2020.08.25 | コラム

ポビドンヨード(イソジン)による「うがい」は新型コロナウイルス感染症を予防するのか?

感染症内科医が伝えたいCOVID-19とポビドンヨードによるうがいとの関連

ポビドンヨード(イソジン)による「うがい」は新型コロナウイルス感染症を予防するのか?の写真

8月4日に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策として、「ポビドンヨードによるうがいを推奨する」という大阪府知事の会見があり、波紋を呼んでいます。この会見の根拠は、大阪はびきの医療センターが実施した研究によるものです[1]。
研究ではホテル宿泊療養中のCOVID-19患者を対象に、ポビドンヨードのうがいをする人としない人に分けて、唾液のPCR検査で陽性となる頻度を比べました。その結果、ポビドンヨードでうがいをした人のほうが、唾液のウイルス陽性頻度が低下していました。

この研究から、はたして本当にCOVID-19を予防すると言えるのでしょうか。この疑問について本コラムで解説していきたいと思います。

1. そもそもポビドンヨードは新型コロナウイルスを失活させるのか?

ポビドンヨードは、60年以上にわたって使われてきた消毒薬です。多くの細菌やウイルスに対して殺菌・殺ウイルス作用があり[2,3,6]、医療現場では手指や手術部位の消毒のために日常的に使われています。

一般的なコロナウイルスは風邪の原因の10-15%(流行期35%)を占め、4種類あることがわかっています[4]。そして、これらの4種類のコロナウイルスの他に、SARS、MERSといった致死率の高い感染症の原因となるコロナウイルスが、2000年以降に新しく現れました。ポビドンヨードに、風邪のコロナウイルス、SARS、MERS殺ウイルス作用があるかを見た研究では、その作用があることが既に実証されています[5,6]。

では、今回の新型コロナウイルス(SARS-COV-2)に対しては? というと、最近、新型コロナウイルスに対するポビドンヨードの有効性を調べた研究が発表されました[7]。方法の概要は次の通りです。

 

  • 研究で使われたもの:10%のポビドンヨード消毒液、7.5%のポビドンヨード洗顔料、1%のポビドンヨードうがい薬、0.45%のポビドンヨードのどスプレー
  • 方法:それぞれを新型コロナウイルスに30秒間接触させる

 

その結果、上記のものすべてで99.99%以上の殺ウイルス作用を示しました。

以上より、新型コロナウイルスに対してもポビドンヨードは他のコロナウイルスと同様に殺ウイルス作用があるといえるでしょう。

 

2. うがいはCOVID-19を予防するのか?

では、ポビドンヨードによるうがいでCOVID-19は予防できるのでしょうか? この疑問に答えるための2つの臨床試験が現在行われておりますが[8,9]、残念ながら結果はまだ出ていません。

しかし、過去には風邪やインフルエンザに対するうがいの効果をしらべた研究がいくつかあります。その一つ、18歳から65歳までの健康なボランティア387名を対象にしたものを紹介します。この研究では、対象者を次の3つのグループにランダムに分けて、その後60日間でどれくらい風邪を引くかを調べました[10]。

 

1)1日に少なくとも3回、水道水でうがいをする人
2)1日に少なくとも3回、ポビドンヨードを用いてうがいをする人
3)特にケアをしない人

 

結果は、なんと「ポビドンヨードを用いてうがいをする人」は「特にケアをしない人」と比べても風邪の発症は変わらず、「水道水でうがいする人」でのみ風邪を40%予防することができたのです。なお、同じデータを用いた解析においては、水道水うがい、ポビドンヨードうがいのいずれでもインフルエンザの発症を予防できなかったと報告されています[11]。

うがいをするにしても、現時点ではむしろ水道水が良いと考えられます。

 

3. ポビドンヨードのうがいによって、新型コロナウイルスのPCR検査が陰性になることの意味とは?

上述の通り、ポビドンヨードには新型コロナウイルスに対し殺ウイルス作用があります。新型コロナウイルスは、口腔や咽頭、および唾液で検出されることが知られているため[12,13]、ポビドンヨードのうがい後に唾液でPCR検査をすれば検査が陰性になってしまうのは当然です。それ以上の大きな意味は今の所なさそうです。

そして、かねてから多くの専門家が伝えていることですが、うがいをしようがしまいが、PCR検査が陰性でも新型コロナに感染してないとは言えないことを忘れてはいけません(詳しくは「感染症内科医が伝えたい新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の検査について」参照)。

 

4. ポビドンヨードのうがいにその他の意義はあるのか?

COVID-19の主要な感染伝播の経路に飛沫感染があります[14]。ポビドンヨードを用いてうがいすると口腔内のウイルス量を減らすことから、飛沫を介した他者への伝播リスクを一時的に減らすことが期待されます。そこで、例えば歯科医院での活用が考えられます。

歯科医師や歯科助手は、処置の際に患者の唾液に晒されがちです。また、唾液のついた器具を介して間接的にもウイルスへの曝露の機会があります[13]。そのため、米国歯科医師会、オーストラリア歯科医師会などは感染対策として、処置前に患者にポビドンヨードのマウスウォッシュを行ってもらうことを推奨しています[15,16]。

 

5. ポビドンヨードのうがいによる安全性は?

ポビドンヨードはヨードという名前の通りヨウ素を含んでいます。ヨウ素は甲状腺ホルモンの主原料で、日本人の成人の摂取上限量は1日あたり3㎎、妊婦・授乳婦では1日あたり2㎎となっています[17]。一方、ポビドンヨードうがい薬を用法どおりに使うと、1日あたり約4㎎のヨード摂取になることが報告されています[18]。

ヨウ素は必要量以上に摂取することにより、甲状腺機能に異常が起こることがあります[19]。しかし、どの程度の使用頻度と使用期間であれば、甲状腺機能異常をおこさず安全にポビドンヨードうがい薬を使えるか、ということについては、現在明らかではありません。甲状腺疾患のある人は特に注意が必要です。また、妊娠中や授乳中の長期の過剰摂取は赤ちゃんの甲状腺腫大や甲状腺機能異常の原因になるといわれています。これらのことから、感染予防としての日常的なヨウ素系うがい薬の使用は避けたほうが良いでしょう[17]。

 

最後に、今回のコラムのまとめです。

 

  • ポビドンヨードは新型コロナウイルス(SARS-COV-2)に対して殺ウイルス作用を有する
  • しかし、ポビドンヨードうがい薬が、COVID-19予防になるかは現在のところ不明
  • 現時点では、ポビドンヨードによるうがいよりも、水道水によるうがいが推奨される

 

いま感染予防のためにできることは、「三密を避ける」、「こまめに手洗いをする」、「咳エチケットをまもる(マスクの利用)」、「ソーシャルディスタンス」です。そして、体調が悪ければ外出を控えることも大切です。地道に続けてwithコロナ時代を乗り切りましょう。

 

伊東直哉(愛知県がんセンター感染症内科 / 感染対策部感染対策室)

 

参考文献

1. ホテル宿泊療養におけるポビドンヨード含嗽の重症化抑制にかかる観察研究について

2. Wutzler P, Sauerbrei A, Klöcking R, Brögmann B, Reimer K. Virucidal activity and cytotoxicity of the liposomal formulation of povidone-iodine. Antiviral Res. 2002;54(2):89-97.

3. Kawana R, Kitamura T, Nakagomi O, et al. Inactivation of human viruses by povidone-iodine in comparison with other antiseptics. Dermatology. 1997;195 Suppl 2:29-35.

4. 国立感染症研究所. コロナウイルスとは

5. Sizun, J, Yu, MW, Talbot, PJ. Survival of human coronaviruses 229E and OC43 in suspension and after drying on surfaces: a possible source of hospital-acquired infections. J Hosp Infect. 2000;46(1):55–60.

6. Eggers, M, Koburger-Janssen, T, Eickmann, M, Zorn, J. In vitro bactericidal and virucidal efficacy of povidone-iodine gargle/mouthwash against respiratory and oral tract pathogens. Infect Dis Ther. 2018;7(2):249–259.

7. Anderson DE, Sivalingam V, Kang AEZ, et al. Povidone-Iodine Demonstrates Rapid In Vitro Virucidal Activity Against SARS-CoV-2, The Virus Causing COVID-19 Disease [published online ahead of print, 2020 Jul 8]. Infect Dis Ther. 2020;1-7.

8. clinicaltrials.gov. https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04364802

9. EU Clinical Trials Register. https://www.clinicaltrialsregister.eu/ctr-search/trial/2020-001721-31/GB

10. Satomura K, Kitamura T, Kawamura T, et al. Prevention of upper respiratory tract infections by gargling: a randomized trial. Am J Prev Med. 2005;29(4):302-307. doi:10.1016/j.amepre.2005.06.013

11. Kitamura T, Satomura K, Kawamura T, et al. Can we prevent influenza-like illnesses by gargling?. Intern Med. 2007;46(18):1623-1624.

12. Frank S, Capriotti J, Brown SM, Tessema B. Povidone-Iodine Use in Sinonasal and Oral Cavities: A Review of Safety in the COVID-19 Era [published online ahead of print, 2020 Jun 10]. Ear Nose Throat J. 2020;145561320932318.

13. Challacombe SJ, Kirk-Bayley J, Sunkaraneni VS, Combes J. Povidone iodine. Br Dent J. 2020;228(9):656-657. doi:10.1038/s41415-020-1589-4

14. Harapan H, Itoh N, Yufika A, et al. Coronavirus disease 2019 (COVID-19): A literature review. J Infect Public Health. 2020;13(5):667-673. doi:10.1016/j.jiph.2020.03.019

15. ADA Interim Guidance for Minimizing Risk of COVID-19 Transmission . 2020.https://www.kavo.com/en-us/resource-center/ada-interim-guidance-minimizing-risk-covid-19-transmission

16. Australian Dental Association. Managing COVID-19 guidelines.

17. 国立成育医療研究センター. 新型コロナウイルス感染症予防対策としての妊娠中、授乳中のヨウ素系うがい薬(ポビドンヨードうがい薬)の使用について.

18. Sato K, Ohmori T, Shiratori K, et al. Povidone iodine-induced overt hypothyroidism in a patient with prolonged habitual gargling: urinary excretion of iodine after gargling in normal subjects. Intern Med. 2007;46(7):391-395.

19. 日本甲状腺学会. 新型コロナウイルス感染症へのヨウ素系うがい薬の使用についての見解.

(2020.8.25閲覧)

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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