すいぞうがん
膵臓がん
膵臓にできるがんの総称。早期で発見するのが難しく、経過が最も悪いがんの一つ
15人の医師がチェック 249回の改訂 最終更新: 2024.10.24

膵臓がんの検査:CT検査、腫瘍マーカーなどの解説

膵臓がんの検査は血液検査、画像検査、内視鏡検査、病理検査など多岐に渡ります。膵臓がんは悪性度が高く、進行も比較的早いと考えられます。膵臓にできる腫瘍は膵臓がん以外にもいくつかあります。治療の方針を決定する検査は非常に重要です。

1. 膵臓がんが疑われる場合の検査

膵臓がん診断のアルゴリズム

膵臓がんに対して使われる検査を挙げます。

  • 問診
  • 身体診察
  • 血液検査
    • 腫瘍マーカー
    • 酵素
  • 腹部超音波検査 
  • 造影CT検査
  • MRI検査
    • MRCP
  • 超音波内視鏡検査EUS
    • 超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)
  • PET(PET/CT)
  • 内視鏡的逆行性膵管造影(ERCP
  • 審査腹腔鏡

膵臓がんの検査の目的は2つあります。
一つ目は、最初の段階として、膵臓がんかどうか確定診断を行うことです。2つ目は、膵臓がんだと確定した場合、手術ができるかどうかを調べることが目的になります。
次にそれぞれの検査について説明します。

2. 血液検査(腫瘍マーカー、膵酵素)

膵臓がんを診断するために血液検査も使います。血液検査だけで診断はできません。ほかの検査の結果とあわせて判断することになります。

血液検査のうち腫瘍マーカーと膵酵素について説明します。血液検査ではほかに全身の状態を反映する項目なども一緒に調べます。

腫瘍マーカーとは、がんに特徴的な微量の物質のことです。がんがあると腫瘍マーカーの量が増加します。血液中の腫瘍マーカーを測定することで、がんがあるかどうかを探ります。

膵臓がんに特徴的な腫瘍マーカーがいくつか知られています。ただし、いずれも単独で膵臓がんを診断できるほどの性能はありません。

腫瘍マーカーの種類 CA 19-9 SPAN-1 DUPAN-2 CEA CA 50
感度 70-80% 70-80% 50-60% 30-60% 60%

感度とは膵臓がんがある人を検査で異常と指摘できる割合です。感度が高い検査は膵臓がんの見逃しが少ないという意味です。表のとおり、比較的感度が高い腫瘍マーカーを使っても、本当は膵臓がんがある人の2割ほどは見逃されてしまいます。

膵臓がんの腫瘍マーカーは他にもいくつかありますが、膵臓がんを全て見逃さずに診断できるとは言い難い側面もあります。腫瘍マーカーは、2cm以下の小さながんでは、さらに感度が低くなるとも言われています。

腫瘍マーカーは検査による負担が比較的小さいという利点があります。しかし、腫瘍マーカーだけで診断に至ることはありません。ほかの検査と見比べたうえ判断することが必要になります。

膵酵素は、膵臓が分泌する消化酵素です。消化酵素は本来血液の中には入ってきません。しかし、膵臓がんによって膵酵素が血液に入ってくる場合があります。

膵臓が分泌する消化酵素には、膵型アミラーゼ、リパーゼ、エラスターゼ1、トリプシンなどがあります。膵臓にがんができて大きくなると、膵液が流れる膵管が狭くなります。狭くなり流れが悪くなった膵管の圧は上昇します。その結果、消化酵素が活性化して膵炎という炎症が起こると考えられています。膵炎が発生すると血液中の膵酵素が上昇します。

膵臓がんで必ず膵炎が起きるわけではありません。また、膵酵素の数値のみで膵炎と膵臓がんの区別をつけることは難しいです。しかし、膵酵素は診断の補助として用いるのは有用なので、膵臓がんを疑った場合は膵酵素の測定を行います。

3. 画像検査

画像検査は膵臓の形やがんが疑われる部分を超音波や放射線、磁気などを利用して調べます。

  • 腹部超音波検査
  • CT検査、造影CT検査
  • MRI検査、MRCP(magnetic resonance cholangiopancreatography)
  • 超音波内視鏡検査(EUS)
  • PET(PET/CT)

それぞれの検査の特徴は異なるのでそれぞれについて説明します。

腹部超音波検査

腹部超音波検査は、お腹の中を画像で見られる検査です。お腹にジェルを塗って、プローブという機械を当てると、体内の様子が画面に写ります。

超音波検査は簡便に行うことができ、かつ放射線を用いないことが利点です。放射線被曝の影響がないぶん安全です。

ただし、膵臓は背中側にある臓器なので、お腹側からではガスや脂肪により見えにくい場所があります。特に膵臓の両端に関してはかなり見づらくなります。

超音波検査よりもCT検査のほうが情報量は多いと考えられます。

CT検査、造影CT検査

CT検査は身体の断面を映し出せる画像検査です。放射線を使います。造影剤という薬を注射したうえで撮影する造影CT検査がよく使われます。

造影CT検査は膵臓がんの診断のためにはとても大事な検査です。造影剤を使うことで、よりはっきりと病変の位置や広がり、また血管の位置関係が見える(描出される)ようになります。

造影CT検査は手術の前に計画を立てる場合などに非常に有効な検査になります。一度の検査でタイミングを変えて4回ほど撮影をします。

  1. 単純撮影(造影しない)
  2. 動脈相(造影剤を注射して短時間)
  3. 膵実質相(動脈相の次)
  4. 門脈相(膵実質相の次)

数回に分けて撮影を行うことで血管がよりはっきりと確認できたり、膵臓がんの浸潤の程度などさまざまな情報を得ることができます。

MRI検査、MRCP(magnetic resonance cholangiopancreatography)

MRI検査は磁気を利用して身体の中を撮影する検査です。放射線は使いません。身体の中に金属製品(ペースメーカーなど)を植え込んでいる人は使えない場合があります。

膵臓がんの診断にはMRI検査よりもCT検査のほうが優れていると考えられています。そのため以前はMRI検査は推奨されていない状況にありました。しかし、近年の技術進歩でMRI検査の画像の質も上がってきています。現在は膵臓がんが発生するリスクが高い人などに対してスクリーニング(症状や検査値異常がなくても病気を探すために行う検査)としてMRI検査を用いることもあります。

MRCPは、MRI検査の撮影法の1つです。MRCPでは胆管や膵管の評価を行うことができます。以前は内視鏡を用いたERCPという検査が主流でした。

ERCPは内視鏡を口から挿入し、内視鏡の先から造影剤を出して膵管などを描出する方法です。ERCPは、内視鏡を使って細胞を取ってくることも一緒にできる点がMRCPと比べて優れている点です。しかし、ERCPは検査後に急性膵炎を起こすこともあり、太めの内視鏡を用いたりもするので、患者さんの負担も大きいのが問題です。

MRCPとERCPを比較した臨床試験ではどちらでも診断能力は変わらなかったとされています。現在ではMRCPをまず施行して、診断がはっきりと付けられない場合にはERCPを行うという順番にしている施設が多いようです。

超音波内視鏡検査(EUS) 

EUSは内視鏡の先端に超音波検査のプローブを取りつけたものを使う検査です。

膵臓は胃の後ろ側(背中側)にある臓器です。皮膚の上から超音波検査をしても膵臓がはっきりと見えない場合は多々あります。

そこでEUSでは、胃の中から超音波検査を行います。お腹の皮膚側から見るより鮮明に膵臓を観察することができます。

EUSを行うときは口から内視鏡を挿入して先端のプローブを操作します。EUSで用いる内視鏡は通常の内視鏡より太いので、挿入するときなどにやや違和感が強いかもしれません。

EUSで病変が明らかな場合は胃の壁越しに腫瘍に針を刺して吸引します(EUS-FNA)。腫瘍の組織の一部を取り出して顕微鏡で観察(病理検査)します。

■超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)

EUSは内視鏡を用いて胃の壁越しに超音波検査を行います。さらに、超音波検査で腫瘍の位置を確かめながら、内視鏡の先端から針を出し、腫瘍に刺して腫瘍の中身を吸引します。吸引した中身を顕微鏡で病理医が観察(病理検査)し、がん細胞の存在の有無を確認します。

腫瘍そのものを顕微鏡で観察することで非常に多くの情報が得られます。がんをはじめ多くの病気に対して、病理検査は最も信頼できる検査です。

PET(PET/CT)

PET(ペット)は画像検査です。放射線を使います。PET/CTはPETとCT検査を組み合わせた検査です。

PETは、がん細胞が通常の細胞に比べて糖分を活発に取り込むことを利用した検査です。

FDG(フルオロデオキシグルコース)という物質を使います。FDGは糖(グルコース)に似た物質です。FDGが取り込まれた場所では放射線が発生します。放射線を利用して画像を撮影することができます。

PETを撮影するときにはFDGを点滴で体内に注入してから撮影します。がんはFDGの集積が高くなる(陽性)と考えられています。膵臓に正体のわからない病変が見つかり、良性か悪性の判断が難しいときには、客観的な材料の一つとしてPETが役立つ可能性が示唆されています。

PETの弱点は、画像で陽性のものが必ずしもがんとは限らないことです。炎症などでも陽性になります。加えて小さな膵臓がんや転移を診断することには限界があるとも言われています。これらのことから、現在のところは膵臓がんに対して、PETは必ず行うべき検査ではありません。

内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)

ERCPは内視鏡とX線を使って行う検査です。内視鏡を入れて操作しているところにX線を当て続けることで、レントゲン写真を動画にしたように身体の中をリアルタイムで観察することができます。透視検査と呼ぶこともあります。透視しながら内視鏡から造影剤を出すことで、膵管の形を画像に写し出すことができます。ERCPはほかの検査で膵臓がんかどうか確定しにくい場合などに使われます。

ERCPでは口から内視鏡を入れて十二指腸まで進めます。十二指腸には膵臓の膵管がつながっています。内視鏡の先からカテーテルという細い管を出して膵管の中に入れます。カテーテルから造影剤を注入すると、膵管の形がはっきりと画像に写ります。

さらに、内視鏡が膵臓まで届いているので、膵臓の組織を採取することができます。採取した組織を顕微鏡で調べてがんが見つかれば確定診断となります。

ERCPで注意しないといけない点として、造影剤を膵管の中に注入することによって膵管の圧が上昇し、膵炎が発生することがあります。膵炎は重症化することもあります。膵炎が起きているかどうかは検査後に必ず確認しなければなりません。膵炎が発生したときには適切な治療を行う必要があります。

ERCPは患者さんの身体に対する負担も大きい検査なので、診断が困難な場合に行われることが多いです。

4. 審査腹腔鏡

審査腹腔鏡(しんさふくくうきょう)は検査に分類されますが、手術室で行われるものです。手術として説明される場合もあるかもしれません。

膵臓がんを根治する(体から全てなくす)唯一の治療は手術になります。しかし、膵臓がんの手術は身体への負担が大きい手術です。根治が期待できない場合は手術をしない、というのは、体力を温存するという観点から合理的です。すでに転移がある場合は手術が勧められません。

膵臓がんが転移する場所は、腹腔内(お腹の中にがんが飛び散る(播種(はしゅ)))、肝臓などがあります。

審査腹腔鏡は転移の判断が画像診断だけでは難しい場合に行います。

審査腹腔鏡は手術室で行われます。お腹にいくつか小さな穴をあけて内視鏡(腹腔鏡)を挿入し、お腹の中を観察します。

転移が見つかれば手術不能と判断できます。審査腹腔鏡で転移が見つからなかったときは、後日に仕切り直して手術を行う場合と、その場で開腹手術に移行する場合があります。

5. 膵臓がんの検査には入院が必要?

膵臓がんの検査の多くは外来で行うことができます。しかしいくつかの検査は入院して行うことがあります。入院が必要な検査と、検査に伴って生じる合併症(がっぺいしょう)について説明します。

合併症とは、検査や治療によって引き起こされる問題のことです。合併症は医療ミスがまったくなくてもある程度の確率で起こってしまうものです。

EUS-FNA(超音波内視鏡下穿刺吸引法)

EUS-FNA(超音波内視鏡下穿刺吸引法)は、内視鏡を使って胃の中から超音波検査を行ったうえで、膵臓に針を刺して組織を吸引する方法です。取り出した組織を顕微鏡で観察すること(病理検査)により、非常に信頼度の高い判断が得られます。

まず口から内視鏡を挿入し、その先端で超音波検査(EUS)を行います。EUSで用いる内視鏡は通常の内視鏡より太いので、挿入するときなどにやや違和感が強いかもしれません。

EUSで病変が明らかに見える場合は胃の壁越しに腫瘍に針を刺して吸引し、悪性かどうかを評価します。

胃に針の穴が開いても大丈夫なのかと思えるかもしれません。胃の穴は非常に小さいので、針を抜いた直後に閉鎖します。ENS-FNAで胃の穴が大きな問題になることはありません。

■EUS-FNAにかかる時間・入院期間

EUS-FNAにかかる時間は1時間程度です。検査の対象となる腫瘍の位置や大きさなどにより、かかる時間は変わります。問題なく経過すれば、入院期間は数日の場合が多いでしょう。

■EUS-FNAの合併症

ENS-FNAでは膵臓に針を刺すので、膵臓が炎症を起こしたり、血管に針が当たり出血を起こすことがあります。しかし合併症が起こる確率は非常に低いものと考えられています。

ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)

ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)は内視鏡を用いて膵管に造影剤を注入する検査です。診断が難しい場合などでERCPが行われます。

ERCPでは造影剤を膵管の中に注入することによって膵炎が発生することがあります。急性膵炎が重症化すると命に危険が及ぶことがあります。

同じようなことができる検査にMRCPというものがあります。MRCPはERCPと異なり、内視鏡などを用いずにMRI検査の一つの撮影方法として胆管や膵管を描出することができます。

■ERCPの入院期間

入院期間は、特別な処置を行わなければ、数日から一週間以内が想定されます。

■ERCPの合併症

ERCPにより急性膵炎が一定の確率で起こるとされます。ERCPを行った後は血液検査などで膵炎が起きていないかを確認することになります。膵炎が起きてしまった場合は、急性膵炎に対する治療を行います。

審査腹腔鏡

審査腹腔鏡は、お腹に穴を開けて中を内視鏡(腹腔鏡)で観察します。がんの転移を探す検査です。

審査腹腔鏡の入院期間

特に問題がなければ一週間以内の入院期間が想定されます。

審査腹腔鏡の合併症

審査腹腔鏡のためにお腹に穴を開けるので出血が起きることがあります。審査腹腔鏡は内臓を観察するだけでなく、鉗子(かんし)というマジックハンドのような器具で腸を持ち上げたりすることがあります。腸に触れるだけでは影響がない場合が多いですが、まれに腸閉塞などが起きることがあります。

6. 検査中に耳にするかもしれない膵管拡張とはどんなことななのか

膵臓の検査で膵管拡張(すいかんかくちょう)という言葉を聞くかもしれません。膵管拡張とは、膵臓の中にある膵管が太くなることを指します。膵管拡張が見つかったときは病気が原因の可能性があります。

膵管の中は膵液という液体が流れています。膵液の流れが滞ると膵管が拡張します。膵管は主膵管と副膵管の2つに分かれています。主膵管の太さは通常は3mm以下です。3mm以上で膵管が拡張していると診断されます。膵管が拡張する原因は、膵管の中にがんなどがあって流れが悪くなっている場合と、膵液の粘り気が増して膵管内の圧力が上昇していする場合があります。

膵管拡張の原因となる病気は主に以下です。

膵管拡張は膵臓の病気によってあらわれている可能性があります。検査で膵管拡張が見つかった場合には原因をしっかりと調べておくことが重要です。

7. 膵臓がんが疑われる場合にはどの診療科を受診すればいいか

膵臓がんの検査は消化器内科で行われることが一般的です。

専門病院ではさらに細かく分かれて、肝臓・胆嚢・膵臓を専門的に扱う肝胆膵内科や、さらに細かく分かれて胆膵内科という診療科がある施設もあります。

審査腹腔鏡を除く検査は内科で行われることが多いのですが、病院によっては消化器外科、肝胆膵外科などが行う施設もあります。

膵臓がんの検査の例をまとめます。

  • 血液検査(腫瘍マーカー、膵酵素)
  • 腹部超音波検査 
  • 造影CT検査 
  • MRI検査、MRCP
  • PET(ペット) 
  • 超音波内視鏡検査(EUS) 
  • 超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)
  • 内視鏡的逆行性膵管造影(ERCP)
  • 審査腹腔鏡

膵臓がんの診断を行うには上記のような検査を組み合わせます。

画像診断のみで明らかに膵臓がんと診断が付く場合には追加の検査を行わずに膵臓がんと確定診断します。全ての検査が必要なわけではありません。

一般的には造影CT検査とMRCP(MRI検査)を使って診断を行うことが多いと思われます。診断が困難なときには、PET(ペット)、超音波内視鏡検査(EUS)や病理検査(EUS-FNA、ERCP)が行われます。