ろっかんしんけいつう
肋間神経痛
肋骨と肋骨の間に通っている神経に生じる痛み
8人の医師がチェック 116回の改訂 最終更新: 2024.07.12

肋間神経痛の治療:飲み薬、外用薬、神経ブロックなど

肋間神経痛では痛みを抑える治療が中心になります。治療には飲み薬や神経ブロックなどが用いられます。その他の方法として漢方薬や鍼治療、ツボ、指圧などもあります。

1. 肋間神経痛にはどんな治療法があるか

肋間神経痛に原因となる病気があれば、その病気を治療することで症状の改善が期待できます。一方、明らかな原因がない肋間神経痛であっても、治療によって痛みを和らげることができます。

まずは薬物療法から開始するのが一般的です。薬物療法では効果がない、または不十分な場合には神経ブロックなどを行うことがあります。

  • 薬物療法
    • NSAIDs
    • アセトアミノフェン
    • プレガバリン
    • 外用薬
    • ビタミンB12
    • 抗うつ薬
    • 漢方薬
  • 神経ブロック
    • 肋間神経ブロック
    • 硬膜外ブロック
  • 鍼治療
  • ツボ・指圧

肋間神経痛の痛み方や痛む場所には個人差があります。それぞれにあった方法を使い、できるだけ痛みを減らして生活を楽にすることが治療の目標です。

2. 肋間神経痛に効く薬:NSAIDs、プレガバリン(リリカ®)、漢方薬など

肋間神経痛の症状を抑える薬として一般的に用いられているのはNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)やアセトアミノフェン、プレガバリンです。これらの薬は作用の仕組みや副作用が違うので症状や体質などを参考にして選ばれます。他には抗うつ薬や漢方薬、ビタミンB12なども治療に使われます。

NSAIDs(エヌセイズ)

NSAIDsは身体の中での炎症などを引き起こすプロスタグランジンの生成を抑えることにより炎症や痛みなどを和らげます。主な薬としてロキソプロフェンナトリウム(主な商品名:ロキソニン®)やジクロフェナクナトリウム(主な商品名:ボルタレン®)などがあります。NSAIDsは骨折が原因となって痛みが出ている肋間神経痛に効果が期待できます。

NSAIDsの注意すべき副作用としては胃腸障害や腎障害などがあります。近年では、胃腸などへの負担軽減が期待できるセレコキシブ(商品名:セレコックス®)などのCOX2選択的阻害薬という種類のNSAIDsも使われています。

アセトアミノフェン

アセトアミノフェンはNSAIDsとは異なる仕組みで痛みや発熱を抑える薬です。NSAIDsと同様にプロスタグランジンの産生を抑制して鎮痛効果を発揮するとされていますが、炎症に対する効果などは弱いと考えられています。NSAIDsに比べると一般的に胃腸粘膜や腎臓などへの影響が軽減でき、小児から高齢者まで幅広く使えるのもメリットです。アセトアミノフェンで注意すべき副作用として肝障害などがあります。一般的にアセトアミノフェンによる副作用はまれとされていますが、高用量を長期的に使用する場合には特に注意が必要とされています。

プレガバリン(商品名:リリカ®)

プレガバリン(商品名:リリカ®)は神経が関係する痛みに広く使われている薬です。神経が痛みの原因である肋間神経痛に対しても有効であると考えられています。

プレガバリンは神経の興奮を抑える作用によって鎮痛作用をあらわします。

プレガバリンは主に中枢へ作用することにより効果をあらわすため、眠気やめまいなどの精神神経系症状が副作用として現れることがあり注意が必要です。プレガバリンを内服しているときには車の運転を控えるなど日常生活の中での注意が指示される場合もあります。医師や薬剤師からしっかりと説明を聞いておいて副作用への理解を深めておくことが大事です。プレガバリンの詳細は「リリカの効果と副作用は?」で解説していますので合わせてお読みください。

外用薬

痛み止めの外用薬(貼り薬や塗り薬など)の多くは、NSAIDsが主成分です。貼り薬や塗り薬はほとんど使う場所でしか効果がでないようになっています(ただし、貼り薬などの局所作用を目的とした薬でも稀に全身作用があらわれる場合があり、体質などによっては注意が必要となる場合もあります)。したがって胃潰瘍や腎臓などへの負担は少ないと考えられています。一方で皮膚に塗ったり貼ったりするので、かぶれなどの皮膚症状には注意が必要です。

ビタミンB12

ビタミンB12には末梢神経の修復に効果があるとされています。肋間神経は末梢神経に含まれます。ビタミンB12は末梢神経を構成する核酸やリン脂質合成(髄鞘形成)を増加させて神経を修復します。メコバラミン(主な商品名:メチコバール®)などのビタミンB12の製剤は痛み止めとともに処方されることがあります。

ビタミンB12は医師から処方される適切な量を守って使うことも大事です。飲めば飲むほど効果が高まるわけではありません。

抗うつ薬

抗うつ薬はその名前のとおりもともとは精神科領域で使われている薬ですが、神経系への作用により神経が原因の痛みを和らげることも期待されています。一般的には他の薬などによる治療の効果が乏しいときなどに検討されます。

ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有製剤(商品名:ノイロトロピン®

日本で開発された薬で、ワクシニアウイルスを接種した家兎の炎症組織から抽出・分離した成分から造られた製剤です。一般的に腰痛症変形性関節症脊柱管狭窄症などによる痛みの改善に使われる他、帯状疱疹後の神経痛にも保険で承認されています。保険承認の内容からも神経性の痛みに対して改善効果が期待でき、肋間神経痛に対しても有用となることが考えられます。

この薬は中枢性の鎮痛機構である下行性疼痛抑制系神経を活性化する作用、局所で痛みを引き起こすブラジキニンという発痛物質の遊離を抑制する作用、末梢循環の改善作用などによって疼痛改善効果をあらわすと考えられています。

副作用としては吐き気や食欲不振などの消化器症状などがあらわれることもありますが、同じく神経性疼痛(神経障害性疼痛)などで使われるSNRIなどの抗うつ薬やガバペンチンやカルバマゼピンなどの抗けいれん薬と呼ばれる薬に比べて比較的副作用への懸念が少ない点もメリットといえます。

漢方薬

肋間神経痛に効果のある治療薬の一つにプレガバリンがあります。プレガバリンの副作用は眠気やふらつきなどです。このため高齢者など副作用が強くでる人には使いにくいこともあります。そんな場合には身体に穏やかに効果をあらわして副作用が少ないとされる漢方薬が有用な場合もあります。肋間神経痛に効果が期待できる主な漢方薬として以下のものがあります。

  • 桂枝加朮附湯(ケイシカジュツブトウ)
  • 疎経活血湯(ソケイカッケツトウ)
  • 五積散(ゴシャクサン)

この他にも、鎮痛・鎮静などの中枢抑制作用が期待できる生薬の柴胡(サイコ)を含む柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)、冷えや痛みなどに対して効果が期待できる生薬の附子(ブシ)を含む麻黄附子細辛湯(マオウブシサイシントウ)などの漢方薬が使われることも考えられます。また、神経の痛みに筋肉の痙攣(けいれん)などを伴う場合には芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)などが適することも考えられます。

通常、漢方薬は個々の症状や体質などに合わせて使われます。一般的に漢方薬は安全性が高いとされていますが、個々の症状や体質などに合っていない場合には副作用があらわれることも考えられ、頻度は稀ですが、通常の薬同様にアレルギー反応などが起こる可能性もあります。もしも副作用が出てしまったとしても多くの場合、服薬を中止することで症状が改善されます。ただし、何らかの気になる症状があらわれた場合でも自己判断で薬を中止することはかえって治療の妨げになる場合もあります。もちろん非常に重い症状となれば話はまた別ですが、漢方薬を服用することによって、気になる症状が現れた場合は自己判断で薬を中止せず、医師や薬剤師に相談することが大切です。

3. 神経を麻痺させる神経ブロックとは:肋間神経ブロック、硬膜外ブロック

肋間神経痛は、神経が傷ついたり圧迫されたりして過敏になることで起こります。神経ブロックはこの過敏な状態の神経を、麻酔薬で麻痺させることで痛みを抑える方法です。

肋間神経ブロック:神経を麻痺させる神経ブロック

肋間神経ブロックは肋間神経が脊髄(せきずい)から出てすぐの場所を狙って麻酔をかけます。神経の周囲に麻酔薬を注射することで効果を発揮します。

【肋間神経ブロックの実際】

肋間神経は背中から出て肋骨(ろっこつ)に沿った場所にあります。肋間神経ブロックは神経の根元(背骨の近く)や肋骨の間に注射をします。肋間神経ブロックの順序は以下になります。

  1. ベッドに仰向けまたはうつ伏せになる
  2. 医師が肋骨や背骨の位置を触って確認する
  3. 背骨を目印にしながら超音波検査またはX線透視レントゲンを使った検査)を用いて針を刺す場所を決める
  4. 針を刺す場所に、局所麻酔の注射をする
  5. 充分に麻酔が効いていることを確認してブロックに使う針を刺す
  6. 針先が適切な位置にあることを確認して麻酔薬を注射する

肋間神経ブロックは多くの場合、外来でできます。治療後、短時間で効果があらわれます。効果の持続時間は数日から数週間と個人差があり、回数を重ねると症状が小さくなるという人もいます。

【肋間神経ブロックで症状が和らぐメカニズム】

痛みは神経を通じて脳に伝えられます。神経→脊髄→視床→大脳という流れです。大脳に信号が届いて人は「痛み」を感じます。神経ブロックでは脊髄に入る手前の神経に麻酔をかけて痛みの伝わりをブロックするので、痛みを感じにくくなります。

【肋間神経ブロックの合併症

肋間神経ブロックは肋間神経痛に効果を示しますが合併症もあります。合併症とは治療や検査で引き起こされる望ましくない出来事です。肋間神経ブロックの合併症は以下のものです。

  • 気胸 
  • 局所麻酔中毒 

肋間神経ブロックは肋間神経の近くに針を刺して薬を注入します。肋間神経の奥には肺があるため、針が肺まで刺さってしまうと肺に穴が開きます。これを気胸と言います。気胸は軽症であれば様子を見ることができますが、重症の場合は入院して治療が必要になります。

局所麻酔中毒は麻酔薬の血液中の濃度が上昇することで起きます。興奮、多弁(よくしゃべる)、血圧の上昇、頻脈などの症状があらわれます。自然に回復するのを待つことになりますが、精神症状が続くときは気持ちを落ち着かせるような薬が使われることもあります。

硬膜外ブロック

硬膜外ブロックは肋間神経ブロックよりさらに中枢(脊髄)寄りで神経に麻酔をかける治療です。硬膜外腔(こうまくがいくう)というスペースに麻酔薬を注入して神経に麻酔をかけて痛みなどをとります。

【硬膜外ブロックの実際】

背中から針を刺すことは肋間神経ブロックと同じですが、横向きの姿勢で治療を受けます。硬膜外ブロックは以下の手順で行います。

  1. ベッドに左または右を下にして横向きに寝る姿勢になる
  2. 医師は背中を触って背骨を確認する
  3. 針を刺す場所に麻酔をする
  4. 充分に麻酔が効いていることを確認して針を刺す
  5. 針が硬膜外腔に達したことを確認してカテーテルという管を挿入する。このとき少し背中に違和感があることもある
  6. カテーテルの中から薬を注入して効果があるかを確かめる

【硬膜外ブロックの合併症】

硬膜外ブロックの主な合併症は頭痛と硬膜外血腫です。

硬膜外ブロックでは硬膜を破ることはありませんが、意図せず硬膜が損傷することがあります。硬膜に穴があくと脳脊髄液がもれ出ることがあり頭痛がおきます。

硬膜外に血の塊ができることを硬膜外血腫といいます。硬膜外血腫が起こると神経を圧迫して運動や感覚に麻痺がでることがあります。

頭痛や硬膜外血腫は気をつけるべき合併症ですが、その発生頻度はかなり低いので過度に心配する必要はないと思います。

4. 肋間神経痛に鍼治療・ツボ・指圧は効果があるか

痛みを和らげる方法(対症療法)としてツボや鍼灸はよく知られた治療法です。

鍼(はり)治療やツボ・指圧は、筋肉や神経を刺激して血流を改善させ体の動きを良くする効果があると言われています。血流が改善すると硬くなった筋肉がほぐれたりします。肋間神経痛は筋肉が硬くなることも関係していると考えられています。

肋間神経痛に対して鍼治療やツボ指圧を行いたい人は、薬物療法や神経ブロックなどと上手く組み合わせて取り組んでみてください。