2017.02.28 | ニュース

ドパミン・セロトニンに影響する薬で高熱・けいれんが出た64歳男性

セロトニン症候群と悪性症候群が重複した症例報告

from Case reports in medicine

ドパミン・セロトニンに影響する薬で高熱・けいれんが出た64歳男性の写真

すべての薬に副作用があります。複数の薬の相互作用によって、副作用が強くなったり、新たな影響が現れる場合もあります。抗生物質の副作用をきっかけに悪性症候群とセロトニン症候群が重なった人の例が報告されました。

サウジアラビアの研究班が、薬の相互作用による悪性症候群とセロトニン神経伝達物質の一つ。生体リズムや睡眠・体温調節・精神状態などに関与しており、不足することでうつ病などの精神疾患を発症しやすくなると言われている症候群が重複した64歳男性の例を専門誌『Case Reports in Medicine』に報告しました。

 

この男性は、2週間続く左足のむくみ体の部位がむくんだ状態のこと。血液から水分が周囲に漏れ出ることで、全体が腫れてむくみが生じる、赤み、痛みにより日常生活がうまくできないことを訴えて救急受診しました。

以前から2型糖尿病があり13年間治療を続けていました。また、軽度のうつ症状が出ていました。

糖尿病が長年続くと、足に症状が現れることはよくあります。糖尿病によって足の血行が悪くなる、感染に弱くなる、痛みに気付きにくくなるなどの変化があるため、足の壊疽(えそ)などが起こって、特に重症では足を切断せざるをえなくなる場合もあります。

この男性の足にはふやけて悪臭のする潰瘍臓器や粘膜が部分的にえぐれてしまっている状態。何らかの理由で壁の防御機構が壊れてしまっていることが原因となりやすいができていました。体温は38.2℃、検査で白血球血液の中にある血球の一種。免疫を担当しており、病原体が体内に入って来た時に、それと戦う役割を担う15,000個/μl(基準値は9,000個/μl程度)と重症の感染症何らかの病原体が引き起こす病気。細菌、ウイルス、真菌などが原因となることが多い。人から人へ直接うつらないものも含めた総称が疑われました。

 

汚染された部分を取り除く手術(デブリドマン)が行われました。取り出した組織からはメチシリン耐性菌に抗菌薬が効きにくい性質のこと。ある菌に特定の抗菌薬が効かない場合、「この抗菌薬に耐性がある(耐性化している)」などと表現される黄色ブドウ球菌食中毒や化膿性皮膚疾患の原因となる菌。正常な皮膚にもいる菌であり、必ずしも病気を引き起こすとは限らない(MRSA)が検出されました。細菌感染症を起こす微生物の1つ。ウイルスと比較して10-100倍の体の大きさをもつの検査で、抗菌薬細菌感染症に対して用いられ、細菌の増殖を防ぐ、もしくは殺菌する薬。ウイルスや真菌(かび)には効果がない抗生物質微生物が産生する細胞の増殖や機能を阻害する物質。抗菌薬・抗ウィルス薬・抗がん薬を含む、抗生剤)のうちバンコマイシンには耐性があり(効果が期待できず)、クリンダマイシン、リネゾリド、ST合剤には感受性がある(効果が期待できる)ことが確かめられました。

リネゾリドとモキシフロキサシンの点滴が開始されました。

リネゾリドを投与したときに激しい吐き気が現れました。吐き気は一般にリネゾリドの副作用で現れることもあります。このときはリネゾリドを中止する判断ではなく、吐き気を抑える薬のメトクロプラミドで治療されました。

 

メトクロプラミドを使ったにもかかわらず吐き気は続きました。血圧は160/90mmHgまで上がり、発熱、意識混濁、発汗、呼吸困難の症状もありました。また、筋肉が緊張し、右足にクローヌス(ガクガクと繰り返し動く症状)が現れていました。

検査などにより、ほかの原因が否定され、薬が原因の悪性症候群と診断されました。

 

悪性症候群は、神経に作用する薬の副作用としてまれに現れる状態です。

体内で機能しているドパミン(ドーパミン)の作用が急に少なくなることで起こると考えられています。症状に気付いて早期治療すれば後遺症なく治りますが、過去には死亡例も多く報告されています。

 

この男性では、メトクロプラミドが悪性症候群を引き起こしていると推定されました。メトクロプラミドはドパミンの作用を弱くする働きがあります。メトクロプラミドは中止され、悪性症候群に対する治療が行われました。

しかし、治療しても高血圧・高熱・クローヌスは続いていました。

 

悪性症候群以外の原因として、セロトニン症候群が疑われました。セロトニン症候群も薬が原因で発熱などを起こす状態です。もともと体内にあるセロトニンの作用が強くなりすぎることで症状が現れると考えられています。

セロトニン症候群は悪性症候群と似た特徴がありますが、別の原因があると考えられています。

原因となる薬を探るため、改めて服薬歴を確認したところ、救急受診の前日まで抗うつ薬のオランザピンとフルオキセチンを含む製剤を飲んでいたことがわかりました。

オランザピン、フルオキセチンはともにセロトニン症候群を引き起こすことが知られています。また、足の治療に使われていたリネゾリドも、フルオキセチンなどと同時に使うことでセロトニン症候群を引き起こす恐れがあるとされています。

セロトニンの作用を抑えるシプロヘプタジンのほか、セロトニン症候群の治療が行われました。

24時間後にはわずかな症状を除いて状態が改善しました。7日目に退院となりました。

 

薬が原因の病態病気の状態や、その病気の原因・発生機序などを指して用いられる言葉が2種類重なった例を紹介しました。

これは極端な例ですが、薬の相互作用は重大な事態につながることもあります。

この人では、足の治療を開始した時点で抗うつ薬を飲んでいることを主治医が聞き出せなかったことが、大きな問題につながりました。

 

また、足の治療に使う抗菌薬として、セロトニン症候群を起こす可能性があるリネゾリドを選んだことも結果として悪い面が出てしまいました。

リネゾリドは多剤耐性菌特定の種類の抗生物質が効かなくなった菌のこと。菌は常に突然変異を繰り返しており、薬に抵抗性を持ってしまうことがあるの治療として使えるため、使う場面はよく選んで温存するべきとされる薬です。リネゾリドの副作用として現れやすい血小板血液中にある成分の1つ。出血が起こると、出血している部分に集まって出血を止める役割をもつ減少症などにも注意が必要です。この人の場合、重症感染症のためクリンダマイシンやST合剤よりもリネゾリドを優先せざるをえなかったのかもしれませんが、相応にリスクは高くなっていたと言えます。

さらに、報告の中では議論されていませんが、モキシフロキサシンなどのフルオロキノロンは中枢神経系への影響もまれにあることが2016年にアメリカの食品医薬品局(FDA)から警告されています

 

さまざまな要因が重なり、非常にリスクの高い状況が作られてしまいました。この状況で受診前に飲んでいた薬を確認できていなかったことは問題と言わざるをえません。

医師にとっては、薬の相互作用に注意して処方することの大切さを強調する事例と言えるかもしれません。

 

患者自身が身を守るためにできることもあります。

糖尿病など長年続く持病がある人は、たくさんの薬を処方されることがよくあります。

薬の相互作用にあらかじめ対策するため、日本で言えば一冊のお薬手帳に使用中の薬を漏れなく書き込み、主治医の注意を促すことはとても大切です。

また、何らかの薬の使用中に万一体調の変化を感じたときは、すぐに処方した医師に相談することも大切です。

一般にセロトニン症候群で現れる症状には以下のものがあります。

  • 興奮
  • 幻覚
  • 心拍数の増加(頻拍)
  • 発熱
  • 過剰な発汗
  • 震え
  • 筋肉のけいれん、こわばり
  • 体をバランスよく動かせない
  • 吐き気・嘔吐
  • 下痢

また悪性症候群の症状には以下のものがあります。

  • 意識がぼんやりする
  • 心拍数の増加(頻拍)
  • 発熱
  • 呼吸が速くなる
  • 血圧が上がる
  • 震え
  • こわばり
  • うまく話せない
  • よだれが出る
  • 飲み込みにくい

薬のリスクを理解して正しく使うため、情報を役に立ててください。

執筆者

大脇 幸志郎


参考文献

Overlapping of Serotonin Syndrome with Neuroleptic Malignant Syndrome due to Linezolid-Fluoxetine and Olanzapine-Metoclopramide Interactions: A Case Report of Two Serious Adverse Drug Effects Caused by Medication Reconciliation Failure on Hospital Admission.

Case Rep Med. 2016.

[PMID: 27433163]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。 [執筆者一覧]