たはつせいけっかんえんせいにくげしゅしょう(うぇげなーにくげしゅ)
多発血管炎性肉芽腫症(旧称:ウェゲナー肉芽腫)
全身の細い血管に炎症が起きる病気。鼻、肺、腎臓の血管に炎症が起こりやすい。
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最終更新: 2023.06.11
多発血管炎性肉芽腫症(旧称:ウェゲナー肉芽腫)の基礎知識
POINT 多発血管炎性肉芽腫症(旧称:ウェゲナー肉芽腫)とは
全身の血管に炎症が怒る病気です。主に鼻、肺、腎臓が障害され、鼻の変形、膿のような鼻水や鼻血が続いたり、息苦しさ、血痰、血尿や腎機能が低下するといった症状が出ます。腎臓はかなり悪くなるまで自覚症状が現れないため注意が必要です。血液検査でANCA (Anti-Neutrophil Cytoplasmic Antibodyの頭文字,抗好中球細胞質抗体)という、この病気と関連が知られる抗体の出現を確認することが重要です。その他、尿検査、組織生検(腎臓や皮膚の組織の一部を採取して顕微鏡で調べる)、レントゲン検査、CT、MRIなどを行います。治療としてはステロイド、免疫抑制薬、リツキシマブなどの薬剤を使用します。気になる方はリウマチ内科、膠原病内科を受診してください。
多発血管炎性肉芽腫症(旧称:ウェゲナー肉芽腫)について
- 全身の細い血管に
炎症 が起きる病気- 特に病気がよく起こる場所としては、
上気道 (鼻やのど)、肺、腎臓がある - 上気道→肺→腎臓の順番に起こることが多い
- 血管炎は
自己免疫疾患 の一種であると考えられている - 破壊された血管のまわりには「肉芽種」と呼ばれる
白血球 が集まった所見 が確認される - 似たようなメカニズムで起こる病気
- 多発血管炎性肉芽腫症は治療を減量する過程で再発することも多い
- 特に病気がよく起こる場所としては、
- 30-60歳に多い
- 男女差はほとんどない
- 厚生労働省の特定疾患に指定されている
- 一定の基準を満たせば医療費の補助を受けられる
多発血管炎性肉芽腫症(旧称:ウェゲナー肉芽腫)の症状
- 大きく4つの
症状 に分けられる- 頭頸部(
上気道 、眼、耳)の炎症 - 肺の症状
- 腎臓の炎症
- 全身の炎症
- 頭頸部(
- 頭頸部(上気道、眼、耳)の炎症
- 肺の炎症
- 咳
血痰 - 息苦しさ
- 呼吸すると胸が痛む
※しばしば肺の中に結節性(こぶのような形)の
病変 を作る
- 腎臓の炎症(腎炎):進行した場合に生じる
- 足の
むくみ - 急な高血圧
血尿 - 泡立った尿(
蛋白尿 )
- 足の
全身の血管の炎症
- 発熱が続く (2週以上)
- 体重の減少(6ヶ月で体重の10%以上)
その他の症状
- 関節の痛み(関節炎)
- 手足のしびれ
- 皮膚の
紫斑 吐血 、下血 など
多発血管炎性肉芽腫症(旧称:ウェゲナー肉芽腫)の検査・診断
- 様々な検査を組み合わせて診断
- 血液検査:
抗好中球細胞質抗体 の有無、炎症 の強さ、腎臓の障害があるかどうかなどを調べる- 抗好中球細胞質抗体(PR3-
ANCA 、c-ANCA)が検出されることが特徴 - 炎症反応パラメーター:
白血球 数やCRP 値の上昇 腎機能 :Creatinin値で腎機能を推定する
- 抗好中球細胞質抗体(PR3-
- 尿検査
- 尿潜血や
タンパク尿 、尿円柱などを調べ、腎臓の中に炎症が起こっているかを推定する
- 尿潜血や
- 画像検査:肺に炎症が起こっていないかなどを調べる
胸部レントゲン (X線 写真)胸部CT
- 組織
生検 :鼻、肺、腎などの組織を取って、血管炎の所見 を顕微鏡で観察する(確定診断)
多発血管炎性肉芽腫症(旧称:ウェゲナー肉芽腫)の治療法
- 下記の薬剤を使って
炎症 を抑えるステロイド薬 - ステロイド薬を長期に内服すると副作用が多いので、副作用を予防する薬を使う
- ステロイド薬とあわせて使われる薬剤
- ビスホスホネート、
ビタミンD 、カルシウム製剤、PTH製剤、デノスマブなど :ステロイド薬による骨粗しょう症の予防 - プロトンポンプ阻害薬:ステロイド薬による胃潰瘍の予防
- ST合剤:ニューモシスチス肺炎の予防
免疫 抑制薬- シクロフォスファミド(商品名エンドキサン)
- アザチオプリン(商品名イムラン、アザニン)
- メトトレキサート(商品名リウマトレックス、メトレート)
- ミコフェノール酸 モフェチル(商品名セルセプト)
- 分子標的薬
- リツキシマブ(商品名リツキサン)
- アバコパン(商品名タブネオス)
- アバコパンは、2022年に発売された比較的新しい薬で、高用量の
ステロイド に劣らない効果があることがわかっている - 重症例では
血漿交換 を行うことがある 腎機能 が急速に低下した場合には透析 が必要になることがある- 使用する薬剤は全身の炎症の程度、肺や腎臓などの臓器障害の有無・重症度によって選択される
- 病状が落ち着けば、ステロイドを飲む量は可能な限り少しずつ減らしていく
- 免疫が抑えられることにより
感染症 が起きやすくなるので注意が必要 - 薬を減量する過程での再燃も多く、全ての薬剤を完全に中止した上で血管炎
症状 がないという意味での「完治」の状態を達成するのは難しい方も多い - 薬剤を上手くつかって症状や腎機能をコントロールするのが現実的な目標であり、継続的に通院を続ける必要がある
多発血管炎性肉芽腫症(旧称:ウェゲナー肉芽腫)に関連する治療薬
分子標的薬(リツキシマブ〔抗CD20モノクローナル抗体〕)
- リンパ球B細胞やB細胞性リンパ腫細胞に発現しているCD20抗原というタンパク質に結合し、結合した細胞を破壊(溶解)することでこれらの細胞の増殖を抑える薬
- 悪性リンパ腫は白血球の一種であるリンパ球のがんで、CD20抗原というタンパク質がB細胞性リンパ腫細胞などの細胞表面で多く発現している
- 多発血管炎症性肉芽腫症はリンパ球(B細胞、T細胞など)の活性化などによりおこるとされる
- 本剤はCD20抗原に結合することでCD20陽性のB細胞などを溶解する作用をあらわす
- 本剤は難治性のネフローゼ症候群や特発性血小板減少性紫斑病などの治療に使われる場合もある
- 本剤は特定分子の情報伝達などを阻害することで抗腫瘍効果などをあらわす分子標的薬となる