ネフローゼ症候群の治療:タンパク尿・浮腫などに対する治療
ネフローゼ症候群の治療は
1. ネフローゼ症候群の治療
ネフローゼ症候群は尿から多くのタンパク質が失われる(大量のタンパク尿)ことが原因で体に様々な変調を来します。ネフローゼ症候群の治療はタンパク尿を抑える治療とともに他の
ここでは腎臓の
一次性ネフローゼ症候群の治療は以下の4つのポイントがあります。
- タンパク尿に対する治療
- 浮腫(
むくみ )に対する治療 - 脂質
代謝 異常に対する治療 血栓症 に対する治療または予防
以下ではそれぞれの治療の概要について解説します。
タンパク尿に対する治療
腎臓の
- 微小変化型ネフローゼ
- 膜性腎症
- 膜性増殖性糸球体腎炎
- 巣状分節性糸球体硬化症(巣状糸球体硬化症)
どの原因によりネフローゼ症候群が起こったかにより治療期間や薬の効果は変わりますが治療法は共通しています。まず
ステロイド剤による治療の効果が不十分なときには治療薬を
浮腫に対する治療
浮腫(ふしゅ)は血管の外の間質という部分に水分の貯留が起こることで、体の浮腫み(むくみ)や体重が増えるなどの症状が現れます。
浮腫はネフローゼ症候群でタンパク質が体から失われることを原因とすると考えられています。浮腫はネフローゼ症候群を治療することでよくなりますが他に和らげる方法や工夫があります。以下の2つの方法は浮腫による症状を和らげることが期待できます。
- 利尿剤の使用
- 塩分の制限
浮腫が起きていると水分が体の中に過剰にたまった状態になります。利尿剤を使うとたまった水分を尿として体の外に出すことができ浮腫を軽減する効果が期待できます。
食塩に含まれるナトリウムは水分を引きつける働きがあり、食塩の摂取で浮腫が悪化することが知られています。食塩の量を制限することで浮腫による症状が軽減することが期待できます。
脂質代謝異常に対する治療
ネフローゼ症候群になると血液中のLDL
血液中のLDLコレステロールの濃度が高い状態が持続すると血管が細くなる
血栓症に対する治療または予防
ネフローゼ症候群になると血液を固めるタンパク質が血液中に増加して血液のかたまり(
2. ネフローゼ症候群の治療効果はどのようして判断する?
ネフローゼ症候群の治療効果は尿から出ているタンパク質がどの程度減ったかということが判断の材料になります。
ネフローゼ症候群の治療効果判定基準
ネフローゼ症候群の治療効果を判定するには以下の基準を用います。
【ネフローゼ症候群の治療効果判定基準】
治療効果の判定は治療開始後1ヵ月、6ヵ月の尿蛋白定量で行う
- 完全寛解:尿蛋白<0.3g/日
- 不完全寛解I型:0.3g/日≦尿蛋白<1.0g/日
- 不完全寛解II型:1.0g/日<尿蛋白<3.5g/日
- 無効:尿蛋白≧3.5g/日
ネフローゼ症候群の治療効果を判断するには尿に含まれるタンパク質の量を基準にします。治療効果は4段階で評価します。
治療の目標としては完全寛解もしくは不完全寛解I型を目指します。おおまかには1日に尿からでるタンパク質の量を1g未満にすることです。治療効果判定基準によって効果が不十分である場合や効果がないと判断された場合は治療法を変更するなどします。
3. ネフローゼ症候群の治療経過は?完治は可能なのか?
ネフローゼ症候群は再発することもあり油断ならない病気です。ネフローゼ症候群の治療経過について寛解と再発、腎不全にいたるかという3点に焦点を当てて説明します。
参考文献
・浅野 泰/監「腎臓内科診療マニュアル」日本医学館, 2010
・福井次矢, 黒川清 /監「ハリソン内科学」メディカルサイエンスインターナショナル, 2012
・松尾清一/監「エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン2014」東京医学社, 2014
寛解
まずはこの聞きなれない寛解(かんかい)という言葉の意味から説明します。
寛解は治療によって症状が抑えられた状態のことを指します。つまり再発する可能性もあるものの病気そのものは抑えられている状態です。寛解の状態を長期間続けることができれば完治と言えます。つまり病気が治ったということです。
ネフローゼ症候群の寛解率はどのくらいなのでしょうか?ここでは腎臓の病気を原因とする一次性(原発性)ネフローゼ症候群の寛解率について説明します。
まず原発性ネフローゼ症候群は主に以下の4つの病気が原因になります。
- 一次性(原発性)ネフローゼ症候群の原因になる主な病気
- 微小変化型ネフローゼ症候群
- 膜性腎症
- 膜性増殖性糸球体腎炎
- 巣状分節糸球体硬化症(巣状糸球体硬化症)
微小変化型ネフローゼ症候群は高い寛解率で知られていて約90%の人が治療により寛解状態にまで至ることが可能です。
膜性腎症は成人のネフローゼ症候群の主な原因となる病気です。寛解率は比較的高く約70%の人が治療により寛解に至るとされます。
膜性増殖性糸球体腎炎は人によって病状に大きく幅があります。このためにはっきりとした寛解率は不明です。
巣状分節糸球体硬化症は重症度に幅が大きいために正確な寛解率は詳しくはわかっていません。巣状分節糸球体腎炎の治療は難しいこともあります。
再発
ネフローゼ症候群は再発することがあります。再発とは一度寛解の状態になったにも関わらずその後再び症状が現れることを指します。再発率は原因となる病気により異なります。病気ごとの再発率の統計があります。
病名 | 再発率 |
微小変化型ネフローゼ症候群 | 30−70% |
膜性腎症 | 24−60% |
膜性増殖性糸球体腎炎 | 約60%(移植腎) |
巣状分節糸球体硬化症 | 27−65%(移植腎) |
ここで示した再発率は海外のデータも含まれています。また膜性増殖性糸球体腎炎と巣状分節糸球体硬化症については腎臓を移植した人の再発率になるのでステロイド剤や免疫抑制剤で治療した場合とは異なります。
ネフローゼ症候群のように再発する可能性がある病気は再発率に目が行く気持ちは理解できます。ネフローゼ症候群の再発率はまだ十分明らかになっていない部分も多いです。したがってここで紹介した数字は参考程度にとどめておいた方がよいでしょう。また再発率などの成績は過去の治療実績に基づくものなので現在の治療の成績とは違ってくることも十分考えられます。
大切なことは再発したときには早く気づいて治療をすることです。そのためには定期的な受診を欠かさないことはもちろんのこと日々の体調についても十分気を配ってみてください。
腎不全に至る割合
ネフローゼ症候群の経過として最も気になるのが腎臓の機能が悪くなる腎不全に至るかどうかだと思います。腎不全は腎臓の機能が生命を維持するのに不十分な状態です。腎不全になると
病名 | 腎不全で透析治療が必要になる人の割合 |
微小変化型ネフローゼ症候群 | ほとんどいない |
膜性腎症 | 10年で約10%、15年で約20%、20年で約41% |
巣状糸球体分節硬化症 | 10年で約15%、15年で約40%、20年で約65% |
膜性増殖性糸球体腎炎 | 10年で40-50% |
これらの数値はあくまでも参考にとどめるのがよいと思います。このような統計の値は以下のような点についても考えてみてください。
- 過去の治療実績にもとづくものであり現在の治療が反映されてはいない
- 同じ病気でも患者さんの体の状態は一人ひとりで異なる
将来の経過を予測するような値はネフローゼ症候群に限らず多くの病気で調べられています。過去の治療実績を参考にすることは治療を進める上で見通しを立てるのに役立ちます。しかし過去の治療と現在の治療が違ってくることは十分にありうる話です。その分治療成績が変わることもあります。
また同じ病気を抱えていても患者さん一人ひとりの体の状態は同じではありません。病気の進行やその後の経過に一人ひとりの体の状態が与える影響は大きいです。
腎不全に至る人の割合について解説しました。腎不全になり透析治療が必要になると生活に制限がかかり負担も増えます。ネフローゼ症候群と診断された後には透析治療が必要かどうかは気になるところだと思いますが、数値は参考にとどめておいて自分の状況に向きあい治療にのぞむことが大切だと思います。
4. ネフローゼ症候群のガイドラインはある?
医学は日々進歩を遂げているので、