カルチノイド症候群とは?
カルチノイドは腫瘍の一種です。周りに転移しない良性の場合もありますが、悪性(がん)の場合もあります。転移がある場合でも10年以上生存できることが多いとされます。カルチノイドは多くの場合、胃腸や気管支から発生します。
カルチノイドはセロトニンを分泌する性質があります。カルチノイドがある人の一部で、セロトニンが多すぎることにより動悸・ほてり・下痢などの症状が現れます。この状態をカルチノイド症候群と言います。
原因によらず、下痢は一般に脱水や電解質異常につながることもあり、無視できない症状です。
ほかにカルチノイド症候群では以下の症状が出ることがあります。
- 痛み
- 潮紅
- 首・顔などの赤い発疹
- かゆみ
- 涙
- 顔のむくみ
- よだれ
- 汗
- 低血圧
- 喘鳴(喘息のように呼吸がゼーゼー鳴る)
カルチノイドはこれらの症状のほか、セロトニンの原料になるトリプトファンを消耗してしまうため、トリプトファンから作られるナイアシンを不足させ、皮膚炎・下痢・認知症などが現れる栄養不足状態(ペラグラ)の原因になる場合がごくまれにあります。セロトニンが過剰に作られることで、ほかの必要な物質が足りなくなってしまうのです。
さらに、カルチノイド症候群が心臓に影響することも多く、重症では心不全に至ります。心臓の異常によって死亡する患者もいます。
カルチノイド症候群の下痢に対するテロトリスタットエチルの効果
新薬のテロトリスタットエチル(商品名キセルメロ)がカルチノイド症候群による下痢を改善する効果の研究が行われ、専門誌『Journal of Clinical Oncology』に報告されました。
テロトリスタットエチルは、トリプトファンからセロトニンが合成される過程に働くトリプトファンヒドロキシラーゼを阻害することで、セロトニンを減らします。
効果の検証のため、カルチノイド症候群の患者のうち、既存治療であるソマトスタチンアナログ製剤の使用にもかかわらず1日4回以上の便通がある135人が研究対象とされました。
対象者はランダムに次の3グループに分けられました。
- 12週間1日3回、1回250mgのテロトリスタットエチルを飲むグループ
- 12週間1日3回、1回500mgのテロトリスタットエチルを飲むグループ
- 12週間1日3回、偽薬を飲むグループ
治療によって便通の回数が減るかが検討されました。
便通が少なくなる効果
治療から次の結果が得られました。
偽薬と比べて、12週平均で1日あたりの便通の頻度の差の推定値は、テロトリスタットエチル250mg群で-0.81行(P<0.001)、テロトリスタットエチル500mg群で-0.69行(P<0.001)だった。
テロトリスタットエチルを使用した患者の一部に、軽度の吐き気と無症状のγ-GTP増加が観察された。
テロトリスタットエチルを飲んだグループのほうが、偽薬のグループよりも便通の回数が少なくなりました。
副作用の可能性がある症状などは、軽度の吐き気や検査値の変化がありました。
テロトリスタットエチルはアメリカで承認済み
テロトリスタットエチルを有効成分とする製剤のキセルメロは、2017年2月28日に米食品医薬品局(FDA)によって承認されました。日本では未承認です。
将来日本でも承認され、カルチノイド症候群の治療選択肢に加わることができれば、既存治療でも症状が残っている患者の生活を楽にすることができるかもしれません。
執筆者
Telotristat Ethyl, a Tryptophan Hydroxylase Inhibitor for the Treatment of Carcinoid Syndrome.
J Clin Oncol. 2017 Jan.
[PMID: 27918724]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。