アスピリンで妊娠高血圧腎症を予防?高リスク妊婦を対象に検証

妊娠高血圧腎症はまれに母親や子供の死亡などにつながる恐れがあり、注意するべき状態です。妊娠中にアスピリンを飲むことで妊娠高血圧腎症を予防できるかが試されました。
高リスクの妊娠11-14週から36週までのアスピリン150mg
イギリス・スペインなどから集まった研究班が、妊娠中のアスピリンの効果を調べ、結果を医学誌『The New England Journal of Medicine』に報告しました。
この研究は、妊娠高血圧腎症が現れる恐れが強いと予想された「高リスク」の妊婦を対象としています。
単胎(ふたご・三つ子などではない)妊娠11週から13週で18歳以上の女性に対して、以下の情報をもとに妊娠高血圧腎症の確率を計算し、妊娠高血圧腎症の確率が1%以上と予想された妊婦を高リスクとしました。
- 年齢
- 身長
- 体重
- 人種
- 不妊治療
- 妊婦の母親に妊娠高血圧腎症があったか
- 妊娠週数
- 慢性高血圧症
- 1型糖尿病
- 2型糖尿病
- 全身性エリテマトーデス(SLE)
- 抗リン脂質
抗体 症候群(APS) - 24週以降まで続いた妊娠の経験
- 妊娠高血圧腎症の経験
- 血圧
- 子宮動脈拍動性指数
- 血中PLGF
- 血中PAPP-A
高リスクの女性はランダムに2グループに分けられ、妊娠36週まで、アスピリン1日150mgを飲むグループ、有効成分を含まない偽薬を飲むグループとされました。
効果判定として、妊娠高血圧腎症をともない
妊娠高血圧腎症のある早産が少ない
結果として、妊娠高血圧腎症をともなう早産は、アスピリンを飲んだグループでは13人(1.6%)、偽薬を飲んだグループでは35人(4.3%)に起こり、アスピリンのグループのほうが少なくなりました。
母親と子供に対して、副作用やその他の原因による有害事象の数は、統計的に差が確かめられませんでした。
妊娠したらアスピリンを飲むべき?
高リスクの妊婦を対象に、妊娠高血圧腎症の予防目的のアスピリンを試した研究報告を紹介しました。
アスピリンが妊娠高血圧腎症を予防するのではないかという観点の研究は以前にもあります。米国予防医学作業部会(USPSTF)が2014年に出した勧告では、「USPSTFは妊娠12週以後で妊娠高血圧腎症のリスクが高い女性に低用量アスピリン(1日81mg)を予防薬として勧める」とされています。この研究では高リスクを一定基準で判定し、1日150mgのアスピリンを試したところ、アスピリンが偽薬に勝る結果となっています。
この研究は、すべての妊婦の中でもごく一部の高リスクの人だけを対象としています。対象者の基準としてはPLGFなどの検査を採用していますが、これらの検査はどんな施設でも行っているものではなく、すべての妊婦に必要と考えられているものでもありません。
高リスクの基準に当てはまらない妊婦については、この研究が考える対象ではありません。
また、妊娠中の状況によってはアスピリンを飲んではいけないと考えられる場合があります。たとえば日本で使われているアスピリンの添付文書上では出産予定日12週以内の妊婦に対して「禁忌」とする記載があります。子供の
アスピリンは薬局などで処方箋なしで買える解熱鎮痛薬にも使われている一般的な成分ですが、注意するべき点はあります。妊娠中は医師・薬剤師などに相談したうえで使用してください。妊娠高血圧腎症を予防する目的で自己判断で飲むことは危険ですのでやめてください。
妊娠高血圧腎症は注意を要する状態であり、予防を目指すことは今も行われています。研究報告が積み重ねられることで、標準的な妊娠中のケアの中での位置付けに関わってくるかもしれません。
執筆者
Aspirin versus Placebo in Pregnancies at High Risk for Preterm Preeclampsia.
N Engl J Med. 2017 Aug 17.
[PMID: 28657417]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。