1回の点滴で1.67億円!? 高額医薬品の裏側 | MEDLEYニュース
2020.06.09 | コラム

1回の点滴で1.67億円!? 高額医薬品の裏側

近年増えている高額医薬品について、薬価設定の背景や課題を紹介します
1回の点滴で1.67億円!? 高額医薬品の裏側の写真
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2020年3月、ゾルゲンスマ®️(一般名:オナセムノゲン アベパルボベク)という新薬が厚生労働省に薬事承認されました。何かの呪文のような一般名の薬ですが、物珍しいのは名前だけではありません。2020年5月に決まった薬価が、1回の点滴で1億6707万7222円と国内最高額になったのです。ゾルゲンスマは脊髄性筋萎縮症という難病の子どもに使われる薬で、対象となる患者さんは年間で25人ほどと推定されています。対象患者数は少なく、1人に1回しか使われないものの、ビックリするような高額薬であることには間違いありません。
今回のコラムでは近年相次いで発売されている高額医薬品を紹介し、薬価が決められる背景や今後の課題について説明していきます。

1. 「オプジーボ」から始まった高額医薬品の時代

高額医薬品時代の幕開けとも言えるのが2014年のオプジーボ®️(一般名:ニボルマブ)発売でした。「免疫チェックポイント阻害薬」という、それまでになかったタイプの抗がん剤です。2018年に本庶佑(ほんじょたすく)先生がノーベル賞を受賞した研究成果をもとに開発された薬としても脚光を浴びました。また、使われるがんの種類や体重によって異なったものの、1人1年間あたり数千万円にのぼる薬価も注目を集めました。

近年では2019年に発売されたキムリア®️(一般名:チサゲンレクルユーセル)という薬も話題となりました。白血病やリンパ腫に対するCAR-T細胞療法という新しい治療に使われる薬です。ゾルゲンスマ同様に1人1回しか使われない薬ですが、約3349万円という当時最高額の薬価でした。そして今回、ゾルゲンスマが最高額を更新したという経緯です。

 

2. 薬価はどのように決められるのか?

新薬の価格は製薬企業から提出された資料などをもとに厚生労働省が決定します。価格の決め方には2通りの方法があります。「類似薬効比較方式」または「原価計算方式」という方法です。

 

2-1.類似薬効比較方式:既にある似た薬の薬価を参考にする方法

対象となる病気、作用機序、投与方法などの面で既に似ている薬がある場合には、その薬価を基準として新薬の薬価が決められます。この方法を「類似薬効比較方式」といい、日本では最も一般的な薬価の決められ方となっています。また、画期的なもの、有用なもの、珍しい病気に対するもの、子ども向けのもの、先駆け審査指定制度で指定されたもの、などは類似薬の薬価に割増した値段がつけられます。欧米で既に発売されている薬の場合はその薬価も参考とされます。

 

脊髄性筋萎縮症の治療薬「ゾルゲンスマ」はなぜ高額になったのか?

今回発売のゾルゲンスマはこの類似薬効比較方式で値付けされました。脊髄性筋萎縮症に対しては、2017年に承認されたスピンラザ®️(一般名:ヌシネルセン)という薬が既にあったため、これを薬価算定の参考としました。スピンラザの薬価は1回あたり約949万円で、4ヶ月ごとに使用されます。これをもとに、スピンラザ11回分の薬価約949万円 × 11 ≒ 1億442万円に、1回の使用で済むことが画期的である点などを加味した割増も含めて60%を上乗せし、1億442万円 × 1.6 ≒ 1億6707万円がゾルゲンスマの薬価となりました。ゾルゲンスマを1回使えばスピンラザを11回使うくらい長期的に効果が期待できる、と見積もられたわけです。

*先駆け審査指定制度:一定の要件を満たす画期的な新薬等について、薬事承認に係る相談・審査における優先的な取扱いの対象とし、迅速な実用化を図るもの(厚生労働省「先駆け審査指定制度について」を参照)

 

2-2.原価計算方式:かかった費用を基に算出する方法

次にもう一つの薬価算定方法である「原価計算方式」について説明します。これは既存の類似薬がない場合に使われる薬価の算定方法です。原価や流通経費などに製薬企業の利益を上乗せしたものを基準として、その価格から必要に応じて先ほどの説明と同様に割増や海外薬価との調整などが行われます。

上で挙げたオプジーボやキムリアはこの方法で値付けされました。例えばオプジーボは発売当初100mgあたり約73万円でしたが、原価が約46万円、流通経費が約4万6千円、営業利益が約17万円、消費税が約5万4千円という内訳でした。

 

3. 適正な薬価とは?

ここまで高額医薬品や、その薬価の決められ方について説明しました。「よく計算して決められている」と感じた人もいれば、「いい加減な決め方だ」と感じた人もいるかもしれません。おそらくどちらも正しい面があると思われます。

例えば類似薬効比較方式では、既に類似薬があれば同程度の薬価となるのはある程度合理的と言えそうです。一方で、類似薬があるのに「画期的だから割増の薬価で」ということを繰り返していては、薬価が青天井になりかねません。

また、原価計算方式は実際に製造開発にかかっているコストから薬価を計算する点で合理的と言えそうです。しかし「原価」の中には原材料費や製造経費以外にも研究開発費などが含まれており、その内訳はブラックボックスだという批判があることも事実です。1つの薬が患者さんに届けられるまでには、多くの候補薬が基礎研究・治験の過程で頓挫しており(治験についてはこちらのコラムを参照)、薬の値段は原材料費や製造経費などから単純に計算できるものではないという面もあります。

 

4. 高額な薬価:課題は?

ビックリするような高額医薬品や、その薬価がどのように決められているか、をここまで紹介しました。また「適正な薬価」を決めることはとても難しいことであることもお分かり頂けたと思います。一方で、実は日本の患者さんにとってはある程度薬が高額になってしまうと、ふところ事情にあまり関係ないという面があります。それは日本の医療費助成制度や高額療養費制度という医療制度などにより、高度な医療も比較的安価に受けられる仕組みが作られているからです。

例えばゾルゲンスマの適用となる脊髄性筋萎縮症は国の指定難病であり医療費助成制度があります。そのため、点滴を受けたとしても自己負担は高々数万円以内となります。またオプジーボやキムリアを使用した場合も高額療養費制度のおかげで、指定難病の医療費助成ほどではないにせよ、大部分の医療費を患者さんは負担せずに済みます。

これは患者さんとしては大変喜ばしいことですが、医療の進歩と高齢化により日本の医療財政が年々圧迫されているのは気になるところです。国としても薬価を年々引き下げるなど様々な対策をしています。例えば2014年の発売当初100mgあたり約73万円であったオプジーボの薬価は、2020年5月現在約17.5万円まで引き下げられています。これはオプジーボを使う患者さんが増えてきたという背景もあり値下げは止むを得ない面がありますが、製薬企業の研究開発には資金も必要であるため、医療財政とのバランスが難しく今後も課題となりそうです。

 

5. まとめ

ここまで2014年のオプジーボに始まった高額医薬品時代の流れ、類似薬効比較方式・原価計算方式による薬価の決められ方、薬価算定の課題と医療財政上の問題について説明してきました。このコラムが高額医薬品や医療財政に興味を持つきっかけとなれば幸いです。

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。