2020.04.14 | コラム

新型コロナ対策:今こそ禁煙を!

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染した場合、喫煙者は重症になりやすいかもしれません

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を防ぐため、「換気の悪い密閉空間」「多くの人の密集」「近距離で密接して会話」、いわゆる「3密」を避けることが求められています。また、手洗い・うがい・マスク着用など新型コロナウイルス感染症に気をつけた生活を送っている人は多いと思います。一方で今までタバコを吸ってきて、そのままの喫煙習慣を続けてしまっている人も多いかもしれません。

実は新型コロナウイルス感染症の流行とともに、重症化と喫煙習慣の関連を指摘する報告が複数でてきています。このコラムでは新型コロナウイルスによる肺炎と、喫煙との関連を最新の知見を交えて解説していきます。(2020年4月3日時点)

 

1. タバコと新型コロナウイルス感染症の関係性は?

まずは最初の「震源地」となった武漢からの報告を紹介します(1)。この報告には78人の肺炎患者が含まれ、2週間の入院治療で11人が悪化、67人が改善または不変という結果でした。悪化した人の平均年齢は66歳、そうではない人の平均年齢は37歳で、高齢の人ほど治療がうまくいかないケースが多かったようです。また、悪化した人のうち3人(27.3%)、そうでない人のうち2人(3.0%)に喫煙歴がありました。データは少ないものの、「喫煙歴があると肺炎が重症化しやすく治りにくい」という傾向が読み取れます。

 

中国全土での報告

他の報告で、中国全土での1,099人分のデータでも、喫煙者は人工呼吸器が必要になったり死亡するリスクが非喫煙者よりも3倍ほど高い傾向にありました(2)。この報告では全患者さんのうち14.6%に喫煙歴がありました。ただ、中国では男性の50%以上が喫煙しており、女性の喫煙者も数%と非常に少ないながらいます。それを考慮すると先ほど挙げた武漢の研究結果も、この研究結果も喫煙者の割合が少なすぎる印象です(3)。この研究に含まれる患者さん全体の喫煙率が低い理由として「喫煙者は感染しにくい」、という可能性もゼロではありません。しかし、ほとんどの肺の感染症で喫煙が不利に働くことは既に分かっており、新型コロナウイルスだけがそうでないとは考えにくいです。おそらく、混乱した状況だったので、患者さんから正確に喫煙歴を聞き取ってデータに出来なかったなどの可能性が考えられます。実際、全患者さんのうち58.1%が男性であり、女性よりも男性の患者さんが多いのは喫煙率の高さと関係しているかもしれません。

 

欧州疾病予防管理センターの発表

欧米では新型コロナウイルス感染症が本格的に流行し始めたのが最近なので、まだまとまったデータの報告は乏しいです。ただ、EUの専門機関のまとめで、喫煙と新型コロナウイルス感染症の関係について、メカニズムの研究結果がまとめられています(4)。「タバコを吸うと肺でACE2という酵素が増加し、これが新型コロナウイルスの感染に有利に働いてしまう」とのことでした。また、イタリアでも喫煙に関連した肺の病気があると重症化しやすい傾向が見られているようです。こうした結果をうけて「喫煙者は重症化リスクが高いかもしれない」とする発表がされています。

 

2. 加熱式タバコや電子タバコだから大丈夫?

ここまで読んで、今まで吸っていた紙巻きタバコをやめて、次世代タバコ(加熱式・電子タバコ)にしようと思う人もいるかもしれません。あるいは、既に次世代タバコに切り替えているから大丈夫、と思う人もいるかもしれません。確かに加熱式タバコ(商品名:IQOS、Ploom TECH, gloなど)や電子タバコ(商品名:DR.VAPE, VITAFULなど)は紙巻きタバコよりも害が少ない可能性もあります。しかし、複数の有害物質を含むことも分かっています(参考:新型タバコの安全性は?)。

まだ新型コロナウイルス感染症が流行してから日が浅いので、加熱式タバコや電子タバコと新型コロナウイルス感染症との関連を調べた報告は乏しいのが現状です。ただし、電子タバコの使用者は肺の感染症にかかりやすく、治りにくいことを示唆する研究は既に発表されています(5)。こうした背景を踏まえると「加熱式タバコや電子タバコならば大丈夫」というわけにはいかないようです。

 

3. いまさら禁煙しても意味がない?

長年喫煙すると肺が壊れてしまい、禁煙しても元には戻らないということを知っている人も多いと思います。確かに長年の喫煙で肺気腫COPDという状態になってしまうと元の健康な肺には戻りません。

新型コロナウイルス感染症は差し迫った脅威です。では、今更タバコをやめてもリスクを減らすことはできないのかというと、そうではないと考えられます。タバコに含まれる有害物質は肺に炎症を引き起こします。炎症が起こっている肺に微生物が侵入してき場合には、免疫機構が効果的に働くことができません。この炎症は禁煙しても数週間や数ヶ月で完全におさまるものではありませんが、次第に落ち着いていくことは分かっています。その過程で、次第にウイルスに対してより正常に近い免疫機構が働くようになると考えられます。

 

4. まとめ

ここまで新型コロナウイルス感染症と喫煙の関係性を解説しました。喫煙者は重症化しやすいかもしれないことを複数の研究結果が示しています。また、患者さんに男性が多いことから、喫煙により重症化しやすいだけでなく、かかりやすくなる可能性が示唆されています。さらには喫煙スペースはいわゆる「3密」になりやすく、感染者集団(クラスター)を形成する可能性も指摘されています。

 

2020年4月1日から改正健康増進法が全面施行され、屋内での喫煙ルールがいっそう厳しくなりました。新型コロナウイルスと今回の法改正をきっかけとして、このコラムが禁煙にチャレンジする後押しになれば幸いです。

 

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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