乳児が動けなくなる「脊髄性筋萎縮症」の新薬で運動改善、死亡率低下

脊髄性筋萎縮症は筋力低下などを特徴とし、重症の場合は人工呼吸が必要になります。治療は確立していません。新薬ヌシネルセン(商品名スピンラザ®)の試験の結果が報告されました。
6か月未満で発症した脊髄性筋萎縮症に対するヌシネルセンの効果
日本を含む各国の研究者が、共同で行った試験の結果を医学誌『The New England Journal of Medicine』に報告しました。この研究は、生後6か月未満で症状が始まった脊髄性筋萎縮症の子供を対象に、ヌシネルセンの効果を試したものです。
脊髄性筋萎縮症はいくつかのタイプに分かれます。乳児から症状が始まるタイプの主なものは遺伝します。タイプによっては人工呼吸が必要になる場合が多いとされます。
ヌシネルセンは髄腔内投与といって、
- ヌシネルセンの髄腔内投与を行うグループ
- 偽の投薬を行うグループ
効果判定のため、「蹴る」「頭を上げる」「寝返る」「座る」「這う」「立つ」「歩く」の7項目から成るスコアを採点し、改善が見られた子供の割合が比較されました。また持続的な呼吸補助(気管切開など)が必要になるまでの期間も同様に効果の指標とされました。
有効で打ち切り、51%に改善
この研究は、中間解析の時点で有効性が認められ、早期打ち切りとなりました。最終解析は次の結果でした。
最終解析において、対照群よりも
有意 に高い割合で、ヌシネルセン群の乳児に運動マイルストーン応答があった(73人中37人、51%、対して37人中0人、0%)。
偽の投薬をしたグループ37人では運動のスコアが改善した子供はいませんでした。ヌシネルセンのグループでは73人中37人(51%)に運動のスコアの改善がありました。
持続的な呼吸補助が必要ない状態だった子供は偽の投薬のグループで13人、ヌシネルセンのグループで49人でした。
副作用やその他の原因による望ましくない出来事(
報告は結論の中で「薬剤の利益を最大化するためには早期治療が必要かもしれない」と記しています。
一生続く治療、高額費用も
脊髄性筋萎縮症に対するヌシネルセンの研究を紹介しました。
ヌシネルセン(商品名スピンラザ®)は、日本では2017年8月に販売開始されています(効能・効果は当初「乳児型脊髄性筋萎縮症」とされましたが、2017年9月に乳児型以外も含めて「脊髄性筋萎縮症」と改訂されました)。薬価は「スピンラザ® 髄注12mg」1バイアルあたり9,320,424円と非常に高額です。4か月ごとに12mgを使用する期間では1年あたり2,800万円ほどの計算になります。
また、この報告が掲載された『The New England Journal of Medicine』の編集部記事は、「おそらくヌシネルセンは生涯にわたって繰り返し髄腔内治療を必要とする」と指摘しています。
脊髄性筋萎縮症の治療は確立されていません。ヌシネルセンで改善するとしてもやはり症状はあります。ヌシネルセンの効果が長期的にどのような意義を持つかを知るには今後の報告を待つ必要があるでしょう。
遺伝子検査から脊髄性筋萎縮症の
脊髄性筋萎縮症に対して現在もこうした試みが進みつつあります。
執筆者
Nusinersen versus Sham Control in Infantile-Onset Spinal Muscular Atrophy.
N Engl J Med. 2017 Nov 2.
[PMID: 29091570 ]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。