こうりんししつこうたいしょうこうぐん
抗リン脂質抗体症候群 (APS)
身体の中に血栓でできやすくなる膠原病の一種で、特に女性に多い。流産の原因となることがある
11人の医師がチェック 134回の改訂 最終更新: 2021.11.28

抗リン脂質抗体症候群の検査について:血液検査、造影CT検査など

抗リン脂質抗体症候群が疑われる人には問診、身体診察、血液検査、造影CT検査などが行われます。これらの検査結果をもとに抗リン脂質抗体症候群の可能性があるかを見極めていきます。

1. 抗リン脂質抗体症候群をどのように診断するか

抗リン脂質抗体症候群は血のかたまり(血栓)ができやすくなることで、脳梗塞エコノミークラス症候群流産を繰りかえす病気です。抗リン脂質抗体症候群の診断は以下の基準と照らし合わせて行われることが多いです。

  • 症状の経過
  • 血液検査の異常
    • 抗リン脂質抗体(抗カルジオリピン抗体、抗β2GPI抗体、ループスアンチコアグラント)が陽性

上記の症状の経過のどれかがあり、血液検査の異常が3ヶ月以上あけて2回確認されると、抗リン脂質抗体症候群の可能性が高いと判断します。そのため、抗リン脂質抗体症候群が疑われた場合にはこの基準と照らし合わせるため、以下の検査を行い情報を収集していきます。

  • 問診
  • 身体診察
  • 血液検査
  • 造影CT検査
  • 超音波検査

以下で詳しく説明していきます。

参考文献:
 Miyakis S, et al : International consensus statement on an update of the classification criteria for definite antiphospholipid syndrome.J Thromb Haemost 4 : 295-306, 2006.

2. 問診

問診とはお医者さんからの質問に答える形で、患者さんが困っている症状や身体の状態、生活背景を伝えることをいいます。問診では以下のポイントをよく聞かれます。

  • どんな症状があるか
  • 脳梗塞エコノミークラス症候群など血栓症を起こしたことはあるか
  • 流産の経験があるか
  • 飲んでいる薬は何かあるか
  • 家族で何か病気をもっている人はいるか
  • アレルギーがあるか

問診を通して抗リン脂質抗体症候群を疑う症状があるかを確認していきます。また、アレルギーがある人には治療薬の選択肢が限られることもあります。そのため、これらの問診内容は治療法を決めるうえでも大事な質問事項です。

身体の変化には自分自身が一番気付きやすいので、お医者さんが診察しただけでは見つけられない病気のサインが問診からわかることがあります。可能な範囲で構いませんので、診察時に説明するようにしてください。

3. 身体診察

身体診察はお医者さんが患者さんの身体の状況をくまなく調べることをいいます。例えば、足を触ってむくんでいるようであれば、足に血のかたまり(血栓)があるサインの可能性があります。また、聴診器を胸に当てた時に心臓の音に異常があれば、肺塞栓症エコノミークラス症候群)を起こしている可能性があり、入院が必要になるかもしれません。このように身体診察は抗リン脂質抗体症候群を診断するためだけでなく、重症度の予測や治療方針を決めていくうえでも非常に重要な情報になります。

4. 血液検査

抗リン脂質抗体症候群の診断に役立つ血液検査には「抗リン脂質抗体」や「Dダイマー(ディーダイマー)」があります。それぞれ以下で詳しく説明します。

抗リン脂質抗体

抗リン脂質抗体は血栓ができやすくなる原因物質です。血液検査で抗リン脂質抗体が体内にあるかどうか調べることができます。抗リン脂質抗体の有無は抗リン脂質抗体症候群の診断において重要です。抗リン脂質抗体はより細かくみると、抗カルジオリピン抗体、抗β2GPI抗体、ループスアンチコアグラントの3種類があります。これら3種類の抗体のうちどれかが3ヶ月(12週)以上あけて2回陽性であり、血栓症の症状があると抗リン脂質抗体症候群の可能性が高いと判断されます。

Dダイマー

Dダイマーは身体の中に血栓があるかどうかを把握するための血液検査です。血栓ができても症状があらわれにくいこともあるので、Dダイマーの結果を血栓があるかどうかの参考にすることがあります。血栓ができるとDダイマーの値は上昇します。ただし、身体のどこに血栓があるかまではわかりません。血栓ができた場所は次に述べる造影CT検査や静脈超音波検査で調べます。

5. 造影CT検査

CT検査はX線の技術を応用して身体の断面を撮影する検査です。造影剤を血管内に注射しながら撮影することで血管の中の状態なども調べることができます。造影剤はX線に映る薬です。造影CT検査は数十秒程度で撮影が終了し、血栓があるかを全身くまなく調べることができます。一方で以下に該当する人は検査ができない場合があります。

  • 妊娠している
  • 腎機能が低下している
  • 治療が不十分な喘息がある
  • 造影剤に対するアレルギーを過去に起こしたことがある
  • 造影CT検査と相性が悪い薬を内服している〔メトホルミン(商品名:メトグルコ®︎)など〕

また、造影CT検査はX線を用いるため被ばくします。被ばくが心配な人や上記の理由で造影CT検査が行えない人には、次に述べる超音波検査を行います。

6. 静脈超音波検査

超音波検査は超音波を当てて跳ね返ってきた情報をもとに映像を構築する検査です。身体の表面から血管に向けて超音波を当てることで血管の中の状態を調べることができます。超音波検査は被ばくの心配もありません。また、妊娠中の人を含めどの人でも受けられます。検査時間は15分から30分程度です。ただし、造影CT検査のように全身の血栓をくまなく調べられるわけはないことに注意が必要です。