「C型肝炎の薬は効果不明」論文、猛反発を受け結論を改訂

C型肝炎ウイルスに対する治療薬はウイルスを排除する高い効果を示しています。対してウイルスの排除が病気や死亡を防ぐことになるかどうかは不明とした論文が最近出されましたが、強い反発を受けたのち改訂されました。
直接作用型抗ウイルス薬は病気を減らすのか?
2017年6月に『Cochrane Database of Systematic Reviews』に掲載された、ヤコプセン氏らの論文は、C型肝炎の治療に使われる直接作用型抗
この論文の結論には、「[...]DAAが何らかの臨床的効果を持つかどうかは確かめることも否定することもできなかった」 といった記述がありましたが、これに対して強い反発の声が複数の専門家から寄せられ、9月18日の日付で結論などが改訂されました。新しい結論では「我々が注目した主な結果の証拠は短期間の試験から得られたもので、DAAの長期治療による効果は判定できない」などとされています。
DAAは効くのか?
DAAは最近開発が進み、広く使われるようになっています。例として次の薬剤があります。
- テラプレビル(商品名:テラビック)
- シメプレビル(商品名:ソブリアード)
- ソホスブビル(商品名:ソバルディ)
- レジパスビル・ソホスブビル合剤(商品名:ハーボニー配合錠)
- オムビタスビル・パリタプレビル・リトナビル合剤(商品名:ヴィキラックス配合錠)
- エルバスビル(商品名:エレルサ)・グラゾプレビル(商品名:グラジナ)の併用
- ダクラタスビル(商品名:ダクルインザ)・アスナプレビル(商品名:スンベプラ)の併用
- ダクラタスビル・アスナプレビル・ベクラブビル合剤(商品名:ジメンシー配合錠)
DAAの効果を試した研究では、治療を受けた人が高い割合で体からウイルスが検出されない状態(SVR)になることが報告されています。SVRの割合は薬剤ごとに違いますが、90%を超える報告が多くあります。2017年3月には、世界保健機関(WHO)が、「必須医薬品のモデルリスト」の中で直接作用型抗ウイルス薬を挙げています。
この考えに対して、ヤコプセン氏らの論文は、SVRになったからといって将来の病気を防げるかどうかはまだ証拠がないと主張しています。
世界の学会から反対意見
6月のヤコプセン氏らの論文に対して、世界各地から反対意見が表明されました。掲載された『The Cochrane Database of Systematic Reviews』に寄せられた応答で、C型肝炎などを専門とするバーバラ・マクガバン氏がヤコプセン氏らに「この見当違いの論文の取り下げを考えることを強く求めます」と記しています。
7月に医学誌『Lancet』に掲載された意見文は、「直接作用型抗ウイルス薬による治療が何の利益もないという誤解を招く」と指摘しています。
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米国肝臓病学会(AASLD)と米国
欧州肝臓学会(EASL)は「このような誤った結論に到達したということは、膨大な時間のかかる努力と、無視できない公共の資金を無駄に費やしたことの現れである」と記しています。
改訂でどうなった?
改訂後の結論は、既存の証拠が短期的なものであり、長期的な結果は未確認という期間の違いを強調するものに変わっています。
一般に長期的な結果を調べるにはそれだけの研究期間がかかります。この論文を信頼するかどうかにかかわらず、DAAの長期的な効果は確かに今後を待つ点です。期待に反してDAAによるSVRが病気予防にならない可能性も、実際のデータから否定されたわけではありません。しかし多くの事実を総合して、DAAは将来にわたって大きな利益をもたらすだろうという予測が世界では多数派と言えるでしょう。
医学的判断がデータだけではなく、理論や解釈、状況判断とも一体とならなければ安定した結論は出せないことの一例とも言えるのではないでしょうか。
執筆者
Direct-acting antivirals for chronic hepatitis C.
Cochrane Database Syst Rev. 2017 Sep 18. [Epub ahead of print]
[PMID: 28922704]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。