟度にもよるが、ACL再建術においては鏡視下法を第一選択の術式とすべきと考えられる」としています。

 

以上で前十字靭帯損傷の手術について簡単に説明しました。

前十字靭帯損傷は、スポーツで起こりやすく、「再受傷しやすいけが」でもあります。年齢や普段の活動量、競技復帰を目指すのかといった自身の状況と、治療方法のメリット・デメリットを知ったうえで、医師とよく相談し、治療方法を決めましょう。

 

注:この記事は2016年3月29日に公開されましたが、2018年2月9日に編集部(大脇)が更新しました。

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※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。